ロスト・ケア (光文社文庫 は 36-1)

著者 :
  • 光文社
4.02
  • (291)
  • (460)
  • (202)
  • (29)
  • (5)
本棚登録 : 3612
感想 : 371
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (387ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334768782

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 突然ですが、私には戦争の影響で長年車椅子生活の祖母が居ます。年に数回は顔を合わせるし、容態、介護の状況等は身内の連絡網にて常に把握している。孫と認識されなくなっても本人と会話は出来るしコミュニケーションを取ってきている。
    そして何よりも私は祖母が大好きだ。
    だが、それとこれとでは全く種類が違う「介護の事情」

    漠然と、きっとする側される側どちらも大変、どちらも辛い、どちらも苦しい。と思ってはいても、結局は分からない。どちらの当事者でもないんだもの。そんな考えを持つ自分に嫌悪感は持てど、やはり認識を根本的に見直す機会はありませんでした。

    しかしこの作品を手に取り介護の事情、この国の大きな穴、黄金律の存在、匙を投げるべきではない人々の善悪を目の当たりにして、読了感「無」とは流石になり切れません。まぁつまりはいつもの「答えは見えない」状態ではあるのですが...。

    社会派ミステリーの感想を書くのは苦手です。
    自分の中で沢山の革命が起きているのにそれを言葉に出来ずもどかしいのです。ボケをかます雰囲気でもないし...(小声)
    (´ρ`*)コホンコホン
    でも好きなんです、平凡ながらも幸せな日々を送る私の人生に見たくない存在として介入してくる社会問題。「お前は決してこの問題を遠い所から眺めれる立場ではないんだぞ」と寝惚けた私の顔面に水をかけてくれるキッカケ。

    今回は「介護問題」「幸せの定義」「人間の根本、黄金律」という濁流に物の見事に呑み込まれました。たくさんたくさん考えました。祖母のこと、父や母の事、未来の自分の子供の事(不確定要素)
    まぁ安定の答えは出ないマンなのですが、
    私に沢山考える事を提供してくれる、言葉にならずとも確かに心に影響を与えてくれる。
    そして、この経験をきっといい方向に導いてくれるであろう、未来の私を信じる事が出来る気がするのです。

    うふふ、毎日たくさんの素敵なレビューを読んでも私の表現は進歩ナシ。でも嫌いじゃないんです。熱!!熱量勝負!!...もう完全に脱線極まりないのだが、私はこの作品に出会えてとても満足です。

    『人にしてもらいたいと望むことは何でもあなたがたも人にしなさい』
    縛る側、縛られる側
    どちらに転じようともそれは生きる為、愛す為、人が人である為。

    私も人でいたいなぁ。

    • abba-rainbowさん
      私も猫丸さんに同感!!
      私も猫丸さんに同感!!
      2021/08/29
    • NORAxxさん
      猫さん、rainbowさん
      謝謝です〜( 人˘ω˘ )//
      猫さん、rainbowさん
      謝謝です〜( 人˘ω˘ )//
      2021/08/29
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      NORAさん
      ニャ〜
      NORAさん
      ニャ〜
      2021/08/29
  • 日本ミステリー文学賞新人賞受賞作。

    映画化で話題だったので遅ればせながら読みました。


    <彼>という名の犯人は「ロストケア」という名の殺人を寝たきりの老人42人を合鍵で自宅に侵入し、盗聴器を仕掛け、家族のいない時間に侵入しその後注射器で毒を注入して殺していきました。

    例えば、被害者の家族の一人である羽田洋子は71歳になる認知症の母を殺されていますが、母の徘徊や失禁などの介護に疲れ果てており、バツイチで一人息子を育てている傍らへの介護でほっとしている自分がいました。

    <彼>のやっていることは「ロストケア」なのでしょうか…?
    老人介護の問題、これから誰しもが考えなければならない切実な問題だと思います。
    自分の親に介護が必要になったら…?
    そして、自分に介護が必要になったら…?

    この本によると安心して入れる高級老人ホームに入るには、お金が二千万から三千万はかかるとありました。
    数年後には日本は現役世代一人が、高齢者一人を支える「肩車社会」に突入するという予測も発表されているそうです。

    この作品に出てくる検事の大友秀樹は<彼>に向かって叫びます。
    「お前はかつて『この世には罪悪感に蓋をしてでも、人を殺すべきときがある』と言った。だがお前が本当に望んでいるのは、人の死を、まして家族の死を願うことのないような世の中だ!命を諦めなくてもいい世界。お前とお前の父親が落ちたという穴が空いていない世界だ!違うか!?」
    哀しき殺人者<彼>。



    果たしてこの物語はフィクションだからよかったと今言っていられる状況なのでしょうか?

