雨のなまえ

著者 :
  • 光文社
3.28
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感想 : 183
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  • Amazon.co.jp ・本 (226ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334929053

感想・レビュー・書評

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  • 梅雨。その言葉を聞いただけでもう憂鬱になる。
    あの梅雨特有のじめっとした空気の中で、息苦しさや頭痛に今年も悩まされるのか…。
    しかも今年の梅雨は例年より早く始まってしまい、それだけで気が重い。早く始まったのだから早く梅雨明けするといいのだけれど。

    大概の人に鬱陶しがられる、じめじめした梅雨空を思わせるような湿度の高い5編の短編集。
    生きづらい日常をおくる主人公たちの悩みが伝染するかのように、こちらもどんより暗くなって気分も落ち込み、物語の救いのない展開に何度も息苦しくなった。
    けれどこれが偽りのないリアルな世界なんだという説得力も感じた。
    思わず目をそらしたくなる現実を、ひたひたと迫るように書き綴る窪さんの筆力に圧倒された。
    各短編の主人公たちの梅雨明けが、どうか早めに来ますように、と願いながら…。

    『雷放電』『あたたかい雨の降水過程』が好き。
    特に『あたたかい…』のラストは泣けた。
    「ばか」という言葉。こんなにも温かく安心感のある言葉だったんだ。不器用なシングルマザーの物語。母として共感できる箇所が多かった。

  • 雨にまつわる短編集。
    なかなかの激し目の性描写あり。そして、陰鬱な雰囲気が全編に漂っている。
    どの雨もどんよりしていて、なんだかテンションが下がってしまった。

  • 帯の一文だけではあらわしきれない、5人それぞれに降る、ヒリヒリとした雨の物語。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    表題作含む、“雨”が登場する5本の短編集。

    窪さんの小説には、結婚や出産を機に男女の関係をどちらかが無くしていったり、距離が離れていくお話が多いように思います。
    今回のお話にも、そうしたものが含まれていました。

    「雷放電」「ゆきひら」は、最初ラストの状況が理解できず、そこだけ読み直しました。その意味がわかるにつれて、ジワジワとした衝撃が走りました。

    最後の短編「あたたかい雨の香水過程」は、うまく言い表せない違和感で夫との離婚を決意し、息子とともに生きていくことを決めた女性の話です。
    しかしこの主人公が、どうしても好きになれませんでした。
    丁寧な口調でありながら、人との間にきちっとした実線をひきながら生きる主人公。
    白か黒かしかなく、息子に対して無意識の支配欲があり、自分の空間にそぐわないモノ(夫や息子の友だちと母親)を、切り捨てようとしていく姿、うけた恩をすぐお金やモノで返さなければと考えるその生き方に、ひどく息苦しさを覚えました。
    けれどその反面、主人公のこうした部分はわたしにもあるなあ…と、キリッと胸が傷んだのも事実です。
    そして、世の中にはわりきれない、かえしきれないほどの大きな愛をもっている人がいることも、教えてくれる物語でした。

    最後に、ハード面についてです。
    この本はソフトカバーの単行本なのですが、カバー部分が本体よりも少し大きい造りになっています。
    そのため、結構めくりづらく、それが読みにくさにつながってしまっていた点は、とても残念でした。

  • カープがリーグ優勝したね
    次は日本一じゃっ!

    ってな事で、窪美澄の『雨のなまえ』

    雨のなまえ
    記録的短時間大雨情報
    雷放電
    ゆきひら
    あたたかい雨の降水過程

    の短編集。

    それぞれ雨にまつわる虚無感、エロス、幻想、彷徨い、想い出、囚われ、我が儘、嫉妬、蔑み……。 ⁡
    ⁡⁡
    ⁡等々、雨が流し去ってもくれない様な、人間の不条理と言うか泥深い心理を描いてる様な感じかなw

    2017年37冊目

  • 雨のなまえ・・・というと、想い出すものは狐の嫁入りとか霧雨、小糠雨、小夜時雨・・日本は雨の呼び方(名前・種類)が多い気がする。しかも響きも字面も美しい。本書には、最初そんな美しい雨と人とを織り成す優しい物語をイメージをしていただけに、読み進めていくにつれなんともやるせなくなってしまった。
    短編の中の登場人物は皆、現実に起こり得る負の感情と向き合わざる負えない人達ばかり。幸せの中にいるはずなのにふと逃げ出したくなる気持ち・・妄想の世界に身を置くことで生きながらえる人など、、それらが短いストーリーの中にぎゅっと凝縮されていてチクリチクリと読み手の心を刺す。 流せるものなら流してしまいたいものを抱えて生きている、それこそが人生というものだろう、紛れもない現実の一つなんだよというメッセージ。でも、この本がそこまで絶望的でないのは、やはり流れなくても自分の中に抱えたままでも、雨上がりの雲の切れ間から青空を観る事も人は許される、誰だって見れるはずなんだよ!という、作者の思いも汲み取れるからだと思う。そんなことも感じさせてくれた一冊。(3.5)

