夜間飛行 (光文社古典新訳文庫 Aサ 1-2)

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  • Amazon.co.jp ・本 (186ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334752071

作品紹介・あらすじ

南米大陸で、夜間郵便飛行という新事業に挑む男たちがいた。ある夜、パタゴニア便を激しい嵐が襲う。生死の狭間で懸命に飛び続けるパイロットと、地上で司令に当たる冷徹にして不屈の社長。命を賭して任務を遂行しようとする者の孤高の姿と美しい風景を詩情豊かに描く。

感想・レビュー・書評

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  • <その夜を、越えられるか>

    サン=テグジュペリの名を世に知らしめた作。1931年原著初版刊行。アンドレ・ジッドの序文が添えられている。

    南米大陸で、新事業である夜間郵便飛行に挑む男たちの物語。
    南米各地からブエノスアイレスへと荷物を運び、それを各地へ、また欧州へと運ぶ。
    黎明期の事業の存続は綱渡りだった。民間の商業航空が生き延びるには、夜間の定期便を飛ばすよりほかなかった。
    一方で、当時の飛行機の性能はさほど安定しておらず、通信も万全ではなかった。暗黒の中に飛び立つには危険が大きい。
    しかし。
    夜を越えねば未来はない。

    物語の舞台は主に、空を飛ぶ若きパイロットの飛行機と、地上支援を行う老いた社長のいる事務所である。午前0時から2時のわずか2時間の出来事が主である。
    この夜、ブエノスアイレス上空は晴れていた。しかし、パタゴニアから飛んだ機は激しい嵐に見舞われていた。
    パイロットは必死に奮闘する。しかし、燃料は限られており、時間の猶予はない。
    帰らぬ機を待つ社長は苦悩する。この機の荷を移し、欧州便を飛ばさねばならないのだ。夜間飛行には反対の声も多く、ここで失敗すれば事業自体がつぶれてしまう。

    嵐に揉まれ、荒れ狂う海に翻弄されるかのような中で、パイロットはふと見えた上空の星を目指す。雲の上に出た彼が見たのは、星がちりばめられた、信じられぬほど美しい光景だった。
    だが、それはつめたい宝石に囲まれた場所、誰ひとり生きていない世界でもあった。
    静謐で美しい絶望。

    制限時間が過ぎた中、地上の社長は1つの決断をする。
    彼らは果たして、それぞれの夜を越えられたのだろうか。

    ジッドをして、絶賛の序文を書かしめた一作。
    簡素にして緊迫感に満ち、美しい。

    後年、サン=テグジュペリは、第二次大戦中、飛行機で偵察に出て、消息を絶つ。自殺も疑われたが、ドイツ機による撃墜が真相のようである。
    飛行機を愛し、飛行機乗りに愛された作家は、自身、空の上の夢のような世界を見ただろうか。あるいは今でもその空を飛び続けているのだろうか。

  • ロマンティックなタイトルだが、語られているのは、自然の脅威であったり、冒険であったり、あるいは、不屈の精神であったりする。サン=テグジュペリ、イコール「星の王子様」とだけ思っていたが、最近読んだ「戦う操縦士」を含め、危険に立ち向かいながら自らの進路を切り開いていく人間精神という極めて崇高なテーマを描く作家として、これまでの読まず嫌いを反省している。特に、本書は、簡潔な記述の中に様々な余韻を残していて、それでいて生々しく、何とも言えない強い印象を受けた。

  • 名作でした。でも、一風変わった小説ですね。
    でも、名作でした。感動してしまいました。
    1931年に出版されたフランスの小説です。
    「星の王子様」で有名な、サン=テグジュベリさんの小説。出版時31歳。
    この人は、フランスのお金持ちの貴族(元貴族なのかな?)の家柄の生まれだったんですけど、
    いろいろあって、とにかく飛行機乗りであることに情熱を燃やして、
    空軍で従軍し、
    最後は第2次大戦中の1944年に空軍として偵察飛行中に地中海に落っこって死んじゃう、という人です。44歳でした。
    何度も墜落とか事故とかで、死にかけて怪我をしても、なおかつ、飛びたかった人なんですね。

