恋の蛍 山崎富栄と太宰治

著者 :
  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (363ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334926854

作品紹介・あらすじ

「死ぬ気で恋愛してみないか」「先生を、愛してしまいました」昭和23年、太宰と入水した山崎富栄の知られざる生涯。幸福な少女期、戦争の悲劇、太宰との恋、情死の謎とスキャンダルを徹底した取材から描く「愛」の評伝小説。

感想・レビュー・書評

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  • そういえば、某知り合いの理美容の人(オジサン)が、
    「太宰治は悪いやっちゃでぇ」と言ってたのは、こういうことだったのか。
    (多分、そのオジサンのお母さんは、富栄さんのお父さんが設立した学校の卒業生なのかも。昔のこと言っても、まだその程度の出来事だし。)
    心中に巻き込まれた相手のこと、不勉強で、私は知りませんでした。

    恋愛って恐ろしい。
    特にいい加減で不幸の腐臭がする男ほど、恐ろしい。
    そして、まさか娘を心中で亡くした上に、また変な風評に親が苦しめられるなんて、
    なんちゅー酷さだと、心が痛くなりました。

  • 太宰治と一緒に心中した山崎富栄さんの真実を語る。
    残された家族がとにかく気の毒。
    周りを巻き込んでいく太宰の弱さはとんでもないと思うが、こういう人いそうな気がする。
    物凄く好かれたりするんだよね。これが。
    才能あるイケメンで弱い人。
    情の深い女性は巻き込まれてはいけないよ。

  • 太宰治が玉川上水で心中を図ったことは有名だが
    心中の相手、山崎富栄についてはほとんど知られていない。
    文壇では「太宰を殺した女」として評判が悪いらしい。
    その山崎富栄さんについて徹底的に調べたドキュメンタリー。

    日本初の美容学校であるお茶の水美容学校の創設者を父に持つ。
    子どもの頃から英語や演劇を学び、慶応大学の聴講生になるなど、才女であった。
    三井物産勤務の奥名修一と結婚するが、夫は新婚10日ほどでマニラに転勤。
    現地で軍隊に招集され行方不明になった。

    父が後継者として富栄にどれほど期待したか。
    新婚10日で夫と別れなければならない新妻の心中はどれほどのものか。

    そして富栄は太宰と出会い、次第に傾倒していく。
    妻がありながら、太田静子という愛人がいながら
    「一緒に死んでくれる女」富栄にすがっていく太宰のズルさ。

    この時代を生きた人たちの、教養の高さ、覚悟、そして愛が
    生き生きと伝わってくる素晴らしい一冊であった。

  • 図書館で。人様の本棚を覗いて面白そうな本だな、と思い借りてみました。太宰治が心中したのは知っていましたが相手の女性の事は全然知らず、芸者さんと心中したように思ってました。どうやら二回目の自殺(未遂)の際のカフェの女給さんの話とごっちゃになっていた模様。太宰亡きあと、心中相手が太宰を毒殺しただの絞殺しただの…ずいぶんに言われていたんだなあ…とびっくりしました。

    読み終わった感想としてはただただ冨栄さんの父親が不憫でならないです。とは言え青春時代を戦争で締め付けられ、ようやく戦争が終わり自分の本業が活かせる、と意気込んで都会に舞い戻ってきた彼女。仕事は切れ目なくあるし、自由になるお金も少なからずある。うるさい親もおらず気ままな一人暮らし。そんな若い女性が少し影のある「有名な」「今を時めく小説家」に出会い、のめり込むようにすべてを捧げてしまう様は愚かだなあとは思うけれどもわかるような気もします。言っちゃ悪いけど冨栄さんがこのとき出会ったのが有名な俳優だったり、演出家だったりしたら太宰ではなくその人の熱烈なファンになったのではないかな?彼女は確かな愛情、と書いておりますがなんとなく太宰も彼女も自分自身を愛していてお互いはそんな自分を愛するための鏡みたいなものだったのではないかとも思いました。
    こんなに高名な才能ある先生に尽くせるのは、先生が側に置いてくださるのは私だけ、みたいな自己犠牲に酔っている感じがすごくします。元々太宰治もこんなにもオレは弱いんだ、酷いヤツなんだ、笑って罵ってくれよみたいな自己批判というか、それによりそんな事ないですよ、と言ってもらえるのを期待している感じがイヤな男だと思っていたのですが…ますます嫌いになりました。一言で言うとバカな男にひっかかって愚かな事をしたなあ…という感想です。