    • 土瓶さん
      まことさん、こんばんは~^^

      原作は読んでません。映画で鑑賞しました。
      原作の検事は男性なんですね。映画では長澤まさみさんでした。
      ...
      まことさん、こんばんは~^^

      原作は読んでません。映画で鑑賞しました。
      原作の検事は男性なんですね。映画では長澤まさみさんでした。
      う~ん。筋を思い返すとたしかに女性でも男性でも問題はなさそうですが、ならばなぜ逆に、映画では女性に変更したのだろうか、と思ってしまいます。
      2023/05/10
    • まことさん
      土瓶さん、こんばんは♪

      今、土瓶さんの映画のレビュー、再拝読してきましたが、わからないです。
      女性がいた方が華があるから、とかそんな、簡単...
      土瓶さん、こんばんは♪

      今、土瓶さんの映画のレビュー、再拝読してきましたが、わからないです。
      女性がいた方が華があるから、とかそんな、簡単な理由ではないでしょうか?
      映画館に客あしをのばすためとか?
      男女が主人公の方が話題になりそうだし。
      2023/05/10
  • ーーー正しい者は一人もいないーーー
    この言葉に尽きると思います。
    年老いた両親を施設に入居させるのか、自分で世話をするのか。
    年老いた自分は施設に入るのか、子どもに面倒を見てもらうのか。
    悩むこと自体が恵まれているということなのだと思います。施設に入る余裕のない者は選択肢を持たないのです。
    そして、法とは何だろう?罪とは何だろう?と強く問いかけてくる作品でした。いくら考えても私には答えは見つかりません。
    でも、一つはっきりしているのは、人はその立場になってみなければ全く何も分からないということでしょうか。相手の立場になって想像してみることはとても大切だけれど、想像を絶することがあるということを本書は教えてくれます。
    正論だけではどうにもならないけれど、でも法で裁かなければならないという確かな現実もある。
    法とは?罪とは?正しいとは?
    考えさせられました。

  • 「そうです。殺すことで彼らと彼らの家族を救いました。僕がやっていたことは介護です。喪失の介護、『ロスト・ケア』です」

    寝たきりの介護老人を40人以上殺した犯人。でも、これは介護だと…
    殺すことで、介護か…
    でも、実際に介護していた家族は、精神的、経済的に追い込まれて苦しんでる。
    それ考えるとなぁ。
    検事さんらも、色々言ってても、お金あって、親は、ええ施設に入れて苦労してないし…
    多分、自分達家族が中心になって、介護して追い込まれている人の気持ちは分からんのやろうな…

    人殺しを肯定するつもりは、全くないけど、そういう状況に陥ってる事を理解した上で、制度を整備して欲しい。
    今も、介護業界って、安い給料で働いて、介護従事者の介護に対する想いのみで、進んでいるように見える。

    確かに、少子化対策も必要やけど、こっちの対策も早急に!
    それも異次元で!
    ちなみに、国のトップが思ってる異次元やないですよ!よく分からんから。
    凄く多めの予算取って、介護従事者の給料上げる。介護者の負担を下げるなどの策を具体的に!
    異次元だけで、何してるか分からんようなのは、ナシ!

  • 作者の初読み。
    映画化宣伝の欄にあったので、購入してみたところ、、総論めっちゃ面白かったです。
    ほんとは絶叫を購入しようとしていたのですが、見つけられずd( ̄  ̄)

    介護を中心として、今の日本の政治や制度問題なども絡みながらの構成。

    介護施設、老人ホーム、介護のトップの会社、警察、検察、裁判官、家族を介護している者、それぞれの目線で語られていく構成。日にち毎に語られていくので話の流れを掴みやすい。

    が、前半は介護のリアルの描写が連なっており、読む事自体が辛かった。(T . T)

    後半はハラハラするミステリー感と、
    えー!?えー!?と、1人で声出してしまったページがあります、、ビックリ。

    この作者さん、なんか気になるな、
    他も読もうーと。
    映画化どのようにするんだろう……
    松山ケンイチ、長澤まさみ、
    長澤まさみ、誰役!?!?_φ(・_・



  • 色々なことを考えさせられる本でした。
    まずは介護について。
    なんとなく目を背けていた事実を鮮明に見せつけられたような感覚がありました。
    作中にでてくるように、自分の両親に自分自身を忘れられたことを想像すると本当に苦しくなります。
    いずれ来たる可能性のある未来である以上、そういった状況を想定した人生を今後は送るべきだと強く思いました。
    リアリティのある描写は目を背けたくなる程でした。
    次に殺人事件について。
    望んでいる人を殺めることは悪いことなのか。
    人助けになる殺人は悪いことなのか。
    深く深く考えさせられる内容でした。
    犯人と検事が口論する場面では、犯人側の話が明らかに正しいように聞こえました。
    性善説と黄金律と殺人が共存している事実が、非常に綺麗に成立していて、この導き方には脱帽です。
    映画化が近いとのことですが、このストーリーがそのまま表現されていることを願うばかりです。

  •  葉真中顕さん、初読みでした。著者は『葉真中顕』として推理・ミステリー、『はまなかあき』として児童文学、更にはライターとして等、マルチに著作活動をされています。

