人生の短さについて 他2篇 (古典新訳文庫)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334753504

感想・レビュー・書評

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  • 【哲学に興味を持った理由】
    若い時から自己啓発本やコミュニケーション本をよく読んでいた。しかし多読すればするほど、書いてあることが非常に似ており、書かれている知識は過去の哲学書からの引用が殆どだと、遅まきながら気づいた。であれば、元ネタである哲学書を時系列に沿って読んでいこうと思ったのが理由。

    【セネカとは?】
    約2,000年前のローマ時代を生きたストア派の哲学者。ストア派とは、理性に従い禁欲的に生きることを推奨する哲学。カリグラ帝の時代に政治の世界に入り、クラウディウス帝の時代には、コルシカ島への8年間の追放生活を経験。アグリッピナ(クラウディウス帝の妻)の進言により、赦免されローマに帰還。アグリッピナの要請によりネロの教育係に就任。その後ネロが皇帝に就任した後、セネカは補佐役としてネロの政治を支える。しかし、セネカは謀反の嫌疑をかけられ、自殺。

    【本の構成】
    訳者まえがき
    ・人生の短さについて
    ・母ヘルウィアへのなぐさめ
    ・心の安定について
    解説
    年譜
    訳者あとがき

    【それぞれのパートの構成】

    ・「人生の短さについて」
    (簡単な概要)
    パウリヌスという人物に宛てて綴られている。パウリヌスはセネカの妻パウリナの近親者と考えられている。パウリヌスはローマ帝国の食料管理官を務めていた。国家の食糧供給をつかさどる食料管理官は、きわめて責任の重い重職であり、多忙を極める仕事だった。本作でセネカは、パウリヌスに対して、多忙な職から身を引き、閑暇な生活を送るよう勧めている。

    (感想及び得た気づき)
    この章でセネカが終始訴えているのは、人生は決して短くはない、だが、ただ漫然と日々を過ごしていれば、あっという間に時間が過ぎてゆき、何も成し遂げぬまま、人生は終わってしまう。なので、そうならぬ様、多忙な生活から離れて、閑暇な生活を送るよう勧めている。

    セネカの言う閑暇な生活とは?
    →自分が本来なすべきこと、自分のためになることをしている時間のこと。
    閑暇な中でなすべきこととは?
    →英知を求め、英知に従って生きること。

    この章を読んでいるときに思い出したのが、スティーブ・ジョブズの名言だ。
    「もし今日が人生最後の日だとしたら、今やろうとしていることは、 本当に自分のやりたいことだろうか?」

    これとほぼ同じことを、約2,000年前のセネカが既に教えてくれていた!
    以下、セネカの言葉。
    「すべての時間を自分のためだけに使う人、毎日を人生最後の日のように生きる人は、明日を待ち望むことも、明日を恐れることもない。」 
    この言葉から得た気づきが、『この世で唯一、全ての人間に平等に与えられているのは時間だ。だから、与えられた時間を最大限有効に使うことが、生きていく上で、何よりも大切だ』と再認識できたのが、この本を読んでの最大の収穫。

    「母ヘルウィアへのなぐさめ」
    (簡単な概要)
    クラウディウスが皇帝に就任した際、セネカはコルシカ島に追放される。罪状は、カリグラ帝の妹ユリア・リウィッラとの不倫関係。不倫が事実か冤罪かは不明。結局8年間もの間、流刑の罪を耐え抜く。本作はコルシカ島に追放されて暫く経ってから、母ヘルウィアに向けて書かれたもので、息子の不運を嘆き悲しむ母親を、自ら慰め、励ます内容。

