- Amazon.co.jp ・本 (295ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334783051
感想・レビュー・書評
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俳優・加東大介の従軍記。加東(加藤徳之助・市川莚司)は、1933年の現役時に千葉陸軍病院で伍長勤務上等兵、1943年の応召時には衛生伍長として東京第二陸軍病院から西部ニューギニア・マノクワリに上陸、野戦病院スタッフとして働くことになっていた。マノクワリ上陸は1943年12月8日だったという。
しかし、加東の戦争体験が他の兵士たちと違っているのは、米軍の飛び石作戦によって前線に置き去りにされてしまったマノクワリで、上官命令で演芸分隊の「班長」として文字通り東奔西走したことだ。軍隊に入る前は会社経営者だったという苦労人の経理部長と、東大出の演劇評論家だったという輸送隊の大尉の肝煎りで、部隊の中から演芸経験者をセレクト、美術や衣裳、カツラの担当者までピックアップして、「マノクワリ歌舞伎座」という常設劇場を立ち上げていく。日中戦争では阿南惟幾の側近だったという軍司令官も、加東らの演芸分隊に肩入れし、「目標のない日常」に彩りを与える重要な任務だと評価した。
餓死が日常だったニューギニアの地で、兵士たちは「日本」と「故郷」を求め、眼の色を変えて劇場に通った、と加東は書いている。『瞼の母』『父帰る』『浅草の灯』『暖流』『転落の詩集』など、演目もぞくぞくと増えていった。本書のタイトルともなったエピソードは、東北出身の部隊の兵たちが、長谷川伸の『関の弥太ッぺ』の舞台に拡がる雪景色を見て、300人がジッと静かに泣いていた、というものだ。加東は、演劇人としてマノクワリ時代ほど、自分が求められていると感じたことはなかった、と述懐する。ここには、人間にとってなぜフィクションが必要なのか、という根源的な問いに対するひとつの答えが示されていると思う。
面白いのは、復員後に加東が本格的に映画界に進出するきっかけとなったのが、ニューギニア時代の戦友たちから「映画なら、どこにいても会えるからね」と言われたことだった。加東は小津の『秋刀魚の味』で、「敗けてよかった」としみじみ語る元海軍兵曹を演じていたけれど、その時かれの心中には、どんな思いが去来していたのだろうか。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
とにかく読んで欲しい。
この事実は、老若男女問わず忘れてはいけない。 -
舞台「南の島に雪が降る」を観に行き、原作を読んでみたくなって買いました。
舞台もとても素晴らしかったのだけど、原作も本当に素晴らしかった。
色んな人の想いがあって、そこで生きて、死んで、それでも尚「芝居をした」ということに涙が出ました。
こんなすてきなことって、あるんだなぁ…。
原作を読んだ上で、また舞台が観たくなりました。
再演してくれないかなぁ(笑 -
買え!読め!そして、泣け。
知る限りもっとも素晴らしい“反戦”戦記。 -
最初はあまり期待せずに読み始めたのだが、あまりの面白さにわずか2日で読破。
著者がニューギニアはマノクワリに行くまでの経緯に始まり、数々の戦友且つ演芸員との出会い、そして演芸分隊発足からマノクワリ歌舞伎座誕生、興行そして終戦へ、というマノクワリでの演芸がメインなのだが、さり気なく戦争下の極限状態もさらっと書いている。そのさらっと加減が、実際には相当な悲惨さを伴うはずであるのに、そう感じない。その分妙なリアリティがある。
個人的には女形が異様な人気を得ていくところが非常にコミカルで(不謹慎かも知れないが)面白かった。
また、この本では生粋の粋に触れることもできる。 -
舞台は昭和18(1943)年~昭和20(1945)年、大東亜戦争の時期です。
著者の加東さんは、陸軍衛生兵として、ニューギニア戦線に赴き、当時有名な歌舞伎役者だった特性を活かし、兵隊を慰めるために、現地で個性派ぞろいの劇団を作ります。
ある日、雪の降る芝居を演じることになり、紙を細かく切った雪を降らして、芝居を続けていると、客席からすすり泣きをする声が聞こえてくる・・・
遠く離れた故郷の面影を目の前に降っている紙の雪に照らし合わせて泣いているのです。
この場面が、私にとって一番心に残る場面です。
小林よしのりさんの『戦争論』で、この本のタイトルの付いた章があります。
それを読むとイメージがつかめやすいと思います。
で、著者の加東大介さんは、俳優の津川雅彦さん、長門裕之さん兄弟の親戚で、本の中にもお二方と触れ合っているシーンが書かれていますよ。
ちなみに、私が持っているのは、ちくま文庫版です。 -
SMAPの草薙くんの舞台「瞼の母」の記事を読んで、
真っ先に思いだした本。
「瞼の母」を観て、
亡くなっていった人たちがいるって、
たくさんの人に知ってもらいたい。
ユーモラスな語り口調で、笑いもあって、
背景にある戦争との明暗のコントラストが際立つ。
加東さんが主演した同名の映画も観たけど、
小説の方が「暗」である戦争の部分が
より分かりやすかった。
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南国の戦地で観る者と自らに笑顔と希望を与えた劇団の話。
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この本を戦争文学の枠の中に閉じこめるなかれ。立派な「芸談」の本だ。