シャーロック・ホームズの生還 新訳シャーロック・ホームズ全集 (光文社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (576ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334761745

感想・レビュー・書評

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  • 「最後の事件」でモリアーティと滝壺心中したと思われていたホームズがいよいよ帰還する「空き家の冒険」でスタートする短編集。

    相変わらずワトスンをびっくりさせるのが趣味のホームズは、変装から早替えして登場。3年前、滝壺に落ちたのは実はモリアーティだけでホームズは危ういところで難を逃れ、しかし自分は死んだことにしておいたほうが好都合なのでそのまま行方をくらましていた(兄のマイクロフトにだけは金銭的理由で連絡)とワトスンに話す。この回の犯人はモリアーティの腹心モラン大佐。彼はホームズが生きていることを知っておりホームズを仇と狙っていたが、別事件で逮捕され一件落着。ホームズはベイカー街に戻ってくる。

    それにしても気の毒なワトスン君は、このホームズ帰還後に再び相棒として一緒に暮らすために、奥さんと死別した設定にされてしまっている。まあワトスンが結婚して開業医になったあとは、ホームズもいちいちワトスンに事件現場に同行可能か許可とったりして面倒だったのでしょう。独身で同居してるほうが断然都合が良い(笑)

    本書で他に印象に残ったのは、暗号解読ものの「踊る人形」、『憂国のモリアーティ』でも悪役として活躍したミルヴァートンが登場する「恐喝王ミルヴァートン」あたり。ホームズは警官ではなく探偵なので意外と(?)人情派というか、謎さえ解ければそれで気が済み、犯人に同情の余地があると庇ってあげたりすることも多々あり。ネタバレだけど「~ミルヴァートン」はホームズが解決する前に別の女性が復讐でミルヴァートンを殺してしまいビックリだった。

    あとホームズがなんやかんやで依頼人から金品をちゃっかりしっかり頂くことになる作品がいくつかあり、これで生計立ててたんだなと一安心。学生がテスト問題を盗む「三人の学生」や、大学ラグビー部の人気選手が失踪する「スリー・クォーターの失踪」など、学園もの(?)もあり、設定はバラエティに富んでいる。

    最後の「第二のしみ」は、国家的重要文書が盗まれるという事件だけれど、オチは非常にあっさり、それよりも冒頭のワトスンの記述で、ホームズはすでに探偵を引退して養蜂業にせいだしてると書かれていることのほうが衝撃。ワトスンに、ホームズの事件記録を発表するのはこれが最後的なことをわざわざ言わせていて、作者はよっぽどホームズシリーズを終わらせたかったんだなあ(苦笑)でも結局、これで終わらずまだシリーズは続いたわけですが…。


    ※収録
    空き家の冒険/ノーウッドの建築業者/踊る人形/美しき自転車乗り/プライアリ・スクール/ブラック・ピーター/恐喝王ミルヴァートン/六つのナポレオン像/三人の学生/金縁の鼻眼鏡/スリー・クォーターの失踪/アビィ屋敷/第二のしみ

  • 近代らしさを思う。
    書かれたのは、1890年代後半から、1900年代初頭のころ。

    電報などの通信網、タクシー代わりの辻馬車に加えて、鉄道網が広がり、ロンドンには地下鉄も走る。
    警察と司法が分権しており、検察についても少し言及される。捜査令状無くして、人の邸に入ることは許されず、そうした警察や司法のルールを、英国人らしい律儀さで遵法している様子。そうしたことが、テキパキとしていて小気味いい。

    ホームズの捜査は、遺留品や残留痕を、拡大鏡をつかって這うようにして調べ尽くす。云わば現代の科捜研のような捜査を行っている。そのへんも、ざっくりとした探偵ではなく、近代らしい。ここで、ふと思い至る。
     ワトスンは医師なのだが、彼の知識が法医学の面で、発揮されることはない。負傷者を介抱する場面では、医師らしい本領を発揮するのだが、例えば創痕を観察検証するとか、死後硬直から死亡時刻を推定するとか、そういう法医学の面では、能力を発揮しない。そのへん、もったいない気もするのであった。

    先に、警察制度のことに感心したが、一方でふと、警察捜査の怖さに慄然としたこともある。

    <以下、おおいにネタばれ あり>要注意*******

    ・「ノーウッドの建築業者」では、容疑者の青年をとりまく状況証拠が豊富にあり、スコットランドヤードの警部は、彼が真犯人だと見立てる。状況に合わせた犯罪のストーリーを構想する。つまり冤罪の恐ろしさに慄然とした。捜査担当者自身が、わかり易いストーリーに、自分自身を誘導し、思い込み、そのフレームに容疑者を落とし込む。その面も図らずも描かれているのだ。

