リリース

著者 :
  • 光文社
3.59
  • (6)
  • (18)
  • (17)
  • (2)
  • (1)
本棚登録 : 183
感想 : 17
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (316ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334911287

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 完全なる男女同権が成立し同性愛者への偏見も無くなった架空の国・オーセル。異性愛者、旧い価値観の男らしい男や女らしい女はマイノリティとなり逆差別を受けている社会で生きる、ビィとエンダという2人が主人公の作品。

    ビィは己の身体と心の性の不一致に悩み、エンダは異性愛者という自分のセクシュアリティが社会で受け入れられないことに悩む。ベクトルは異なれど自身の性的アイデンティティに悩む2人が交互に主人公となり物語を紡いでいく。1章と3章はビィが、2章と4章ではエンダが語り部となり、最終章である5章では2人の視点が目まぐるしく交差していく。溶け合っていく。この構成が見事に美しい。

    シチュエーションの設定も上手い。最終章クライマックスの舞台は冒頭で3年前に出てきたバンクのバルコニー、全てが始まった場所で全ての終わりを迎えるというクライマックスへの流れがあまりにも必然で何の違和感もない。あまりにも見事な構成。

    エンダとボナのライバル関係もすごく良い。ジョジョ第一部のジョナサンとディオ、あるいはシグルイの藤木と伊良子のような、憎しみ合いながらも自己と同一視する様なリスペクトが互いにある関係。非常に美しい関係性だと思う。

  • 同性婚が合法化され、男女差別を徹底的になくそうとした近未来、異性愛を自認する若者たちの反乱を通して、男女のあり方を問う作品。

    同性婚の普及にともない国営の精子バンクが登場すると、男女差別につながる男らしさ、女らしさまでが排除されていく。やがて、同性愛者が自由と権利を手に入れた一方で、異性に興味をもつことは野蛮とされ、異性愛者が忌み嫌われる社会となる。
    つまり、マイノリティを守るための圧倒的な正義のパワーによって、その裏では新たなマイノリティが生まれたというわけだ。この辺りの違和感や不気味さがうまく描かれている。

    今の日本でも、男性優位の社会とそこに起因するセクハラ、LGBTなど、性にまつわる様々な差別が表面化して、ようやく問題視されるようになってきた。とともに、性的な色合いがタブー視される近未来を描くディストピア小説も、少なくない。
    が、本作はそんな異様な設定だけに頼るのではなく、性に向き合う若者の内面を複数の視点から掘り下げ、ミスリードなどで驚かせる工夫も加え、読み手を力強く引っ張っていく。

    別の作品で三島由紀夫賞受賞と聞き、初めて手に取ってみた作家だが、本作品も候補作に挙がっていたばかりでなく、織田作之助賞を受賞しているたそうで。単行本はまだ少ないが、ほかの作品も読みたくなった。

  • 同作者は2作目。相変わらず読みやすい文章。テーマは今時のマイノリティ問題かと思わせておいて、舞台装置以上のものではないと感じた。より深いテーマはビイではなくエンダの側、身体性のほうにあるように思う。彼が何をしたかったのかについては明確に語られていないが、何を犯したかったのかはわかる気がする。
    技術としては、それまで1章ずつ視点を分けて描かれていた地の分が、終章で行空けすらなく繋げられていくのが面白い。映像的にはカットなしのカメラワークだけでまったく違う地点が映し出される感じだろうか。

    読み終えてから振り返ってみると、表紙はスパーム……と思わせておいて、牛の模様や乳のほうが似ている。マイノリティとマジョリティの範囲の奪い合いとも取れるし、右上の薄い部分の存在も意味深。いい装丁画だった。

  • 図書館で借りた本。
    同性愛が大多数となり、異性愛者がマイノリティになった世界の話。どんな世界になったとしても、少数派の人は生きにくいという事なのかな。普通ばかりの自分は、生きやすかったのだと、今更気が付いた。最後の方は、話がよくわからなかった。展開が早すぎて、ついて行けなかったの。誰が語っているのか、ついていけずに、結局どうなったのかもわからないままに終わってしまった。

