ヤン川の舟唄 (バベルの図書館 26)

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  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336030467

感想・レビュー・書評

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  • 「バベルの図書館」のエドガー・アラン・ポー作品では、彼と同世代、アメリカで活躍した作家ホーソーンやメルヴィルらの姿をともに想起できてわくわくしていたのですが、今回はいにしえのケルトがのこる――大西洋をひとっとびして――アイルランドへ!

    ロード・ダンセイニ(1878~1957年)は、アイルランドの名門貴族、作家で、キプリングやイェイツの友人でもあったよう。嬉しいことに、ダンセイニは「バベルの図書館」のおかげで知ることができた作家の一人です。ひときわ美しい絵画のような装丁に見惚れながら、いかにもボルヘスが好みそうな幻想的で壮麗な力作ぞろいに感激です。

    ①序文(ボルヘス)②「潮が満ち引きする場所で」③「剣と偶像」④「カルカッソーネ」⑤「ヤン川の舟唄」⑥「野原」⑦「乞食の群れ」⑧「不幸交換商会」⑨「旅籠の一夜」(戯曲)

    「潮が満ち引きする場所で」はのっけから唖然とします。知人に殺された語り手は、そこらの海の藻屑とともに何年も何世紀も死体に閉じ込められて過ごすことになります。ひどく純朴な彼の意識はあまりにも鮮明で、この世から消えてしまうことさえ許されません。潮になぶられ、その満ち引きにもてあそばれるさまはいたく憐れなものですが、語り手の素朴な意識と到底普通とは思えない現実との隔たりが大きく深く不条理に乖離すればするほど、滑稽さを覚えて笑わずにはおられません……まるでカフカ「変身」のように可笑しい!

    うって変わって「カルカッソーネ」は、冒頭から香り立つケルト文学♪ 竪琴を奏でながらカモラック王とアーンの騎士たちが幻の国カルカッソーネを探し求める旅は、アーサー王と円卓の騎士や吟遊詩人らと見まごうばかりです。はたして妖精が住むという「常若の国」は見つかるでしょうか!?

    この本には現代風の作品も掲載されていますが、いずれもどこか自然に対する魔術的感覚やファンタジーが漂泊しています。しかもダンセイニの作品を読んでいるはずなのに? いつしかケルト神話やアーサー王伝説や『夏の夜の夢』(シェイクスピア)のような牧歌的情景が頭の中に混ざりこんでくるよう。しかもその行間からはみずみずしい草木の香りが漂ってくるようなまことに不思議な……なるほどバベルの図書館の書架にならぶべき一冊ですね~。

  • ボルヘス編纂の「バベルの図書館」シリーズ。
    青くて長方形の装丁で、並べると絵画のようです。

    ダンセイニ卿。アイルランドの貴族軍人、エドワード・ジョン・モアトン・ドラックス・プランケット、18代ダンセイニ男爵。
    12歳で男爵、軍人になり詩作をしてライオン狩りをしてイギリスで没する。本物の貴族だ~。


    埋葬されることを許されない罪を犯した男の魂がその骨にとどまり続ける。幾星霜もの時を海の泥に埋まり、潮にバラバラにされてもまた泥に戻る…
     / 「潮が満ち引きする場所で」
    懺悔をせず、埋葬されない死者は天国へ行けず泣くことも感じることもできずただとどまり続ける、とはキリスト教の教義か。

    石器時代の終わり、剣を手に入れた男は権力を持つ。幾世代ののち、偶像を祭るものが現れ…。
    剣の現実的な強さと、信仰による得体のしれず心に訴える強さ。
     / 「剣と偶像」

    「陛下はカルカッソーネへ行きつくことは決してありませぬ」予言者の言葉に奮起した王とその家臣たちは、妖精の国であるカルカッソーネを目指す。
     / 「カルカッソーネ」
    ダンセイニ卿の別の作品で、人間国と隣り合わせの妖精国の話があるようですね。その二つの国の道が完全に閉ざされ、人が行きつけなくなった後の話。

    ハイアン・ミンの峰から遙か遠けきバー・ウル・ヤンすなわちヤンの関門と人の呼ぶ海辺の木壁までの川旅。それぞれの神に祈りをささげる都市を通り、川の怪物の気配を感じ、船頭と水夫の川唄を聞く。
     / 「ヤン川の舟唄」
    ヤン川の地図付きです。
    夢の国を目指す旅を夢想する人の力、とは確かにボルヘスが好きそうだ。

    幼いころに見た、かつて妖精王が角笛を吹いていた丘。
    しかし長じた今いる場所は都市部。その近くの野原に感じる邪悪な気配の因縁。
     / 「野原」

    乞食たちが、一人残らず街へとやってきた。示される言葉。
     / 「乞食の群れ」

    互いの不幸を交換する店。一度取引したら二度とその店へは戻れない。
     / 「不幸交換商会」

    異教の神の額から宝石を盗んだ水夫たちの旅籠。彼らを追ってくる三人の僧。いや、それよりも恐ろしいもの…。
     / 「旅籠の一夜」

  • かねてより澁澤龍彦氏の書物などで、御身の令名のお噂は聞いておりましたが、この度ようやく拝謁の栄に浴することができました。ダンセイニ卿はおよそ想像通りのダンディズム作家だった。やはり表題作に、もっとも良くその特質が現れているようだ。幻想文学ではあるのだが、その幻想の質はアラビアン・ナイトのように甘やかなもの。またその全篇はエキゾティズムに溢れるのだが、ケルトの血をひきヨーロッパ文化に育ったダンセイニのそれが、我々にとってもそのままにエキゾティックであることは興味深い。つまり、そこはどこにもない土地なのだ。

  • 第26冊/全30冊

  • バベルの図書館のロード・ダンセイニ。
    タイトル作の夢幻の儚さの境地はもう醒めて欲しくない。

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