失脚/巫女の死 デュレンマット傑作選 (光文社古典新訳文庫)

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制作 : 増本浩子 
  • 光文社 (2012年7月12日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334752538

失脚/巫女の死 デュレンマット傑作選 (光文社古典新訳文庫)の感想・レビュー・書評

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  • スイスの有名な作家で、スイスのみならずドイツ語圏ではデュレンマットの戯曲は定番として上演されているのだそう。
    1921年生まれ、1990年没。

    イメージ豊かで、登場人物が濃く、確かに演劇的。
    ソ連首脳部の葛藤を思わせる政治風刺的な「失脚」などは、登場人物の名前が頭文字だけなので、俳優がやって見せてくれたほうがわかりやすいかも。

    「故障」は車の故障で、たまたま立ち寄った家で、村に住む老人達の楽しみに付き合うことになった男。
    その楽しみとは、模擬裁判。
    彼らはとっくに引退しているが、元は裁判官など法曹関係だったのだ。
    罪を白状するように迫られ、冗談半分に営業マンである自分の身に起きたことを説明していくと‥
    極上の食事をしながら議論し、酒を飲んでやけに盛り上がり、互いにほめあい、感動して肩を抱き合ううちに‥?!

    「巫女の死」
    オイディプス王の悲劇をさまざまな角度から見る話。
    テーバイの王子がいずれ父親を殺し母親と寝るだろうという予言によって父王ライオスに捨てられ、コリントスで成長する。
    運命なのか?後に予言は成就されてしまうのだが‥

    巫女パニュキスは、アポロンに仕えるデルポイの神殿の女司祭長。
    長年、口からでまかせに思いつく限り妙なことを言ってきたという衝撃の出だし。
    しかも、パニュキスによる問題の神託とは、テイレシアスの意図によるものだった‥!
    テイレシアスは盲目の預言者で政治家でもあり、法外な額の金を受け取った上で、依頼者に都合のいい予言を行っていたのだ。
    もうろうとした老女パニュキスの視点というのも珍しい。
    さらに、二転三転‥王妃イオカステの告白や、スピンクスの視点まで?
    あるいはそれも、運命の環の中だったのか‥?

    山岸さんの古代ギリシアを題材にしたコミックスなど思い起こしながら、読みました。

  • 「トンネル」……いつも乗り慣れた列車だが、気づくともうずいぶんトンネルに入ったまま。不審に思って車掌を探すと…。ありふれた日常が知らぬ間に変貌を遂げる。皮肉と寓意に満ちながらかつ底知れぬリアリティに戦慄させられる物語。

    「失脚」……粛清の恐怖に支配された某国の会議室。A~Pと匿名化された閣僚たちは互いの一挙手一投足に疑心暗鬼になり、誰と誰が結託しているのか探ろうとしている。だが命がけの心理戦は思わぬ方向に向かい…デュレンマットの恐るべき構成力と筆力に舌を巻く傑作。※本邦初訳

    「故障」……自動車のエンストのために鄙びた村に一泊することになった営業マン。地元の老人たちと食事し、彼らの楽しみである「模擬裁判」に参加するが、思わぬ追及を受けて、彼の人生は一変する…。「現代は故障の時代」と指摘するデュレンマットが、彼なりに用意した結末に驚き!

    「巫女の死」……実の父である王を討ち、実の母と結婚するというオイディプスの悲劇。しかし当時政治の行く先を決めていたのは、「預言」を王侯に売る預言者たちであった。死を目前にした一人の老巫女が、驚愕の告白を始める…。揺らぐことのない権威的な神話の世界に別の視点を取り入れることで、真実の一義性を果敢に突き崩す挑戦的な一作。※本邦初訳

  • 「トンネル」、「失脚」、「故障」、「巫女の死」の4篇収録の短篇集。各所で評判が良いようなので手にとってみたのだがこれが大当たり。特異な舞台設定やそれに翻弄される人間心理の描写が素晴らしく、収録作のどれもが面白い。バラエティに富んだ作風ではあるけれど共通するキーワードは”諦念”かな。

  • スイスの作家、デュレンマットの短編小説。古典、と言うことで読みにくいのでは?と思ったけれど、現在にも通じる皮肉がちりばめられた4編。「トンネル」「故障」は「世にも奇妙な物語」みたいな感じ。「失脚」は革命から突然政治の中心に添えられてしまった政治局員たちの会話劇。次はだれが粛清されるのか?と言う疑心暗鬼の人々から発せられる言葉がクスリとさせられます。「巫女の死」はギリシャ悲劇を知っていると興味深いかも。

