ヴィーナス・プラスX (未来の文学)

  • 国書刊行会
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感想 : 16
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  • Amazon.co.jp ・本 (305ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336045683

感想・レビュー・書評

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  • 原著は1960年刊行。
    ジェンダーの問題をSF風味のオブラートにくるんで描いた長編。
    両性具有者たちの理想郷めいた世界に放り込まれた男の見聞の様子と、
    1950年代アメリカ中流家庭で平穏に暮らしながら
    様々な疑問や不満に頭を悩ます普通の人々の姿が
    互い違いに綴られるが、
    後者が前者の直前のパートを補完するかのような
    示唆的な内容になっている。
    社会の構成員がすべて両性具有なら性差別の問題は解消するよね!
    ――って、いや、そんなにスッキリ解決しますかね?
    てな話(違うかw)。
    それよりも、違いは違いとして認めた上で互いに尊重し合い、
    協調して暮らしていく方が、ずっとよくないですか?
    ということなんだな、きっと。

  • 2018年の神保町ブックフェスティバルで購入。
    スタージョンの数少ない長編小説。ジェンダーや性というテーマを扱うことが多かったスタージョンらしい長編になっている。
    と、同時に、スタージョンは基本的に短編作家だったのだということも感じる。うーむ……。

  • 私がスタージョンに求めていたのとは違う、まっとうな面白さ。いや、面白かった。ジェンダーとかユートピアとか7,80年代にはやったよね、とか斜に構えて読み始めても、あっという間にのめりこんでる。最後まで一つも先回りできないまま、一気に読んでしまう。理想郷が存在しないのはなぜか、これを読めばよぅく分かります。

  • ふむ

  •  未来篇と現代篇が交互に展開するが、やはり未来篇の方が面白い。後半でのレダム人の主張に共感するところがあった。内容は特に難しくなく通勤中に読むのにちょうどよい感じだと思った。基本となるテクノロジーは2、3でよくてあとは組み合わせで全てカバーすべし。後半の展開がよく理解できなかった。

  • 気がつくと昨日と同じ服を着たまま見知らぬ部屋にいた。男の名前はチャーリー・ジョンズ、二十七歳。すぐに分かることなので説明すると、チャーリーがいるところは未来の地球。核戦争で絶滅した人間に代わり、ドームで覆われた世界レダムに暮らしているのは人間に似た別の種族。彼らが人間とちがうのは、両性具有であることだ。チャーリーはレダム人の世界について客観的な意見を述べるために選ばれてここにつれてこられたらしい。

    レダムについて学習を終え、感想を述べることができたら解放され、もとの世界に戻れるという。チャーリーはレダムの歴史学者フィロスに案内され、施設を見学する。そこにあるのは、地球人をはるかに超えた科学水準を持ち、平和に暮らす人々の姿だった。チャーリーは学習が進むに連れ、レダムに親近感を覚え、トランスジェンダーの世界にもなじんでいくのだった。

    いかにもSF的な設定で、異世界に紛れ込んだ地球人が、自分たちとは全く異なる世界に間近に接し、それまでの自分が抱いていた世界観を根底的に揺さぶられ、意識改革を迫られる寸前まで行く。ところが、そこで新たな事態が発生し、主人公はかつて住んでいた旧世界にもどらざるを得なくなる。主人公の価値葛藤を通し、今ある世界――というのは、概ね60年代のアメリカを中心とする世界だが――の是非を問う、現実の世界に対する問題提起を執筆動機とする長篇小説である。

    主人公は、白人男性のキリスト者。問題にされているのは、西洋的価値観の根底にあるキリスト教と、それに付随するようにして現在にいたる男性中心主義である。レダム人は両性具有者同士の結婚により、双方が妊娠し双子を出産する。過去ではなく、未来を尊ぶレダムの人々は、子どもを信仰対象とし、知的な作業については時間短縮をはかり、独自の学習機械を用いて学習させるが、日常生活は手作業を主とした環境下で育てられる。このレダムの世界は一種のユートピアであり、科学技術万能で、人間らしさをスポイルされた現代社会批判になっている。