    (感想及び得た気づき)
    ストア派の哲学において、いかに運命に立ち向かうかと言う問題は、きわめて重要な問題とある。セネカは本書で追放という運命に見舞われた自分がどのように運命を克服したか、そして母親がいかに自らの運命を克服すべきかについて、具体的な考察をしており、ストア哲学における生き方の指針を示す、実践例になっているとこと。
    セネカ自身は今回の追放をどう克服したのかというと、常識的な価値観を視点を変えることによって、転換したとのこと。
    具体的には、追放を「住む場所が変わること」と規定し、視点を変えることによって、物の見方を転換しようとしたことのこと。
    つまり、人類は絶えず移動し続けており、その意味では誰もが追放状態ともとれる。
    セネカによれば、人間どこに住んでいても、自然のもとで、自分が所有する徳と共に生きて行けるとのこと。
    では、追放につきまとう貧困や恥辱などの様々な不利益とは、どう向き合えば?
    セネカによれば、貧困はそもそも恐れるものではない。なぜなら、人間が生きるのに必要なものは皆、自然が与えてくれる。ただ、贅沢な生活に慣れてしまうと、それを失うことに恐れてしまう。その恐れてしまう心こそが、心の病のあらわれなのだと言う。また恥辱については、徳を持っていれば、そもそも恥辱を受けたと感じないし、仮に受けたとしても、容易に耐えることができるとのこと。
    前置きが長くなってしまったが、この章から得た気づきは、意味を規定しなおし、視点を変え、転換するとの部分だ。
    これってズバリ、世界で3,000万部も売れた、スティーブン•R•コービィー氏の7つの習慣にある、「パラダイムシフト」のことじゃないか!と思わず声に出しそうになってしまった。
    パラダイムシフトとは、自分に起こったネガティブな事象を、ポジティブな事象に変換できるよう解釈を変換することだ。
    コービィー氏が書籍で最も大切と言っていたパラダイムシフトが、既に2,000年も前から書物として残っていたんだ!
    しかし、ローマ時代の哲学恐るべし!
    この先の人生、きっと困難や辛いこともきっと数え切れない程あるはずだが、パラダイムシフトで乗り越えていこうと再認識したのがこの章での気づきだ。 

    ・「心の安定について」
    (簡単な概要)
    年下の親友セレヌスに向けて綴られてたもの。セレヌスが心の弱さを克服して、ぶれることのない安定した心を手に入れるためにはどうすれば良いか?との質問に対してのセネカのアドバイスを書いたもの。

    (感想及び得た気づき)
    本作品におけるセネカのアドバイスは、厳格なものというよりは、むしろ、セレヌス現状にに合わせた、現実的なものになっている。
    以下セネカのアドバイスの箇条書き。

    1.自分の仕事に打ち込み、自分に許された場所で、自分の義務を果たすこと。そして状況が悪化したら、自分から仕事を離れ閑暇の中で生きること。
    2.仕事を選ぶときには、自分の適性を考えると共に、自分の力量で対処出来ない仕事や際限のない仕事は避けること。また、一緒に仕事をする、良い友人を選ぶこと。
    3.少ない財産で質素な生活を送り、運命に翻弄されないように気をつけること。
    4.自分の置かれた境遇に不平を言わず、それに慣れること。どんな運命に襲われるか分からないから、常に警戒を怠らず、備えをしておくこと。
    5.決して、無意味で無益な仕事はしないこと。運命に翻弄されることなく、自分を保ち、逆境でも動じないこと。
    6.人々の欠点に絶望して嘆くようなことをせず、それを笑って受け止めるか、冷静に受け入れるかすること。
    7.正しい人間が不運に見舞われる姿を見ても、決して絶望しないこと。
    8.自分を取り繕うようなことをせず、率直な生き方を心がけること。
    9.人との交わりに疲れたら、孤独に逃げ込むこと。
    10.心が疲弊したら、様々な方法で気晴らしを与え、活力を回復させること。

    なるほど。ほとんど過去に読んだ自己啓発書に書いていたことばかりだ。
    つまり人間は、2,000年前から思い悩むことは、現在と何も変わっておらず、またその克服方法も、既にローマ時代から人類の叡智として残っていたとこうことなんだ。
    また、気づいたこととして、仏教(特に禅)の考え方にセネカの考えが似ているなぁと思った。それはセネカだけが似ているのか、ストア派全体、あるいはローマ時代の哲学全体なのか、その辺りは西洋哲学の本を読み始めたばかりなので、今後哲学書を多読していくにつれ、新たな発見がありそうで、今から楽しみだ。過去に自己啓発書を多読してきたことも、全く無駄では無かったと実感できたのも、良い発見だった。