  • この著者の作品も古典新訳文庫も初めてだったが、古典!と身構えずとも普通に読みやすかった。
    短編4つ収録でどれもシュールな話。
    ベストは「巫女の死」。オイディプス王の神話をミステリ的に再構成したような話で、関係者の語りで真相が二転三転してゆく。
    解説によると”スイスの現代作家たちには、スイスの牧歌的イメージを破壊しようとする傾向がある(中略)牧歌的なイメージはスイスを美化・理想化し、数々の問題を抱えた現実をその美しい風景で覆い隠してしまうからである。”そうだが、まさにスイスと言われて思い浮かべるのはハイジしかない。デュレンマットの他作品や他のスイス作家の作品も読んでみたい。

  • 不条理を描いた戯曲作家ということで、カフカやベケットを嫌が応にも想起させる作風。収められた4作いずれも緊張感に張りつめていながら、決して安易な解決へと至らない現代的なものとなっている。後半の2作ではメタ構造的な仕掛けを排しながらも、それを言い訳にしないだけの主題が盛り込まれており、物語という枠を飛び越えて思わず心を揺さぶられてしまった。周到に構成された作品いずれも、リーダビリティに優れながらも再読すればする程その奥深さに感嘆してしまう、ミステリの衣装を纏ったとんでもない傑作であった。

  • デュレンマットというスイスの男の短編集。短編って野菜ジュースに似てて材料が増えれば増えるほどひとつひとつの味が薄まっちゃて分からなくなるけど、これはそんなことなかった。どれも野菜の味がする。
    トンネル:最後の台詞が痺れた。落ちたんだ。堕ちたんだ。レモン味。
    失脚:まさか○○○○失脚の話だったとは。トップがトップを辞められない心理を理解。入った部屋から出たくないのか。ドアを開けると捕まっちゃうから。にんじん味。
    故障:個人的に一番強烈。まさかのフィニッシュ。殺人(?)方法も鮮やか。検事の最後の台詞も良い。トマト味(鮮血ではない)。
    巫女の死:これもなかなか。神話がこんなミステリになるなんて。預言者と巫女は探偵であると同時に、事件の片棒を担いでいたのか。モロヘイヤ味。

  • ふとした偶然で手にした本作。
    どの作品もとても面白かった。
    とりわけ裁判ゲームを行う「故障」がお気に入り。
    非現実的ではあるものの、ぎりぎり成立するのではと思わせる。罪というものの本質をぼんやり映し出している気がする。

  • 「巫女の死」が面白かったです。ベースになっているのはオイディプスの話ですが、本作の主人公はオイディプスに適当に下した神託(父を殺して母と寝る)が当たっちゃってびっくりな巫女。彼女の死の直前に亡霊や生霊のように関係者が順番に現れて、それぞれが思う「真実」を語っていくのだけれど、前者が言った真実が次の人物の証言でどんどん覆されていくことの繰り返しで真相は二転三転、藪の中的でもあるけれど、話が食い違うというよりはどんどん掘り起こされていく感じが面白かったです。

    「運命」と「予言」の関係はある意味タイムマシンパラドックスに似ていますね。その予言を聞かなければ、そんな運命に絡め取られることもなかったかもしれないと思わされてしまいます。

    引退した裁判官、弁護士、検事らの「裁判ごっこ」の被告役になった主人公の悲劇(喜劇?)「故障」や、A~Pまでのアルファベットで表記された登場人物たちが疑心暗鬼の会議を繰り広げる「失脚」など、戯曲っぽい印象の作品が多かったですが、もともとデュレンマットは劇作家だったと知って納得。

    ※収録作品
    「トンネル」「失脚」「故障」「巫女の死」

  • 推理小説のような要素ももつ短編集。劇作家が書いたのがよくわかる、独特な雰囲気がある。
    粛清に支配された政治局の閣僚の攻防が繰り広げられる会議を書いた「失脚」、オイディプス神話をモチーフにした「巫女の死」が良かった。
    特に「巫女の死」は、ドストエフスキーの大審問官のようで、こちらは丸で神話殺しのようだ。オイディプス神話の登場人物がそれぞれ登場し、自分だけが知る真相を神託を下した巫女に語る。読み進めるうちに何も信じられなくなり、神を疑うような展開になる。

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失脚/巫女の死 デュレンマット傑作選 (光文社古典新訳文庫)の作品紹介

いつもの列車は知らぬ間にスピードを上げ…日常が突如変貌する「トンネル」、自動車のエンストのため鄙びた宿に泊まった男の意外な運命を描く「故障」、粛清の恐怖が支配する会議で閣僚たちが決死の心理戦を繰り広げる「失脚」など、本邦初訳を含む4編を収録。

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