フリアとシナリオライター (文学の冒険シリーズ)

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  • Amazon.co.jp ・本 (475ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336035981

作品紹介・あらすじ

結婚式当日に突然昏倒した若く美しき花嫁。泥酔して花婿を殺そうとする花嫁の兄。一体ふたりの間には何があったのか!?巡回中のリトゥーマ軍曹が見つけた正体不明の黒人。彼の殺害を命じられた軍曹は果して任務を遂行することができるのか!?ネズミ駆除に執念を燃やす男と彼を憎む妻子たち。愛する家族に襲撃された男は果して生き延びることができるのか!?ボリビアから来た"天才"シナリオライター、ペドロ・カマーチョのラジオ劇場は、破天荒なストーリーと迫真の演出でまたたく間に聴取者の心をつかまえた。小説家志望の僕はペドロの才気を横目に、短篇の試作に励んでいる。そんな退屈で優雅な日常に義理の叔母フリアが現れ、僕はやがて彼女に恋心を抱くようになる。一方精神に変調を来したペドロのラジオ劇場は、ドラマの登場人物が錯綜しはじめて…。『緑の家』や『世界終末戦争』など、重厚な全体小説の書き手として定評のあるバルガス・リョサが、コラージュやパロディといった手法を駆使してコミカルに描いた半自伝的スラプスティック小説。

感想・レビュー・書評

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  • ラジオ局でニュース記事を書いている“僕”バルガス・リョサは小説家志望の学生。そこに売れっ子ライターのペドロ・カマーチョがやってくる。彼は変り者でパワフルでどこかしら滑稽だけれど、シナリオライターとしては超一流、一度に9本のラジオドラマを書き、その全てが大ヒット。
    その頃僕の家に離婚した叔母さん(叔父の元妻なので血は繋がっていない)のフリアがやってくる。フリアは「デートして分かったわ、あの議員インポよ」「小説家になりたいなんてあなたオカマなんじゃないの」なんて僕をからかう10歳年上の女性。僕はフリアをデートに誘い、二人の関係は着実に進む。
    カマーチョのシナリオへの熱狂を見て僕は「小説のためだけに日常全てをささげる作家になりたい」と決意を固めるんだけど、カマーチョはあまりの忙しさにだんだん錯乱。それぞれのラジオドラマは錯綜し、お互いの登場人物は別の物語に行ったり来たり、挙句に未曾有の大災害やら事故やらで皆みんな死んでしまう。
    僕のプロポーズにフリアは「約束して、5年は私に飽きないで、そうすればバカな事してもいいわ」と了解してくれた。親戚の大反対を避けて田舎でひっそり結婚式。
    僕たちの結婚は周りの予想よりずっと長く9年間続いたんだ。その間はずっとうまくいっていたんだよ。
    ===

    バルガス・リョサの半自伝的小説。
    最初の妻は叔母、二番目の妻は従姉妹、ってすごいなラテン男。
    ペルーでは、フリアご本人からの逆暴露本「バルギータスの書かなかったこと」(バルギータスはバルガス・リョサの愛称)が出版されたんだそうな。ずっとうまくいっていた、とはいかなかったようで。
    小説の書き方は、フリアとのラブロマンスの進展や小説家を目指す青年の将来への決意などを中心とした現実部分と、ペドロ・カマーチョの書くシナリオとが一章ごとに交わっている。シナリオはいくつもの話をいいところで「次回へ続く」で先に期待させ、後半はすべての登場人物ぐっちゃぐちゃの大災害へとハチャメチャ展開になりこれがなかなか楽しい。ハチャメチャにならない展開もそれぞれ読んでみたかったんだが。
    映画化もされているらしい。バルガス・リョサ役がキアヌ・リーブス、カマーチョ役はピーター・フォーク。見てみたいんだけど放送してくれないだろうか。

  • 読みやすく面白いバルガス=リョサ作品のひとつ。根性でスペイン語で読んだが、ブックオフの1ドルコーナーで発見したのでもちろん購入した。何時か確認の為に読もう。

  • 南米文学を代表するペルーの作家、マリオ・バルガス=リョサ。あちこちで書評を覗くにつけ、その筒井康隆を思わせるスピーディーな狂気のファンタジーが、ペルーを舞台にいかにして繰り広げられるものかとずっと気になっていました。文庫が出るほどメジャーではない上に、かさばるサイズの単行本は借りた方がいいかな、と帰国に先立ち、図書館で検索してみたらありました!アマゾンのカートに二年ほど入れっぱなしにしていた本書をやっと手にすることができた次第です。