    それにしても不思議なのは水商売に従事する女性は男性をもてなすため、言ってみれば男性が必要とするから需要のある職業についているのになぜ男性はそういう女性を蔑むんだろう?家庭を壊すのは女性ではなく男性の身勝手な行為なのに何故相手の女性ばかりが責められるのか?とは言え妻子ある人と深い仲になって挙句の果てには一緒に死のう、なんて言われて心中しちゃって、死んだ後もあしざまに言われ、親類も世間に顔向けできない状況に陥り、墓に入っていても名前も書かれなかった。そして一番悲しいなあと思うのは多分太宰さんはそこまで彼女の事を愛しても、想っても居なかっただろうって事が不憫です。

    ああ、ホント悪い男に捕まったんだなぁ…。やっぱり20過ぎてるとは言えお嬢さん育ちの若い女性を東京で一人暮らしなんてさせるものじゃなかったって事でしょうね。外地で亡くなられた何千・何万の若き兵士を思うと…太宰さんが自らの意志で命を断ったのは、そして死なぞ考えても居なかった女性を道連れにしたのは何とも罪深いことだなあ…と思います。彼女にとって太宰さんは死神だったのかもしれません。ますます太宰治がキライになった一冊でした。

  • ★ペンネーム:伶さんからのおすすめコメント★

    大正生まれの山崎富栄は裕福なお嬢様育ちながら、家業の美容学校を継ぐため、厳しい修行を経てキャリアウーマンとして独り立ちする一方で、その半生は関東大震災、太平洋戦争、敗戦等、時代の波に翻弄されます。戦後、彼女は太宰治と出会い、不倫、心中という結末を迎え、短い一生を終えます。死後、一方的に悪とされてしまった富栄の生涯を著者は丹念に追い、激動の時代を必死で生きぬいた一女性史を展開していきます。戦前から戦後へかけての歴史書としても読みごたえある一冊です。

    OPACへ ⇒ https://opac.musashino-u.ac.jp/detail?bbid=9000863418

  • 東京への移動中に読もうと思って駅で購入した一冊。それまで津軽人のくせに太宰作品をほとんど読まなかった私が太宰に興味を持ち始めるきっかけを作った本。
    玉川上水で心中したのは知っていたけど、相手の女性について何も知らなかったので、これを読んで彼らのあまりの接点の多さに、運命ってすごい。とおもった。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「運命ってすごい」
      私は運命とか宿命が嫌いなタチなので、ふふん(失礼)と思ってしまいましたが、時代状況を考えれば、何かに雁字搦めになって抜け...
      「運命ってすごい」
      私は運命とか宿命が嫌いなタチなので、ふふん(失礼)と思ってしまいましたが、時代状況を考えれば、何かに雁字搦めになって抜け出せないようになっているのかな?と、、、松本侑子の本だから読んでみようかな←太宰はチョッと苦手。
      2012/10/10
    • soramonjyaさん
      コメントありがとうございます。私もこれを読むまでは太宰が苦手で読みたくもなかったんですが、彼の死や人生観については興味があったので(笑)、「...
      コメントありがとうございます。私もこれを読むまでは太宰が苦手で読みたくもなかったんですが、彼の死や人生観については興味があったので(笑)、「太宰文学への導入本」としてはこの本は結構良かったと思います。「滅びの美学」もこの点については良かったのですが、松本さんの本は恋愛や友人関係、家族関係が絡んで、太宰の人間的な一面がリアルかつ分かりやすく描写されていると感じました。どちらの本もお勧めです♪
      2012/10/10
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「どちらの本もお勧めです♪ 」
      図書館にあったので予約しました。
      ところで、太宰の津軽っぽさって何か思い浮かびますか?
      「どちらの本もお勧めです♪ 」
      図書館にあったので予約しました。
      ところで、太宰の津軽っぽさって何か思い浮かびますか?
      2012/10/16
  • 太宰を読まずして、太宰を読む。

