天使の恥部 (文学の冒険シリーズ)

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制作 : 安藤 哲行 
  • 国書刊行会 (1989年9月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (322ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336024695

天使の恥部 (文学の冒険シリーズ)の感想・レビュー・書評

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  • ★★★
    物語は三人の女性の視線で語られる。
    まず出てくるのは世界一の美女。新婚の彼女は夫の監視下の生活を強いられている。美女はあるパーティーで知り合った男との接触から、自分の出生の秘密と、自分が30歳になったら他者の思考を読めるようになるようになると知る。男と共に夫の島から抜け出す美女は、映画女優として世界の注目を浴びる。映画会社による新たな監視生活。

    1975年、ブレノスアイレスからメキシコに移り、病養生活を送るアナ。夫フィトとの離婚後、知り合ったアレハンドロからのプロポーズを避け、メキシコに渡る。自分の母の元にフィトとの間にできた娘を置いてきている。ペロン主義者の左翼ポッシと交際するが、彼には家族もあり、政治的下心も見え、心の底から信頼しえない。

    もう一人の女性の舞台は近未来。氷山が溶けてニューヨークやパリなどの都市は水に沈んだ。人々の生活は政府の監視下にある。登録番号W218号は、許可された男たちへのセックス奉仕業に従事している。奉仕期間が終了するまであと1年。彼女が待っているのは理想の男性。そこへ現れた夢のような理想の男性。同じ故郷の男はLKJSと名乗り彼女を夢中にさせる。しかしLKJSは、W218が30歳になったら他人の思考を読むようになるという調査結果をもとに、彼女を探りにきたスパイだった。

    三人の女の求める愛、家族の不在、コミュニケーションの欠如からの孤独。
    ★★★

    1975年でペロン大統領といえば、亡命から戻り三度目の大統領に就任したものの、すでに年老いて政権は乱れ一年で死去した翌年でしたね(検索した)。
    アルゼンチン内では独裁制を批判されたり(アナの愛人ポッシが「左翼なのにぺロニスト?」などと言われている)、ボルヘスはペロンを批判したため亡命を余儀なくされ温厚な(と勝手に思ってる)ボルヘスが「名前も言いたくないあの男」と嫌悪を示し、ゴルゴ13では実は生きてて暗殺依頼が来たり、ミュージカルではエバの目立たない旦那だったり、アルゼンチンを超えて世界的にも影響の多い人物。亡命中に愛人もいたけれど、帰国したら行方不明となっていたエバの永久保存の遺体を捜したというから、アルゼンチンにおけるエバの影響力は本当に厚かったのですね。(結局遺体は修道院地下墓地に隠されていたらしい)

    もう一人物語に係る現実の人物は、映画女優ヘディ・ラマー。
    美女の”夫の監視に嫌気がさし、抜け出し、最も美しい女として映画スターとなる”というプロフィール、そしてアナは「若い頃はヘディ・ラマーに似ていると言われた」と言うことなど。そういえば「サムソンとデリラ」はむか~~し見たことあったけれど、あの彼女がそういうプロフィールで、さらに無線通信にもかかわっていたとは知らなかった。

    プイグなので、映画は大きな要素を占めるし、日記や会話と言った文体が使われる。特にアナのパートは友人ベアトリスとの会話や、父に語りかける形式の日記のため、作者の政治思考や、世間が求める「男らしさ」「女らしさ」への考えが直接語られている。

    三人の女たちは愛を求めるが、裏切りに慣れ心を許せる相手には恵まれない。そして父性は君臨者で母性は不在。だからこそ彼女たちは「あらゆる男たちの召使」にならない娘を願う。
    将来他人の思考を読むことになると警戒される美女とW218だが、それまでは男たちの思考を探りきれなかったり、流れてくる男たちの思考は裏切りであったり、監視から逃れられず、心の平安には辿りつけない。
    エンターテイメント的小説だがなんとも物悲しさの余韻が残る。
    夢のような語り口の美女とW218の寂しさを包むように、現実のアナが精神的にも実質的にも疎遠だった自分の母と娘と「直接会って、しっかり抱きしめ、分かり合えるまで言葉で語り合いたい」という気持ちに向くことが救いか。

  • ラテンアメリカの不穏な情勢を背景に、三人の女が不幸になる話だった。不幸になるのは、もちろん彼女たちが女性であるため。女性はどうしてもハイブランドに関心を持たずにいられず、自分の美しさにうぬぼれ、本当は男性よりも女性からの理解を求めている。そして男によって滅ぼされてしまう。
    でも、だからこそ女性は不思議。ヘディのように計算高くても、アナのように病んでいても、女性は子供を残すことが出来る。もう一人のヒロイン、W218は子供を産まずに死を選び、性を捨てた「天使」になる。ただ、そうなった彼女は唯一、ヘディとアナが得られなかった母性を手に入れる。
    そう思うと、結局、「娘」か「母」か、女性はどちらかにしか居場所がないのかな。この本は第三の選択肢として「天使」を示したのは良かったけど、あんまり幸福そうには見えないし、なんとなく「母」っぽい立ち位置だし。
    ただ… 映画の中のヘディのような、空想の女性なら別だったり? 二次元の女性とか。だって彼女たちはつるつるだから。彼女たちこそ女性でありながら性を持たない「天使」にふさわしいかも。

    それはさておき、マヌエル・プイグの小説って女の夢って感じ。「蜘蛛女のキス」では、ゲイの囚人モリーナの語る映画の華麗さに圧倒されたけれど、今回は冒頭から目が眩みそうだった。シルクのシーツに覆われたキングサイズのベッドから、優しいハープの音色で目を覚まし、すでに用意された最高級のドレスと宝石を身に付けて、緑のあふれる温室へ向かい、たったひとりのために用意された朝食に銀のナイフをすべらせる…
    それは、実在の女優ヘディ・ラマーが享受したかもしれない贅の極みのほんの一部。なんて読む者をとりこにさせるんだろう。それとW218がはじめてのデートの時、子供の頃想像した通りの青いイブニングドレスを箱から出すところ、読んでてよだれが出そう、耳下腺がじんじんした。

  • いままで読んだプイグでは一番のお気に入り。SFっぽいところが好き。
    構造は少しややこしい。

    過去、現在、未来、3人の女たちの物語がバラバラに語られる。

    過去の女は、1936年、企業家と結婚した美貌の女優。
    現在の女は、1975年、祖国アルゼンチンを逃れメキシコの病院で床に伏すアナ。
    近未来の女は、極変動語の地球でセックス治療部に勤めるW218。

    さすがプイグ、エンタメ性の高い物語をまとめるのが上手で、映画を観るように楽しめた。
    過去の女と近未来の女は、実はアナが見ている夢ということを知ってよくできた物語だと思った。
    SF小説の形をとっているけども、この物語のテーマは、コミュニケーションの不在というか、不毛さ、人間関係のはかなさに行きつくと思う。そういった、少しさみしげなプイグの作風が好きです。

    「抱きしめることより、わたし・・・・二人と話がしたい・・・たがいに分かりあえるまで・・・・」


    Pubis Angelical

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