     デビュー作とは思えないほど完成度が高く、格調の高さを感じさせる作品だと思いました。
     社会派ミステリーなどという範疇を軽々と超えて楽しめます。またそれ以上に、いつか自分もその社会問題の当事者になるであろう事実を突き付けられ、重く強く心を揺さぶられる内容でした。
     人物の特徴や性格の書き分けもよく、ミステリーとしての構成や手法も優れていると感じます。

     「殺人」か「救い」か。「悔い改めろ」か「自分がして欲しいことを他人にしなさい」か。少子高齢化社会が進み、綺麗事では済まない介護に関する問題と蓄積する歪みが、読み手に選択を迫ります。
     簡単な話ではないと頭でわかっているものの、作中でまざまざと「理想と現実」「事件の重さと犯人の態度の軽さ」を対比し示されると、法の下での罪や正義とは何か、と追い詰められていきそうです。

     3.24に映画が公開予定とのことですが、映画ではこの「喪失の介護」がどう描かれるのでしょうか。
     いずれにせよ、多くの方にこの原作を読んでいただきたい、という思いを強くした読書体験でした。

  • ただ辛いっ 介護現場の現実と罪への尊厳があなたの胸をえぐる、強烈な社会派ミステリー #ロスト・ケア

    介護の現実と自身の生活で悲鳴を上げている社会で発生した、要介護者への連続殺人事件。正義感が強い検察官が、自身の信条のもとに罪を突き付けるが…

    安っぽい正義感や、綺麗ごとではすまされない、我が国日本においては既に訪れている大きな社会問題。誰しもが逃げることはできない現実です。介護現場の現実、企業の闇、生活レベルの低い人たちの叫びと本音がひしひしと伝わってきます。

    犯人の取った行動は決して許されるものではありませんが、気持ちは汲みとれるのが心情でしょうか。これを読んで、我々はいま何をすべきか、考えされられる作品でした。

    なお本作は小説の作りや文章が上手で、無理なく読み進められる良作です。また登場人物の人間性も目に浮かぶようで、描写がすばらしい。ミステリー要素もしっかり存在していてGOODでした。

    現代人であれば、社会勉強と自身の将来のために読んでおくべき作品。おすすめです。

  • 社会派ミステリはあまり読む事がなくて、太田愛さんの作品以来。こちらは介護をテーマにしていて、自分自身の親もそういう年齢に差し掛かっているので現実を突きつけられるかのようで怖かった。

    作品は犯人は「彼」と表現され、検事、介護施設大手フォレストの社員、被害者家族の視点でストーリーが進んでいく。犯人の目的は予想がついてはいたが、タイトルになっている「ロスト・ケア」を行う為に犯行を繰り返していてサイコでも残虐な殺人鬼でもない犯人像は他の作品とは違う。

    佐久間はフォレストを退職する時に得た介護利用者名簿を使って詐欺を始めた。名簿自体を横流して金を得ていたがそこに施設情報や職員の勤怠情報まで一緒に渡してるのは結構違和感があった。足がつかないように最小限な情報しか普通は渡さないのでは?

    検事の大友の補佐をしている椎名が数学や統計学に強いという設定は出来過ぎ。終盤にある事件の現場に残されていた佐久間のデータを分析して色んな可能性が分かるのだが、水を得た魚のようにストーリーが進んで犯人に辿り着いた。犯人が実は?…ってのもそこでヒネリいるかな?笑。

    序盤からたくさん伏線を敷いてストーリーをまとめているが、テーマがリアルだけに出来過ぎな設定でリアル感が薄れてしまっていると思った。でも、ドラマや映画だとそれも盛り上がる演出としてちょうど良さそう笑。

    本の帯に映画の松山ケンイチと長澤まさみが載っていたのでかなり意識して読んでいました。松山ケンイチが犯人とバレバレだと思うので小説とは違うストーリー展開?映画も観てみたいと思いました。

  • 一時期たくさん載っていたレビューを見て「読みたい」に入れていたが、今頃読むことになった。
    介護に追い詰められていく人々を描いて、介護保険制度の問題点や介護の現場の過酷さに応えることが出来ない社会システムに対する課題を提起するとともに、「なぜ人を殺してはいけないのか」という根源的な問いかけを発する。
    お話は読みやすくサクサクと読み進めることが出来るが、親の面倒を中途半端に見ている身の上からすると羽田洋子のような気持ちに全くならないかというと自信はなく、重いテーマに色々思い浮かぶことを文章にすることが難しい。
    その内に面倒を見られる側になるという将来を考えると、『安全地帯の高級老人ホームで至れり尽くせりの生活をする老人』にははなからなれないので、せめて『重すぎる介護の負担で家族を押しつぶす老人』にはなりたくないと願う。

全371件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

葉真中顕

1976年東京都生まれ。2013年『ロスト・ケア』で第16回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞しデビュー。2019年『凍てつく太陽』で第21回大藪春彦賞、第72回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)を受賞。

「2022年 『ロング・アフタヌーン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

葉真中顕の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×