増補完全版 監督ザッケローニの本質~20人の証言で探る知将の戦略

  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (357ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334977832

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  • 「増補完全版 監督ザッケローニの本質 20人の証言で探る知将の戦略」
    ザッケローニの歴史。


    本書は2011年9月に出版された監督ザッケローニの本質に、日本代表監督就任以降の3年半を振り返った7章、及び本田、長友について取り上げた8章を新たに書き下ろした増補完全版である。


    1章から6章までは、ザッケローニの監督としての歩みを関係者のインタビューを基に再構成したバイオグラフィとなっている。日本代表監督になってからのザッケローニしか知らない人にとっては、ザッケローニの過去を知る良い機会となると思う。


    ザッケローニと言えば、ウディネーゼとミランでの成功が最も知られている。しかし、監督としての土台を作ったキャリアにも注目して頂きたい。


    プロキャリアの無いザッケローニは、セリエC、Bで結果を残してセリエAまでのし上がって来た叩き上げである。そもそもカルチョの世界でこれをやってのけるのは、非常に難しい。セリエC、Bでオーナーからのミッションを達成し、チームを残留、飛躍させてきたこの時期が、ザッケローニにとって転機になったのは間違い無いかと思う。何故ならこの期間、彼は監督業に本腰を入れていなかったからだ。


    ザッケローニの成功にも触れておく。つまりは、ミランとウディネーゼで勝てる監督としての評価を確立した時期についてだ。


    ザッケローニのセリエAでのキャリアは、95年に就任したウディネーゼから始まり、ミラン、ラツィオ、インテル、トリノ、ユベントスと続いた。


    特筆すべきはどのクラブでも監督としての手腕は、ファンと選手から評価されていたと言う事だ。選手の力を引き出し、チームをマネジメントする力をファンは評価し、選手は理解した。だからこそ彼らは全力でプレーし、勝利を目指した。三者の相性はいつも良かった。


    しかし、問題はいつでも起こりえる。ザッケローニにとって、うるさ型オーナーは問題を起こりえる存在だった。代表的な存在はベルルスコーニ、モラッティ、カイロの3人である。彼らは、言わずと知れたうるさ型(現場介入型)である。


    ただ、3人の中で特殊なのがモラッティだ。彼は、うるさ型と言うより現場介入型である。基本、自分のやりたいサッカーをさせたいが為にあれだこれだと文句を付けに現場介入して来るものだが、モラッティはちょっと違う。彼は自分のサッカー観を押し付ける為に現場に介入するのではなく、自分の愛するインテルが好き過ぎて心配だから現場に介入するのだ。


    そして、彼は歴代カルチョオーナー屈指の優柔不断な性格の持ち主でもある。だから、クラブを掻き回す事が大半だった。もし、彼に決断力があれば、ザッケローニはインテルの監督にベストのタイミングで就任出来たはずだ。


    最後にあえて3人の中には、別格の存在の為、含めなかった人物がいる。それは、ザンパリーニである。ビジネスマンとしてかなりのやり手だった彼は、サッカービジネスに入っても変わらない。監督を見る目もあるとは思うし、自チーム強化の為に他リーグクラブを買収する戦略は理にかなっていると思う。だから、彼に対してそんなに悪い印象は持っていない。


    しかし、それは外部の人間だからそう思えるのだろう。何せ彼は、カルチョの長い歴史の中でも随一のうるさ型会長であり、彼の気分で首を切られた監督は枚挙にいとまないからだ。監督としてはやりずらいだろう。


    成功と同じくらい失敗や苦難を乗り越えてきたザッケローニが、日本の監督になったのが2010年。


    そして、2014年W杯が終わった。休養中のザッケローニはまたカルチョの世界に帰って来るのか。それとも日本に帰って来るのか。今後が楽しみだ。

  •  言わずと知れた日本代表監督、ザックさんの半生を綴った良書である。
     名著と言っていいだろう。彼が日本代表監督に至るまでの道程を克明に描いていた先の出版に、日本代表監督としてのブラジルに至るまでの道程を増補したこの増補完全版は、過不足なく彼のお人の本質を描き切っている。
     8章の本田と長友についての記事は蛇足に思えたが、そこまでは本当にお見事。ストーリーとして見ても本当に激動で面白く、合間に挟まれるインタビューもまた興味深い内容である。構成で見ても、優れた一冊である。
     いささか余談であるが、特に証言19から証言20に繋ぐ構成はなかなかえげつない代物で、さらし者の有様に笑ってしまった。
     そう、ご自身が仰るように「自分の失敗を正当化するために他者に責任の一部を転嫁するというのは、誰にでもあることだ」ということであろう。

     W杯前に日本代表を見直す意味でも、大変意義ある読書だった。さて、準備は済んだし、ザックさんがどんな結果をもたらすか、楽しみに待ちたい。

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著者プロフィール

1962年生まれ、宮城県仙台市出身。95年からイタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』、共著に『モダンサッカーの教科書』シリーズ、『サッカー“ココロとカラダ”研究所』など。

「2021年 『カルチョメルカート劇場』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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