白い果実

  • 国書刊行会
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  • Amazon.co.jp ・本 (349ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336046376

作品紹介・あらすじ

悪夢のような理想形態都市を支配する独裁者の命令を受け、観相官クレイは盗まれた奇跡の白い果実を捜すため属領アナマソビアへと赴く。待ち受けるものは青い鉱石と化す鉱夫たち、奇怪な神を祀る聖教会、そして僻地の町でただひとり観相学を学ぶ美しい娘…世界幻想文学大賞受賞の話題作を山尾悠子の翻訳でおくる。

感想・レビュー・書評

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  • 壮大な物語の予感がするファンタジー三部作の第一部。
    科学と魔法で人々を支配するマスター・ビロウの右腕である主人公クレイが、奇跡の白い果実の盗難事件を調査するために辺境の村へ赴く。
    彼の肩書は観相官、つまり観相学を用いて顔立ちから人を判断するのだ。村人たちに直接会って調査を進めるのだけど、その選民意識というか他人を見下すような言動があまりにはっきりしていて、しかし辛辣すぎてねちっこくないからか、いっそ清々しいとすら感じる。

    そうやって自信満々で調査しているはずが、段々と自分を見失っていき、ついには失敗して南の島へ。
    硫黄採掘場で目の当たりにする自身の過去の仕事、楽園を探すビートンの記憶、それらを通じてクレイが変わっていくのが好ましい。
    そうなるとシティに戻ってさあどうなる、とずっと飽きることなく面白かった。

    この一冊だけで一区切りという感じなので、第二部、第三部はどんな物語なんだろうか。読みたい。

  • 奇妙な魔術を使う天才支配者ドラクトン・ビロウ(通称マスター)が独裁する理想形態市(ウェルビルトシティ)から、属領(テリトリー)と呼ばれる市外、北方の鉱山の町アナマソビアにやってきたビロウの右腕である一級観相官のクレイ。かつて鉱山の地下で発見されたミイラの手にあり、その後は教会に保存されていた「白い果実」が盗難し、クレイは犯人探しのために派遣されてきた。観相官とは、いわば人相学をさらに科学的にデータ化したような専門家。人相を見るだけで、犯罪者がわかるとされている。しかしアーラという美しい娘に恋してしまったクレイは、なぜかその能力を失ってしまい…。

    翻訳に山尾悠子の名前があるので気になっていた本をようやく。翻訳者のひとり金原瑞人のあとがきによると「これをわれわれの翻訳文体で訳してしまうと、それこそぺらぺらなエンタテイメントになってしまう。」「そこで頭に浮かんだのが、山尾悠子だった。谷垣・金原で訳したものを山尾が山尾文体に移す、なんとすばらしいアイデアなのだろう。」というわけで、山尾悠子は、英語から日本語に翻訳されたものをさらに「山尾文体」に移し替えられたらしい。確かにすばらしいアイデア!結果はもちろん大成功だったと思う。もちろんファンタジーとしてもSFとしても極上のエンタメ作品で、ページをめくる手が止まらなかったのは物語自体の面白さだけど、それが山尾悠子の文体であることで、さらにワンランク上の上質な幻想文学に仕上がったのだと思う。

    そしてあとがきを読んではじめて、これが実は三部作の一部目であったことを知る。これ1冊でも十分独立した作品として楽しめたけど、以下、続編のために備忘録として本書のあらすじを自分用にまとめ。

    1章の舞台は前述したアナマソビアという小さな町。グローナス山で燃料となるスパイア鉱石を掘り出す鉱夫たちが多く暮らし、あまりにも長年その仕事を続けた者は、最後にはスパイア鉱石と同じように青くなり、石化してしまう。石化した者は<石になった英雄>と呼ばれ、そのまま燃料にされてしまうこともあれば、展示品にされてしまうことも。そんな町にやってきたクレイは、マンタキス夫妻の営むスクリー荘というホテルに泊まり、町長バタルドの使いでやってきたビートンという老人が目の前で石化するのを見る。このビートンはかつて町の北端にある森の奥深くにあるという<この世の楽園=ウィナウ>を探すため編成された探検隊の一人として旅立ち、彼以外の全員が魔物に襲われたりして命を落としたなか、たった一人生還したという人物だった。