    そんな、世界中を飛びながら小説家でもあった人が、書いた小説です。

    ###

    舞台は南米です。
    郵便を飛行機で配達する、という事業が始まった頃です。
    そういう事業をやっている会社が主な舞台です。
    そこでは、飛行機乗りたちが、毎日、危険を伴う飛行をしています。
    夜間飛行という行為が始まった頃です。
    そして、ある信念を持って、その事業を推し進めている社長さんがいます。
    毎日、飛行が無事に終わるたびに、ほっとしています。
    とある飛行機が、夜間飛行に出ます。
    予想を超える悪天候に遭遇。
    結局、行方知れず・・・つまり墜落、死亡してしまいます。
    社長さんは良心の呵責もありますが、やはり信念をもって夜間飛行事業を進めます。
    おしまい。

    ###

    それだけのお話なんです。
    これがすごい。
    何がすごいかっていうと、なんといっても、文章です。
    まず、飛行士たちの感じる、飛行中の世界観。
    これがまた、なんとも凄まじく美しく、魅力的で、かつ死の匂いが漂う危険が、ざらざらとした手触りで伝わってきます。
    そこには、自然の偉大さがあり、そこにひれ伏しながら挑みたいニンゲンの業みたいなものが濃ゆく、たちこめています。
    こればっかりは、そういう飛行をしたテグジュベリさんだから書けたんですねえ。

    そして、かなり戦略的に、最小限のざっくりした文章で綴られる、社長さんの人間的魅力。
    雑に言えば人情も義理もわきまえているけど、クールに厳しく生きている。
    その信念はなぜか。
    仕事というもの、事業というもの、ニンゲンの進んでいくという行為、それが最後にはいちばん尊いのだ、という。
    それは、決してみんなが納得する信念じゃないと思うんですね。
    それに激しく摩擦して逆走する奔流のように、遭難した飛行士、そして社長を訪れるその妻。
    社長は、反論はできない。そういう、人の命、人の幸せという温もりに対して、ただ頭を垂れるのみです。
    でも、事業はやめない。
    なんていうのか・・・老人と海、の老人みたいな。白鯨の船長みたいな。
    賛同されなくてもいいけど、この病んだ無口で厳格で愛されていない社長には、すごい魅力が小説上描かれています。
    この人物は、テグジュベリさんが努めた航空会社の上司さんがモデルのようです。
    テグジュベリさんは、その上司さんが大好きだったようです。

    そういう魅力なんです。とにかく文章なんですね。
    うーん。なんて言っていいか。娯楽的な物語作りがシステムとして作られている、ハリウッド映画と比較して、フランス映画のような佇まい。
    どぎつい娯楽的要素があるわけじゃないけど、とにかく品のある、洒落た雰囲気。色気、知性、描写なんですね。
    でも、じゃあ感性だけでダラダラ書かれたものじゃなくて。
    ほぼ二日弱くらいの時間推移の中で、ほとんど飛行機内とブエノスアイレスの社屋内だけ。
    研ぎ澄まされて無駄のない描写と、さりげなく、でもえぐり込むような心理描写。
    映画で敢えて例えればブレッソンの香り・・・そういうシャープさなんだけど、ルノワールのような大らかな人間らしさの物語でもあります。
    この場合の人間らしさっていうのは、「愛を信じる」「最後は良い人」とか、そういう内容ではなくて。
    人間の弱さとか恐れとか震えとか、執着とか焦りとかこだわりとか。そして、多分、ニンゲンしか持てない、ある種の、見えない頂きに向かって登りつめていきたい意思みたいなもの。
    それが溢れんばかりにゆったりと渦巻いている小説でした。

    とても素敵で、そして適切に短い。訳文もすっと読めて。さすが光文社古典新訳シリーズ。
    サン=テグジュベリさん、他の小説も読んでみたいな、と。
    脱帽、瞠目。
    読書の愉しみに満ちた時間でした。