    小説の構造的には、同時進行で現在のアメリカ家族の実態が、章が変わるごとに挿入される。現在アメリカ編では、互いに愛し合い結婚していても、男と女は別の生き物で、そのジェンダーには明らかな差がある、ヘテロ・セクシャルを強調する場面が描かれる。二つの世界が対比されることで、本編の視点人物であるチャーリーへの過度な感情移入を中和する役割が期待されているのだ。SF的世界の現実批判のぶっとんだ趣向に疲れたところで、洒落やジョークを主体とするコメディ・リリーフの登場となるわけである。

    男性と女性には差より共通する部分の方が多い、という理論や、多くの生き物における交尾の多様さ、原始キリスト教のアガペー論等、よく勉強しているなあ、と思いはするものの、大事なところは講義調になり、物語の進行からは遊離しているように見える。自分が肯んじ得ない世界に無理矢理放り込まれた人間が時間の経過により意識や感情に揺らぎや葛藤が生じ、転向に至る人間ドラマが、存分には描ききれていない。もともとアイデア主体の短篇向きの作家なのではないか。どんでん返しに見せるキレのよさ、話の落としどころ、ミステリにも似た問題解決の鮮やかさからは、そんな感想を持った。

    単純な異性愛を持ってよしとする固定化した性意識を疑わない社会が持つ息苦しさについては、ようやくこの国でも気づかれては来ているようだが、理解者が増えればそれに対する風当たりもきつくなる。作者はキリスト教を中心に据えた西洋の歴史的なあり方を批判の根拠に据えているが、決してキリスト教的論理を主とするとも思えないこの東洋の国においても、男性中心主義や同性愛者その他の性的少数者への偏見については西洋諸国に引けをとらない。

    少し前の本だが、問題とするところは決して古びていない。固定化された過去をではなく、つねに変化、移行(パッセージ)を信条とするレダムの精神に見られる清新さにはある種の感銘さえ受けた。ユートピア物SFと見せかけて、最後にあっといわせる手際など、堂に入ったものだ。久しぶりにSFらしいSFを読ませてもらった気がする。

  • うまいなぁ。
    けっこう大きいこと書いてるんだけど、読みやすい。
    満足。

  • [ 内容 ]
    チャーリー・ジョンズが目を覚ましたのは、謎の世界レダム。
    銀色の空に覆われ、荒唐無稽な建物がそびえ立ち、奇天烈な服を着た“男でもなく女でもない”住人が闊歩している世界だった。
    故郷に戻りたがるチャーリーに、レダム人たちが持ち出した交換条件は「あなたの目で私たちの文明を評価して下さい」。
    彼は承諾した。
    自分の本当の運命も知らずに―異空間での冒険とアメリカの平凡な家庭生活の情景を絶妙に交錯させながら、スタージョン的思考実験が炸裂する!
    ジェンダーの枠組みをラディカルに問い直した幻の長篇SFがついに登場。

    [ 目次 ]


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    [ おすすめ度 ]

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    ☆☆☆☆☆☆☆ 文章
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    ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
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    共感度(空振り三振・一部・参った!)
    読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • なかなか読みにくい。難解ではないのだが、男の、未来世界に飛ばされた後の話しと、飛ばされる前の話しが交互に語られ、話しがどっちにむくのかが、なかなかわからない。が、最後までよむと納得します。

    これは、理想社会なのか、それともデストピアなのかは、解釈のわかれるところです。

  • 両性具有の世界レダムに連れてこられた主人公チャールズ・ジョンズ。
    そこで見知り、あぶり出される性と文化。60年代アメリカの風景が幕間に挟まれていくのも効果的。
    後半の畳み掛けるようなどんでん返しもあり、いろいろ考えさせられ、一気に読ませる傑作。

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著者プロフィール

シオドア・スタージョン(Theodore Sturgeon):1918年ニューヨーク生まれ。1950年に、第一長篇である本書を刊行。『人間以上』(1953年)で国際幻想文学大賞受賞。短篇「時間のかかる彫刻」(1970年)はヒューゴー、ネビュラ両賞に輝いた。1985年没。

「2023年 『夢みる宝石』 で使われていた紹介文から引用しています。」

シオドア・スタージョンの作品

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