刑事の子 (光文社文庫 み 13-14 光文社文庫プレミアム)

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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334766276

感想・レビュー・書評

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  • 1990年初出の「東京下町殺人暮色」の改題・新装版。初読みだった。
    最近では宮部さんの現代ものは杉村三郎シリーズくらいしか
    読んでいないので、初期の現代ものは新鮮。
    ただ現代とは法律が変わっているので時代を感じる部分もある。

    タイトル通り、主人公は刑事の息子で中学生の八木沢順。刑事である父親はバラバラ殺人事件の捜査に携わり、息子の順の方は町内のある家で人殺しがあったという噂の調査に取り掛かる。
    勿論この二つはどこかでつながることになるのだろうと楽しみにしながら読み進めた。

    宮部さんの作品ではこのところ追いかけている時代物の三島屋シリーズでは恐ろしく理不尽な事件と、温かくのんびりした部分とが同居していて不思議な感覚になることがあるが、この作品ではその原点を見た感じ。
    こんな残酷なことがある一方で、別のところでは誰かのために一生懸命になったりほのぼのとしたり、のんびりしていたり。

    父子家庭の八木沢家が雇った家政婦・ハナさんと順とのやり取りはほのぼのしているが、ハナさんは長年様々な人たちを見てきたこともあって勘が鋭い。
    順と友人の慎吾との調査は少年探偵団っぽいところもあれば、うわさの家の家主で画家の篠田とのやり取りは温かい部分とシリアスな部分とがある。

    事件の方も短絡的直情的と思われる部分もあれば狡猾だったり計画的だったりというところがあって不思議な感覚に陥るのだが、その理由は真相が明かされてなるほどと分かる。

    もう一つ、この作品に重要なキーとなるエピソードがある。篠田の代表作『火炎』のテーマとなった東京大空襲だ。順にとっては歴史の教科書でしか知らない出来事だが、実際に体験した者が登場しその強烈な体験が半世紀以上経ったのちにも続いているということが伝わってきた。

    個人的にはもう少し掘り下げて欲しかった部分もあったが、やはり宮部さんの作品はテンポよく読める。

  • 宮部みゆきの文庫本は、エッセイとアンソロジーと絵本とボツコニアンシリーズを除けば、全て読んでいるという自負を持っていた。だから、読書サイトの著書一覧で検索しているときに、未だ読んだことのないこの題名を見つけた時には、悔しいというよりか不思議だった。ーーいつ見落としたんだろう?

    それで図書館で予約して読み始めたのであるが、表紙を開けた途端に了解した。『東京下町殺人暮色』を改題していたのである。94年に文庫本が出たときに、あの頃は速攻で買って読んでいるはずだ。読み始めて微かな記憶はあったが、大まかな所は流石に全て忘れていて、問題なかった。こんなことがないと、昔読んだ本の再読なんて滅多にしない。

    初出は90年、長編第3作目、著者最初の書き下ろし、舞台はバブル真っ盛りの89年末、著者のホームグラウンドの江東区だ。刑事は中年のいぶし銀を出していて、中学一年の息子は正義感が強くて純粋で賢い。初期の宮部みゆきの鉄板だ。最近は、宮部が描く高校生は純粋とは言えなくなることが多くなった。刑事は主役級では登場しない。きっかけは『模倣犯』だった。この作品と同じで、女性の連続殺人事件が起きて、テレビが追って世間を騒がす構造だった。しかし、本作で簡単に扱われている殺人者の描写を徹底的に描いたお陰で、宮部みゆき本人の精神もかなりやられたようだ。でも、犯人描写を避けてはもう現代サスペンスは描けない。著者が杉村三郎シリーズを始めた所以である。

    その最初のきっかけを作ったのが、この作品の冒頭、荒川河川敷の公園にバラバラ死体のビニール袋詰がたどり着いたことだったのである。

    著者の作品の中で東京大空襲がサブテーマとして扱われた最初でもある。と今になってわかる。いや、もしかしたらメインテーマだったかもしれない。

    80pに、順少年が、隅田川河口に建設中の高層マンションを「下町を見下ろす巨大な監視塔」と感じるところがある。(冗談抜きに、いつかは本当に監視塔みたいなものを作って、犯罪を防がなくちゃならない時代がくるかもしれないな)と呟く。それから30年後の今、ひとつの監視塔ではなく、無数の監視機によってその予想は実現しているけれども、犯罪は一向になくならない。宮部みゆきが人の心の闇を描き続ける所以でもあるだろう。

  • 久しぶりの宮部みゆき。
    1990年出版の作品を改題したとのことで、
    使われている言葉にやや古さを感じた。
    (アベックとか、トレンディとか)

    殺人事件自体はかなり猟奇的なのに、
    刑事の息子である主人公の中学生やその友人、
    家政婦のおばあちゃんなど、
    みんながほのぼのとしていて和やかな雰囲気。
    人と人との人情、あたたかみがこの作者の持ち味だったなぁ、と思い出される。
    が、めちゃくちゃ危ない状況でさえ、主人公たちの緊迫感薄めなのが少し違和感。
    それから、ていねいに描かれている良い人たちに対して、悪の方はちょっとおざなりな感じだったのが残念だった。