    印象に過ぎないのかもしれないが、ちょっと気になったことがある。
    自転車のタイヤ痕の徹底的な検証、手紙文面の周期的な筆記の乱れから列車の走行と停車のリズムを推測し、都市近郊路線だとする推理、などなどのきめ細やかな推論のテクニックの積み重ねはいろいろある。
    一方で、被害者をとりまく込み入った家族関係や、外国から帰国した者たちの「前史」などは、ホームズがその事実をどうやって知り得たのか、捜査(情報収集)の過程があまり詳らかでない、印象を得たのだ。

    (「プライアリ・スクール」では、あの少年とあの青年が、実は「兄弟」だった衝撃の事実が明らかになる。さすがにこれは、関係者による告白自白によるもので、ホームズの推論は及ばなかったもの。だが、心証としては象としては、衝撃の家族関係人間関係の背景をもって「落ち」とする点において、同様の心証を得た。)

  • 確かにトリックの面白さは薄れてるかも
    でも脅迫王ミルヴァートン、スリークォーターの失踪、アビィ屋敷あたりを中心にホームズの人間っぽさが増した感じがして楽しい

  • 初期に比べるとトリックの意外性はさすがになくなるが、細かな手がかりから論理的に犯人を導き出す流れは秀逸。

  • ホームズ史的には重要であろう復活巻。というかドイルの世論(もしくはお金)への敗北巻。
    言われてみればなのだろうけど、書きたくないんだろうなぁ感はある。

    お話としては『アビィ屋敷』と『六つのナポレオン像』が面白かった。が、後者は何故面白かったのか自分でもよく分からん。
    かの『踊る人形』もこれ収録だった。
    とは言え、特におぉぉ!みたいなのは無いのはやっぱり釈然としないというか。

  • ホームズ見事な生還。
    そしてワトスンとまた共同生活・・・ってあれ? いつ離婚したのさ!?
    短編集、いろいろと面白かったんだけど、最終的な印象が、ホームズってほんとワトスン好きよね・・・。
    (他に友達いなさそうだものなあ、あの独特の性格じゃ)。

  • 前回ライヘンバッハで死亡したと思われたホームズの生還から始まる短編集第三弾。

    ずっと角川文庫のを読んでたけど、この辺はまだ出版されてなくて、でも待てないので光文社に乗りかえ。

    作者はホームズを復活させる気は当初なかったらしいので、生還できた理由のところは無理矢理感が凄いし、納得出来ないような部分もあるけど、それでもホームズを復活させてくれたことには感謝したい。
    きっとファンの皆さんもそんな気持ちなんだろうな。

    今回は『空き家の冒険』と『恐喝王ミルヴァートン』が好きだな。
    二人が一緒に捜査するところがいい。
    ホントいいコンビだなぁと。

    あとは、『踊る人形』も暗号もので面白かった。

    次はバスカヴィル家の犬読もうかなぁ…

  • やっぱり面白かったですね。
    これは、大人が夢中になるのも分かりますね。
    当たり前ですけど、名探偵コナンはもちろん、探偵ものというよりヒーローものの原点ですものね。
    ゴルゴ13だってルパンだって金田一だって、全部ここから来たんですねえ。
    相変わらず光文社の新訳も悪くないです。

    確かに初期よりかは、冒険モノ、アクションモノの要素が増えてはいます。
    しかしまあ、犯罪者ミステリーの原点らしく、よく考えたら(例外はありますが)どれもヒトの業が描かれてるんですよねえ。
    金銭欲と男女の愛憎のもつれ。
    そんなヘドロのようなニンゲンらしいぐにゃぐにゃを、クールでそんなことに無関心なホームズがばっさり暴いて、場合によっては大岡裁き。
    うーん。娯楽ですねえ。木枯し紋次郎も中村主水も、ここから来てますね。いやあ、脱帽。
    残りも今年中に読むでしょう。
    今年は個人的には、光文社新訳シャーロックの年だなあ。
    本を読むのは愉快なモノです。

    以下の12篇。備忘録。ネタバレです。



    ①空き家の冒険
    変わった殺人事件がロンドンで。どうやらかなりの狙撃手の仕業。
    そんなニュースを見ているワトソンの前に死んだはずのホームズ登場。
    悪の組織の目をごまかすために世界を放浪していた、と。
    ホームズを狙う悪者を、ベーカー街自宅の向かいの空家で待ち受けて逮捕。
    特殊な銃の名手で、先行の事件の犯人でもありました。
    ワトソンは詳細はわからないが妻と離別している。
    ふたりはまたベーカー街で同居を始める。

    ②ノーウッドの建築業者
    若い勤め人が、突然老人から遺産相続人になってくれ、と。
    その夜、その老人が殺害、彼が容疑者に。
    ところが真相は、その若者の母に恨みを持っていた老人の狂言だった。
    壁に残された不自然な指紋から、ホームズが狂言を暴く。

