恐怖の谷 新訳シャーロック・ホームズ全集 (光文社文庫)

  • 光文社
4.08
  • (55)
  • (42)
  • (42)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 619
感想 : 42
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (331ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334761844

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 全てがひっくり返る瞬間の気持ちよさがたまらない。何回読んでも面白い。


    第一部は、『シャーロック・ホームズの建築』 (北原尚彦 文 /村山隆司 絵・図)で紹介されている事件現場の俯瞰図や間取り図と照らし合わせながら読んだ。
    重要な役割を果たした隠し扉と隠し部屋を、建築本の絵や図で見るのが楽しみだったが、正典で詳細が語られていないからか、間取り図でサラッと描かれている程度。隠し部屋はおそらく屋根裏部屋ではないかとのこと。
    内堀や跳ね橋のある外観図はいかにも物々しく、周囲の樹木も鬱蒼としていて、ドラマチックな犯罪が起こりそうな雰囲気。

    間取り図上で興味を引かれるのは屋敷の奥の使用人たちの領域。
    キッチン、パントリー、食器室、使用人部屋、使用人ホール、ハウスキーパー室、貯蔵庫……たくさんの小さな部屋が目的別に並んでいる。
    一部屋一部屋覗いてみたい。特に食器室。
    英国のお屋敷における貴重な銀器や磁器の手入れは執事の職務であり、食器室そのものの管理も執事の役割だそうだ。


    第二部はホームズもワトソンも出てこないが、主役のバーディ・エドワーズが魅力たっぷり。
    エピローグはショッキングだが、名前や身分を変えてまたどこかで生き延びていればいいのに。ホームズもそれに一役買っていて、そっと自分の胸のうちにのみ仕舞い込んでいたり、しないのかな。
    スコウラーズの中にいて良心を失わなかったモリスはどうなったんだろう?たとえ起訴や裁判になったとしても、きっとエドワーズが口を添えてくれたはず。

  • モリアーティの手下であるポーロックを手懐けて情報を得ていたホームズは、ポーロックからの暗号文でバールストン館のダグラスという男が狙われていることを解読する。しかし直後に当のダグラスが殺害されたという情報が入り、ホームズはワトスンとともに現場へ赴くが…。

    ホームズもの長編4作の最後の1冊。同じく長編の『緋色の研究』『四つの署名』と同じく二部構成となっており、一部でホームズが事件を解決、二部はアメリカを舞台に、犯人による動機や原因語りの独立した物語としても読める構成。一部、二部とも、どんでん返し的なオチが用意されていてとてもよくできているのだけれど、個人的には長編の中ではこれはイマイチ。

    理由としては二部の「スコウラーズ」が悪いやつらすぎて(ただのヤ〇ザ)読んでる間ずっと不愉快だったのと、蛇足としか思えない「エピローグ」でのとってつけたような展開にガッカリしたことの二点。善良な労働者の組合がいつのまにか手段を択ばないチンピラ集団になり果てたスコウラーズと、二部の語り手にはモデルがあり、「モリー・マグワイアズ」という実在の秘密結社と、ピンカートン探偵社のジェームズ・マクパーランドという実在の探偵の事件が下敷きになっているらしい。

    ここからネタバレだけど、そんな実在の英雄、勇気と知略でいくつも死線を潜り抜け事件を解決したアメリカの名探偵を、作者がエピローグでモリアーティにあっさり殺させたのがあまりに身勝手すぎて勝手に憤慨。ご存じのようにモリアーティは時系列ではこれより後の事件になるが先に書かれた「最後の事件」でホームズの最強の敵として登場、ホームズに敗北するわけですが、このエピローグはつまりモリアーティがいかに手強いかということを強調するためがだけに付け足され、つまりアメリカの名探偵<モリアーティ<ホームズという、ホームズがいかに凄いかを強調するのが目的。なんかやらしいなーと思ってしまった。

    あとは二部が長すぎて、一部とのバランスが悪い印象。犯人の動機語りとしては長すぎるし、ヴィクトリア朝ロンドンとチンピラが跋扈するアメリカの鉱山地帯の落差が激しすぎたかも。

  • ドイル自身の正典、60話のシャーロック・ホームズ・シリーズのうち、4つしか書かれなかった長編。
    その長編の中で最後の作品となったのが、今作『恐怖の谷』です。

