ロスト・ケア

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著者 : 葉真中顕
  • 光文社 (2013年2月16日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334928742

ロスト・ケアの感想・レビュー・書評

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  • 老人介護を主軸にしたミステリー。

    介護の辛さの描き方に目新しさはないけれど、そのどん詰まり感はよくわかる。親が死んでくれてほっとする、という感情が露悪的なものとしてではなく想像できてしまう私は、まだ本格的な介護を経験していないうちから、なんて奴だ!と自分のことが空恐ろしくなったり、いや、未経験だからなおさらなのかも、と思ったり。

    介護保険の「改正」の酷さは、ホームヘルパーとして働いている友だちがよくこぼしているので、知っているつもりではいたけれど、そっか、こういうことだったのか・・と愕然。ある時期、町に老人介護施設が急増して、それは老人が増えているのだから需要があるためなんだろう、と単純に考えていたのが、介護ビジネスの起業を促す国の方針が根底にあり、(それはホントに必要だから、だよね)ある程度商売として利益をあげるようになった時点で制度としての梯子をはずす、という非情さ、というより、無軌道ぶり。
    全く、それはないでしょう~~!とあきれてしまった。

    ミステリーとしての意外性、統計から見つけてしまえる「事件」、なぜ人を殺していけないかの問いに対するキリスト教的な見解、など面白く読めたところも多々あり、介護の話は辛かったけど読めてよかったと思う。

    ただ・・・
    作中で、認知症が進んで全く別の人格になってしまった親の介護の辛さ、が語られていたけれど、(それはもちろん、とてもとても切ないものだと予想できるけれど)私の場合は、老いとともに、うん、この人は元々こういう
    いい加減な、OR 依怙地な ところがあったよね、というところが増幅されて表れるのを見る辛さ、というものを感じているので、それも少しは織り交ぜてほしかったかなぁ、なんて。

    親の介護が終わっても(つまり亡くなっても、ということだよね、当然)その次には、自分の配偶者、あるいは自分自身の老いが待ち構えているわけで、その意味では、終わりはない、逃れられないという点もよく書かれていたと思う。

    人間、死ぬときには誰かの世話になってしまうのだから、せめて国のフォローだけは血の通った優しいものであってほしい。
    介護予備軍としても、被介護予備軍としても切実に思う。

  • まず、ミステリーとしては、私はまんまとどんでん返しにやられた。
    「あれ?あれ?」と何度も前の方を読み返し、「あー! そうか」と天を仰いだ。うまくミスリードするなあ。何度も読み返したくなる構成。

    さて、本命のテーマに関して。
    私は《彼》の思想に激しく共感してしまった。だから、逮捕後、大友検事と対峙するシーンでは、大友が「安全地帯からモノを言う偽善の人」に見えてしかたなかった。
    《彼》が大友に投げかける痛烈な言葉は、日頃私が持っている疑問そのものだった。
    他人の命を奪うことはすべて罪だというなら、死刑制度も同じことではないのか。かけがえのない命、と言いながら、特定の人の死を望むとはどういうことなのか。
    高齢化社会はもうすでに到来している。これからもっと厳しい高齢化社会となっていく。世の中は高齢者であふれていくのだ。すべての人が健康で裕福であるべきだというのは理想論で、実際には二極化は進んでいくばかりだろう。いつまで理想論をふりかざしているつもりなのか、と、まさにロストジェネレーション世代の作者は問いかけてくる。
    元総理大臣の失言が取りざたされたが、私にはどこが問題なのかわからなかった。健康な老人を殺せと言っているのではないのに。袋小路で行き詰まって、自分も周りも苦痛しかないとき、「死」は確実にひとつの救いになる。現代は人が死ななすぎる、と言ってもいいくらいだ。どうして尊厳ある人生の終わりが迎えられないのか。
    「絆」というキレイ事で周囲の人間まで引きずり込んで共倒れになることがそんなに素晴らしいことなのか。
    育児もそうだが、「人間の世話」には物理的に時間も手間もかかるのだ。そして身内であるからこその激しい消耗や失望もある。
    介護のために、収入の道が閉ざされてしまう現状を変えて行かない限り、いつかほんとにこのような「ロスト・ケア」が待ち望まれるようになるだろう。

    私の母は、自分も70歳の老人でありながら、老人施設でヘルバーの仕事をしていたことがある。入浴介助をしていたのだが、あるときしみじみと言ったことがある。
    「死ぬのも大変なんだよ」と。もうこのまま静かに逝かせてあげればいいのに、というような人も、病院でかろうじて命だけとりとめて施設に戻される。戻ってきてもそこにあるのは苦痛の日々だけなのに。
    「なかなか死なせてもらえないんだよねえ」と言っていたことが忘れられない。
    他人の命を勝手に奪う権利がないのと同じように、他人の命を勝手に引き伸ばす権利もないんじゃないだろうか。

    ふだんからいろいろ考えていることがたくさん盛り込まれた作品だったので、読み終わっても、いろんな思いが渦巻いて止まらない。

  • ひさびさに読んだ小説は読み応えあるものでした。

    43人もの人間を殺し死刑を宣告された時、男は微笑んだ。
    想像した。
    やがて来る世界の未来を。
    後悔はない。
    全て予定通りだ。...