  • 淡々とした緊張感の美しさ。
    その幕切れはあっけない。

    空を飛ぶということが、困難で孤独な挑戦だということを
    改めて思い知らされます。
    ロマンチックで自由で高揚感のある冒険であるとともに、
    厳しい自然環境に立ち向かい、常に命がけで操縦桿を握っているのだと。

    南アメリカの夜間郵便飛行を襲った嵐の一夜。
    暴風雨の中、懸命に飛び続けるファビアンの姿は、
    自身もパイロットだったサン=テグジュペリの最期を重ねてしまって
    何ともいえない喪失感がありました。
    一方、リヴィエールは冷徹な仕事人間でありながら
    いつもパイロットの無事を祈り続けていて、仕事に誇りを持っている。
    難しいな。
    悲しいけど気高い話だと思う。

  •  若かりし頃。

     大学生活を送る街から、故郷へバイクで帰る時。
     時間はあるが、お金のなかった学生の私は、
     高速道路を使わずに、国道を延々と走り続けて帰ったものだ。

     約500kmの単独行。
     ヘルメットのシールド越しに世界と隔絶された時間。
     一番最初のそれが、日差しの強い昼だったため、火傷のような日焼けを経験し、次からはもっぱら夕方から夜にかけて走り続けた。

     夜の国道。
     大きな街を通っている間は、きらびやかな、眠りを知らぬが如き風景だが、
     走り続けるうちに、それは寂しい農村部や寒々とした山間部を通り抜ける。
     バイクの頼りないライトに照らされたごくわずかな世界。
     その奥に広がる、闇。闇。
     風に揺れる街路樹すら怪物のようにのしかかってくる。

     時折感じる気温の変化に、川の接近や、近づく大都市を思う。
     生きていると感じるのは、自分が乗るバイクの鼓動ばかり。
     街を通り過ぎた後は、信号すらない、ひたすら進む黒い道。

     孤独と、世界への立ち寄りと、またしても旅立つこと。


     夜間飛行のパイロットたちに比べれば、それは大したことではないだろう。
     が、パイロットの孤独を想像する体験として、私の貴重な存在である。

     バイク乗りは、自分を飛行機乗りに比較したがる。

     闇の中の走行は、空を飛ぶが如き気持ち。
     現代のバイクでは難しいが、ライトを消せる時代のバイクで、
     闇の中無灯火で、星の中を走る感覚は、まさしく「夜間飛行」。


     30年近い歳月を経て読み直した本書。
     孤高のパイロットが飛び続ける描写の他にも、美しい描写があちこちに。
     サンテグジュペリは詩人だ、との思いが強まった。

     「星の王子様」しか知らない方は是非お試しあれ。
     

     

  • 圧倒的だった。読み終わるまで息をつく間がなかった。厳格で、容赦ない指示と処罰を科すリヴィエールが抱える苦悩と義務、人間的な苦しみ(老いや自分の行っていることが個人の幸福よりするべきことなのだろうかという問い)。若い操縦士ファビアンが死の前にみた美しい情景。
    この作品が、夜間飛行の黎明期だったことで、自然の脅威、幸福だけでなく、政治的な圧力やそれを乗り越えて戦うもの、などが手に取るようにわかる。
    素晴らしい作品だと思う。

  • 巻頭にラテンアメリカ南部の地図を掲載。これを参照できるので、おおまかな地理感を得られる。パタゴニア地方、ブエノスアイレス、アンデス山脈…、なんとも男子の心をくすぐるロマンあふれる地名の数々である。
    本作の主要なメッセージは、偉大なる事業を継続することへの責任と情熱、と受け止めた。読了後、現場責任者である社長のリヴィエールの、不屈の意志が強く印象に残る。
    だが、パイロットは「遭難」「殉職」。これについて私は納得出来ない、共感出来ぬ思いのまま読了した。そもそもあまりにも無茶な飛行をさせている。当時の長距離飛行は、命懸けなのだ。現代の、雲海上の気象が安定した高空をゆく巡航と異なり、荒天雷雲の中をもみくちゃにされながら飛ぶ。しかも、機体搭載のレーダーなど無い。つまり、現在地も不明。とりわけ夜間飛行なので、地上の地形を視認することも困難。気象レーダーも無いので、雨雲や嵐の接近もわからず、地上の無線基地局などから口伝てで聞いて把握する。
    こんな条件下では、起こるべくして起こった遭難。必然の結果である。事業者の責任で発生した労災だよ、と感じた。恐れずに飛べ、という精神論の愚かさを感じた。 という次第で、知人が賞賛するような胸を打つような感慨はなかった。

