涅槃の雪

著者 :
  • 光文社
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感想 : 59
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  • Amazon.co.jp ・本 (316ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334927783

作品紹介・あらすじ

新任の北町奉行・遠山景元の信頼厚い吟味方与力・高安門佑は、ある事件をきっかけに、お卯乃という元女郎を屋敷に引き取ることになる。口のきき方も知らず家事もできないお卯乃だが、話し相手としては悪くない。そう思いはじめた矢先、天保の改革が発布され、江戸の世情は一変した。遠山は南町奉行・矢部定謙とともに、改革を主導する老中首座・水野忠邦と対立する。そんな両奉行と門佑たちの前に、冷酷非情と恐れられる目付・鳥居耀蔵が立ちふさがった。厳しい締め付けに生気を奪われた江戸、そして、門佑とお卯乃の行く末は-。改革の嵐が吹き荒れるなか、お上の苛烈な締め付けに立ち向かう気骨ある与力の姿を通じて、市井の人々の意地と気概をいきいきと描き上げた傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 老中水野忠邦による天保の改革によって庶民の営みが一変した様子を与力である高安門佑を中心に据えて描いた作品。

    ちょうど今と重なるが、贅沢や不要不急を一切排除しようとする時代の流れ。

    日本人は危機に当たると、贅沢や愉しみを否定し、辛抱や我慢一辺倒になる傾向を感じる。

    「無駄」もなく、清廉潔白であることに美学を感じ、白黒一元論に陥りやすい傾向はきっとDNAに組み込まれているから、気を付けたいなあ。

    西條さんの作品2冊目。
    天保の改革のなかで、市井の人々が何を守ろうとしたのか。
    江戸幕府末期の権力の暴走や、派閥対立ものとしても興味深い史実が盛り込まれる。

    遠山の金さんが登場して物語に勢いや面白みがある。
    女郎あがりの女性の素朴さに心を傾ける与力門佑の心の機微や、2人が惹きつけ合う様も物語の厚みを加える。

    きっちりまとまったエンタメテイストもある作品でした。でもまとまり過ぎている感もあるんだよなあ。

  • 自分の中にこんな感動ポイントがあったのかと、
    慄いてしまう角度から西條さんはえぐってくる。
    門佑が蝮に安らぐそのわけにも、裏の裏のその更に裏までひもといて見えて来る園江の気位の高さの真髄にも…あれやこれやのシーンが脳みそ駆け巡り。読み終えて今心地よい余韻に包まれてる。

  • 実に鮮やかなハッピーエンドだった。
    気持ちのいい時代物だ。

  • 初読の作家さん。
    敬愛してる方がよく読んでらっしゃるので挑戦してみました。
    水野忠邦の天保の改革をベースにしたお話。
    主人公のお姉さんがカッコよすぎです。
    途中モヤモヤしましたが最終的には納得のいく終わり方でした。

  • 江戸時代末期が舞台。天保の改革を軸に町役人(吟味方 与力)高安門佑の目線で当時の人々の葛藤が描かれています。

    西條加奈さんの作品を初めて読みました。
    女性の書く時代小説は優しさが滲んでいて、好きです。
    別の作品も読みたくなりました。

  • よかったです。門佑とお卯乃がちょっとずつ距離が近くなってくところとか。脇役は個性が強いです〜親族にいたら嫌かも、姉上、、、。

  • 「恋細工」とともに天保の改革の実情がよくわかる。鳥居耀蔵は悪人として描かれることが多いが、この作品では、悪人ながら一本筋の通った憎み切れない人物として描かれていて、読後感も良かった。

  • 爽やかな読了感がある一冊。おすすめ。

  • 日本史の勉強で文言をなぞっていたぐらいの天保の改革、市井の人の辛さがよくわかる、それでいて物語も最後まで読むとあっと驚きの仕掛けの実に素晴らしい作品。人物の描写が細かくて、やむにやまれぬのね…とかこの姉さん1枚上だったか!と膝を打つような楽しみ方もあり。おすすめ。

  • 江戸時代の3大改革の一つ、天保の改革。「どれほど多くの者たちの運命が狂わされたことか」門佑の感慨に考えさせられる。

    改革そのものは失敗だと習ったけど、幕府の財政の立て直しと物価の抑制を目指したハズ。この改革が失敗して、その後、財政は持ち直したのでしょうか? 改革が失敗に終わったから、江戸幕府が終わるのを早めたわけでもないですよね。たぶん。(史実を知りませんが)

    強引な改革が悪だったのか、改革が必須な幕府が終末期だったのか、飢饉か、貨幣改悪か、外国船の対応か、あるいは、奢侈に溺れ改革を潰した民衆が悪か。時代の流れか。

    食を絶たれて亡くなられた矢部様よりも、先の飢饉で飢え死にした百姓の方がよほど無念だと
    江戸の奢侈は、百姓の辛苦に支えられておる。それを忘れて商人も町人も、ひいては大名旗本さえもが贅の限りを尽くす。このままでは早晩この国は、立ち行かなくなろう

    武士が命を賭して守るものより、飢え死にする百姓が無念と語る。それを見ない振りして奢る江戸の民を憐れむ。そして幕府を。しかし、これも時代の流れなのかもしれない。
    そして、現代の私たち。社会は「江戸」を超えて、”地球”全体に広がっている。どこかの誰かが飢え死にする無念さの上に、私たちの生活(奢侈かどうかは別として)が成り立っているに違いない。幽閉された鳥居なら何を口にするだろう、と。

    そして、涅槃に雪は降るだろうか、と。

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著者プロフィール

1964年北海道生まれ。2005年『金春屋ゴメス』で第17回日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、デビュー。12年『涅槃の雪』で第18回中山義秀文学賞、15年『まるまるの毬』で第36回吉川英治文学新人賞、21年『心淋し川』で第164回直木賞を受賞。著書に『九十九藤』『ごんたくれ』『猫の傀儡』『銀杏手ならい』『無暁の鈴』『曲亭の家』『秋葉原先留交番ゆうれい付き』『隠居すごろく』など多数。

「2023年 『隠居おてだま』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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