さようなら、猫

著者 :
  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (214ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334928445

作品紹介・あらすじ

乾いている人、求めている人、愛している人、憎んでいる人、何も考えたくない人。彼らの日々にそっと加えられる一匹の猫。猫も、愛も、幸せも、閉じ込められない。短編の名手が紡ぐ魅惑の九編を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 夕日に浮かび上がる大仏様のように三角な(笑)
    哀愁を帯びた猫のシルエットの美しく儚げなこと。
    この表紙の破壊力に抗える愛猫家は
    果たしているんだろうか?(笑)

    「猫」がキーワードとなり、物語が動き出す短編集だけど、
    そこは短編の名手、井上さん。
    そんじょそこらの短編集とは違い、
    ヒヤリとした切れ味と、
    噛めば噛むほど味の出る旨味でいっぱい。

    どの話も余白のある作りで
    予想の斜め上をいく意外性があります。
    (はっきりしたオチがあるわけでもなく、ほとんどの作品が唐突に終わりを迎えます)

    それだけに読み終わりの余韻も
    かなり後を引くので、
    また始めから読み直したりして(笑)
    読むたびに緻密に作られた構成や
    独特の比喩表現や味のある言い回しにニヤリとできます(笑)

    ただ、一話一話猫が主役の短編ではなく、
    あくまでも猫を通して揺れ動く男女の心の機微を描いているので
    猫に和む話を期待すると
    想像したのと違う~!って
    がっかりする危険性もあるのでご注意を…(汗)
    (あからさまなハッピーエンドの話はありません)
     

    で9つの短編の中で
    僕が印象に残った話を挙げると、

    家で待つ子猫のことばかり考えてしまう自分に嫌気がさした美那は、
    酔った勢いで子猫を譲ることを約束してしまうが…
    『自分の猫』、

    妊娠したのを機に
    「うさぎ」と名付けた飼い猫を貰って欲しいと持ってきた妹だったが…
    『赤ん坊と猫』、

    玉の輿に乗って結婚したものの
    鬱屈した心を抱え毎日をやり過ごす瑠美は
    ある日、栗の木のてっぺんで降りられずに鳴く猫に自分を重ね、救出しようと試みるが… 
    『降りられない猫』、

    一回り以上年下の美容師と初めての不倫旅行に来た50歳の主婦頼子は
    旅館で野良猫と出会うが
    野良猫は怪我が元で瀕死の状態だった…
    『ラッキーじゃなかった猫』、

    自分が働く自然食品店の店長の部屋の
    サクタローという猫の世話に毎週訪れるかなえの悶々とした葛藤を描いた
    『他人の猫』、

    兄壁(あにかべ)という男がひとりで切り盛りする奇妙なレストラン「兄壁」。
    常連客の洵(しゅん)は「兄壁」の看板猫であるペルシャ猫のボサノバの肝臓移植のために
    なけなしのお金をカンパするのだが…
    『さようなら、猫』

    かな。

    読みながらずっと感じていたのは
    井上さんの持ち味である
    ほの暗い情念とゾクゾクする底意地の悪さと(笑)、
    (褒めてます!)
    行間から沸き立つ淫靡な匂い。

    読む人を選ぶだろうけど
    個人的にはかなりハマりました。

    それにしても猫って
    なんでこんなに人を魅了するんやろ。

    猫ってわがまま気ままで
    情が薄いように思われがちやけど、
    決してそんなことはないんです。

    ただ犬のようなストレートな愛情表現が苦手なだけ。

    あさっての方向向いて知らんぷりしながらも、
    身体の一部は飼い主に密かにくっ付いてたり(笑)、

    遊んでやろうとしたら逃げるクセに、
    こっちが本や新聞を読んでると
    必ず開いたページの上に
    ヨイショっと
    スフィンクス座りを決め込んだり(笑)
    (絶対ワザとやってる)

    その苦笑いするしかない「甘え下手」なところが
    どうにも心くすぐるのです♪


    たとえチョイ役であっても
    猫が物語に出てくるだけでラッキーと思える人、
    毒のある井上荒野さんの文体が好きな人、
    大人な短編集を読んでみたい人、
    みなまで言わない余白を残した物語に浸れる人にオススメします。

