- Amazon.co.jp ・本 (381ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334927394
作品紹介・あらすじ
織田信長によって滅亡した浅井一族。しかしただ一人、浅井長政の十二歳の息子は生き残り、腕は確かだがちょっと変人の外科医に「弟子」という名目で匿われる。外科医だから怪我人たっぷりの戦場が稼ぎ場所。少年もあれやこれやの合戦に同行し右往左往。早くお家再興を成し遂げたいのに、仇の織田の力は増大するわ、弟子の仕事も多いわ…。少年の夢は、どうなる?戦国の世を駆け回る、異相の凄腕医師と少年の物語。
感想・レビュー・書評
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岩井三四二さん、安定した歴史小説の作家さんです。
失礼な言い方になりますが、隙間が空いた時に読むのに持って来い、どの作品も当たり外れが無い。
上役から無理難題を押し付けられた平凡な主人公が、ぼやいたり、泣きを言ったりしながらも、一生懸命に難題に立ち向かって行く。これが岩井さんの歴史小説のパターンなのですが、これはちょっと違いました。。
主人公・喜十郎は信長に滅ぼされた浅井長政の庶子。落城寸前の小谷城を抜けだし、乳兄弟の弥次郎と共に疵医師(きずくすし;外科医)・瑞石の弟子に身をやつしながら浅井家再興を目指す物語です。異相の瑞石の人物像が良く、戦国時代の世相や外科治療の様子も面白い。そして爽やかなエンディング。
特に飛び抜けたところも無いのですが、いつも通り安定して読ませて頂きました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
面白かった。前半のサスペンス、後半の戦闘シーンなど読み応えがある。浅井家再興と外科医という意表をつく組み合わせや表題の謎は最後に明かされる。
傷薬師瑞石は無骨な大男で金の亡者のくせに命には真摯に向き合い意外にも心優しい。紅一点のりんは心を病んだ娘として登場するがやがて主人公を支えるたくましさを見せる。侍従の弥次郎は主人に忠義を尽くす典型的な戦国武士。それぞれのキャラがいい。
お家再興を使命として奮闘するがなにをやってもうまく行かず、ついに…
人に与えられた使命から開放されるくだりで、物語全体のしかけがあったと気づかされてうなった。 -
一気読みでした。
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いわゆる戦国時代物。
自分ではあまり読まないジャンルですが、副編のリコメンドだけあってさすがに面白かったです。
ストーリーは、織田信長に攻め滅ぼされた浅井長政の子息、喜十郎が、家臣と二人、一風変わった医師の元に預けられて生き延び、医師の弟子として医術を学び、患者やけが人と接しながら、お家再興を夢見て戦乱の世の中で、悪苦闘する、というもの。
医師の元で学び、患者と接するうちに、医術で人の命を救うことの意義深さを感じ、このまま身を転じるか、武士としての分を全うすべきかの惑いが、丁寧に描かれます。
生き延びた浅井の子息とその家臣には、長政から、隠し財宝が授けられているといううわさ話があり、その実は、家臣がちいさな印籠(いんろう)を持たされていた、というプロットが、物語の終盤でいい味を出してきます。
時代物はあまり読まないこともあり、かつ日本史に関する素養があまりないため、浅井家が織田信長に攻め滅ぼされて、その後どうなったかとか、そもそもの時代背景を知らないので、多分楽しみを半分損しているんだと思うのですが、それでも、物語として充分楽しめるものではありました。
タイトルになっている「おくうたま」とは、医師を意味する俗語「おくすしさま」の幼児語。医師としての喜十郎に救われた寒村の子どもが感謝のコトバを投げかけてくれたときの「おくうたま」。
武士という生き方、家・血筋という伝統。現代とはかけ離れたその時代背景の中でも変わらない「生命」の尊さ。
変わっていくものと変わらずに残るもの。そんな裏テーマがあるような気がしたのは、ちょっと深読みしすぎでしょうか。 -
“おくうたま”った何?
恐らく主人公のあだ名なんだろうと思いつつ、ラストシーンになってはじめてその謎が解けます。
そもそもこのインパクトのある表紙絵、主人公じゃないし。
主人公は浅井喜十郎。
浅井長政の側室の子で、浅井家の再興を目指しています。
ということは、今年のNHK大河ドラマ『江』の異母兄にあたるわけですね。
実在した人かどうかはわかりませんが、運が悪いというか、引きが悪いというか、次々に負ける方負ける方へついてしまいます。
でも、その運の悪さが最後の決断につながり、武士としてではなく、人として幸せな生を送ったんだろうなぁと思われ、後味は悪くない作品でした。