シャーロック・ホームズの事件簿 新訳シャーロック・ホームズ全集 (光文社文庫)
- 光文社 (2007年10月11日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (487ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334761820
作品紹介・あらすじ
王冠のダイヤモンドが盗まれ、首相みずからがホームズのもとを訪ねる「マザリンの宝石」、赤ん坊の血を吸う(?)母親を相手にする「サセックスの吸血鬼」、若い女性に恋をした老教授の不思議な行動に端を発する「這う男」など12編。発表はみなドイル晩年のものだが、「ライオンのたてがみ」以外、事件はすべてホームズの引退前(1903年以前)に起きている。
感想・レビュー・書評
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いよいよホームズ最後の1冊。まず冒頭ドイル自身の前書きが印象深い。
「わたしはシャーロック・ホームズが、『かつては人気のあったテノール歌手』のようになってしまうのを、おそれている。つまり、全盛期をとっくに過ぎながら、寛大な聴衆に甘えてさよなら公演を繰り返してしまうような連中のことだ。そういう事態は避けなければならないし、生身の人間であれ想像上の人物であれ、本来行くべき道をたどり、舞台を去るべきなのである。」
この宣言通り、これが最後の1冊となったわけですが、とはいえドイルは最後のホームズ作品「ショスコム荘」の3年後には亡くなってしまうので、もし存命だったらもしかしたらまた書かされてたかも…なんて無粋な想像もしてしまった。
本作収録作でいちばん好きだったのは「サセックスの吸血鬼」吸血鬼好きにはタイトルだけでも興味津々だけれど、もちろん本当の吸血鬼は出てこない(そういえば『シャーロック・ホームズVSドラキュラ』とかいうパスティーシュ本を昔読んだ記憶はある・笑)真犯人が天使のようなサイコパスというところも含めて、とても面白かった。
「三人のガリデブ」はタイトルを見て、「ガリガリの人とポッチャリの人の話?」と思ったら、全然違いました。単にガリデブという珍しい人名を使ったお話でした(笑)
「高名な依頼人」は、イケメンで女たらしの大悪党の話、「三破風館」は逆にお金持ちで遊び人の美女が犯人。「這う男」は若返り薬の人体実験、「ライオンのたてがみ」はその名を持つある生物が犯人という奇想天外さ。この「ライオン~」と「白面の兵士」はワトスン君不在で、ホームズの一人称になっているレア作品。
なお、ホームズはワトスン不在の理由を「善良なるワトスンはそのころ、わたしを見捨てて妻と結婚生活を送っていた。それは、わたしたちのつきあいをとおしてたったひとつ思い出せる、ワトスンの身勝手だ。」と述懐。身勝手!!(笑)こういうこと言うからワトスンとの仲を誤解されるんだよホームズ。
全体通して二人の関係性について抱いた感想は、こんな変人とずっと一緒にいられるワトスン凄いなあ、でした。寛大というか鷹揚というか、ホームズは頭が良すぎて結構失敬なこと(ワトスンをバカにする発言)を頻繁に口にするのに、一瞬ムッとしてもワトスンはすぐ事件への好奇心やホームズの頭脳への称賛の気持ちで自分への侮辱を忘れてしまう(笑)好人物というのはこういう人を言うのだろう。
今回は作品が発表された順で読みましたが、以前乱歩の明智小五郎ものを時系列に並べなおしたシリーズで読んで面白かったので、ホームズもいつかそういうのが出たら再読してみたい。
※収録
マザリンの宝石/ソア橋の難問/這う男/サセックスの吸血鬼/三人のガリデブ/高名な依頼人/三破風館/白面の兵士/ライオンのたてがみ/隠居した画材屋/ヴェールの下宿人/ショスコム荘 -
シャーロックホームズシリーズで一番好きな話は?と聞かれた時に「シャーロックホームズの事件簿のまえがきです。」と答えてしまいそうになるほど、この巻のまえがきが好きです。
私にとってはどうにも泣きたくなるようなまえがきです。やっと終わらせることができると喜んで書いたのか、物悲しさもありながら書いたのか、ドイルがどういう思いでこのまえがきを書いたのか私にはわかりませんが、少なくとも私の心に響きました。
「本当の終わり」を現実であると突きつけられ「私の中のホームズ」が死んでしまうと感じると共にシャーロックホームズは永遠の存在であることを深く思い知らされました。
いわゆる「聖典」は全て読みましたが、世界にはまだまだ「本物」ではないにしろシャーロックホームズが沢山存在しています。それらの存在もまた、シャーロックホームズが永遠の存在であるということを私に感じさせるものだと思います。
まえがきについてしか書いていませんが最後のシャーロックホームズ、自分はホームズが本当に好きだなぁと改めて思わされました。 -
シャーロックホームズシリーズを読み始めたい!とふと思い立ちどれから読んで良いか分からずに手に取ったこちらはコナンドイルが亡くなる3年前に書かれた最後も最後の小説でした…笑
映画やドラマは観ていましたが、シリーズものっていうそれだけでなかなか手を出せずにいましたが、こんなにもさらっと読み進められると知らず、もっと早くに出会いたかった!と思いました。
今度からは順を追って読んでいこうと思います。
面白かった! -
ずっと買って積読していた本作をようやく読了。残りあと一冊!