    ③踊る人形
    かつてシカゴの犯罪集団のボスの娘だった女が、イギリスで過去を隠して結婚。
    昔の男が執念で言い寄る。暗号に使われた踊る一文字の解読が肝。
    結局ホームズ微妙に間に合わず、夫は昔の男に殺されて、妻も瀕死のところで犯人を捕まえる。

    ④美しき自転車乗り
    イギリスの植民地、南アフリカで、金持ちで死にそうになっている男。その男の娘がイギリスにいる。
    悪党ふたりがその娘と強引に結婚しようと。
    だが、一人が本気で惚れてしまう。
    で、仲間割れ。殺し合い。
    はじめはただのストーカー騒動に見えたが、ホームズが間一髪助ける。

    ⑤プライアリ・スクール
    名士の子供が通う全寮制の学校から、子供がいなくなった。
    追って出たらしき教師がひとり死んだ。
    真相は、その子の親の貴族の、庶子の恨みの犯行。
    味噌は馬のひづめが牛のように見えるという、地元の風俗。

    ⑥ブラック・ピーター
    船乗りの悪党が、漂流者から株券を巻き上げて殺害。数年後、それを知ってる別の船乗りが強請に。
    喧嘩、銛で殺害。
    株券を巻き上げられた男の遺族が色々あって疑われるが、
    銛の使い方から別の犯人と確信したホームズが暴く。

    ⑦恐喝王ミルヴァートン
    強請屋のミルヴァートン。今日も名誉ある女性の不名誉な手紙でお金を要求。
    代理人のホームズも歯が立たず。
    とうとうワトソンとふたりでミルヴァートン邸に盗賊に入る。
    たまたまその夜、ミルヴァートンさんは別の女性に殺害される。
    ふたりは大量の恐喝素材を燃やして、警察を逃げ切る。

    ⑧六つのナポレオン像
    盗賊が、警察に捕まる直前に高価な宝石をナポレオン像に隠した。
    後ほど、候補の6つのナポレオン像を一つ一つ探して壊す。
    それをホームズが逆算して暴いて逮捕。

    ⑨三人の学生
    大学でテストの答案が盗み見られた。
    犯人候補が三人の学生。
    犯人の大学生を知っている小間使い?が匿おうとするが、
    ホームズが推理で暴く。犯人改心して外国へ去る。


    ⑩金縁の鼻眼鏡
    ロシアで反政府運動に関わっていたが、弾圧時に裏切って仲間を売った男。
    今はイギリスで名を変え学者としてひっそり老いている。
    そこに恨みつらみを抱えた老女?が復讐にやってくる。
    ひょんなことから秘書の若い男性を殺害してしまう。
    女性をかくまうしかない学者老人。書斎の隠し本棚の中にかくまうが、
    老女が残した眼鏡からホームズがそれを暴く。
    老女は告白して、服毒自殺。

    ⑪スリークオーターの失踪
    大学ラグビーの名選手が実は身分違いの女性と秘密に結婚していた。
    その妻が病に倒れたことから彼は失踪して看病。
    その真相を暴く。

    ⑫アビィ屋敷
    オーストラリアからイギリスに来て、今で言う酒乱でDVな男と結婚した女性。
    その女性に惚れていた船乗りが、夫を殺害。
    昔からのメイド女性と三人で作り話を。
    それをホームズが暴くが見逃す。

    ⑬第二のしみ
    政府高官が機密文書を自宅で盗難にあった。
    実はその奥さんが、恐喝屋から、過去の恋文で恐喝されて、仕方なく盗んだものだった。
    その恐喝屋が別線の絡みで殺されたことから事態が混乱。
    殺害現場の血のしみがついた絨毯が動かされていて、床下に第二のしみが。
    そこからホームズが真相にたどり着く。

  • 短編集三作目。

    前の短編集でライヘンバッハの滝に落ちたように思えたホームズが劇的な復活を遂げるお話から始まる。タイトルからこの展開は予想できたが、実際に復活する場面では思わず唸った。

    この短編集でもこれまでと同様、それぞれのお話のクオリティが高く、読み進む手が止まらなかった。まったく、どれだけ傑作を生めば気がすむのだろう。

    次は久々の長編『バスカヴィル家の犬』を読む。

  • ライヘンバッハでの別れを経てより親密になった名コンビ。
    2人が再会を果たす「空家の冒険」と、2人して強盗に入る「恐喝王ミルヴァートン」が好き。

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著者プロフィール

アーサー・コナン・ドイル(1859—1930)
イギリスの作家、医師、政治活動家。
推理小説、歴史小説、SF小説など多数の著作がある。
「シャーロック・ホームズ」シリーズの著者として世界的人気を博し、今なお熱狂的ファンが後を絶たない。

「2023年 『コナン・ドイル① ボヘミアの醜聞』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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