    町長の開いた歓迎パーティで、クレイはアーラという18歳の美しい娘と知り合う。アーラはクレイの目の前で石化したビートン老人の孫娘。大変利発で、クレイの著書も読んでおり、独学ながら観相学の知識もある。クレイは彼女を助手として雇い、「白い果実」を盗んだ犯人探しのため、町中の人間を鑑定する検査に彼女を立ち合わせることに。検査会場として町の教会が選ばれるが、ガーランド司祭はそれに反対しており、教会を貸す条件として、引き換えに「白い果実」を持っていた<旅人>と呼ばれるミイラの顔の鑑定を依頼する。クレイはアーラと共にこれを引き受けるが、あまりにも完璧な<旅人>の人相に恐れをなし、それを認めようとしない。そしてクレイの観相学の知識が、この日を境に失われてしまった。

    ここで主人公:クレイという人物について説明しておくと、1章での彼はお世辞にも好人物とは言えない。町長のバタルドの態度が気に入らないと言っては何度も暴力をふるうし、首都から田舎にやってきた政府高官特有の、絵に描いたような高慢さを各所で発揮。<美薬>と呼ばれるドラックの中毒者で、頻繁に薬を注射、いつも幻覚まみれ。彼はこれまでにその観相で、数々の人間(おもにマスター・ビロウに楯突いた政治犯)を裁判で断罪してきており、その中には自身の恩師フロック教授も含まれている。幻覚にはいつもこの教授が現れ彼を批判する。クレイの最も有名な仕事は、かつて世間を震撼させた西方ラトロビア村での人狼事件の犯人=人狼を、6歳の少女グレタ・サイクスだと見破ったことだった。その人狼グレタ・サイクスは、今はマスター・ビロウに改造されて、彼の忠実なしもべとなっている。ビロウはたったひとりで理想形態市を完成させ、死んだ人間に歯車装置を組み込んで、思うまま操る技術にも長けている。奇妙な魔術を使い、神出鬼没で、クレイは、美薬による幻覚なのか現実なのかもわからないまま、アマナソビアでも何度かビロウに会う。

    さて「白い果実」泥棒の捜査が始まるが、能力を失ったクレイはそれを隠し、アーラに仕事を代行させることで誤魔化す。しかしアーラはそれに気づいており、クレイを軽蔑・侮辱する。アーラに恋していたクレイは、彼女を尾行。なんと彼女に赤ん坊がいることを知り大ショック。町長の話によると、アーラはキャナンという若い鉱夫と恋に落ちたが、彼は落盤事故で死去。その死後に妊娠が発覚し、子どもを産んだのだった。翌日、気まずいままクレイとアーラは検査を続けるが、ガーランド司祭を調べたアーラが、「白い果実」を盗んだのは彼だと断言し、クレイは町民を集めてそれを発表する場を設ける。しかしクレイは、司祭を告発する直前に、アーラのある身体的特徴が犯罪者のものであることに気づき、アーラこそ真犯人だと確信、町民たちの前で犯人はアーラだと発表する。

    アーラは逮捕されるが、盗まれた「白い果実」の在り処は不明のまま。クレイは、アーラの顔に整形手術を施し、善人に変えてしまうことで、彼女自身に告白させることを思いつく。早速クレイはアーラを眠らせて手術を始めるが、途中でドラッグが切れて朦朧、しかし手持ちの美薬はすでにない。結果、クレイはアーラの顔をでたらめに切り刻んでしまい、もはや修復不可能に。その頃、町ではクレイの仕事ぶりに業を煮やしたマスター・ビロウが軍隊を率いてきて大虐殺を繰り広げており、ガーランド司祭が、ミイラのはずの旅人とアーラの赤ん坊を連れてクレイのもとに現れる。司祭は、白い果実を盗んだのは自分であったこと、それをミイラに食べさせて旅人が蘇ったことを告白、クレイは自分が無実のアーラの顔を切り刻んでしまったことに衝撃を受ける。司祭がアーラの顔の布を外すと、アーラの顔はメデューサよろしく顔面凶器となっており、彼女の顔を見た司祭は即死。旅人は白い果実の欠片を意識のないアーラに食べさせ、彼女と赤ん坊を抱いて窓から飛び降りたまま消え去る。