    実は、太宰治の本って一冊も読んだことがない。
    なんでって言われても、分からない。
    なんとなく、嫌な予感がする。

    だって、あの顔!
    芥川龍之介もたいがいだけど、太宰のあのナルっぽい顔ったら!
    真面目で正直で一途な殿方が好きな私の乙女レーダーが

    「ゲッ、口八丁で女を騙しちゃ泣かす自己中オトコ、しっしっ!」と嫌悪しちゃうの。

    でも、読んだほうが良いのかな・・・。

    自分が見たところ、太宰と三島のファンの男の人って、変な人多いし!(←偏見w)
    もうヤダ、文学部の男は!(←まさかの一括りw)
    しかも太宰って大学の専攻仏文なんでしょ!?フランスかぶれの男も変な人多いのよ!(←超失礼w)

    なんてボロクソ言ってるけど、太宰のことは、理解できなくはないのよ。
    人間は「自殺する人の気持ちがわかる人」と「自殺する人の気持ちがわからない人」の2種類に分かれると思う。
    私は、前者だから。
    絶対的な無償の愛が自分の周りには存在しないんじゃないかって不安を抱えている人って多いと思うのね。(話ずれるけど、上原美優が命を絶ったのも、そんな気持ちからじゃないかと・・・。結婚自体を焦っていたというよりも、自分は愛されてるって思える拠り所がなかったんだと思う。つらい身の上から始まって、仕事は以前のようにはないし、お母さんも亡くされて、彼の愛情も不確かなものに感じられたんじゃないかな・・・。)

    だから彼の文学のテーマは理解できるだろうし、読めば心に響くところ、あると思う。

    だから、読んだほうが良いのかな・・・。


    この本は、太宰治と入水自殺した山崎富栄さんの人生をつづったドキュメンタリー小説。
    未来明るい活動的なモダンガールが、戦争によって全てを失い、
    太宰と出会って玉川上水で命を散らすまでの人生に、
    彼女の日記はもちろん、彼女を知る親戚や関係者に精力的にインタビューすることで迫る。

    太宰作品を読んだことがなく、当然彼の書いたものに心酔したこともないので、
    彼女が彼に出会ってすぐに惹かれる気持ちが分からない・・・orz
    尽くしては自らは窮地においやられ、尽くしながらも奥さんに申し訳ないと罪悪感を持ち、尽くしては太宰に裏切られる彼女に

    「きいいいいいいいい! そんなオトコやめなさいよおおおお」と思わずに居られないの。
    そんなに天才なの、太宰って。
    まあ、彼女が選んだ最期なんだから、他人がとやかく言うことではないし、
    幸せのうちに亡くなったのだと、願うけれど。

    この本の主人公は太宰ではなく富栄で、私はむしろ太宰と出会うまでの彼女の人生を描いてる時の方が
    著者の筆は冴えてると思った。
    とくに、戦争によって翻弄される人の想いと運命をよく伝えていて、一級の小説だと思う。

    歴史として興味深いのが、富栄さんをめぐる評価の移ろい。
    いかに同時代の人が身勝手で、不確かなことを口にし、ウソをつくか。
    史料批判は大切だな、と改めて思う。
    井伏鱒二と亀井勝一郎なんて、自分達だって太宰の遺体を見たくせに、
    それを隠して「刑事の話を聞いたところによると、太宰の首には首を締めた後があったらしい」なんてウソつくんだよ。

    なんで? なんで? なんで?

    小説では、遺されたものが抱く「なにもしてやれなかった」」「自分が彼を追い詰めたのだろうか」という
    やるせなさや罪悪感から、死因は自殺じゃないって思い込みたい気持ちにさせられるらしい・・・。



    太宰「死ぬ気で恋愛してみないか?」

    親元から離れ、夫を亡くして孤独を感じている時にこの言葉を聞いたら、
    自分もそんな気分になるんだろうか?

    ここで富栄さんの日記から

    「先生は、ずるい
    接吻はつよい花の香りのよう
    唇は唇を求め
    呼吸は呼吸を吸う
    蜂は蜜を求めて花を刺す
    つよい抱擁のあとに残る、涙
    女だけしか、知らない
    おどろきと、歓びと
    愛しさと、恥ずかしさ
    先生はずるい
    先生はずるい

     忘れられない五月三日」


    うおおおおおおおおおおお!
    こんな想い、してみてえええええ!