  • うまいです!
    このままじゃ日本も近未来、ほんとにこんな事になりそうで怖い。
    とゾクゾクさせてくれる話でした。

  • 驚いた。完全にノーマークだった。こちらの不勉強でしかないが、予想外のところから大きな作品が登場した。

     新潮社主催の日本ファンタジーノベル大賞は、2013年を最後に休止した。その最後の受賞者が、この作品を書いた古谷田奈月だった。同賞は、過去に森見登美彦や畠中恵を輩出している。決して軽んじていたわけではない。しかし、正直、ヒット率は高くない。毎年受賞作に注目していたかと問われれば、謝るほかない。
     さて、古谷田奈月の単行本としては3冊目、初めて新潮社以外の出版社から刊行した作品がこの『リリース』である。同性愛者がマジョリティになった世界を、近未来小説仕立てで描く。国営の精子バンクを媒介とした人工授精が生殖を保障し、人々の生き方は爆発的に多様化。生殖目的の男女交際が不要になった世界では、究極のジェンダーフリーが実現する。「男らしさ」「女らしさ」は前時代的な価値として敬遠され、性からの解放が謳歌される。次第に、性的であることが忌避されるようになり、「セックスフリー」時代に至る。
     先進的な価値観は都市から広がる。農村部に残る「古い価値観」、例えば「根っからの女好き」は、抑圧の対象となる。牧場で育った青年の、日に焼けた筋肉だらけの体つきが「ポルノモデルかセクシストの残党だ」と非難される件は示唆的だ。PC=ポリティカル・コレクトネスをめぐる摩擦や齟齬、それこそトランプを大統領にまで押し上げるアメリカ中間層の不満や、日本のネット社会に広がる「反リベラル」言説の攻撃性を連想させながら、物語は精子バンクの組織や運営に絡んだサスペンスとして進む。
    多くの論点を提起しながら、決して結論を急がずに、複数の視点をバランスよく配置した構成で、読者の思考を試す作品だ。唸りながら読んでほしい。
     ちなみに、日本ファンタジーノベル大賞は、2017年に復活することが決まった。選考委員は、恩田陸、萩尾望都、森見登美彦だという。今度こそ、注目しよう。

  • 消滅世界を更に数歩進めた感。トランスジェンダーを介して人間の本質を抉ろうとする意欲作。

  • 同性愛が健全で正常で、異性愛は前時代的で野蛮で異常で恥ずべきものと見なされる世界。女が世の中心となり、男性は息を潜め己を殺して生きる。とても面白く読み進められ、色々と感じ考えさせられたが、この苦しみに対する答えは出ないまま物語は終わる。読後モヤモヤするのは読解力不足か。

  • こりゃすごい。

  • 登場人物がカタカナものは苦手なため、
    初め全然読み進まず、積読になるかな...と思いきや

    最後まで突っ走ってあっという間に読み切ってしまいました。

    こういう世界、近い将来ありそうな感じですね。

全17件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1981年、千葉県我孫子市生まれ。2013年、「今年の贈り物」で第25回ファンタジーノベル大賞を受賞、『星の民のクリスマス』と改題して刊行。2017年、『リリース』で第30回三島由紀夫賞候補、第34回織田作之助賞受賞。2018年、「無限の玄」で第31回三島由紀夫賞受賞。「風下の朱」で第159回芥川龍之介賞候補。2019年、『神前酔狂宴』で第41回野間文芸新人賞受賞。その他の作品に『ジュンのための6つの小曲』、『望むのは』など。2022年8月、3年ぶりの新作長編『フィールダー』が刊行予定。

「2022年 『無限の玄/風下の朱』 で使われていた紹介文から引用しています。」

古谷田奈月の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×