  • セネカの哲学の入門テキスト3通とあります。

    セネカは、帝政ローマ初期の哲学者で、ネロの家庭教師でもあった人です。ストア派に属していました。

    <心にのこった言葉>

    人生の短さについて
      ・多忙な人間はなにごとも十分になしとげることができない
      ・生きることは、生涯をかけて学ばなければならないのだ。
      ・ひとはだれしも、未来への希望と、現在への嫌悪につき動かされながら、自分の人生を生き急ぐのだ。
      ・賢者はいつ最後の日が訪れようとも、ためらうことなく、たしかな足取りで、死にむかっていく
      ・すべての人間の中で、閑暇な人といえるのは、英知を手にするために時間を使う人だけだ。
      ・過去を忘れ、現在をおろそかにし、未来を恐れる人たちの生涯は、きわめて短く、不安に満ちている

    母ヘルウィアへのなぐさめ
      ・賢者に従い、運命に頼らない自分は、なにも辛い目にはあわない
      ・順境にあって思い上がることがない人は、たとえ状況がかわっても、落ち込むことはありません。
      ・人間が自分を維持するために必要なものは、じつにわずかです。(貧困のうちに追放生活を迎えても)
      ・賢者とは、自分だけを頼りとし、大衆の見解からは距離を置く存在です。
      ・運命から逃れようとするすべての人が逃げ込むべき場所に、あなたを案内しましょう。すなわち学問です。

    心の安定について
      ・人間の精神は、生まれつき活発で、動きやすいものだ
      ・まず心に留めるべきは、持たないほうが、失うよりも、はるかに苦痛が少ないという事実だ。
      ・無益な目的のために仕事をすべきではないし、無益な動機から仕事をすべきでもない。
      ・なんの成果も得られない無駄な仕事をするべきでないし、得られる成果に見合わない仕事をするべきでもない
      ・どんな仕事をするときでも、かならず一定の目的を設定し、その目的を見すえる必要がある。そして、仕事に専心すれば、心がぐらつくことはない
      ・(本書を読めば)心の安定を保つ方法と、それを回復する方法と、忍び寄る欠点から身を守る方法を手にしたことになる。

    <解説から>

    時代背景 セネカの時代 初代から、五代までを生き抜いた

    初代 アウグストゥス ネロまで5代 ユリウス・クラウディウス家という
    二代 ティベリウス 晩年は恐怖政治
    三代 カリグラ 愚行の皇帝 暗殺死
    四代 クラウディウス ただの傀儡、愚帝 セネカをコルシカ島へ島流し
    五代 ネロ 后アグリッピナが、その子ネロを皇帝につける、セネカも許されて政権へ復帰、だけども、暗殺計画に参画したとして自殺に追い込まれる ローマ各地で反乱がおき、ユリウス・クラウディス家は5代で終焉する。内乱の時代へとローマは入る。

    セネカが属したストア派とは

    ・ギリシア アテネのキティオンのゼノンが創設者
    ・自然に従う 人間が作りだした人工物は、人為的であり軽視
    ・自然と宇宙はロゴスという理性によって支配される世界
    ・人間は理性的な能力が重視され、苦痛、快楽、欲望、恐怖のような情念は理性の敵対するものとして否定的に評価される
    ・禁欲的なをストイックというのは、ストア派から派生している
    ・運命とは、ロゴスによってもたらされる必然的な因果連鎖。
    ・徳を完成させた人間であれば、何が起こるかを的確に予測して対処できる。
    ・ストア派の生き方を実践できる有徳者を賢者とよび、理想として掲げた。賢者は完全な徳を実現した人物であり、あらゆる情念から自由でいられる存在である。