    残されたクレイは、外に出て虐殺の中を彷徨うが、人狼グレタ・サイクスを連れたビロウと再会。始末されかかるが、町長バタルドと、検査の際護衛にしていたカルーという巨体の男がクレイを助け出す。町長は<楽園>を目指すといい、三人は森の奥深くへ楽園を求めて逃走。このまま楽園探しの冒険になるのかと思いきや、町長は魔物に捕まり、食われるくらいならとカルーが町長を撃ち、さらにビロウに追いつかれて、カルーは人狼グレタ・サイクスに食い殺されてしまう。クレイは身柄を拘束され、首都で裁判にかけられ処刑判決を受ける。しかし直前でビロウの温情で、南方ドラリス島の硫黄採掘場に流刑されることになる。

    2章の舞台は、このドラリス島の硫黄採掘場。おもに政治犯が送り込まれるこの流刑地には、もっと大勢の受刑者がいるのかと思いきや、全員死んでるのでクレイ一人しかいない。彼の番人は、二人のマターズ伍長。冷酷で残忍、クレイを殴りつけ硫黄採掘をさせる昼間のマターズ伍長と、親切で温厚な夜のマターズ伍長、彼らは双子の兄弟だと言う。二人は仲が悪く、会うことはないと言う。クレイは、実は二重人格の同一人物ではないかと疑っている。クレイが寝泊まりするのは簡素なホテルで、管理人でバーテンダーのサイレンシオはなんと人間ではなく猿。どうやらビロウの改造により知性を持っているらしい。人語は話さないが理解はしており、親切で、昼のマターズ伍長に殴られたクレイを手当てしてくれたり、美味しい食事やお酒を提供してくれる。余談だがクレイが好んで飲む「甘き薔薇の耳(ローズ・イアー・スイート)」というカクテルがとても美味しそうで飲んでみたい…。

    昼間の労働は過酷だが、硫黄採掘場で、クレイはかつて彼自身が裁判でここに送り込んだ政治犯たちの遺した坑道や遺物を発見していくうちに、自らの半生を深く悔いるようになる。そして自分がアーラにしたことも。アーラは祖父ハラッド・ビートンの語った楽園への旅の話を文章にして残しており『この世の楽園への不思議な旅の断片』というその手記を、クレイは夜の間に読み進める。次第に、手記の内容が夢や現実となって混濁、クレイはハラッド・ビートンと同化し、幻覚の中で彼の旅を追体験するように。ハラッドと仲間たちは、森で出会った<緑人>=植物と人間の中間のような人物モイサックも加えて旅を続ける。仲間たちは落盤事故や自殺などでどんどん減っている。やがてモイサックの案内でパリシャイズという巨大な都市の遺跡に辿りつく。この遺跡で、町長の叔父にあたるジョゼフという鉱夫が奇妙なコインを拾う。このあたりから、時間も空間も混乱しはじめ、クレイは遺跡でアーラと出会ったりするように。

    そして現実のクレイは、あるとき自分を起こしに来た昼のマターズ伍長を殴り倒してしまい、反射的に脱走を思いつく。サイレンシオの協力で砂丘に逃げたクレイは、そこでアーラの『断片』の続きを読む。遺跡でジョゼフが何者かに殺され、ハラッドたちは凍った川に逃げるが、緑人モイサックは弱っていきついに絶命する。彼の遺言通り、ハラッドはモイサックの遺体から人間でいう心臓にあたる部分にあった「種」を取り出す。生き残ったのはこの時点でハラッドと若いアイヴスの二人だけ。ここまで読んだあと、クレイは野犬の群れに襲われ、追ってきた昼のマターズ伍長に硫黄採掘場に連れ戻される。猿のサイレンシオが裏切り告げ口していたのだ。クレイは熱風の吹く坑道に手足を張りつけにされ、さらにサイレンシオが『断片』をバラバラに破って巻き散らすのを見る。朦朧としながら、クレイは失われた『断片』の続きの物語へと入り込んでいく。

    ついに最後の仲間も失ったハラッドは、たったひとりで楽園探しを続けていたが、ある日<旅人>と出会う。ハラッドは、スパイア鉱山で何千年も前に死んだミイラの姿で発見された旅人が、ここにいることを不思議に思う。しかし旅人はハラッドを、川の中州にある自分たちの集落ウィナウに案内する。ハラッドはここで穏やかな日を過ごすが、やがてモイサックの「種」を植えた場所から生えた木に「白い果実」が実る。それは不治が宿る楽園の果実。この果実をここには置いておけないと旅人は言い、ハラッドの世界に返しに行くと言う。三千年前に。そしていつか再会しようと旅人はハラッドに言う。ハラッドは現実のアマナソビアに戻る。

