- Amazon.co.jp ・本 (491ページ)
- / ISBN・EAN: 9784336030573
作品紹介・あらすじ
キーンという音が大空をよぎる。V2ロケットの来襲だ。第2次世界大戦も末期のロンドン、アメリカ軍中尉タイローン・スロースロップは、ドイツ軍の猛爆撃もなんのその、ガールハントに余念がない。ところが、彼の行動をひそかに監視している者がいる。彼らの調査によれば、スロースロップが女とセックスした場所へ、後刻、必ずV2ロケットが落ちるというのだ。スロースロップの勃起とロケットの軌跡は果たして関連があるのか?この現象をめぐって当局の研究室で議論される途方もない仮設の数々と、次第に明らかにされるスロースロップの出生の秘密。舞台はロンドンからリヴィエラ、チューリヒ、さらに連合軍占領下のドイツへと移り、巨大な見えざる手に翻弄されるスロースロップのさすらいの旅が始まる。脱線に次ぐ脱線、錯綜する人間関係、時間と空間を越え展開する物語。
感想・レビュー・書評
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第二次世界大戦末期、ロンドンは連日ナチス・ドイツのV2号ロケットによる<報復攻撃>を受けていた。そんな時節ではあったが、ロンドン駐留中のアメリカ軍協力将校タイローン・スロースロップ中尉は、女の子と寝るたびに、その場所と日時を市街地図に色別の星印をつけることにしていたが、不思議なことに、その星印とV2ロケットの着弾点はぴったりと一致しているのだった。スロースロップの超能力なのか、それとも原因は別にあるのか。パブロフ派の科学者ポインツマンをはじめとする関係諸機関は、スロースロップの調査を開始する。
パブロフの犬なら知っている。食事を与える際にベルを鳴らす条件付けをすると、ベルの音だけで唾液が出てくるという、あれだ。どうやら、タイローンには幼児期にラスロ・ヤンフという化学者によってある種の条件付けがなされた過去があるらしい。イミポレックスGという芳香性プラスティックの刺激によって勃起が起こるのだ。スロースロップは、その秘密を探るため、リヴィエラ、ジュネーブ、ドイツの占領地区と、果てしのない彷徨を続ける。それを追って、ナチス・ドイツ、ロシア、イギリス、アメリカの軍人、科学者、その他の人間が騒動を巻き起こす。
例によって例のごとく、数学、工学、化学、実験心理学その他の数式、化学式、科学史上に名を残す先人たちの名前、薬品等の固有名詞が続出する。それだけでも素人は手を焼くのだが、実在の人物と作者が勝手に創りだした人物が混在しているものだから、全くの法螺話と読み捨てるわけにいかないのがピンチョンなのだ。さらに、サイコキネシスや霊界と交信ができる超能力者の集団の登場に加えて、タロット占いやマンドラゴラ等のオカルトへの耽溺。これでもかと繰り出すSM、小児性愛、獣姦、スカトロジー等性倒錯者たちの狂宴、ドイツ表現主義映画やハリウッド映画へのオマージュ、そしてピンチョンお得意の歌曲の数々、とどこをとってもこってこてのピンチョン世界。
映画を思わせる動きや会話で読ませる手法に慣れれば、七十以上の場面転換もとうてい覚えきれない数の登場人物も、まあ、なんとかやり過ごすことはできる。主人公であるスロースロップに焦点が当たっている場面は、連続冒険活劇を見るような、手に汗握る感じで読めるのだが、脱線に継ぐ脱線の果てに話があちこちに飛び散り、断片化していくと、もういけない。後を追うのに疲れ果てる。まさにパラノイアの世界なのだ。
エロ・グロ・ナンセンスに徹した作品世界の裏に、今日のアメリカの軍産共同体による形振り構わぬ資本活動に対するアンチテーゼを見ることはたやすい。また、どのような状況におかれていても、美しさを失わない女性や、恋人たち、ドラッグ浸けの不良軍人や海賊、密輸業者といった国家や軍隊の統制を受けない者たちへの偏愛もまた、ピンチョンならでは。ゲロやら反吐まみれの文章のなかに、時折り紛れ込む可憐なイメージ(例えば修行中の魔女ゲリーと乗りこむ気球の旅)もまた、一服の清涼剤の役割を果たし、この類稀な読書経験の印象を際立たせる。
ただ、訳は首をひねるところが多々ある。名曲『シボネー』が『シボニー』となっているのがその例だが、それほど特別なものでもない固有名詞が、通常の表記とは異なる名で記されている。思うに、ピンチョンを訳すには、ただ英語ができるだけでは務まらない。専門用語は別として、映画やコミック、ポップミュージックといったサブカルチャーに詳しいスタッフが監修をつとめる必要がある。そういう意味では、佐藤氏の新訳が待たれる。もうそろそろ出てもいい頃だと思うのだが。(Ⅱも含む)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
約2ヶ月かけて、やっと1巻を読了。これはすごい。全く理解できない。登場人物の行動が支離滅裂。そのうえカットバックを多用しまくるせいでストーリーがあちこちに飛びまくる。さらにコミック(アメリカの小説だからカートゥーン?)を意識したと思われる描写が多くて、物語上で実際に起こっていることなのか文学的な隠喩なのか、はたまたドラッグによる幻覚か単なる妄想なのか区別がつきにくくて混乱することしきり。おそらく、この混乱をこそ楽しむべき小説なんだろうけど。
下巻に至っても、挫折報告が上がっているので油断はできないが、とりあえずマイペースで読んでいくことにしよう… -
難解という言葉のハードルが上がるくらい複雑怪奇な内容。
全てを理解するのは無理だろ、これ。
上巻読むのに一ヶ月もかかった。 -
多分5回くらい読まないと理解できない
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そうとう覚悟して人物表をエクセルでまとめつつ読みはじめたものの、下巻の前半で挫折したまま、読みはじめからもう5年がたちます。
なるべく難解で高尚な文学の方へとこのんですすんできたけれど、ここにきて玉砕した感じ。
「v.」は楽しかった。競売ナンバーなんかエンターテイメントだと思った。
でもこいつは違う。フィネガンズウエイクが読めない、というのとはまったく別種のエントロピーで「難解」。 -
下巻の途中で辛くなって挫折・・・。
長いし、難解。
人物相関も組織相関もいまいちつかめず。
頭が混乱してしまい投了することにした。
さすが「読めない小説」と言われるだけはあった。
自分にはこれを読むだけの素養がないと思い知らされた。
これは趣味で文学を読んでる人にはキツイかと。
文学を仕事でやっている人以外で、この作品をちゃんと語れる人がいるのなら友達になりたいくらい。
文学界きっての問題作に敬意を込めて、星はとりあえず3つで。