すばらしい新世界 (光文社古典新訳文庫 Aオ 2-1)

  • 光文社
3.94
  • (92)
  • (130)
  • (73)
  • (15)
  • (3)
本棚登録 : 1678
感想 : 138
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (433ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334752729

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 有名なディストピア本の一冊を初読。本書を読んでいて思ったのは、自分はユートピア/ディストピア系の小説がたまらなく好きだなということ。本書は「1984年」とか「われら」に比べると、結構情緒的な側面に力点が置かれていて読後のしんみり感高い。

  • 1932年に発表されたディストピア小説の古典。『1984年』(1949)や『華氏451度』(1953)よりもこちらのほうが先なのですね。

    近未来、試験管ベビーならぬ壜詰めベビーが「孵化・条件づけセンター」で製造されるのが当たり前の世界。出産は完全に規制され、赤ん坊は母親からではなく壜から生まれてくる。当然「家族制度」は存在せず、「母親」だの「父親」だのは死語どころか猥褻な言葉のように扱われ、反面、妊娠とは無関係なセックスは奨励されていて、家族制度がない以上、一夫一妻制も崩壊、特定の相手を作らず「誰もがみんなのもの」であることが最善とされている世界。(男性上司が勤務中に女性部下のお尻を触っても、セクハラどころか紳士的と評されます・笑)

    序盤の主人公(?)は、孵化・条件づけセンターで働くバーナード。劣等感ゆえに孤独を愛し、管理社会に違和感をおぼえる彼は、普通のSF小説なら体制を破壊するヒーローとして活躍するところだと思いますが、そうはならないところがこの作品の皮肉なところ。ちやほやされるとすぐ調子に乗り、立場が変われば意見も行動もあっさり覆す、そんな俗物なところもまあご愛嬌ですが、結局バーナードは後半ただの滑稽な脇役ポジションに。

    本当の主人公は、そんなバーナードがお気に入りの女性レーニナと一緒にでかけた「野蛮人居留地」(管理されていない未開人の村)で出会った青年ジョンのほう。彼はいわば、ジャングルで行方不明になった子供が狼に育てられていたのを発見されて人間社会に連れ戻されるも文明に馴染めない・・・みたいな状況の未来版。管理社会では禁書とされているシェイクスピアを愛読して育ち、一夫一妻制の古い貞操観念に捉われているジョンは、心惹かれているレーニナに迫られても、喜ぶどころか「この淫売!」よばわり(苦笑)。

    これもまたこの作品の皮肉なとことで、ジョンの目を通して、この「すばらしい新世界」の異常さが浮き彫りにされてゆく反面、ジョンはジョンでちょっと極端というか、潔癖すぎて自分を浄化するためと称して自らを鞭打ったりして(これキリスト教でもかなり異端だったかと)、いくら管理社会が異常だからといって彼に共感できるかというとそうでもないという(苦笑)。

    「淫売」と罵られたレーニナは確かに誰とでも簡単に寝てしまいますが、それは社会のルールに忠実なだけであって、彼女自身に罪はない。そもそも、何が罪や悪であるかという概念さえ、社会のルールや常識によって左右されるわけで、普遍的で絶対のものではないわけで。

    管理された社会で不満なく生きることは、確かにある意味幸福なのかもと、思わされる瞬間もありますが、ただ果たしてそれで本当に「生きている意味」があるのか、というのがこのジャンルの作品の普遍的な問いかけでしょう。

  • ソローキンにも通じるナンセンス多めのディストピア小説。統制された機械的文明と、野生的で汚い従来の世界との対比なんて手垢がつきまくっているが、それを軽いスラップスティック調のドタバタ劇でうまく笑わせにかかっている。

  • 社会の上層部が利益のほぼ全てを享受するユートピアを支えるためには奴隷の労働力が必要である。
    とはいえ、奴隷にも幸せはある。労働後のささやかな報酬という形で。

    そのような光景を描く本書はディストピア小説として今に知られている。労働力を自前で生産している点で、オフショア、グローバル化という言葉で奴隷の労働力のアウトソーシングを正当化した現代の筆頭資本者らよりも自助的であり、責任の所在を明確にしているといえる。非人道的な社会を描きあげた作家であっても、資本主義が要求する過酷なコスト意識を甘く見ていたか、見逃していた観がある。
    つまり、現代はすでにハクスリーのディストピアを実現している。一部ではそれを超えてすらいる。