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歌謡曲の名作「襟裳岬」の歌詞で、
通りすぎた 夏のにおい
想い出して なつかしいね
という一節があります。
若い頃から、詩がステキやなあ、と思っていたんですが。
オジサンになるにつけ、この一節。
特に、「通りすぎた 夏のにおい」というのは凄い日本語だなあ、と。
北海道と沖縄の人には申し訳ないですが、春夏秋冬の四季のリズムに体が慣れている日本の風土ならではの、言葉ですね。
「過ぎ去った」でも「終わった」でもなく、「通りすぎた」というのもステキ。橋の上から川の流れを見ているような。
無論、何より「夏のにおい」。
なんかこう、あの暑苦しくて無駄に強烈で、意味も無くエネルギッシュな感じが…。
と、猛暑な2015年八月にしみじみと。
「シャーロック・ホームズの事件簿」を読んで思いました。
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光文社文庫さんで、ほぼ順番に読んできたシャーロック・ホームズ・シリーズ。
第1作「緋色の研究」を読んだのが2013年3月。
足掛け2年半で、全8冊読破、ということになりました。
ちょっと感無量。
シャーロック・ホームズ・シリーズの第1作、
長編「緋色の研究」は、1887年に発表されました。
当然イギリスで。
日本ではまだ、夏目漱石が二十歳の学生でした。
コナン・ドイルさんはまだ28歳くらい。
今いち流行らない若い開業医。
暇な時間に小説を書いては投稿していました。
「緋色の研究」は左程、売れませんでした。
2年後1889年の第2作の長編「四つの署名」も、そこそこ。
コナン・ドイルさんは、実は歴史小説家志望だったようですね。というか、歴史小説はホームズ以前も以後も、ずっと書いていたそうです。
そして、ホームズがヒットする前に、初めに職業作家として売れたのも、歴史小説だったそうです。
歴史小説を書く一方で。
1891年に、雑誌でホームズ・シリーズの連載を始めます。
雑誌の都合で短編連作のカタチを取ります。
これが、当初から大ヒットになったそうです。
それからは、1927年の短編「ショスコム荘」まで。第1作から足掛け、なんと40年!。
ドイルさん、28歳から67歳くらいまで!
40年間、同じ主人公の小説を商業的に書き続けるっていうのは、ギネスブックじゃないでしょうかね…。
日本では1899年に、もう翻訳が出ているそうです。英語圏以外では、相当に早いみたいですね。
「シャーロック・ホームズの事件簿」。
最後のホームズ本です。短編が12篇入っています。
1921年~1927年に発表された短編をまとめたもの。
つまりドイルさん60代の晩年です。
どうやら、ホームズ好きの人たちの中では、
「晩年の作、つまり"事件簿"は、いまいちだ」
という評価が定番のようですね。
それは、僕も同感です。
ですが、もうここまで長々と読んできてしまった付き合いっていうものがあります(笑)。
ルパン三世だって、1話1話は面白くないかもしれないけど、ついつい見ちゃうし、ルパン一味のキャラクターを見るだけで楽しめちゃう。
それから、この短編集は、
●引退してロンドンを離れて養蜂家になったホームズが描かれる短編がある。
●ホームズが一人称で語る短編がある。
という、ホームズファンからするとちょっと見逃せないイロモノが含まれています。
(どれも、小説としてシリーズ屈指か、と言われるとそんなことは無いんですけど)
なんだか悪口を言うようですが、そうでもないんです。
やっぱり面白かったんです。
なんていうか…老いてるんですよね。作者が。
ホームズとワトソンを産んだのは、40年前なわけです。
それからというもの、時代は変わりました。
馬車が自動車になり。電話が普及して。何よりも第1次世界大戦があり。戦争は騎士道から即物的な残酷さへと変わりました。
大英帝国は新たな勢力に押されてきています。
そして、燃えるアマチュア青年作家だったドイルさんは、サーの称号を持つ世界の人気作家な訳です。
なんかこう…ホームズとワトソンの物語にも、どこかしら、
「ああ、僕たちが若かった頃は過ぎてしまったね。
無軌道に、自由で、独身で、しがらみの無かった、あの危なっかしくて輝かしい日々は、もう戻ってこないよね」
というような感傷が。
つまり、「通りすぎた 夏のにおい」ってヤツが。
それがささやかに、かすかに、見え隠れするんです。
と、僕は思いました。
そんな薄い苦みが入り込む、
いつもながらのエンターテイメントな犯罪人間ドラマ、
ヒーロー物語。
弾むような才気やキレは薄まっていると思いますが、
ドイルさん60代の郷愁ただようホームズも、なかなかどうして。
そして、「ああ、読み終わっちゃったなあ」という、この感覚。この感傷(笑)。
これがまた、やっぱり読書の愉しみですねえ。
思わずこのまま、モーリス・ルブラン「ルパンvs.ホームズ」を再読するか…!