    目次は以下です。

    訳者まえがき

    人生の短さについて
    母ヘルウィアへのなぐさめ
    心の安定について

    解説
    年譜
    訳者あとがき

  • 「あなたは、どこを見ているのか。あなたはどこを目指しているのか。これからやってくることは、皆不確かではないか。今すぐ生きなさい。」

    約2000年前のローマ時代 ストア派の哲学者セネカによる実践哲学書。

    妻の近親者(?)・母・友人へ宛てた手紙、3篇。

    人生の時間の過ごし方、不運への立ち向かい方、毅然とした心の持ち方を説いている。

    2000年前と現代では娯楽も増え、生き方も変わっているとは言え現代にも思想は通じる。ビジネス書のように読みやすかった。

    時間という財産の浪費、自分自身を見直すきっかけになる。

  • とっつきにくいと思いきや、生き方のメッセージが詰まっていて、とても面白かった。

    人生は多忙さに忙殺され、浪費すれば短い。
    過ごし方次第で、人生は長くなる。

    じゃあどういうふうに生きたらいいのっていう話になれば、無駄なことに時間を無益に費やさず、また未来に頼りすぎず、今をしっかり生きようということ。
    それが難しい。
    でもそれを意識して生きることが大切だと思った。

  • スラスラは読めたけど、意味を理解するために繰り返し読んだから時間がかかってしまった。

    印象的だったのは、振り返るに値する過去を持つこと、その過去があれば人生には厚みが生まれると。
    忙しい人ほど現在しかみておらず点で生きているため、人生の長さを感じることが出来ないと。

    振り返ることは悪くないらしい!
    振り返るに値する過去でありたい!

  • 人間の悪しき習慣やその原因等について述べ、本質的な言葉でその解決策を述べている。分かってはいるけど、なかなか改善できないんだよな〜と思いながら読み耽っていた。

  • 2000年前の人が書いたとは思えない。
    今も昔も悩みは変わっていないのだとしみじみ思った。

  • 「心の安定について」で、「あちこち旅行に出掛けてしまうのは自分から逃げたいからだ」というようなことが書いてあって身につまされた。ローマ時代からわたしみたいな人間はなんにも変わっていない... 表題作にしても、何をして何をしないかしっかり考えろ、基本的には世界のためになる役に立つ人間になれというのがセネカ先生の教え。もう人生折り返しの自分にとって「世界のため」はちょっとモチベにならないので、エピクロス先生の話を聞いた方がしっくりくるかもしれない、と思ったことでした。

  • 今こうしている時間も全て浪費なのかな
    やりたいことをやれていない時間は浪費なんだそう

    人生は何かを成すには短いなんてよく言うけれど、
    セネカに言わせれば浪費してる時間を無くせば、
    何かを成すには十分すぎる時間があるそうで。

    ただただ、この世に存在するのではなく、
    私は「生きてる」って胸を張れたらいいな。

  • 面白かった。訳がとても平易で読みやすく、セネカの説く実践的なストア派哲学、というか、ストア派の哲学を実生活に活かすための方法がものすごくよく伝わってきて、読みやすさに驚いた。
    巻末の訳者中澤努さんの解説もとてもわかりやすくて、セネカとその周辺や、ローマ哲学のあり方の入門書としてともよかった。

著者プロフィール

ルキウス・アンナエウス・セネカ(Lucius Annaeus Seneca)。紀元前4年頃(紀元前1年
とも)~紀元65年。古代ローマのストア派の哲学者。父親の大セネカ(マルクス・アンナ
エウス・セネカ)と区別するため、小セネカ(Seneca minor)とも呼ばれる。ローマ帝国の
属州ヒスパニア・バエティカ属州の州都コルドバで生まれ、カリグラ帝時代に財務官とし
て活躍する。一度はコルシカ島に追放されるも、クラウディウス帝時代に復帰を果たし、
のちの皇帝ネロの幼少期の教育係および在位期の政治的補佐を務める。やがて制御を失っ
て自殺を命じられることとなるネロとの関係、また、カリグラ帝の恐怖の治世といった経
験を通じて、数々の悲劇や著作を記した。本書はそのなかでも「死」との向き合い方について説いた8つの作品がもとになっている。

「2020年 『2000年前からローマの哲人は知っていた 死ぬときに後悔しない方法』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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