    今回は、(いや、今回も、だけど。)すごく、すごく面白かった。

    前半のホームズの推理が活躍する、第1部の最後のどんでん返しは、
    現代のミステリーをいろいろと読んでいると、ほんのり予想できなくもなかったかな。
    なんとなく、それに気づく仄めかしがあったおかげだと思うけど…。
    でも、現在多様されてる、「あのトリック」は、100年以上前から使われていたとは…

    そして、第2部。
    これには驚かされました。
    ある秘密結社をとりまく騒動が、まさかあんな結末でピリオドを打つことになるなんて…
    作者のドイル自身、読者を驚かせる自信があったみたいだけれど、
    完全に、いい意味での不意打ちを喰らいました…

    そして、この話に出てくる秘密結社と若き探偵に、実在のモデルがいたことにもびっくりです。

    この若き探偵エドワーズが、めちゃめちゃかっこいい。

  • 映画「ダークナイト」。その面白さがココにはあります。
    1917年にイギリスで書かれた小説に、これだけ面白いと思えるのは、読書の快楽そのものですね。

    シャーロック・ホームズ・シリーズは、僕が読んでいる光文社の新訳シリーズに則って言いますと。

    ①緋色の研究(長編)-1887
    ②四つの署名(長編)-1890
    ③シャーロック・ホームズの冒険(短編集)-1892
    ④シャーロック・ホームズの回想(短編集)-1894
    ⑤パスカヴィル家の犬(長編)-1902
    ⑥シャーロック・ホームズの生還(短編集)-1905
    ⑦恐怖の谷(長編)-1915
    ⑧シャーロック・ホームズ最後の挨拶(短編集)-1917
    ⑨シャーロック・ホームズの事件簿(短編集)-1927

    という計9冊の本になります。
    振り返ると、2013年の3月から、もう2年近くに渡って①~⑥まで愉しみました。
    そして、⑦を飛ばして⑧まで読んじゃって、この度、無事⑦を読みました。

    相変わらず、やはり面白い。
    というか、実は地味ながら「恐怖の谷」、かなり面白いのでは?
    ディクスン・カーという推理小説家さんは、高く評価しているそうですね。

    なんというか、実に無駄がない。
    事件と感情と謎。無駄な装飾が少ない、研ぎ澄まされた、ハードボイルドとまで言って良い気がしました。

    お話は、「緋色の研究」「四つの署名」の構成と似ています。
    前半は、いつものワトソン一人称で、現在形で事件が語られますが、動機の部分で謎が残ります。
    それが後半で、一気に昔話として怒涛に語られる。なので、後半、ホームズは出ないんです(笑)。

    イギリスの地方で起こった謎めいたおどろおどろしい殺人事件。
    (ところでこういう郊外な雰囲気のホームズものって、実に金田一耕助に影響を与えていると思いますね)
    密室殺人に見えた事件は、実は、死んだと思われた中年男は生きていた。その中年男を殺しに来た殺し屋が殺されたんですね。
    さて、どうして殺し屋が来たのか。それが後半。

    舞台はアメリカ。中年男が若かった頃…。
    とある峡谷の炭鉱町。そこは、地元の結社が組織暴力団化して、暴力と暗殺で街を支配しているんですね。
    その、田舎町の絶望的な「恐怖の谷」な感じの描写が実に生々しくて、力強い。
    そして、その恐怖の谷の暴力組織を、ある男が1人で瓦解させていく。
    その男は、その街で可憐な娘と恋愛もしてしまう。逃げ延びれるのか。
    その成り行きとスリル、どんでん返しも含めて実になんというか、ハッキリ輪郭が描けています。(これは、実話に基づいているのが理由らしいですね)

    …でも、最終的に恐怖の暴力の手は、やっぱり衰えないんですね。
    その世界観すら、実に21世紀の日本にも通じるものがあります。
    そういうダークな世界観があるから、面白い。歯ごたえがあります。
    なんだけど、それだけだと、後味が良くない。食べにくい。そこで、全体をホームズとワトソンという、ほんわかした安定した勧善懲悪感がパイ包みしているんですね。
    この作り、実に豊穣、実に愉しい読書でした。
    …と、つまり、これは映画「ダークナイト」の世界観なんだよなあ…って。
    ホームズ恐るべし。
    どれだけエンターテイメントな小説世界の根源を作り上げちゃってんだろう…。