そのままルパンシリーズ再読?!
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もともと思い出したら。2年半前にたまたまテレビで、現代に置き換えた海外ドラマ「シャーロック」を観たんですね。
それがきっかけで、ホームズを読みだしたんでした。
「考えたらあんまり読んでないなあ。原作を読んでから見ようかな」と。
そのきっかけを忘れてました(笑)
ぼちぼち見てみようかな…。
実は「事件簿」の解説で知ったのが。
ドイルさんは「事件簿」の前の短編集、1917年出版の「最後の挨拶」で、ホームズ・シリーズは終わらしたつもりだったんですって。
ところが、1920年に制作された、ホームズの映画を見て、その出来に感激して、「事件簿」の短編たちを書いたんだそうです。
映画・ドラマと小説っていうのも、そう考えるとちょっと、愉快な関係な気もしますね。
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以下、各編の備忘録
①マザリンの宝石
もともとは戯曲だったそうです。
何故か三人称。
悪党がいて、ホームズが追い詰める。
だが、ホームズは、マザリンの宝石を取り返したい。
その場所が分からない。
悪党と部下がホームズの部屋を訪問。
ホームズは隣室でバイオリンを弾いている。その間に悪党は部下と密談。
ところが、実は最新の「蓄音機」だった。騙したホームズは密談が聞こえていて、宝石を取り戻す。
②ソア橋の難問
これは印象に残っています。
愛情の冷めた夫婦。だが妻は嫉妬深い。
夫は別の女に走った。(その女は、純粋な、良い人)
嫉妬に狂った妻は、その女が、自分を殺したように見えるように、自殺する、という。
どうみても、女が妻を殺した、と見える事件を、ホームズが見破る。
③這う男
今でいうとバイアグラみたいな若返りの薬を飲んだ学者が、正気を失っていく。
正直、「?」という一篇。この頃の感覚で、最新医学SFみたいなことだったんだろうか。
④サセックスの吸血鬼
「妻が赤ん坊の次男の首から血を吸った」と訴える男。
でも実は、嫉妬した長男が入れた毒を吸い出していた、という落ち。
長男は養子で、まあいろいろ愛情のねじれの背景があった、という。
⑤三人のガリデブ
「赤毛同盟」的なオハナシ。
悪い男が「ガリデブさんがもう一人いたら財産が入ってくる」、という騙しで、引きこもっている男を家から出そうとする。
その家の床下に、高価な偽札マシンがあるからだった。
「地下に偽札マシン」っていう設定が、「ルパン三世・カリオストロの城」と同じだ!
⑥高名な依頼人
悪人、殺人も辞さない高級犯罪者がいます。色男で女ったらし。
社交界で、名誉ある女性が、この男にたらしこまれてしまって、ぞっこんに。結婚するぞ!と。
周りはみんな、酷い目に合わされる、と反対。でも悪行過去を聴いても、恋は盲目あばたもえくぼ、その女性は動じない。
さて、これを恐らく王室筋の依頼で、ホームズがなんとかする。
最終的には、この男の、変態色恋の備忘メモを手に入れて、それを見せることで万事めでたし。
途中でぼこぼこにされて動けなくなるホームズ、というのが珍しい。
そして、ホームズに言われて中国陶器に詳しいふりをするために頑張って勉強するワトソン。
そして、悪人と対決して、その知識をもとに芝居を打つワトソン。
でも、すぐに見破られて、大失敗のワトソン。
でも、その裏でワトソンを囮に目的を達するホームズ。
でも、中国陶器の知識は要らなかったワトソン…。
いったいワトソンの無駄な努力って…かわいそう…。
⑦三破風館
破風=つまり切り妻屋根ということだと思われます。
そういう切り妻屋根の家に住んでいる女性。息子が異国で死んでしまった。
その遺品から何かの草稿が盗まれる。
ホームズがその大元は、スペイン系?の社交界のプレイガールだと看過。
自分との色んなことを小説に書かれたから。違法行為もばれてしまうから。
見逃す代わりに切り妻屋根の女性への慰謝料を払わせる。
⑧白面の兵士
珍しい「ホームズ一人称」。ワトソンが出てこない。
異国で病気になった男性が、ハンセン病なのかな?世間体を恐れて自宅で逼塞している。
それが誤解を生んで犯罪と思われた事件を、ホームズが看破する。
特段な大きなトリックは無いです。
⑨ライオンのたてがみ
これも、「ホームズ一人称」。そして、引退して郊外で養蜂家をしているホームズ!。