  • 背中をむけてぽつんと坐る猫の表紙と、章ごとにはさまれる可愛い猫のイラストに
    猫とのほのぼのしたやりとりを期待してしまった猫好きさんは
    「あれ?あれれ?」という気分になってしまう本かもしれません。

    『自分の猫』、『わからない猫』、『降りられない猫』など、
    猫をタイトルにした短編が9つ並んでいるのですが
    物語の中で猫が描写されるのは数行、というお話がほとんどで
    中には、猫が本当にいるんだかいないんだかわからないまま終わったり
    昔飼っていた猫を、惚け始めた父が呼ぶ声しか出てこなかったり、
    猫はあくまでも物語を進める上での薄めのエッセンス、といった感じです。

    初めて自分だけの猫を飼うことになって、狂おしいくらい夢中になり、
    なんとかイマドキの若者らしい生活に戻るため手放そうとするも
    やっぱり離れられなくて、クロエのバッグに仔猫を入れて逃走する
    19歳の美那を描いた『自分の猫』、

    疎遠だった姉を訪ねる口実に「うさぎ」と名付けた猫を連れてきて居座り
    それでも素直な口がきけない妹にほろっとする『赤ん坊と猫』の2作には
    ほのぼのとした部分もあって救われるけれど

    その他の作品は、どこで誰と一緒にいてもヒリヒリとした淋しさを抱きしめている
    登場人物の孤独が伝わりすぎて、頁をめくる指先からどんどん身体が冷えていくようで
    打たれ弱い私が手を出してはいけない作品だったのかも、と思ったのでした。

    • kuroayameさん
      この本、見かけたときから気になっていて、猫を飼っているので「悲しい話ばかり記載されていたらどうしよう」と思うと、なかなか購入までいたらなかっ...
      この本、見かけたときから気になっていて、猫を飼っているので「悲しい話ばかり記載されていたらどうしよう」と思うと、なかなか購入までいたらなかったです・・・。
      でもレビューを拝見させていただいき、内容を知ることができとても嬉しかったです♪。
      ありがとうございました★。
      2012/11/13
    • まろんさん
      そうですよね、猫好きならこのタイトル、気になっちゃいますよね!
      私みたいに猫が活躍したり、猫の描写ににんまりできる本をお探しなら
      ちょっとこ...
      そうですよね、猫好きならこのタイトル、気になっちゃいますよね!
      私みたいに猫が活躍したり、猫の描写ににんまりできる本をお探しなら
      ちょっとこの本は作者の意図しているところが違うかもしれません。
      でも、章ごとのイラストはとってもかわいいので、こっそり立ち読みしてみてください(=^・・^=)
      2012/11/14
  • 猫をモチーフにして若者の生活を描いた短編集です。猫好きでも、そうでない人も気持ちが伝わります。ちいさくて、か弱い存在に見えるけれど、愛しい猫たちの存在は心の隙間を埋めてくれること間違いなしです。それぞれの見出しを挙げておきます。この中のどれかに自分自身が隠れているような気がするんですけれどね♪ 「自分の猫」「わからない猫」「赤ん坊と猫」「降りられない猫」「名前のない猫」「ラッキーじゃなかった猫」「他人の猫」「二十二年目の猫」「さようなら、猫」(3.5)

  • 猫にまつわる短編集。
    猫がクッションとなっているせいか、井上さんのいつもの短編集よりソフトな感じがする。でもさすがに井上作品、裏切らない。日常から逸脱しそうでしないそのぎりぎりのラインにいる危うい人々を巧みに描いている。
    巧いな~、どの作品も甲乙つけがたい。
    自分が猫好きなせいか、高評価。うん、うん、分かるなどと思いながら読んでしまった。
    「赤ん坊と猫」と「ラッキーじゃなかった猫」が特に良かった。
    考えてみたら井上作品の登場人物ってみんなだれも猫っぽい。つかみどころがなくて自由気ままで。突然びっくりするような行動をとったり。孤独を愛するのか、ぬくもりを求めるのか。それも気分次第か。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「自分が猫好きなせいか」
      じゃぁ読んでみます!
      ところで、井上荒野の一番お薦めは何ですか?
      「自分が猫好きなせいか」
      じゃぁ読んでみます!
      ところで、井上荒野の一番お薦めは何ですか?
      2013/01/04
    • vilureefさん
      nyancomaruさんへ