    村上春樹氏の作品にておなじみの断章形式で複数の物語が進行します。メインは作家志望の大学生〈僕〉と美しい伯母〈フリア〉との恋愛物語。それに並走するのが、ボリビア出身のシナリオライター〈ペドロ・カマーチョ〉のラジオ劇場。この天才作家さん、熱心な執筆活動のせいで精神を病み、物語が混沌としはじめます。登場人物の名前や人格が入れ替わり、なんの脈絡もなく別の話の設定が絡み、プロットのつじつまが全く合わないありとあらゆるでたらめに聴衆は大混乱。

    主人公の恋物語の方も負けずにドタバタ喜劇が展開されます。十才年上の離婚歴のある外国籍の女性とのロマンスに、親戚一同は総出で大反対。彼は周囲を黙らせるために既成事実婚に踏み切るのですが、未成年の結婚はその手続きが面倒くさくかなりてこずりまして、まぁそれでも燃え上がる恋心は神をも恐れぬアツアツぶりというところ、友人たちを巻き込み借金を重ねて、二人はかように煩雑な儀式の数々も結構楽しんでいるようでした。

    南米には何度か旅行しているので、お国柄だなと思うディテールや訪れた地名に出会う度、わくわくしておりました。社長さんがお昼時に「三時には戻るように」と社員に声をかける件 (←シエスタで昼休み三時間!) や、結婚の許可を取り付けようと面会を試んだ区長やら神父やら大使館員やらがことごとく昼食の席で飲んだくれていて延々待たされる場面ですとか、この結婚生活は大成功を収めた!といっても続いたのが八年間だったり (←長いか短いかではなく、終わってしまった結婚を大成功と呼べるところが楽観的だなと)、後々主人公がヨーロッパ生活の合間に帰国し、ペルーの雑踏でふるさとのスペイン語にうっとりと聴き入るシーンなどなど。

    注目すべきは〈僕〉が作者の分身でありながら〈ペドロ・カマーチョ〉も作者の投影であることでしょう。自称作家でも兼業作家でもなく正真正銘の作家になりたいと、未熟な情熱を燃やす青年と、狂ったように物語を量産する気難しい孤高の芸術家。その両者とも著者に内在したはずです。〈ペドロ・カマーチョ〉が物書きについて語るに「ストーリは果物や野菜と同じく新鮮でなくてはならない。」ですとか「聴き手の郷土を舞台にしたストーリーであることが必要。リマの聴衆はラパスの出来事に興味を示さない。」あたりは、著者の信条でもあったのかもしれません。

  • 自分はあんまり好きじゃないなあ。

    大学生がラジオ局に勤める。番組のドラマ劇場の話と、現実の彼の生活風景が描かれる。自分の叔母さんと愛し合い、結婚するまでのドタバタ。交互にラジオドラマシナリオが挿入。落ち着かない。最初はこんなもんかと思い読んでいたが、飽きてきた。

    しかし作者の人間達に向ける視線は、爬虫類のように温度を持たず冷たさを感じる。がそれが作品に特に生かされてなく。地名以外に南米の雰囲気を感じる場面もなく。無駄に長く、とにかく自分は作品の雰囲気が駄目だった。

    知名度がある人気作家が普段書いてる小難しい作品に比べると読みやすい!て⤴てる奴らほんとウザいわ。

  • 言い回しがものすごく素敵。野谷文昭さんの訳によるところもあるだろう。



    でも、ラスト!

  • 正直言って全然うまくは説明できないんだけど、とにかくおもしろかった。いや、ほんとに。

  • 『フリアとシナリオライター』は今のところ<笑った小説マイベスト3>に入る。とにかく笑った。
    この作品はバルガス=リョサの半自伝的な小説。
    大学生でラジオ局にも勤める小説家志望の僕(マリオちゃん)と義理の叔母フリアとの恋物語と、ボリビアから来た天才(?)シナリオライターであるペドロ・カマーチョが書くラジオ劇が交互に語られる作品。
    通俗性を否定する小説家志望の僕と、通俗性全開の物語を書くシナリオライターの双方の中に、バルガス=リョサの作家や文学に対する考えが垣間見えるようでまず面白い。
    また、僕(マリオちゃん)とフリア叔母さんをはじめ、書くことに生活の全てを捧げるペドロ・カマーチョや親友のハビエル、<大惨事が三度の飯より大好きな>部下のパスクアルなど登場人物が個性あふれる面々ばかりでこれまた面白い。
    でも一番笑うのは、途中からシナリオライターのペドロ・カマーチョが精神に変調を来たし、それに合わせてラジオが混信したように錯綜していくラジオ劇で、不謹慎ながらも最高に面白く腹を抱えて笑った。
    こんな笑える小説も書いているとは…恐るべしバルガス=リョサ。

  • 数年前に伊坂さんがおすすめしててずっと読みたかった本。思ったより分厚いぞ、と思って読み始めるまでためらっていたのですが、読み始めたらあっという間でした。ラブの部分はロマンチックでどきどきし、ラジオの部分ははちゃめちゃで続きがものすごく気になる(毎回寸止めとかひどい仕打ち)。面白かった。