    さあ、あと一冊。
    すぐ読むか…ゆっくり読むか…。愉しみです。

  • シャーロック・ホームズシリーズ最後の長編。
    他の長編もそうであるように二部構成で、第一部は暗号解読にはじまり、密室殺人事件の捜査といかにもミステリっぽい。
    第二部は舞台をアメリカに移して、殺人事件の原因となった犯罪組織が巣食う“恐怖の谷”の話。
    第二部の舞台がアメリカで第一部の事件のいきさつが語られる点では『緋色の研究』と同じだけれど、第一部のラストのどんでん返しに負けぬ意外な結末が、第二部にも用意されている。

  • 「犯罪王モリアーティ教授の組織にいる人物から届いた、暗号手紙。その謎をみごとに解いたホームズだが、問題の人物ダグラスはすでにバールストン館で殺されていた。奇怪な状況の殺人を捜査する謎解き部分(第一部)と、事件の背景となったアメリカの“恐怖の谷”におけるスリルとアクションに満ちた物語(第二部)の二部構成による、傑作長編。]

  • 2部構成。前半の第1部が、ざっくりいうと事件とその解決編。第2部が“背景前史”編。
    それぞれ100頁ほどで、ほぼ均等の分量でかっちり二部に分かれている。

    ミステリー、推理小説などで、こういう大胆な構成に初めて出会った。
    だがこの構成、効果的とは思えない。
    犯人が割れたあとにさらに前史を読み進める動機がしぼんでしまったのだ。

    以下、さらにネタバレ的な情報にふれます。
    **************

    第1部では、英国の田舎で起きた謎の殺人事件の顛末。猟銃で顔を吹き飛ばされた遺体。館の領主ダグラスが殺されたのか…。だが、犯人が犯行後館の外に脱出することは、濠を渡る跳ね橋が上がったあとで、タイミング的に不可能。遺体の顔の損傷が激しい、ということがポイントとなる。

    第2部では。この殺人事件の前史が語られる。物語の舞台はアメリカの鉱山町「ヴァ―ミッサ・ヴァレー」。反社会的勢力が街を支配。警察組織も骨抜きにして恐怖政治をしいている。これが「恐怖の谷」なのであった。
    作品の雰囲気、物語の手触りは、ハメットの「血の収穫」の街とよく似ている感じであった。「反社」がのさばっているのも同じだし。
    この街にふらりとやってきた男マクマードが語り手。マクマードはすぐに「反社」組織内で頭角を現し、幹部級にのしあがる。そしてこの「反社」(邪魔者とみるやすぐに殺してしまう苛烈な暴力組織である)をつぶそうと、鉱山資本家らがNYの腕っこき、ピンカートン事務所の探偵を送り込んでいる、という情報が入る。
    この潜入してきたピンカートン事務所の“刺客探偵”の正体が、大どんでん返し。
    この大どんでん返しには、ちとびっくりさせられた。この仕掛けで☆ひとつ増やしたほど。だが、ここまで読み進めるまではずっと第二部を退屈に感じた。
    第1部で事件を片付けて、2部で時代がさかのぼって前史を補足、というやりくち。犯人が割れていることもあり、2部を読み進めるモチベーションが下がってしまい、とても退屈に感じた。この構成いただけない。

    二部の仕掛け。思えば、潜入捜査ものである。香港映画の傑作「インファナル・アフェア」の走りといえなくもない。

  • 前半部分の事件と謎解きは面白かった。後半部分はそこまで面白くはなかったが、ホームズの長編はハズレなし

  • 「緋色の研究」「四つのの署名」と同じく、前半が事件とその解決、後半が事件の背景となる過去の出来事という構成。

    本文は河出書房の方が読みやすい。
    注釈は必要最低限で◎。

  • ラストのどんでん返しが見事だった最後の最後まで楽しめた
    まさかホームズが恐怖の谷に行かないってのも含めて予想を裏切ってきた。
    これはシリーズものなのかモリアーティは関係ありそうであまり話には絡んでこなかった

全42件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

アーサー・コナン・ドイル(1859—1930)
イギリスの作家、医師、政治活動家。
推理小説、歴史小説、SF小説など多数の著作がある。
「シャーロック・ホームズ」シリーズの著者として世界的人気を博し、今なお熱狂的ファンが後を絶たない。

「2023年 『コナン・ドイル① ボヘミアの醜聞』 で使われていた紹介文から引用しています。」

アーサー・コナン・ドイルの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
宮部みゆき
村上 春樹
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×