- Amazon.co.jp ・本 (433ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334927585
作品紹介・あらすじ
巨躯。凄味ある風貌。暴力性。群れない-。やくざも恐れる伝説的アウトローが「警察官を殺す」との情念を胸に22年の長期刑を終え新宿に帰ってきた。すでに初老だがいまだ強烈な存在感を放つというその大男を阻止すべく捜査を開始した新宿署刑事・鮫島。しかし、捜査に関わった人びとの身に、次々と-親子。恩人。上司。同胞。しがらみ。恋慕の念。各々の「絆」が交錯した時、人びとは走り出す。熱気。波瀾。濃度。疾走感。
感想・レビュー・書評
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「シリーズ転換点に相応しい力作」
怒濤の展開にしばし放心。ここ暫くスケールが大きくなっていたが、本作では新宿に足をしっかりつけて話が展開。様々な人物像をラストで一気に結びつける手腕は相変わらずお見事。桃井、晶、香田との関係も初登場から随分変化した。それだけ時が経ったということか。至福の時間終了。
新宿鮫シリーズで1番好きなのは2作目の毒猿。他は無間人形、屍蘭と初期作品が好き。映像化された真田広之の映画版も舘ひろしのドラマ版も全部DVDで持っている。あぶ刑事ファンとしては、舘ひろしは大好きだけど、原作のイメージに忠実なのは、やっぱり真田版。桃井役の室田日出男も良かった。 -
新宿鮫としてひとつの区切りとなるべき作品。
新宿鮫の上司であり、一番の理解者 桃井の喪失。
子供と妻を亡くし、まんじゅう となった 桃井は、新宿鮫の働きやすい環境を作る。
ロックシンガーとしての晶のグループのメンバーがヤクに手を出していた。
そのことで、晶は 無期限休止を宣言し、鮫島とのつきあいも終止符を打つ。
鮫島は 一度に大切な二人(桃井と晶)を失ってしまう。
『喪失感』が 鮫島を包み込んで終る。
一方で 内調の下請け機関に復活した 香田。
コインのウラオモテのような存在。目的は同じようだが、やり方が違う。
少なくとも、連携する。
薮という協力者が 唯一の手がかり。
大きなオトコ 樫原茂。
新宿での一匹狼で、伝説のオトコ。
それが、22年のムショ生活を終えて、復帰する。
そして、恨みを果たそうとする。
妻と子供を、国外に逃亡させた 桃井に 逆恨みをする。
つねに、ニンゲンは 不条理の存在となる。
それを心から 支えてきた トシミ。 まつかさ というバーで待つ。
切ない。
ヤクザ 吉田。樫原に恩義がある。
残留孤児グループ 金石。日本人であり、中国人である。
中国人でもなく、日本人でもない。
組織を守るために、警察官さえも対象とする。
タイ、カンボジア、そして 中国。ヤクのルート。
鮫島の敵とは、どんなものとなるのか?
『金石』が、今後も 襲ってくるのか?
警官であることを恐れないグループ。
実際の敵は うやむやにする警察権力なのかな。
桃井に対する評価が 新宿署の中で、高い評価だったのが救われる。 -
上司桃井さんの死、おかまに暴発で殺される。
晶との別離。どうなんの?
中国人孤児二世、三世たち怖い。実際にいそうだし。 -
10作目にして、鮫島シリーズは何を刻み込もうとしたのだろうか? そんな思いを胸に、長いシリーズの最新作を、一年遅れという体たらくながら、ようやく手に取る。
本作のトピックスは、出所したある男が警察官を付け狙うという復讐の構図である。とても深いわけがあって、どうしても射殺したいという復讐の思いが強く、しかし残忍な殺し屋ということではどうやらないらしい。古い任侠の文化を背負って、浦島太郎のように娑婆に出てきた初老の悲哀を身にまとっている。
一方、鮫島は、晶のバンドが薬がらみでマスコミに騒がれている状況を気にかける。群がるマスコミと晶にまで迫ってゆく疑惑の雲。
公私に渡り、じわじわと迫ってゆく、のっぴきならない状況が、ドラマを呼び、その書きっぷりが熟練の技である。
どうも大沢はシリーズではそこそこの傑作をものにするものの、単発ものではどうも今一つ乗れないところがある。最近はむしろ短編で味を出したりと、不安定な部分と円熟味を増した部分が交互に訪れるきらい、多分にあり、なのだ。
そもそも大沢という作家にも新宿鮫というシリーズにも今一つ愛着を覚えずにここまでただただ併走してきてしまったのだが、中に突然変異的な傑作が見つかるから、この作家は捨て難いのである。
本作は突然変異とまでは言わないまでも、シリーズの、かつて子供だましのようであった男女関係まで含め、変貌を遂げたその成熟ぶりには安心して身を預けられるという意味で、傑作と呼んであげたい充実ぶりは少なくとも見られると思う。
複雑な言い回しをしてしまったが、この作家とぼくという読者の間の複雑で、表現し難い苦々しい距離を少しでも物語ることがぼくにとってはとても重要な気がするので、ご容赦願いたい。 -
読むまえから読んでしまっても、虜になって読了!
なにがこんなに面白いのだろう…。ありえるようなありえないようなリアルな人間描写のなせる業なのか・・・・・?
読み出したら止まらない。読んだ人しかわからない。大沢ワールド -
上司と部下、ライバル、親子、恩人、男女それぞれの絆の物語。(先日の朝日新聞に東日本大震災以降、「絆」という言葉が安易に使われるようになり、その重みが無くなったとの記事が掲載されたが)
書評が”警察や暴力団を組織として描いた前作から一転、人間を描くハードボイルドの原点に戻った作品だ。”、著者がインタビューで”前作の『狼花』で組織としての警察や暴力団を書ききったと思ったので、今回はもう一度原点復帰で人を描きたくなった”と述べているように、前作までは内容を膨らませすぎて、ラスト手前で失速した感が否めなかったが、今作はストーリーにスピード感があり、だれることなく、ラストまで一気に突き進んだ。吉田との面会のために組事務所に乗り込む鮫島の姿はぎらぎらしていて、初期のとがっていた鮫島を彷彿させて良かった。その一方、売人を情報提供者とする姿には違和感も覚える。ただ、ラストに笠置の独白を置く意味がよく分からなかった。(前作でも似たような感じだったと記憶している)→男と女の物語ということなのか(もちろん鮫島と晶を含む)
和解≒邂逅→鮫島と香田、新宿署 樫原と笠置、樫原の息子
受刑者が警察を逆恨みするステレオタイプ
「金石」ありえるかもしれない。 -
新宿鮫のタイトルは著書の内容から読み取れない場合もあるのだが、本著はまさしくの「絆回廊」。極道の親分子分の、舎弟分の、同国人の、実の親子の、そして上司と部下、男と女の絆が絡み合い縺れた先にあるのは何か。捜査と推理を積み重ねて行き、マル対の目的が判明するに従って物語り全体の緊張感が最大限に膨らむ。鮫シリーズとしては、ある意味節目になるのだろうか。