    ただ、なぜか、リヴィエ-ル社長の言葉を初め、含蓄のある言葉が多くちらほら。例えば…。
    「ひとは一度なにかを選び取ってしまいさえすれば、自己の人生の偶然性に満ち足りて、それを愛すことができる。偶然は愛のようにひとを束縛する。」

    などなど…。個人的には、「星の王子様」より本書において、心に響く言葉に多く出会えた。

  • 粗筋もなんも知らずに読んだら最終ページで叫んだ。衝撃の結末。本の厚さがまだまだあったのでちょっと楽観視し過ぎてました。(残り1/3が「序文」と解説)

    あと一部ジブリだった。あのシーンをジブリ絵以外で想像できない自分が悩ましい…

  • まず先に新潮文庫の訳を読んだが、内容が分かりづらすぎて最悪だった。
    それに比べて、この光文社版は内容が分かりやすくて、文章の詩的な美しさとメッセージ性に違いがなかった。
    やはり新潮よりも光文社だわな、という感じ。
    【感想】
    リヴィエールの思考はとんでもなく、使命感ともいえる、目に見えぬ、感覚的な一つの真実なるものに対する哲学的な要素と、夜間飛行へのヒロイズム、緊張感とが詰め込まれた傑作だと思う。リヴィエールの考えには賛同するしないは別として、行動する事への絶対性と、不完全なものへの冷静な憎しみ、社畜という言葉が挙げられない点においては怖さも感じる。
    仕事というものよりも、何を成すために何を行うかが、全てにおいて優先している。個々の感情や家庭の団欒の明かりといった、もう一つの真実に真っ向から対峙し、リヴィエールですら悩みながらも行動をやめない大胆さには、読んでいる最中に我が身と比べてしまい、焦りすら覚える。
    リヴィエールの部下への接し方には現代との違いをはっきりと感じる。
    部下を愛しているが、それを口には出さないというのは、うちの会社には無い文化がある。
    監督官のロビノーの空虚さには自分と重ね合わられる不安わ感じる。このロビノーの人間の愚かしさを強調されている点に、弱きもの、己のあり方が避難されているように感じる。ファビアンの操縦と死には文章と展開の両方に美しさがあった。暴風を抜けて雲の上に出た場面の美しさは読んでいて悲しくも喜ばしい死のあり方だと思う。
    俺自身、家族的幸福よりも行動的幸福に憧れているが、行動をするという何よりも必要とされる素養がないが故に、腹ただしく、まだ諦めきれていない事に恥じらいと希望が持てる。
    話を作品に戻すと、地上は行動させるもの、老いたものの世界、空には行動するもの、若い者の世界。また、時間的には星座が爛々と輝く静謐な世界、荒れ狂う暴風と周りを囲む山の岩肌、何も明かりが見えない夜という闇がシンメトリーが描かれていた。

  • 星の王子様があまりにも有名なのでこちらも読んでみた。

    4人の飛行士たちの物語。2時間のフライトの出来事がそれぞれ組み合わさっていて、情報量が多い。
    薄い本だからと軽い気持ちで手にとったら内容の濃さに驚いた。

    自分の読書量では時系列がよく掴めなくて今誰の話なんだろうとところどころ戻りながら読んだ。

    星の王子様を読んだときも感じたのだが、サン=テグジュペリの本は言葉のニュアンスがふわふわしていて夢心地で読んでいる感じ。

     

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