  • どの話も雨のシーンが出てきて、薄暗く湿気の多いスッキリとしない短編集。

    最終話だけ少し救いが見えたかな。

    窪さんに人間の暗い膿んだ感情を書かせたら天下一品なんではないでしょうか。
    どうしようもなく病んでいるのに、すごく血が通っている様な生命力を感じます。

    私はこのどうしようもない感覚、
    すごく好きです。

    雨のなまえ/記録的短時間大雨情報/雷放電/ゆきひら/あたたかい雨の降水過程

  • この方の本を読むのは2冊め、以前からタイトルが気になる物ばかり。
    5篇の短編小説、いきなり際どい描写にドキッとしましたが進むにつれ、どれも自分の事しか考えてなく事が起きた、とそんな内容でした。ゾワゾワ感が湧き出ました。
    無い物ねだりなんだろうな…

  • 「午後から雨になるみたいですね」
    こんな世間話の文底には、「雨なのか、嫌だなぁ」「降らなきゃ良いのに」「傘用意するのがめんどくさい」といったネガティブな感情がある。

    雨は降るとめんどくさい。
    だが、雨が降らない日が続くとそれはそれで困る。

    その雨をモチーフにした短編集。

    「雨のなまえ」
    妊娠中の妻がいるのに浮気をしている主人公悠太郎。
    同級生で資産家の娘・ちさとにとっては待望の妊娠。
    母子家庭の悠太郎は、母親の男が変わるたびに引越しをする不安定な少年時代を過ごした。
    悠太郎が一生分の給料を出しても買えない様な高級マンションを、娘の妊娠と同時に買い与える義父母。

    「記録的短時間大雨情報」
    痴呆が始まったと思われる義母との同居がはじまる。夫はまったくの無関心。一人息子の教育費のためにパートに出た先で出会ってしまった大学生。
    自分の名前ではなく「作哉くんのお母さん」となってしまう日常。
    その中で澱のようにたまっていく抑え切れない感情。

    「雷放電」
    「一人の人間に割り当てられた幸せの量があるとして、自分はもうそれを使い果たしてしてしまったのではないかと思う」
    「こんなに美しい女が自分の妻になるなんて夢みたいだ。おれは毎日、何度でもそう思う」

    「ゆきひら」
    中学校教師の臼井には、中学時代の同級生ユキとの悔やんでも悔やみきれない過去があった。妻の戸紀子にはそれは話していない。それは戸紀子のなかの秘密を確かめるのが怖かったから。そして教師の仕事にのめりこむことで、そこから逃げていたのだ。

    「あたたかい雨の降水過程」
    「おまえの言葉は刃物みたいに人を傷つける」別居している夫から言われた繭子。シングルマザーとして必死に働き子育てに奮闘するが、思うように行かない毎日が続く。
    「仕事と子育てだけしていたかった。そうしたくて、夫と離れた」のに。


    心の奥底に眠っている自分でも気づかない感情に気づかされる5つの短編。

  • 雨にまつわる短篇5つ。
    切なくて虚しく、そして暗くて軽い、
    そんな印象の作品たち。

    暗虚しいのに 嫌いではなく、むしろ好き。

  • 満たされなくて、もがいてみてもどこにも辿り着けない物語。
    ざらざらした手に撫でられるようで不快なんだけど、その手の残した感触を忘れられない。

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著者プロフィール

1965年東京生まれ。2009年『ミクマリ』で、「女による女のためのR-18文学賞大賞」を受賞。11年、受賞作を収録した『ふがいない僕は空を見た』が、「本の雑誌が選ぶ2010年度ベスト10」第1位、「本屋大賞」第2位に選ばれる。12年『晴天の迷いクジラ』で「山田風太郎賞」を受賞。19年『トリニティ』で「織田作之助賞」、22年『夜に星を放つ』で「直木賞」を受賞する。その他著書に、『アニバーサリー』『よるのふくらみ』『水やりはいつも深夜だけど』『やめるときも、すこやかなるときも』『じっと手を見る』『夜空に浮かぶ欠けた月たち』『私は女になりたい』『ははのれんあい』『朔が満ちる』等がある。

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