    クレイが意識を取り戻すと、夜の伍長とサイレンシオが看病してくれている。昼の伍長は楽園を探すために出奔したと夜の伍長は話す。どういうわけか、クレイの脳内の幻覚は、伍長の頭にも漏れ出していたらしい。クレイが回復するのを待ち、夜の伍長はクレイをある場所に案内する。そこはハラッドがモイサックに案内されたパリシャイズの遺跡だった。なぜこの遺跡がこの島に実在しているのかはわからないが、遺跡がある以上、楽園もこの近くにあるはずと昼の伍長は思ったようだ。クレイはまだ、昼と夜の伍長が同一人物ではないかという疑いを解けない。そしてある日、マスター・ビロウから、クレイを連れ戻すよう命令を受けたという兵士たちの船がやってくる。夜の伍長は大人しくクレイを引き渡すが、兵士たちは伍長を殺してゆく。伍長もまた、ビロウに改造された歯車人間だった。

    3章でようやく、ビロウに赦免されたクレイは理想形態市に戻ってきて、元の地位に返り咲く。しかしクレイはもとのクレイではなく、ビロウの独裁に疑問を抱くようになっている。そしてクレイは、見世物の剣闘場で思いがけない人物と再会。それは人狼グレタ・サイクスに食い殺された後、ビロウによって歯車人間にされたカルーだった。カルーの修理工場をつきとめたクレイは、なんとか彼を連れ出し仲間にする。カルーは改造されたもののクレイを認識しており、こののち何度もクレイをピンチから助けてくれる。そしてクレイは、行方不明のアーラを探す。

    ビロウは、アナマソビアの事件で手に入れた「白い果実」を自ら食しており、不老不死になるつもりだったが、なぜか頭痛がするようになり、度々発作に襲われるように。理想形態市では、ビロウの権力が弱まってきており、強化のためビロウはクレイに適当に見繕った市民を処刑するように指示したり、アナマソビアでとらえた魔物をあえて市街に放ったり、大臣を気まぐれに殺したりやりたい放題。しかし市内では密かに、ビロウを斃すための謀反を計画している人々がいる。クレイはいつのまにかこの人々の仲間と見なされており(事実そうなのだけど)おかげで活動しやすい。しかも白い果実がもたらした不調のせいで弱気になったビロウはクレイを信頼しきっている。

    ある日ついにクレイは、地下の下水処理場で、クリスタルの球体の中の偽楽園に閉じ込められたアーラと赤ん坊と、アーラによってエアと名付けられた旅人を発見する。水を媒介に球体に入り込んだクレイは、旅人から白い果実をめぐる昔話を聞かされる。旅人の故郷ウィナウでは何千年も前から白い果実を食していたが、果実がもたらす奇跡の結果はいつも幸福なものとは限らず、ついに人々は果実を放棄することを選択。すべて燃やし、最後の一個だけを旅人が誰にもみつからない場所に運んで眠りにつくことになったのだった。さらにクレイは、アーラと旅人が愛しあっていることを聞かされる。アーラの顔は今も顔面凶器のままで、彼女はずっと緑のヴェールを被り続けている。自分の顔を切り刻んだクレイを彼女は許しておらず、クレイはアーラの愛を得る希望は失ったが、命がけで彼らを助け出すことで贖罪にしようと考える。

    ビロウの発明品であるクリスタル球の破壊方法を探すため、クレイは理想形態市建設時の主任技師だったピアス・ディーマーという人物に会う。彼も謀反計画の仲間だった。やがて、ビロウの頭痛は、彼の頭脳と連携している理想形態市の要所要所に爆破という形で反映されはじめる。ビロウが頭痛を感じるたびに、街のどこかが破壊されるのだ。これを利用し、ついに革命が勃発。しかしクレイの裏切りに気づいたビロウにより、クリスタル球の前でクレイはビロウに追い詰められてしまう。(ここでついに歯車の寿命が尽きたカルーが爆発死…涙)乱闘の末、クレイは不利になるが、球体の中からアーラがその顔をビロウに見せたことで形勢逆転、ビロウの頭痛は球体を破壊し、アーラたちは無事外の世界に戻ってくる。

