象の墓場

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (420ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334929176

感想・レビュー・書評

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  • 思えば、ぼくが広告会社に入った昭和50年代は、新聞や雑誌の広告原稿の入稿が新聞社によってはまだ凸版という鉄の板で行われていた時代だった。
    それから数年して凸版は完全に姿を消し、フィルムに取って代わられた。
    また、そこから10年以上を経て、フィルム入稿からMOのデータ入稿が一般的になっていった。
    僅か20年弱の間に広告の原稿入稿形態も大幅な技術革新が起こったことになる。
    それはひとえにコンピュータによるIT化の流れに起因している。

    この小説は、アメリカの巨大フィルムメーカーが、時代の趨勢により業態革新を迫られ、その先の未来をある程度予見しながらも、乗り遅れ、衰退していった物語である。
    その期間、僅か15年。
    小説の冒頭である1992年には、誰にも予想できなかったことだろう。

    しかし、1990年代から、世紀を経て21世紀に入ると、アナログからデジタルへの変化によって、世界や日本の産業界は劇的な変貌を遂げた。
    フィルムメーカーの世界は、その象徴でもあった。
    当時、街のあちこちにあったDPEショップなど、今では影も形もない。
    せいぜい、コンビニがその代役を果たしているくらいか。
    銀塩写真から、現像を必要としないデジタルカメラの世界へ100%移行するなど、コダックも富士フィルムも考えだにしなかっただろう。

    ところが、ウィンドウズ95発売以降のPC普及による低価格化、デジタルカメラの驚異的な速さでの技術革新、印刷機械の高性能化などによって、事態は一変する。
    さらには、カメラ付き携帯電話やプリクラなど、それまで考えもつかなかった商品が新しい市場を産みだし、世の中の根本を変えていく。
    技術革新に終わりという言葉はない。
    今流行っている商品やサービスにしたって、いつ何者かに取って変わられるか分からない。
    まさに、何が“象の墓場”に向かっていくのかは誰にも予見できないのかもしれない。

  • コダック社がモデル。世界最大のフィルム会社・ソアラ社が、デジタルの時代が来ることを予想しながらも、自らの高収益なビジネスモデルを守るために対応が後手に回ってしまう。日本法人に勤める最上栄介は、新事業のデジタル製品の販売戦略担当となるが、デジタル化へと急速に変化する環境にどのように立ち向かうのか・・・
    昔はあちこちに街の写真屋(現像屋)があり、年賀状なども依頼していたことを思い出した。デジタル・ネットの普及により、写真を撮るという行為は比べ物にならないほど以前より多くなっているのだろう。紙に印刷された写真といえば、そのうち卒業アルバムなども、データ支給などという時代がくるのだろうか?

  • イノベーターのジレンマと合わせて読むとよい
    身につまされる話

  • 文学

  • 技術革新の推移が良く分かる。。90年代に読んでたら大金持ちやった!

  • 自分で自分の首を絞めるというか・・
    切ないなぁ。

  • 「筋のいい商売はトントン拍子に決まっていく」、「仕事のできるやつは1つのきっかけで想定される幾つもの事態を思いつく」とか何かがコトリと音を立てて転がり出すようなそんな感じだよなぁ。さて、次の墓標は何処に立つのだろう。

  • リアル。主人公の仕事とオーバーラップする部分があり、身につまされる感覚。読み物としてもすごく面白かった

  • デジタルカメラとスマホ、パソコンとインターネット。今や当たり前となっているものが、フィルムとFAXの時代から考えると想像上の産物だった。それがイノベーションによって現実となった。企業の大小や業界に関わらず、技術進歩のスピードにより業態の変化や自動化に伴うリストラが加速度を増していく可能性があることを述べている。身につまされる思いで読み終えた。

  • 一応ソアラという架空のフィルム会社の話になっているが、どこからどう見てもコダックのお話。テクノロジーの進化で、今までのビジネスが文字通り蒸発してしまうという、一言で言えば「諸行無常」の中でもがく人物を追ったストーリだが、まさに奢れる者は久しからず、色々と考えさせられる。
    個人的に初めて買ったデジカメがコダックのDC3800という機種だったこともあって、余計に感慨を感じてしまった。

  • ここ20年くらいにおけるカメラフィルムメーカーは凄惨な闘いを強いられてきたということはボクにもわかります。
    巨大になりすぎた企業は、急激に時代が変化することがわかっていても、大きく舵を切ることができないということなのでしょう。

    これまでの事業は継続しなくなるということがわかっていても、過去の成功例にしがみついてしまうのも理解できます。
    保守的な言動から飛躍して、身軽に変化していける状態を保っていけるのがこれからの社会への心構えだと感じました。

  • カメラが銀塩(フィルム)からデジタルに変わっていく過程で、コダック社(作品内では別名だけど明らか)がいかに衰退していくかの話。
    小説自体は、終わりが見えているので、暗い展開しか望めず読んでて楽しいものではない。盛り上がりに欠けているし、なんとなくページを繰る手も重くなる。

    技術革新が進めば衰退する産業はあるわけで、例えばレコードや(いや、今やCDもか)、カセットやMD、日本では造船、鉄鋼、石炭なんかもどんどん斜陽化衰退化したわけで、それらに携わってきた企業にはそれぞれこういう話が盛りだくさんあるんだろうなぁと…。

    でも時々そういう時代の流れに逆らってみたくなる俺、携帯はガラケのままだし、LINEってのもまだやってないし、登山靴はあえてのドタ靴…

    利便性や人間のつながりやそういうことが、技術革新でどんどん向上してるように見えるけど、それで本当に世の中楽しくなってるのだろうか?