    唯一、東京大空襲の場面はその悲惨さに胸が苦しくなった。
    そして事件の結末も、そのことに絡んだ人とのつながりがキーワードとなっていた。

    あまりの読みやすさに一気読み。

  • "バラバラ殺人"と帯に書かれてたので、エグかったらどうしようかと思ったけど、そこまでの残虐な描写はなくてよかったです。

    犯人は誰だろうか?と考えながら読み、たぶんこの人が関わってるんだろうと思ってて当たってたんだけど、最後の最後であれ?あれ?となり、あっという間に解決。突然現れた人達がいて、そこはびっくり。事件解決はいいんだけど、モヤモヤは残る。悪い事をしてるのにイタズラだからいいだろう、未成年だから法律で守られるから何やってもいい、というのが出てきてすごく嫌な気持ちになりました。でも、癒しの場面もありました。主人公、八木沢順と家政婦のハナさんのやりとり、芸術家で高齢の篠田東吾と八木沢順の交流は心温かくほんわかしてて良かったです。篠田東吾が順ちゃんと呼ぶのは、歳の離れてる2人の友情を感じます。あと、気になるのは篠田東吾が描いた『火炎』。どんな絵なのだろう?中学生の順の心に響いた絵、観てみたいと思いました。

    宮部みゆきさんの作品はいっぱいあって、私はほんの一部しか読んでないけど、私の読んだことのある作品は、中学生ぐらいの男の子が主人公っていうのが多いかな。たまたま手に取ったのがそうなのか?中学生の男の子が主人公っていうことで、殺人事件とかだと内容が重くなると思うんだけど、サラッと読めました。

  • 久しぶりの宮部作品。塩梅の良いミステリに仕上がってる。ハナさんというスパイスが効いてるねぇ。名推理の家政婦ハナさんでシリーズが出来そうな存在感。

  • 宮部みゆきの社会派ミステリの傑作の1つ。

    時はバブル期、下町の再開発のまっただ中。平穏な町で、突如としてバラバラ遺体の一部が発見される。刑事の子である順は、自宅に届いた、犯人を名指しする手紙を見つけ、名指しされた犯人に接触する…。

    宮部みゆきの早期のものであり、現在の宮部みゆきの作品のように個人個人に関する情報がくどくはない。しかし、描かれる犯人像がその当時の時代背景に沿うようなもので、社会への問題提起をしている点は現在の作品と全く変わりがない。むしろとりあげている「少年法」という、現在でもホットなトピックの描き方が非常に共感できた。

    自分の仕事に引き付けて考えると、やはり「想像力」の欠如が犯罪の根幹にはあると改めて考えさせられた。彼らの「想像力」をどう育てていけばよいのか、というテーマが、再犯の防止に重要なファクターなのだと思う。現代の子ども、ひいては子どもを育てる親世代も、この作品を読み、「想像力」を醸成する端緒としてほしい、と感じた。

  • 刑事のお父さんカッコイイ。息子とも仲が良い!

    ミステリー初心者でも楽しめた!

  • タイトル通り『刑事の子』である中学生の少年とその友人が、殺人事件の調査に乗り出す、という物語で、父と息子それぞれの視点で事件の謎に迫ります。

    初期の作品ですが、先が気になる展開と魅力的な人物描写は、流石としか言えません。再読することで、その凄さを改めて実感しました。

    少年法や戦争への言及で、社会派的な側面もうかがえるところが、いかにも宮部さんらしいですね。
    想像力が欠如することの恐ろしさと、人を思いやることの大切さを、教えてくれる作品でした。

  • 2014年6月6日読了。
    読み終わるまでの時間と、面白さは比例すると思う。長さとか関係なく。
    宮部みゆきの文章は、どうしてこんなにも一言一句重みを持っているのか。
    八木沢順一は、中学生の割りに大人びていて、言葉遣いも古めかしい部分もある。だけれど、近くに祖母と同じ年齢の家政婦がいることで、違和感すら感じさせない。
    「想像力が欠如して、悪い事を悪いと思えない現代の若者」は、「平気で悪い事をする若者達より、自分の子供の命の方が尊い」と決めつける大人が作ったという。
    世間の描写も的確で、厳しい。
    なのに喧嘩上等の恐い老人は、優しい顔で笑うのだ。
    広くて深い、宮部みゆきの作品はやっぱり好き。

  • 最後まで一気に読んでしまう面白さはさすが。起こる事件は目を背けたくなるようなものだけれど、全体的に愛がある物語でした。

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著者プロフィール

1960年東京都生まれ。87年『我らが隣人の犯罪』で、「オール讀物推理小説新人賞」を受賞し、デビュー。92年『龍は眠る』で「日本推理作家協会賞」、『本所深川ふしぎ草紙』で「吉川英治文学新人賞」を受賞。93年『火車』で「山本周五郎賞」、99年『理由』で「直木賞」を受賞する。その他著書に、『おそろし』『あんじゅう』『泣き童子』『三鬼』『あやかし草紙』『黒武御神火御殿』「三島屋」シリーズ等がある。

宮部みゆきの作品

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