    マタイによる福音書 第七章 十二節
     だから、
     人にしてもらいたいと思うことは何でも、
     あなたがたも人にしなさい。
     これこそ律法と預言者である。

    そして、<彼>は剣をとった。
    介護という社会に暗部に。

    サイコパスのようなミステリーが展開されるかと思っていた。
    もっと深い物語だった。
    「なぜ人を殺してはいけないのですか?」
    「死刑で犯罪者を殺すのが世のため人のためならば、社会が産み落とした暗部に本人も、家族も苦しんでいる人を助けるために殺すのは人のためにならないのですか?」
    というような件がでてくる。

    悩みますね...。

    ミステリーの謎解きの要素は軽めかもしれない。
    しかし、世の中にぽっかりあいている穴へのミステリーの扉に誘なわれた感じは重いです。


    追伸:
    週刊少年サンデー「犬部!ボクらのしっぽ戦記」のシナリオ協力もしている作者だったんだ。
    こちらもペットから見える社会の穴を貫くシナリオです。
    諦めるのではなく、落ち込むのでもない主人公が魅力のマンガです。

  • ロスト・ケアという言葉の意味が重く心に響いた1冊。

    介護というテーマは重いのですが、読後感が悪いということはなく…ただ、答えは出ない。

    人間としての尊厳や、家族の死を望まないでいい世界、いろいろと考えさせられながらも引き込まれて、一気読み。
    しかも途中でえ?って罠にも素直に落ちました。そこで、あー、ミステリーね、と。おもしろいと言うと軽い感じがしそうですが、おもしろかったです。

  • 日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作品。ミステリとしては、「この人がいかにも犯人!」ってのがあからさますぎて、逆に違うというのがすぐに分かってしまうのですが。読みどころはそこじゃないなあ。
    これはきっと、誰にとっても他人事ではない問題。あまりに凄絶な介護の現実が描かれていて、恐ろしいやら悲しいやら。「安全地帯」に立つことのできる人なんてほんの少数、いつ誰がこの地獄に陥ってもおかしくない状態だと思います。
    その中で起こった「ロスト・ケア事件」。称賛されるべきものではないにせよ、たしかにこれは「救い」なのかもしれません。正義と偽善の境界がひどく揺らぐ気がしました。

  • 現代日本が抱える社会の「穴」、介護問題、介護ビジネスに焦点をあて、抉る。
    問題の周辺に付き纏う、偽善、欺瞞、立場の違う正義感が次々に晒されていく。
    犯人の思考に完全に異を唱えられない自分が確かにいた。
    クライマックスに近づく中で明らかになる真相も、思わず読み返さずにはいられなくなる上手さ。
    これは面白い。

  • 第16回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。
    デビュー作とは思えないほど堂々と、作品の
    骨子が太くそしてグサリと突き刺さってきます。
    ミステリの装丁を身に纏う事で自分のような
    人間にも、見事にその重さと避けては絶対に
    通れないこの先...を見事に提示してくれ、
    自分自身が向かって考えないといけない...という
    当たり前の事実を認識させて貰えます。
    社会派ミステリーなんて枠を越えてでも
    多くの人が手にして欲しい...と思える作品。

    所謂コムスンの事件をベースに現代の
    介護が抱える(というか単に先伸ばしに
    している)問題、家族、高齢化...さらに
    性善説、そして正義対正義と話は絵空事ではなく
    確実に将来に待ち構えている事...について
    淡々と抉るように展開されていく事に、
    誰もが他人事...ではない現実と比べながら
    身を削がれるような想いになってしまいます。

    作中で犯人とされた「彼」がしてきた事の罪を
    裁く現代社会と現代の法。「彼」の行ってきた
    正義は一矢報いる事が出きるのか...。テーマが
    重い...だけで済ませてしまうことが出来ない
    痛烈な作品。

    ちなみにミステリとしても犯人である「彼」
    を追いつめる手法も見事でかなり面白い。
    自分の今年のベスト3確実...っぽいです。

  • 当事者にならなければ分からない事はたくさんあって、読みながら何度も胸が痛くなりました。私の祖母の現状と重ね合わせ、介護保険への疑問には心から共感しました。いずれ自分にも訪れること。他人事ではなく…。殺人は悪いことだけど、ここまでしないと動かないマスコミや行政もまた現実なんだろうと思います。悔い改めろ!という検事の言葉がとても虚しく、偽善的に思えます。彼もまた当事者のはずなのに…持てる立場だかなのかな。悲しくなりました。自分だけで背負うな、と言いつつ、じゃあ誰が助けてくれたのか?難しいミステリーでした。

  • 犯人のどんでん返しはいらないと思うし、震災との関連付けもいらないと思う。見せかけだけの友人関係も、おれおれ詐欺も覚醒剤もいらないと思う。もっともっとストレートで良かったんじゃないかな、と思う。
    これだけ無駄なものを描いてさえ、なお胸に迫るテーマであり、筆致であったから。
    さっそく「絶叫」を図書館で予約した。24人待ちだ。

  • 葉真中顕作品初読み。
    介護業界の一端にあるとは言え現場の苦労も、自身の親の介護の問題に直面さしたことがないのでなんとも言えないけれど。
    多少の綺麗事かなという部分はあるけれど介護者・非介護者の問題をうまく表していると思う。
    犯人像についてはちょっと意表つかれましたが、文字のみの小説だからこそのミスリードかな(笑)

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ロスト・ケアの作品紹介

社会の中でもがき苦しむ人々の絶望を抉り出す、魂を揺さぶるミステリー小説の傑作に、驚きと感嘆の声。人間の尊厳、真の善と悪を、今をいきるあなたに問う。第16回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。

ロスト・ケアの文庫

ロスト・ケアのKindle版

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