      コメントありがとうございます!
      井上さんは不倫ものやえぐい話が多いんですが、「キャベツ炒めに捧ぐ」は毛色...
      nyancomaruさんへ

      コメントありがとうございます!
      井上さんは不倫ものやえぐい話が多いんですが、「キャベツ炒めに捧ぐ」は毛色が違ってコメディタッチでお勧めですよ~。
      直木賞を受賞した「切羽へ」は王道って感じですが。是非♪
      2013/01/04
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      ありがとうございます
      「直木賞を受賞した「切羽へ」は王道って感じ」
      こちらもドロっとしているのでしょうか?(苦手と言う訳じゃないのですが、時...
      ありがとうございます
      「直木賞を受賞した「切羽へ」は王道って感じ」
      こちらもドロっとしているのでしょうか?(苦手と言う訳じゃないのですが、時折疲れてしまう)

      「「キャベツ炒めに捧ぐ」は毛色が違って」
      タイトルからして楽しそうなので、文庫になったら読んでみます!
      お薦めを訊いておきながら、最初は短編かエッセイかなぁ~と考えています。。。
      2013/01/15
  • 猫って(犬もだけど)、私達の人生には切っても切れないものかな。
    ちょっとした事柄の隣りには猫、みたいに。

    「二十二年目の猫」が1番好きかも。
    あと装丁もね。

  • 年末年始に向け、猫関連の本を借りてきた第四弾。
    井上荒野さんの本を読むのは初めてだが、ちょっと失敗したかもしれない。こういう世界観は好き嫌いが別れるんじゃないかと感じた。私には、少し分かりにくかった。
    猫が出てくる短編集。内容は暗めで掴み所がなく、結末も突然やってきて尻切れトンボ的な感じ。出てくる猫もあまり境遇が良くない。でも、こういう暗めの話にも寄り添えるのはやはり猫しかないなとも感じた。

  • 井上さんの短編はやっぱり良いな〜。

    今回は猫にまつわる作品ばかりでしたが、そこに出てくる登場人物との絡み方がなんとも言えない。特に男女の話になると格別。

    猫の無邪気で自由気ままな性格と、人間の隠しておきたい嫌らしい部分をズシリと突いてくる描き方が最高です。

    どれもスッキリとは終わりません。日常のほんのひとコマ、人生のほんの一部を切り取っただけの様な終わり方が逆に良いですね。余韻に浸るも良し、その後の展開を想像するのも良し、読み手に小さなドキドキ感を残してくれます。

    無類の猫好きというわけではないけれど、猫と生活するのも悪くないのかな〜と思ってしまった。関係ないけど犬好きなんです…。

    自分の猫/わからない猫/赤ん坊と猫/降りられない猫/名前のない猫/ラッキーじゃなかった猫/他人の猫/二十二年目の猫/さようなら、猫

  • 全話に猫が出てくる短編集です。
    (姿が見えないこともあるよ)
    ままならない気持ちや事情を抱えた人たちと、ただそこにいるだけの猫。
    何かを変えるきっかけにもなり、行動を起こすための口実にもなりうる、猫。
    癒しを求めて手に取りましたが、読了後は物悲しさのようなものが残りました。
    なんか…切ないんだよなぁ。
    次は犬にまつわる短編集を読みます。

  • 猫が主役ではなかった。

  • 猫がいる日常。人間に振り回される猫も、たいへんだ。

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著者プロフィール

井上荒野
一九六一年東京生まれ。成蹊大学文学部卒。八九年「わたしのヌレエフ」で第一回フェミナ賞受賞。二〇〇四年『潤一』で第一一回島清恋愛文学賞、〇八年『切羽へ』で第一三九回直木賞、一一年『そこへ行くな』で第六回中央公論文芸賞、一六年『赤へ』で第二九回柴田錬三郎賞を受賞。その他の著書に『もう切るわ』『誰よりも美しい妻』『キャベツ炒めに捧ぐ』『結婚』『それを愛とまちがえるから』『悪い恋人』『ママがやった』『あちらにいる鬼』『よその島』など多数。

「2023年 『よその島』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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