その田舎で起こった事件。
殺人かと思ったら、クラゲだった、というお話。
⑩隠居した画材屋
妻が有価証券を持って男とかけおちした、と主張する男。
でも実は、男が地下金庫を密室にしてガスでふたりを殺していた。
それをホームズが暴く。
始めに忙しいホームズに代わって、ワトソンが単独で探偵にいく。
戻ってきて報告して、ホームズにけちょんけちょんに言われるのが可哀そうで面白い。
⑪ヴェールの下宿人
巡業サーカスのボスがいる。ひどい男で、奥さんを苛めている。奥さんは団員の男と愛し合い、夫を殺す。
その際にライオンに顔をめちゃくちゃにされる…
という過去を、ホームズに語る。
⑫ショスコム荘
あるお屋敷で、ある男が、妹を殺したのではないか?という疑惑。
生きていると思える妹はニセモノで、実は死んでいる、というところまでホームズが暴く。
なんだけど、その後は「実は事故死だった。財産の関係でしばらく生きていることにしたかった」という腰砕けな落ち。
以上 -
ホームズの最後の一冊(この全集は順番が色々入れ替わっているからどうなってるか分からないけど)。
ドイルにとってホームズは厄介な隣人だったのか、便利に使えるATMだったのか、そこらへんが気にならないとも言わないが、まぁ少なくともATMにはなっていた筈なので良かろう。
標準系に飽きたのかネタが尽きたのかは分からないが、色々やっていてそれが結構面白い。
あとがきにあったが、ある程度ドイル自身が書きたがったであろう『マザリンの宝石』や、ホームズが書いた体になっている『白面の兵士』などは読み応えがあった。
一方、『這う男』『ライオンのたてがみ』なんかは未知との遭遇パターンであり、はぁそうですか…、というオチになっている。 -
本書はホームズシリーズの短編集になる。
いずれも読み応えがあり、短編らしいスピード感を味わうことができる。 -
シャーロック・ホームズシリーズ最後の短編。
ワトスンくんの小説風に脚色したものだけでなく、三人称での視点やホームズの視点でのお話もある。正直、ホームズ視点のお話はホームズ自身も認めているように小説的でないが、こういうスパイスを入れることでワトスンくんの手柄がどれほどのものかがよく分かる。
これでホームズシリーズを全部読見終えたのだが、これでホームズやワトスンとお別れになるのはとても寂しい。
関連本もたくさんあるみたいなのでいつか読んでみようと思う。 -
ホームズ視点で語られる「白面の兵士」、「ライオンのたてがみ」。
犯人の発砲により怪我を負ったワトスンにめずらしく取り乱すホームズが見られる「三人のガリデブ」。
自分が襲われ大怪我を負いながらそれを利用して犯人を追いつめる「高名な依頼人」。
「マザリンの宝石」のラストでホームズがする“悪ふざけ”は彼らしくて好き。
ホームズ完投おめでとうございます。私は「短編だけ読もう」の試みを少し前にしたものの、他に興味が移って『〜生還』で止めてしまっ...
ホームズ完投おめでとうございます。私は「短編だけ読もう」の試みを少し前にしたものの、他に興味が移って『〜生還』で止めてしまっていたので、yamaitsuさんのレビューをひそかに楽しみにしていました。ありがとうございました。
ドイルがホームズ作品の執筆を(ジャンプ人気作品の作家さながらに?)やめさせてもらえなかったという話は、話としては知っていましたが、結果的に亡くなる三年前まで書いていたのですね。その三年間も、もう書かなくていいんだ!とドイルさん自身確信して過ごせていたのか、わからないですよね…(苦笑)
ワトソンがいい人過ぎるというご感想も激しく同意です。
私も、またいつかホームズチャレンジ再開しようと思いました。
とつぜん長々コメント失礼いたしました。レビュー読んでました!とお伝えしたくて…。
私のつたない感想をずっと読んでくださってたのですね、ありがとうございます!私はコナン・ドイ...
私のつたない感想をずっと読んでくださってたのですね、ありがとうございます!私はコナン・ドイルがここまでイヤイヤ(?)書いてたことは知らなかったのでびっくりでした(笑)
あまりミステリは読まずに来たのですが、やはり読み継がれる名作、熱狂的ファンのいるシリーズだけあって、たいへん面白かったです。トリックやなぞ解き部分の面白さももちろんですが、やはりキャラクターの魅力でしょうね。
akikobbさんも、ぜひ再チャレンジしてみてください!