粗忽長屋の殺人(ひとごろし)

著者 :
  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (252ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334929923

感想・レビュー・書評

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  • 古典落語に出てくる謎解きを面白可笑しく解き明かす短編集。
    登場するのはお江戸に住まう貧乏長屋の愉快な面々。メインとなるのは物知りなご隠居に、おっちょこちょいでお人好しの熊さん八っつぁんコンビ。
    みんな口は悪いが気のいい奴ら。軽快なやり取りに読んでるこちらも笑ったりツッコミを入れたり、と物語に参加している気分でまた楽し。
    江戸の話のはずなのに現代の言葉も散りばめられて、いや〜愉快愉快。
    しかもどの短編も落語とあって締め方も粋でスッキリ。

    かの『おけら長屋』のように、ぜひ『粗忽長屋』シリーズとして続けてほしい。

  • 落語の演目をベースに独自の展開を膨らませ、長屋の住人界隈で繰り広げられる原因不明死の謎、不審行動、珍事を、熊五郎、八五郎の粗忽者コンビを相棒に、長屋の大家を任されている御隠居、幸兵衛がお江戸版安楽椅子探偵として解決に導く。

    時代物はその昔、宮部みゆき氏の書いたものをいくつか読んだことがあるくらいでほとんど手に取らないのだけれど、設定が面白そうだったので、図書館で予約。

    純然たるミステリを楽しむというよりは、落語、時代物との融合を楽しむものとして読めば全然あり。
    ミステリ的な内容よりも、会話の掛け合いの中でぶっ込んでくる駄洒落が、時代物の設定でありながら、いちいち現代の状況と掛けてくる白々しい様が馬鹿馬鹿しくて癖になる。

    落語という文化を味わいつつもさらっと楽しく読める一冊でした。

  • 落語の背景に、もう一つの事件があるんじゃないかと横町の隠居が、熊さん八さんを使って解き明かす話。例えば寝床の大家は、どうしてそんなにまでして義太夫を皆に聞かせたかったのかって話。確かに、そもそもの設定に無理があるところをついて事件を見つけるのは面白い。ただ横町の隠居を安楽椅子探偵にしちゃっているので、熊さん八さんの限られた話から推理するので、飛躍があって、運よく当たったからいいけどって気もする。一番気になるのは構成。元になる落語の概略紹介が解説代わりについているのだけど、本文も最初は同じ話をなぞって進む。読者は2回、同じ話を読むので飽きる。飽きさせないためのサービスか、本文では時事ネタがたくさん盛り込まれているのだけれど、これがよくない。すでに話の概略を読んでいて、その先が知りたいのに、脱線ばかりしてなかなか先に進まないことにイラついてしまう。落語らしさを伝えようとしているのかもしれないけど、なんとなく中途半端な気がする。話そのものは面白いので、もうちょっとスッキリしているといいのにって思う。

  • デッドマンの作者とは思えない、真逆の時代小説。落語でお馴染みの熊さん、八つぁん、御隠居を狂言回しにした軽いミステリー仕立て、と言うより、オヤジギャグ満載のダダ滑り人情本。はじめに落語の粗筋もあげてあるからテンポよく進んで行く。字を追いつつ、音に変換されて脳内に小気味良く響いてくる。閉塞的な今にぴったり。

  • 鏑木班シリーズとのテイストの違いに驚きました。落語ミステリとでも言えばいいのでしょうか。でも落語家さんの活躍するミステリではなく、一話ごとが現代風の落語として通用するのです。探偵は粗忽長屋のご隠居さん。それぞれの話には元ネタの落語がありますがきちんと粗筋の形で章の一番前につけてくださっているので引用も分かり易くとても読みやすいです。落語らしくみんなを笑わせる時事ネタがいっぱい仕込んでありますし面白い試みだと思いました。落語として聞いてみたい気もします。笑えるものもほろりとくるものもありとても楽しみました。