    理想形態市は崩壊。生き残った人々は西方の谷間に移住し、そこに住みついた。人々はそこをウィナウと名付けた。アーラと旅人エアは結婚、赤ん坊はジャレクと名付けられて成長する。ジャレクはクレイに懐き、エアとクレイも親しくなるが、アーラだけはクレイを無視。しかしアーラがエアの子を妊娠、その出産時にクレイが協力したことで、クレイは罪の意識を軽減される。生れた赤ん坊はシンと名付けられ、なぜかこの子を産んでから、アーラの顔が元の美しい顔に戻る。やがて旅人エアは、自分の生まれ故郷に家族を連れて一度戻るとクレイに告げる。ハラッドの楽園探しの悪夢を見たクレイは、夢の中でモイサックの種を握りしめる。目覚めたとき、彼の手に握られていたのは、アーラの緑のヴェールだった。

  • 世界幻想小説大賞受賞作。
    世界観がモロ好みでした。訳者の山尾悠子の格調高い文章がかなり幻想的な雰囲気を盛り上げてくれる。

    観相学が法律の全てという世界観。その他にも、理想形態都市、独裁者、美薬、青い鉱石、楽園ウイナウ、旅人、サイレンシオ、双子の番人、人狼…。世界観を色成す設定がセンスに溢れている!訳者のあとがきにも書かれていたが、ストーリーは女性に対する罪と贖罪への暗喩ともとれないこともない。独裁者ビロウと倒して終わりというところが普通すぎたのが少し気になるといえば気になったぐらいか。
    3部作のウチの1作目。まだまだこの世界に浸れるのが楽しみだ。

  • 「シャルビューク夫人の肖像」もそうだったけど身悶えしちゃうようなこのゾワゾワ感がこの人の特徴なんだなと読み進むうちにそのゾワゾワ感がいつの間にか消えて、切なく美しすぎるラストに感動。読むべし。

  • 1997年世界幻想文学大賞受賞作。
    20世紀の最後を飾る奇書とは訳者の弁。2004年8月発行。
    翻訳は山尾悠子・金原端人・谷垣暁美の3人がかり。
    古典を読むような文章にやや戸惑ったが、もとの味わいを出そうと苦心したらしい。
    理想形態市(ウェルビルトシティ)は、独裁者ドラクトン・ビロウが築いたクリスタルとピンクの珊瑚で出来た街。
    主人公のクレイは一級観相官。四輪馬車の迎えに乗り、北方の属領にある鉱山の町・アナマソビアへ出立する。
    アナマソビアはブルースパイアの発掘が行われ、青い粉を吸い込んだ鉱夫はいずれ青く染まってブルースパイアと化す。
    観相が異常に発達している時代で、幼女が人狼であることを見抜いた功績もあるクレイ。
    「白い果実」の盗難をめぐって、アナマソビアへ派遣されたのは左遷に近い。美しい娘アーラに出会って助手とするが滞在中に一時知識を失い、美薬という麻薬中毒も相まってとんでもない事態を引き起こし、流刑へ。
    旅人と呼ばれる人間ではないミイラの真実は?楽園とは?
    カフカの城とか…いろいろ思い出します。
    独裁と暴力と血と苦難と革命と…感情移入は出来ないが、架空世界を作りげたパワーは買います。

  • 幻想的であり、そしてなにより寓話的である。カフカの小説を彷彿とさせないではいられない小説だと思う。例えば「流刑地にて」のような作品。本全体を、罪、という基調が覆っているように感じてしまう。

    一方で、物語は後半に向けて勢いを増し、トールキンの「指輪物語」のような様相を呈してくる。と思ったら、ナントこれは三部作の第一部だという。なるほど、そういうエンターテイメントの香りがするなあと思っていたのは当然だったのだ。

    しかし、やはりなんと言ってもカフカである。この寓話の箴言は何なのだろう、と考えずにはいられないのだ。自然を思いのままに作り変える(ことができていると信じる)人類への警鐘か。あるいはマネーという実態のないものに振り回されることへの意趣の表れか。単なるエンターテイメントを越えた何かが魔物のように言葉の裏に潜んでいるように思うのである。

