- Amazon.co.jp ・本 (316ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334911287
感想・レビュー・書評
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同性婚が合法化され、男女差別を徹底的になくそうとした近未来、異性愛を自認する若者たちの反乱を通して、男女のあり方を問う作品。
同性婚の普及にともない国営の精子バンクが登場すると、男女差別につながる男らしさ、女らしさまでが排除されていく。やがて、同性愛者が自由と権利を手に入れた一方で、異性に興味をもつことは野蛮とされ、異性愛者が忌み嫌われる社会となる。
つまり、マイノリティを守るための圧倒的な正義のパワーによって、その裏では新たなマイノリティが生まれたというわけだ。この辺りの違和感や不気味さがうまく描かれている。
今の日本でも、男性優位の社会とそこに起因するセクハラ、LGBTなど、性にまつわる様々な差別が表面化して、ようやく問題視されるようになってきた。とともに、性的な色合いがタブー視される近未来を描くディストピア小説も、少なくない。
が、本作はそんな異様な設定だけに頼るのではなく、性に向き合う若者の内面を複数の視点から掘り下げ、ミスリードなどで驚かせる工夫も加え、読み手を力強く引っ張っていく。
別の作品で三島由紀夫賞受賞と聞き、初めて手に取ってみた作家だが、本作品も候補作に挙がっていたばかりでなく、織田作之助賞を受賞しているたそうで。単行本はまだ少ないが、ほかの作品も読みたくなった。 -
うまいです!
このままじゃ日本も近未来、ほんとにこんな事になりそうで怖い。
とゾクゾクさせてくれる話でした。 -
驚いた。完全にノーマークだった。こちらの不勉強でしかないが、予想外のところから大きな作品が登場した。
新潮社主催の日本ファンタジーノベル大賞は、2013年を最後に休止した。その最後の受賞者が、この作品を書いた古谷田奈月だった。同賞は、過去に森見登美彦や畠中恵を輩出している。決して軽んじていたわけではない。しかし、正直、ヒット率は高くない。毎年受賞作に注目していたかと問われれば、謝るほかない。
さて、古谷田奈月の単行本としては3冊目、初めて新潮社以外の出版社から刊行した作品がこの『リリース』である。同性愛者がマジョリティになった世界を、近未来小説仕立てで描く。国営の精子バンクを媒介とした人工授精が生殖を保障し、人々の生き方は爆発的に多様化。生殖目的の男女交際が不要になった世界では、究極のジェンダーフリーが実現する。「男らしさ」「女らしさ」は前時代的な価値として敬遠され、性からの解放が謳歌される。次第に、性的であることが忌避されるようになり、「セックスフリー」時代に至る。
先進的な価値観は都市から広がる。農村部に残る「古い価値観」、例えば「根っからの女好き」は、抑圧の対象となる。牧場で育った青年の、日に焼けた筋肉だらけの体つきが「ポルノモデルかセクシストの残党だ」と非難される件は示唆的だ。PC=ポリティカル・コレクトネスをめぐる摩擦や齟齬、それこそトランプを大統領にまで押し上げるアメリカ中間層の不満や、日本のネット社会に広がる「反リベラル」言説の攻撃性を連想させながら、物語は精子バンクの組織や運営に絡んだサスペンスとして進む。
多くの論点を提起しながら、決して結論を急がずに、複数の視点をバランスよく配置した構成で、読者の思考を試す作品だ。唸りながら読んでほしい。
ちなみに、日本ファンタジーノベル大賞は、2017年に復活することが決まった。選考委員は、恩田陸、萩尾望都、森見登美彦だという。今度こそ、注目しよう。 -
消滅世界を更に数歩進めた感。トランスジェンダーを介して人間の本質を抉ろうとする意欲作。
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同性愛が健全で正常で、異性愛は前時代的で野蛮で異常で恥ずべきものと見なされる世界。女が世の中心となり、男性は息を潜め己を殺して生きる。とても面白く読み進められ、色々と感じ考えさせられたが、この苦しみに対する答えは出ないまま物語は終わる。読後モヤモヤするのは読解力不足か。
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こりゃすごい。
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登場人物がカタカナものは苦手なため、
初め全然読み進まず、積読になるかな...と思いきや
最後まで突っ走ってあっという間に読み切ってしまいました。
こういう世界、近い将来ありそうな感じですね。