    ボス敵と語る。
    このシチュエーションはどこからやってきたのか考えたことがある。回答は得ていない。本書には相当するシーンがあり、考え抜かれた著者の思想を与えられたボス敵は揺るぎない。これも、よく見かけるものだ。主役は言い返せないが、勝たなくてはいけないので殴って勝つ。これもよく見かける。
    本書の主役サイドの言葉はすべて理性的な反論を受ける。主役サイドはついに自らの言葉を失い、過去の権威にすがるが、それに対するこたえも考え抜かれている。ボス敵もまた過去に深く悩み考えた末に、現実を受け入れたのだと強く理解させられる。『ミストボーン』シリーズは最終的には好みではなくなってしまったが、この構造を持っていたことは好ましく覚えている。
    主役サイドは言葉を失うが、殴りかかることはない。少年漫画ではないからだ。否、相手は絶対的な悪ではないからだ。その社会においては秩序善ですらある。

    本書はまた、夢想家や革命家()に辛辣な言葉を投げかけているようにも見える。ある秩序の中で、その恩恵を受けながら、その秩序を否定する活動を行う。「働いてる感を出してるヒモ」という印象が、わかちがたくその印象に重なる。主役サイドはそちら側に属している。
    人生は生まれにおいてすでに公平ではないと悟らせる以上の役割を果たせぬまま、主役の一人は去る。
    宗教が信者に施す道徳教育は、ディストピア社会が社会を維持するために施した道徳教育と相似形である。いずれも他者を傷つけることもあるという点でもまた類似している。それを背負わされた主役サイドの一人は苦悩のあまり死ぬという物語の結末を担う。物語としての出来はよくないが、教訓としてはまあわかる。

    本書解説には「学問のふりをする科学」について語られている。学問のふりをしたなにかが旗を振った結果が奴隷労働のグローバル化であるのなら、そこを改めない限り、いかに手を尽くしても虚しかろう。

    ------------------------------
    読中、超人ロックの初期のエピソードが想起されてきて、その名の通り『新世界戦隊』で発火したのかなと読み返してみたら『ジュナンの子』と『ロンウォールの嵐』だった。
    『ジュナンの子』には、出生時点で身体的に不利な特徴が出現しないようコントロールするようになった社会で不利な特徴が出現してしまった人々の苦難が語られていた。この構図に相似形を見たのであろう。
    『ロンウォールの嵐』には、ナディアという女性が登場する。やりなおしがうまくいかず記憶を失ったロックの恋人だが、体制側のいうなりにロックを売る。ありように類似性を感じてしまったのだろうが、よくある人物像ではある。
    本書には多幸感を与え多用すると死に至ることもあるソーマという薬物が登場する。『聖者の涙』には、そんな偶然の一致ではなさそうな影響が見受けられるような気がする。

  • 明るいディストピアな未来を舞台とした小説。ファスト消費、経済性、快楽主義を第一とする全体主義世界。1930年代に書かれたにも関わらず、ある意味現代社会を描いている様にも思える。著者による新版前書、解説なども必読。

  • アルファ、ベータなどの階級社会、人間は壜の中から生まれる、家族は猥談、奔放な性描写、ソーマ……条件付けでなんとも感じない人間の様子が丁寧に描かれていて最高に皮肉たっぷりな作品。特にシェイクスピアの世界に住んでいたジョンが現実の世界に馴染めない様子はなんとも言い難い。特に彼は今の私のような10代の子供にも通ずる部分が多くあると思う。個人的に中学生の頃読んだ「新世界より」の奔放な性描写はここから来ているのではと思った。

  • 思想が荒削りな気がするけど面白かった
    バランスの取れた生活をしたい

  • 当時こんなことを考える人がいたことは驚きだ
    本気でやっている苦悩をエンターテイメントとして受容されることのなんと耐え難いことか…
    モンドの苦悩が大多数の幸福を支えている歪さがいい意味で気持ち悪かった

  • 階級社会を作るために、受精卵から操作され、条件付けされた人間を作る社会。
    ディストピアなんだけど、その階級の人はその階級で幸せになるようにされているためなのか、そんなに不幸せそうには思えなかった。
    居留地から来たジョンが、ほんとに辛いと思ってしまった。自分の気持ちとこの社会が全くあってなさすぎる、ジョンどうなってしまうんだろう。。。

  • 正直終わり方とかよく分からなかった。

全138件中 41 - 50件を表示

著者プロフィール

1894年−1963年。イギリスの著作家。1937年、眼の治療のためアメリカ合衆国に移住。ベイツメソッドとアレクサンダー・テクニークが視力回復に効を成した。小説・エッセイ・詩・旅行記など多数発表したが、小説『すばらしい新世界』『島』によってその名を広く知られている。また、神秘主義の研究も深め『知覚の扉』は高評価を得た。

「2023年 『ものの見方 リラックスからはじめる視力改善』 で使われていた紹介文から引用しています。」

オルダス・ハクスリーの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
遠藤 周作
村上 春樹
トルーマン カポ...
ミヒャエル・エン...
村上 春樹
國分 功一郎
デールカーネギ...
スタンレー ミル...
アンナ カヴァン
ヴィクトール・E...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×