    人は何かを読み取られずにはいられない。村上春樹の新作を読んだ直後であったことも影響してか、そんなことを考えずにはいられないのである。例えば、タイトルにある「白い果実」。少なくともこの第一部ではそれは明らかにシンボルではあるけれども、何か象徴的な意味を明確に示すようではない。単純に言えば、それがよきものであるのか、あしきものであるのかすら、判然とはしない。あるいは、それは「指輪」のような存在なのかも知れない。もちろん、何かが隠されている気配は濃厚である。その寓意は第二部、三部を読まなければ見えてこないものなのだろうと思う。

    この気配から感じ取ることのできる仕掛けのようなものは、トールキンを持ちだすまでもなく、例えば「スターウォーズ」にも共通するような王道であるように思う。つまり、この物語には語られていない過去がある。その予感はたっぷりとする。だとすると、それを読まずにはいられないと思い始めるのだけれど、この一部の読者に偏愛を生むような物語の完結編は、はたしてこの翻訳陣で再び翻訳されているのだろうか、それが気になる(と思ったら、やっぱり)。

  • シリーズものの1冊目。これからも世界は広がっていくのだろうけれど、私はここで挫折かも……。


  • 幻想文学の長篇の醍醐味と感覚的な素晴らしさ。身も心も色彩豊かに浮かぶ画像に同化して固唾をのんで思い巡らせた。左手には拳骨。読み終えて半信半疑に開いた掌に緑が見える気になる。この先どうなるのと叫びたい。

  • 独裁者が支配する理想形態都市から、奇跡の白い果実盗難の犯人を捕まえるため観相官クレイが属領であるアナマソビアへ着いた時から物語がはじまる。
    国のエリートであるクレイの鼻持ちならないこと甚だしい。
    アナマソビアを田舎と見下し、住民たちについては人間扱いすらしない。

    さて、観相官というのは、人相学と統計学とあとなんだかいろいろ複雑に合わさったもの。
    これで事件を解決できたら、それは普通のミステリ小説なのだけど、独裁者は魔術を使うしクレイは薬物中毒だし、アマナソビアの土地柄なのか読者の常識を超えるような出来事がつぎつぎ起こる。

    まず、アマナソビアは青い鉱石スパイアを産出しているのだが、長い間鉱夫として働いているとしまいにはスパイアになってしまうのである。
    そして、クレイの前でスパイアになった老人・ビートンの孫娘が彼の運命を狂わせる。

    しかし魔法と薬が見せる幻想と宗教と旅人のミイラとが織りなす世界は、何が真実で何が虚構なのかわからない。
    流されるようにクレイは犯罪者として逮捕され、硫黄採掘場へと送られる。
    そしてまた、ふいに罪は許され独裁者ビロウの腹心の部下として、謀反人たちのでっち上げを命令される。

    ビロウは天才で、理想形態都市はすべてビロウがつくりあげたもの。
    しかし、他人を信じることができず、自分以外はすべて取り換えのきく部品だと思っているビロウは、敵も味方も情け容赦なく、冷酷に殺戮を繰り返す。
    ビロウ天才?
    天才だったら、謀反を起こされないように善政を敷けばいいのに。
    恐怖で人を支配すれば、人に背かれるのは当たり前だ。

    盗まれたはずの白い果実を見つけたビロウは、それを食べた直後から体調不良に襲われる。
    彼の不調は都市の破壊につながり…と、ストーリーを追うだけで大変なのでもう割愛。

    この本は金原瑞人と谷垣睦美が訳してから、山尾悠子が彼女の文体に書き直したのだそうだ。
    グロテスクな描写も多かったけれど、ファンタジーの皮を被ったディストピア小説。
    これ、三部作らしいけど、続きはどうしようかなあ…。

  • 97年に世界幻想文学大賞を取った名作ファンタジー。
    独特な言い回しの英文を二人の訳者が翻訳し、その訳文を山尾悠子がシニカルな文章に仕立てるという二重訳。
    理想的な都市の終焉と傲慢な主人公の成長が対照的に描かれている。

    恒川光太郎作品が好きな方にお勧めできる作品である。
    都市の支配者であるマスターが恒川光太郎作品のスタープレイヤーのように思えてならない。恒川とジェフリーフォードの世界が繋がっていると勝手に妄想しながら本作を楽しむのも悪くないだろう。

