15名の作家の2013年~15年に発表された作品の短編集。別の本にはもう15名が収められているらしい。日本推理作家協会が時代を代表する作家を選出、作家から自薦作品2つを提出してもらい、そのうち一作品を選んで収めた。
・青崎有吾「もう一色選べる丼」
神奈川県立楓ヶ丘高校シリーズの短編。袴田柚乃・裏染天馬のシリーズ。
高校の食堂の外にどんぶりを残したまま立ち去った生徒を探す話。なぜ彼は2色丼のうち、ソースカツだけを残したのか。
勿論殺人事件は無いし、お昼休みの間だけの出来事なんだけれども 、少し田舎?の夏の高校の様子が書かれていて、すごく爽やか。天馬も友達がいる様子だったのもいいなぁと思う。小説のキャラクターながらほっとした。
・有栖川有栖「線路の国のアリス」読んだことあるな。ミステリーじゃないなと思いながらにやにやしながら読んだな。前読んだ時もマニアックすぎるなあと思ってたと思う。あらすじは確実に不思議の国のアリス、鏡の国のアリスをなぞっているんだけれども、大抵が電車?駅?の名前に絡めているところが面白い。たぶん作者も楽しんで書いていたんだろう。
・ 石持浅海「九尾の狐」こちらもミステリーというよりかはファンタジーの方が強いお話。 職場の女性の先輩は髪の毛が自由自在に動かせる。まさに妖怪九尾の狐のようだ。ミステリー風味なのは、その先輩の髪の毛が動く時は、どういう法則なのかを推理していること。あと、どうしてその力を隠そうとしていないのかというところを主人公が考えているところだ。ミステリーとしてはほんわかミステリーに入るかなと思う。
・乾ルカ「黒い目の内」高校生の頃から付き合っていた二人。彼女には特徴があって、彼女の目の奥を覗いてみると、年をとった男性がずっと見える。彼女がよく鏡を見ていたのは瞳の奥の男性を見ているのだった。結局それは、結婚し、年老いて、彼女が亡くなる直前に見た主人公の男性の顔だった。
途中から話は分かってきたけれど、まろやかでロマンチックな短編であった。
・長岡弘樹「夏の終わりの時間割」長岡弘樹は本当に短編を書くのが上手いなあ。 短い作品の中で、無駄なく登場人物の気持ちも丁寧に描いているし、ちょっと変わった視点の作品もあるけど、そのシチュエーションも分かりやすく書くし、今回のようにラスト数行でどんでん返しを作ることもできる。こんなに短い作品で「あーそういえば伏線があったなあ」と唸らせることのできる作家。
あらすじ:小学生の僕には18歳の祥ちゃんという十八歳の友達がいる。幼い頃、蜂に刺された影響で精神年齢が上がらないらしい。住んでいるところでは、放火事件が続いている。祥ちゃんは刑事に尾行されている。数日後、祥ちゃんは真剣な顔をして、夏休みのスケジュールを立て始めた。実は祥ちゃんは疑われることが嫌なので、自ら蜂の巣の所に行ってアナフィラキシーショックを起こし、死のうとしていたのだった。危ないところを助けだされた。実は放火犯は主人公の僕。蜂の巣は空き家にできるから、空き家に放火して友達が蜂に刺されるのを防ごうとしていた。
・東野圭吾「ルーキー登場」この短編が収められているのは「マスカレードシリーズ」。ということは、主人公の若い頃のエピソード?若さゆえに頭の回転を早いけれども、最後の最後で犯人の女性にしてやられる。ここまで推理出来てるんだったら、最後まで女性を追い詰められるだろうと思うけど、それが若さゆえの未熟?悔しがる様子もスマート。
あらすじ:料理教室経営の女性の夫が殺害される。彼はランニングをするのが習慣であったが、途中で殺害されたらしい。犯人として挙がったのは、料理教室の生徒。彼は女性が可哀想だから殺害したということであった。しかし実は女性は不倫をし、それがばれたため離婚されそうになっていたということがわかる。
・若竹七海「副島さんは言っている10月」 読んだことのある作品。女探偵葉村晶シリーズ。なんかしら後味悪いよなあこのシリーズと思う。今回は、葉村は怪我していないし、痛い目に遭っていない。けれども、台風が近づいている、雨のジトジトした感じや環境が、イライラした雰囲気を出す。さらに最後の数行で新たな白骨死体も出てきて、やっぱし不穏なラストであった。
あらすじ: 葉村晶が書店でアルバイト中、電話がかかってくる。かつての探偵仲間からで、ある女性の事を調べて欲しいという依頼。しかし、その女性は殺害されたとのニュースが流れた。彼女は、古い家に住みながらリノベーションをし、それを売るという職業の人だった。元仕事仲間は、彼女がリノベ中の一階でバーを営んでいた。彼女騒音問題で、そこの住人とトラブルになっていた。 トラブル住民は、仕事仲間が入院中の病院に押しかけてきて、色んな不運が重なり、立てこもり事件にまで発展したのだった。犯人の男はおそらく本当に殺害した。別の事故の後遺症で記憶が飛んでいるため。葉村は機転を利かせ、別の真犯人がいると言いながら警察に事件を納めさせる。