  • ラジオのストーリーが絡み合っていくのがおもしろい。登場人物が変幻自在に現れて物語が広がっていく。最終章では、長い時間を共に過ごしたような懐かしさと切なさがわきおこる。

  • マリオは18才。リマの大学法学部に籍を置く三年生だ。親族一同の期待の星だが、本人の夢はパリの屋根裏部屋に住んで小説を書くこと。ラジオ・パナメリカーナで報道部長のアルバイトをしながら暇を盗んでは短編の構想を練る毎日。そんなある日、離婚した叔母のフリアがボリビアから帰国する。子ども扱いが不満のマリオだったが、ダンス以来、すっかりその気に。両親や親戚の反対も火に油を注ぐ始末。遂には友人のハビエルや従妹のナンシーを巻き込んでの駆け落ち騒動。

    未成年の甥と叔母との結婚、しかも相手は離婚したばかり。カトリックの国でなくとも充分にスキャンダラスだ。純情青年マリオの恋は成就するのか、果たしてその結末や如何、というのが、本編の主筋。それに、レミントンのタイプライターから、二本の指で一日何本もの連続ラジオドラマのシナリオを叩き出す天才シナリオライター、ペドロ・カマーチョが巻き起こす騒動がからむ。時は1950年代。テレビは未だ登場せず、大衆の娯楽はラジオが一身に引き受けていた。

    作家志望の青年と、通俗的とはいえ国民的人気を誇るラジオドラマの脚本家。二人が、作り出す物語世界の差に注目したい。「クールにして知的、凝縮され、皮肉たっぷりの、つまりその頃はじめて知ったボルヘスの短編のよう」な小説を書こうとするマリオに対し、「私が好むのは、イエスかノー、男らしい男と女らしい女、昼か夜。わが作品には、必ず、貴族か賤民、売春婦か聖母が登場する。中流からは霊感が得られない」というペドロ・カマーチョが書くものは、ひと言で言えば、メロドラマだ。修業時代の作家の葛藤が二人の姿に投影されていると見ていいだろう。

    この本、半端じゃなく面白いのだが、仕掛けがある。20章に及ぶ小説の奇数章は、マリオとフリアとシナリオライターが活躍するリアリズム小説。最終章を除く偶数の章に描かれるのが、奇想天外な物語。鼠に幼い妹を喰い殺されて以来、鼠殺しに生涯を賭ける会社社長、奇形に生まれながらも才能に恵まれた音楽家が幼なじみの修道女に寄せる純愛、少女をはねて以来、車に乗れなくなったセールスマンが、セラピーを受けて立ち直るものの、子どもを憎悪するようになってしまう話等々。

    偶数章の物語は、リマの富裕層が暮らす地区や貧民街を舞台に、聖と俗、美と醜、愛と死など、極端な振幅を持った二項対立の世界を持ち、どれもこれも、読者の好奇心をぐいぐい引っ張ってゆく力業の作劇術が特徴的だ。ところが、一つの章が終わると、次は、また別の物語が現れてくる。続きが読みたいと思わせておいて、その期待を宙づりにするあざとい構成は、どうやら、ペドロ・カマーチョが描いているラジオ劇場の世界らしい。

    サッカー場での大虐殺やら、大地震やら物語が終盤に近づくと偶数章はパニックやホロコーストが続出するカタストロフ的色彩が濃厚となる。マリオが駆け落ちでリマを離れている間に、登場人物の名前が入れ替わったり、死者が生き返ったり、ペドロのラジオ劇場はひどい混乱に陥っていた。もともと変わったところのあった脚本家だが、仕事のし過ぎで精神に変調がきたしたらしい。

    重厚な歴史長編作家として知られるマリオ・バルガス=リョサだが、劇的な構成で大衆を引きつけるメロドラマの世界は、作家にとって一度は描いてみたい世界でもあった。実生活でも叔母との結婚経験を持つリョサは、自身をパロディ化した自叙伝的な作品に、物語的興味を満載した複数のメロドラマをコラージュし、一風変わった味付けのポスト・モダニズム小説をでっち上げた。

    青春時代への郷愁と哀惜に満ちたリマの変貌が描かれる最終章を得て、読者の抱いた劇的緊張はゆっくり解きほぐされ、静謐なカタルシスへと誘われる。回想を綴り終わった今、作家は念願のパリに暮らし、バカンスと取材を兼ね、年に一度ペルーに帰る。懐かしい友は、でっぷり肥った実業家となり、リマの街角はすっかり変わってしまっている。憧れのまなざしで見つめたペドロ・カマーチョのその後を語る末尾には、青春小説らしい静かな余韻が漂う。功成り名遂げた作家のシュトルム・ウント・ドランク(疾風怒濤)の時代を描いて秀逸。お勧めの一作である。

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