  • 3.89/521
    (三部作「白い果実」→「記憶の書」→「緑のヴェール」)
    内容(「BOOK」データベースより)
    『悪夢のような理想形態都市を支配する独裁者の命令を受け、観相官クレイは盗まれた奇跡の白い果実を捜すため属領アナマソビアへと赴く。待ち受けるものは青い鉱石と化す鉱夫たち、奇怪な神を祀る聖教会、そして僻地の町でただひとり観相学を学ぶ美しい娘…世界幻想文学大賞受賞の話題作を山尾悠子の翻訳でおくる。』


    原書名:『The Physiognomy』 (Well-Built City Trilogy #1)
    著者:ジェフリー・フォード (Jeffrey Ford )
    訳者:山尾 悠子, 金原 瑞人 , 谷垣 暁美
    出版社 ‏: ‎国書刊行会
    単行本 ‏: ‎349ページ
    受賞:世界幻想文学大賞

  • 魔術師のような独裁者ビロウの頭の中の世界がそっくり現実になった未来社会、辺境の楽園伝説と永遠の白い果実を求めての探索というストーリーに主人公クレイの永遠の女性アーラへの執着と想い、そしてそれゆえの変容。第2章の地獄変のような哲学問答も面白かった。何より描写される世界が本当に美しい。

  • バベルの塔をモチーフにした、カバー装画がいい。街ひとつをそっくり呑み込んだ建築物という絵柄が、この三部作に共通するであろう主題を象徴している。ファンタジーなのだが、ディストピア小説めいた趣きもあり、寓意を多用した思弁的小説の装いも凝らしている。とはいえ、その本質は様々な怪異に満ちたあやかしを次々と繰り出し、見る者の目を眩ませる大がかりな奇術。ちょうど、理想形態都市(ウェルビルトシティ)を支配するドラクトン・ビロウが主人公の目を楽しませる手品と同じように。

    ヘルマン・へッセに『ガラス玉演戯』という小説がある。ガラス玉演戯というのは、「古代から現代に至るまでの芸術や科学のテーマをガラス玉の意匠として一つ一つ封じ込め、それらを一定のルールの下で並べていくことによって、ガラス玉に刻まれたテーマ同士の関係を再発見し、新たな発見・感動を生み出すという、架空の芸術的演戯」というものだ。

    人格形成小説(ビルドゥングス・ロマン)だから、一人の人間が如何にして人格を作り上げていくのかを描いている。弟子として師足るべき相手を探し、一段一段認識を高めていく。その舞台が、一種の理想的学園都市で、音楽や数学をはじめあらゆる学問技芸のマイスターが集まるカスターリエンは、第二次世界大戦の惨禍に嫌気がさしたヘッセが想像した究極の理想郷である。

    マスター・ビロウが作り上げた理想形態都市は、その裏返しである。師であるスカフィーナティに教わった記憶術、それは自分の心の中にある宮殿をつくり、記憶するべき考えを象徴する花瓶や絵画、薔薇窓といった物体に置き換え、宮殿内に配置するというものだった。知識欲の強いビロウは、宮殿ではおさまらず、それを都市の規模に変えた。そして、頭の中にある都市を現実に作り上げたのだ。

    多くの人々の知恵や技芸が互いを高めあい、相補い合って生成してゆくカスターリエンとは逆に、ビロウ一人のために都市があり、人々はその構成物に過ぎない。理想形態都市の住民は魔物の角から精製した粉末で一時恍惚感を味わったり、辺境の村に住む珍奇な生き物や剣闘士の競技といった見世物を見たり、とパンとサーカスを与えられることで懐柔されている。しかも人口増加に業を煮やしたビロウは人員削減のために主人公に命じ、観相学的観点から見て劣位の市民を処分することまで始める。

    主人公のクレイはビロウの覚えめでたい一級観相官である。高慢で自惚れが強く人を人とも思わぬ傲岸不遜な人物だが、ビロウには忠実だった。そのクレイがスパイアという鉱石の産地である属領行きを命じられる。教会に置かれていた白い果実が盗まれ、その犯人を観相術で探せというのだ。属領でクレイはアーラという娘と出会う。理想形態都市に憧れ、そこにある図書館で学ぶことを夢見るアーラは独学で観相学を学び、クレイに劣らぬ能力を持っていた。