    なんかそういうとこ引っかかってる俺は、この作品に甘めの評価をしてしまいました

  • あきらかにコダックと富士フィルムの話。フィルム業界は門外漢であるが、なるほど、銀塩からデジタルへの移行は消費者からすると手放しで喜べるものだった分、メーカー側からすると死活問題だったのだ、と思いしらされた。
    完成された古いビジネスモデルに固執するあまり、世の中の劇的な変化に対応できず、絶滅してしまう。象というより、恐竜だ。

  • まるで我が社を見ているようで…

  • コダック消滅の物語、

    コダック退社後作家に転じた著者の力作。

  • フィルム時代

    そうでしたね~
    カメラがあって、写真を現像してから
    はじめてみる。
    現像してからじゃないと写真を見ることができない。
    そういう時代が当たり前でしたよね~
    写ルンですといったサクッと買えるカメラもあったなぁ!

    たしかにフィルムからデジタルへの技術進歩はスゴイ。

    デジカメ自体が1970年代に既に完成されていたことにも驚きましたわ。

    かなり長文でしたが・・
    コダックが徐々に時代とともに衰退していってしまうお話。

    プリクラってコダックだったんですか?

  • 衰退するコダックの話。

    デジタルの急速な技術発展のために衰退するフィルムカメラ。その衰退の課程を、フィルムメーカーであるコダック(文中ではソアラ)を通して見たお話。

    デジタル化を見通してはいたが、上手く転換できなかったお話なので、ちょっと閉塞感がありスカッとしません。

    それにここ15年見てきた話で、それほど新たなオドロキが無いんですよね。

    フジフィルムのように生き残った会社にスポットを当てたほうが良かったのではないかと。

    読みやすいのは間違いないですが、会社が潰れる課程を400頁も読むのはシンドイ。

    結果の見えてる小説なら、もう少し何かが必要だったのではないでしょうか。

    積極的に薦める本ではないです。

  • 何かいつもの感じでなくダラ〜とした感が いまいちだったんじゃん

  • 日本のバブル崩壊後の10~20年間は、
    まさしく、イノベーション(技術革新)の時代でもあり、
    例えば、音楽では、レコードからCDへ、CDからダウンロードへと、
    その形態は、まったくの別物へと急激に変化し、その結果として、
    CDメーカーはどぅなるの?、レコードメーカーはどぅなったの?、
    となりましたが…、同じことは、他の製品にも様々にありました。

    本作品は、その一例…。
    フィルムカメラからデジタルカメラへと、市場が変化した中で…、
    フィルムメーカーはどぅなったの?、といぅ素朴な疑問に対して、
    その答えの1つを示しています。

    偶然ではありますが、昨年、江上剛さんの『断固として進め』で、
    富士フィルムの、フィルム事業から化粧品事業への進出の様子が、
    現場視点・開発者視点で描かれていましたが…、
    本作品は、同じ命題に対する「コダック」が舞台となっています。

    作中の時系列は、1992年~2004年の出来事ですが…、
    この間、Windows95とiMac、インターネット、ITバブルと、
    デジタルを取り巻く技術と市場は、大きく変革しており、
    その変革の波に、大企業からベンチャーまで飲み込まれました…。

    実際の、富士フィルムでは、
    化粧品事業が所属しているメディカル・ライフサイエンス分野が、
    主要セグメントの柱の一つとなってきており、順調みたぃですが、
    コダックは、2008年に、チャプター11を申請しており(倒産)…、
    完全に明暗が分かれています。
    本作品も、お話の基本的な骨格は、現実をトレースしています…。

    富士フィルムは、自社の保有技術を利用し、
    フィルムから化粧品へと、まったく異なる領域に進出しましたが、
    コダックは、フィルムからデジタルへと渦中で足掻いており、
    その戦略の違ぃには、とても興味深ぃものがありました。

    作中のソアラ社(コダック)のコンセプトと読みは、正解でそぅ。
    でも…、米系企業の、株主に向いた経営の効率の悪さが、バッド!
    ただ、巨大企業としての傲慢とおごりも見えたし、その意味でも、
    『断固として進め』と対比して読むと、より一層面白かったです。

    小説としては、
    限られたページの中で、12年もの長い期間が描かれているため、
    あまり、山場といぅか起伏が乏しぃお話にはなっていますが…、
    その点は、
    金融やファイナンス以外を扱った企業経済小説の難しさ、
    といぅことにして…、及第点は、あげられると思います。

    経済小説といぅと、
    やはり、金融業界を舞台にしたものや、事業会社を舞台にしても、
    M&Aや事業再生など、ファイナンスに係わるものが多ぃですが、
    これらは、経済活動の中では、ほんの一部の業界・事象に過ぎず、
    多数を占めるのは、日常生活に、直接的・間接的に係わってくる、
    実体のあるモノやサービスを取り扱ぅ事業会社が、ほとんどです。

    確かに、マネーゲームは、小説的なネタであるとは思いますが…、
    人間の生活を支えているのは、良くも悪くも「現場」なんですし、
    もっと、現場を舞台とした企業小説が増えてくるといいのにな~。

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著者プロフィール

1957年生まれ。米国系企業に勤務中の96年、30万部を超えるベストセラーになった『Cの福音』で衝撃のデビューを飾る。翌年から作家業に専念、日本の地方創生の在り方を描き、政財界に多大な影響を及ぼした『プラチナタウン』をはじめ、経済小説、法廷ミステリーなど、綿密な取材に基づく作品で読者を魅了し続ける。著書に『介護退職』『国士』『和僑』『食王』(以上、祥伝社刊)他多数。

「2023年 『日本ゲートウェイ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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