- Amazon.co.jp ・本 (359ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334928681
作品紹介・あらすじ
ペリー来航の1853年…、北前船で栄える隠岐島に、黒船が来た。庄屋の息子・井上甃介は、巨大な鉄の船を航行させる異人に、憧れと恐れを抱く。「異国から村を守るには、世界を知らねばならぬ」、大いなる志を胸に京へのぼる-。甃介の50年にわたる奮闘、敗北、友の死、復讐、恋、そして罪…。舞台の隠岐は、鎌倉幕府を倒そうとした後鳥羽上皇・後醍醐天皇が流された倒幕・勤王の地。新田次郎文学賞『恋の蛍 山崎富栄と太宰治』の著者が描く青春と動乱の幕末維新ロマン。
感想・レビュー・書評
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大河ドラマの影響で、遅まきながら幕末に興味を持ち始めた今日この頃。なので、倒幕派=薩長、佐幕派=会津という印象が強く、同じ時代の松江藩については全く知らなかった。動乱の時代、隠岐島では何が起こっていたのか…心を掴んだのは序文「隠岐島での事件は、維新後、数年間における日本の経験の縮図である。」(ハーバート・ノーマン著『日本の兵士と農民』)だった。
隠岐は鎌倉幕府を倒そうとした後鳥羽上皇・後醍醐天皇が流された倒幕・勤王の地。黒船来航等で揺れる江戸末期、重い年貢に苦しむ隠岐に生まれ育った庄屋の息子・井上甃介は、京で尊王攘夷を学び、重税を課す松江藩と真っ向から対立する。
よくも悪くも情熱的でストレートな甃介。その血の気の多さにハラハラさせられる場面も多々あるが、同志と共に奮闘し、ついには自治政府を立ち上げる。
その過程での藩の無能さ、責任をなすりつけ合う役人共の保身ぷりには反吐が出そうになる。いつの時代も役人は己のことしか頭にないのか。一方で、甃介らが頼りとする新政府も態度が二転三転し、翻弄される甃介らが辿る運命が哀しい。
地方だからこその愚直なほどのまっすぐさが、地域は違えどやはり地方に生まれ育った自分には、何となく理解できる気がする。様々なうねりにのまれ、その中で仲間を失い、裏切られ、敗北した無念さも。
著者の松本侑子さんの作品は本当に久しぶりに読んだ。90年代によく読んだ大好きな作家だったが、小説以外では「赤毛のアン」翻訳など海外寄りな印象が強かったため、時代小説とは意外な気がした。でも、島根の出身だから描けるのだろうと深く思わせる描写が随所にあり、松本さんの地元に対する愛を感じました。
農民から見た幕末の作品というのも、触れるのは多分初めてだと思う。これを機に、薩長や会津以外の日本各地の「幕末」についても色々知りたいと思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
除籍本。タイトルからは内容が類推できない
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幕末の隠岐島での農民による勤皇活動とそれに伴う争乱を描く。日本全土で大なり小なり起こっていたことなのだろうな。こうした一地域の出来事を調べ執筆する郷土史家と著者に敬服する。
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のどかな離島に思う隠岐が、北前船と共に人、モノ、そして情報が行き交うことで、革新的な気質を育む地であったとは。そして、今に残る島前と島後の確執の一端をも見えた。
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幕末から明治という激動の時代を生き抜いた隠岐の加茂村庄屋の息子、井上甃介の半生を描いた作品。日本人も忘れてしまった歴史の舞台裏を描いた、胸にずっしりと残る作品。いまの我々には想像できないような波乱に満ちた人生だが、どことなく羨ましく思うのは、ぼくだけだろうか?
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幕末ものはいろいろ読んだが、隠岐島が舞台とは。
こんなところ(失礼!)にもこんな素晴らしい人たちがいたんですね。
久々にいい時代小説にめぐり合いました。 -
愛媛新聞読書欄より。