  • 古典落語を下敷きにした連作ミステリ。ジャンルや業界の事情に特化したいわゆる落語ミステリではなくて、登場人物たちが噺の中で事件を解決するパスティーシュ形式の作品です。各話の謎解きのみならず、予めあらすじを記した上で元ネタのオチをどう使ってくるのかで膝を打たせるのは本格に通じるものがありました。時事ネタ、メタネタの入った語りにも笑わせて貰い、落語をそのまま4本こさえたような仕上がりです。

  • この作品の文章は、しっかりと上下がついている。
    そのまま高座で演じられてもいいような、噺口調で書かれた本作は、無駄が無くよどみも無くトントントンと進んで小気味が良い。

    古典落語の大ネタを組み合わせ、数々の落語ネタや枕のような時事ネタも加えて仕上げた4つのお話は、とても面白い人情話になっており、これはもう古典を元にした新作落語といってもいいような内容だ。

    大好きな「紺屋高雄」にあれこれ加え、しかも元よりも更に粋な終わり方をつけた最後の1話が最高だ!

  • 古典落語をミステリ仕立てに解釈した短編集。著者のこれまでの警察小説とはまったく雰囲気が違って驚いたが、落語好きなので面白かった。
    取り上げられているのは、大店の婿が三人連続で死んでしまったという「短命」、下手な義太夫をきかせたがる迷惑な旦那の話「寝床」、残り二編は合わせ技で「粗忽長屋」+「粗忽の使者」、「千早ぶる」+「反魂香」+「紺屋高尾」。元ネタを知らなくても各短編の最初にあらすじが書いてあるので大丈夫。
    ラストの「高尾太夫は三度死ぬ」はさすがにはっちゃけすぎだと思うが、どれもなるほどね〜という楽しさに溢れた話だった。

  • 古典落語をミステリ風にパロディ化した連作短編集。

    著者風にアレンジはしてあるものの、まさに落語を聞いてるかのような見事な語りっぷり。現代の時事ネタまでぶっ込まれ、原作から随分とはっちゃけてはいるけれど、終始楽しく読ませてもらった。これまで書かれている警察モノでも軽妙な描写は多くあったが、こちらの作品のほうが上手く調和していて、著者ならではの持ち味が発揮されていたように思う。私のツボにぴたりと嵌るギャグネタばかりで楽しかった。

  •  古典落語の内容を、よくよく考えてみると奇妙なことがある。それは、そこに何か事件が隠れているからなのでは――――と元ネタを一捻りしてミステリにした1冊。
     長屋のご隠居が探偵役となり、熊さん、八っつあんとともに謎解きします。

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     (元ネタのあらすじは除いて)お話はすべて、噺家さんが喋っているものをそのまま文字に書き起こしたような文体です。
     地の文は少なく、殆どが会話から成っているんだけれど、それでいて、その場面が浮かばないということはなく、読みやすいです。

     元ネタに謎解きの要素を加えてまとめたものだけれど、無理のない展開でうまくまとめられてると思う(時代小説とかの時代考証に厳しい人なら納得いかないかもしれないけど、そういう細かいことを気にして読む本でもないと思う)。

     ただ、ちょこちょこはさんでる時事ネタが滑ってるのがね…。
     実際に噺家さんが話すときは、その時々に合わせて時事ネタは更新するんだろうけど、本として出てしまうと、そのときでストップしちゃうから、段々通用しなくなるよね。

     あと、今日(2016.6.24)放送したおじゃる丸の「おじゃる様のありがた~いお言葉」が、『寝床』のオマージュ(?)で、何ていいタイミングなんだと。
     そういえば、前やった「ちはやぶる」は『千早振る』が元ネタだったね。

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著者プロフィール

河合莞爾
熊本県生まれ。早稲田大学法学部卒。出版社勤務。
二〇一二年に第32回横溝正史ミステリ大賞を受賞し『デッドマン』でデビュー。他の作品に『豪球復活』(講談社)、『デビル・イン・ヘブン』『スノウ・エンジェル 』『ジャンヌ』(祥伝社)、「カンブリア」シリーズ(中央公論新社)などがある。

「2023年 『カンブリアⅢ 無化の章』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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