    でも、死にたくNEE!

  • 昭和23年6月。
    『人間失格』を書き上げ、人気絶頂にあった
    小説家太宰治は愛人と共に玉川上水で入水自殺を遂げた。この事実は芥川龍之介、三島由紀夫と並ぶ文人の自殺として、
    周知のこととなっている。
    ところで、太宰治と一緒に自殺を遂げた『愛人』とは
    一体どんな人物だったのか。
    その点について今までにない焦点を当てたのが本書である。
    太宰治を死に追いやった愛人だから、
    芸者かホステスか、その辺りの世界の人なんじゃないか。
    少なくとも、あまり育ちが良くないというか、
    少なからず陰のある人物だったんじゃないか。
    なんとなく、人は想像して、
    その人山崎富栄に対し、
    格段の興味・関心は抱いていなかった。
    が、本書を読むと、
    全然そんなことはなかったんだということがわかる。
    彼女の父親は大正から昭和にかけて、
    日本の裁縫・美容界のパイオニアとなる専門学校を
    起こし、宮内庁御用達という名門の人だった。
    彼女はその専門学校の後継者とすべく父親の期待を一身に受け、
    朝ドラのヒロインのように明るく正しい女性に成長する。
    がしかし、戦争が次第に彼女の運命を狂わす。
    三井物産のエリート社員と結婚したまでは良かったが、
    旦那は結婚式の一週間後フィリピンへ単身赴任。
    着任と同時に激しい戦闘に見舞われ、あえなく戦死。
    戦争未亡人となった彼女は方々を転々とするが、
    そんな中、友人の紹介で太宰に出会う。
    その時点では彼の本を読んだこともなかったのだが、
    たまたま彼女の早死にした兄と
    太宰が弘前の高校で同級生だったこともあり、
    意気投合…
    当時太宰には妻子がいることを彼女は知っていたが、
    それだけでなく、
    もう一人静子(『斜陽』のモデルとなった日記を提供した)という愛人との間に
    娘が生まれていたことまでは知らなかった。
    妻子と2人の愛人と更に子供を抱えた上、
    アルコール依存症と結核で体は蝕まれ、
    更には放蕩三昧の生活により、
    印税で多額の収入があった為発生した
    莫大な所得税も支払えなくなって…
    という人生の八方塞状態になり、
    太宰は自殺を決意。
    以上に至るプロセスは、
    彼女が遺した日記に詳述されているそうだが、
    2人の死後、
    それが正当な評価を受けることはなかったようだ。
    確かに私自身、かつて別の本で
    彼女が太宰の死神であったかのような記述を読んだことがある。
    今となってはどっちでもいいのだけれど、
    人の人生は本当に難しい。
    努力は大事だけれど、
    運というのは本当に馬鹿にならないのかもしれない。
    人間の人生について、運命について、大いに考えさせられた。

  • 太宰の情死相手として軽んぜられた山崎富栄の名誉回復の書。
    丁寧な聞き取りや文献から、富栄とその家族の思いを浮き彫りにした労作。表紙の写真が愛らしい。掌中の玉を喪った富栄のご両親の無念を思う。

  • 太宰治の印象が変わった。

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著者プロフィール

島根県出雲市生まれ、筑波大学卒。『巨食症の明けない夜明け』(集英社)ですばる文学賞、評伝小説『恋の蛍 山崎富栄と太宰治』(光文社文庫)で新田次郎文学賞。著作はイタリア、中国、韓国で翻訳出版される。『赤毛のアン』シリーズ(文春文庫)の日本初の全文訳を手がけ、作中の英米詩、シェイクスピア劇、聖書など数百項目を訳註で解説。金子みすゞの弟で脚本家の上山雅輔の日記と回想録を読解して小説『みすゞと雅輔』(新潮文庫)を発表。著書に幕末小説『島燃ゆ 隠岐騒動』(光文社文庫)、『英語で楽しむ赤毛のアン』(ジャパンタイムズ)など。趣味は編み物、洋裁、「すてきにハンドメイド」鑑賞。

「2021年 『金子みすゞ詩集 2022年1月』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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