探偵小説論序説

著者 :
  • 光文社
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感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (259ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334973360

作品紹介・あらすじ

探偵小説原理論の決定版!本格ミステリの隆盛と転換を見据える。

感想・レビュー・書評

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  • 探偵小説のストーリーは、定型的であると同時に
    さまざまな規則によって縛られてもいる
    つまり探偵小説は
    近代ロマン主義の影響下に生まれた1ジャンルでありながら
    むしろ近代に背を向ける方向へと発展したものだ
    そして、その大衆化を急速に進めたのが
    二度にわたる世界大戦の戦間期であったことは
    ある重要な示唆を含んでいる
    第一次大戦に登場した大量破壊兵器が
    「近代的人間」なる錯覚を打ち壊したのにともない
    「群集」へと退行していった人々は
    みずからの先行きをさまざまに決めかねていた
    そういう中で、なぜ探偵小説が広く求められるようになったのか
    それは、近代に背を向けて
    近代小説のメタレベルに到達したのが探偵小説だからである
    読者が探偵の捜査過程(プロット)を読むとき
    探偵は犯人の隠した真相(ストーリー)を読んでいるのだが
    そういう二重構造じたいが
    近代小説へのポストモダン的な批評になっており
    また同時に、探偵小説では
    登場人物の内面描写を徹底的に排除していたことが
    「近代的人間」の理念を失った人々の気分に
    フィットしたのである
    つまり読者たちは、単なる謎解きパズルの域を超えて
    犯罪を犯してしまった犯人の心に
    またそれを追う探偵の足取りに
    失われた自分たちの物語を探していたのかもしれなかった

    もちろんそこに
    デマゴーグの萌芽を見ることもできなくはないのだ
    あらゆる迷信はすべて論理的に説明可能とするロマン主義だが
    ひっくり返せば
    論理を駆使することで迷信を操ることも可能だ
    名探偵は、ときにそういう詐術を用いて読者を錯覚させる
    単なる憶断、直観、決めつけを
    あたかも論理的帰結であるかのように提示することができる

    しかし少なくとも、探偵小説における安易な結論に対しては
    読者が厳しく追及していくことになるだろう
    またそれが優れた作品ならば
    提示された謎をひとつの象徴として解明する過程にこそ
    真実が見いだされるだろう
    そのように、たったひとつの真相を見出そうとする
    ラジカルな態度こそが
    ポストモダニズムまでをも超えて、探偵小説の誘発する
    ロマンであろうかと思います

  • 大学図書館二階

  • 030621

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著者プロフィール

作家・評論家。1948年東京生まれ。
79年『バイバイ、エンジェル』でデビュー。98年編著『本格ミステリの現在』で第51回日本推理作家協会賞評論その他の部門を受賞。2003年『オイディプス症候群』と『探偵小説論序論』で第3回本格ミステリ大賞小説部門と評論・研究部門を受賞。主な著作に『哲学者の密室』『例外社会』『例外状態の道化師ジョーカー』他多数。

「2024年 『自伝的革命論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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