    アーラを助手にしたクレイは何故か自分の能力を一時的に失い、捜査をアーラに頼らざるを得なくなる。捜索に失敗すれば硫黄鉱山送りはまちがいないからだ。立場の逆転によって自尊心を傷つけられたクレイは詭計を案じ、アーラを犯人だと告発。捕らえられたアーラの顔にメスを入れることで、従順な相を生み出し反抗心を除去するという暴挙に出る。ところが、大事な手術の最中に麻薬の一種である美薬が切れ、手術は失敗。アーラの顔は二目と見られぬものとなる。なぜなら、その顔を見た者は恐怖のあまり死んでしまうからだ。

    任務に失敗したクレイが送られるのがドラリス島という流刑地。かつて自分が罪人と決めつけた人々を送り込んだところだ。高熱と悪臭が充満する硫黄採掘場である。ダンテの『神曲』の地獄めぐりを思わせる、この世の地獄で、クレイは自分の犯してきた罪の深さを知り、アーラに赦しを請いたいと願うようになる。赦免され、理想形態都市に戻ったクレイはビロウの相談役の地位を得るが、面従腹背を貫く。都市の地下深くに作られたクリスタルの球体の中に閉じ込められたアーラたち属領の人々を救出する目的があるからだ。

    「依頼と代行」、「探索」、「双子」、「権力の継承」といった物語の機能を都合よく配置し、それに獣人やら魔物、緑人といった『指輪物語』等でお馴染みの異形の者たち、ビロウの天才的な技術とアイデアが作り出す、人語を解し酒や料理を供する猿のサイレンシオや、旅の道連れでありクレイの守り人でもあるカルーという力持ちの大男といった魅力的な脇役を配し、物語は一挙に加速する。

    独裁者が恐怖と幻覚剤で支配する都市国家とその周縁に位置する属領という対立に加え、人工的に作り上げられた享楽的都市生活に対し、自然に囲まれた平和な村落で構成される原始共産社会といった構図もある。理想形態都市が有する女性には決まった役割しか認めず、その資質は男に劣るという考えに対する、同じ能力を有する女性アーラによる異議申し立てがある。やがて対立は波乱を生み、暴発する。

    ファンタジーの筋立ては決まりきったものだ。それを面白く読ませるために、物語を貫く思想、魅力的な人物や奇想溢れる異世界の建築その他の意匠をどう創造するか、物語作者はそれを問われる。『記憶の書』の評でも書いたことだが、この作家の特徴は人物その他の形象がビジュアルであることだ。人狼グレタ・サイクスの頭に埋め込まれた二列のボルトなどは、容易にフランケンシュタインの怪物を思い浮かべさせる。読者の想像力に負担をかけないところが、巧みといえば巧みだが、ある意味安易でもある。

    上辺の分かりよさに比べると、寓意を鏤めた思弁的な装いはそう分かりやすくはない。あえていうなら、ドラクトン・ビロウは自己の能力を通じて世界を創造する神としてすべてを統括する欲望の支配下にある。理想形態都市も属領をその中に閉じ込めたクリスタルの球体も、ひとつの秩序の下にある完璧な世界を希求したものである。しかし、世界は常に生成変化する。完璧に作り上げた世界であっても、時間の経過によって、生成変化の過程で生じる余剰や夾雑物が生じ、秩序を一定に保つことはできない。コスモスはカオスを内包しているのだ。秩序と混沌との相克こそが三部作を貫いて流れるパッソ・オスティナートである。

    ファンタジーのお約束として、探索を依頼された代行者は宝探しの旅に出る。様々な苦難の末、帰還するわけだが、ビロウに敵対する道を選んだクレイには、果たしてどのような結末が待っているのやら。その前に、まだまだ次のミッションがクレイを待ち受けているにちがいない。次は、どんな世界が舞台となり、どんな奇妙な生物がクレイに襲いかかるのだろう。これが連続活劇の持つ醍醐味である。第三部がいよいよ楽しみになってきた。

  • 感想は「緑のヴェール」へ

  • 広義の意味でサイバーパンク的というか。私がこっそり名づけている狂都市ものというか。ビロウという男(支配者)が頭の中で構築した理想の都市が具現化されていて、そこでへまをやって属領に送り込まれた男が主人公。結局そこでもへまというか云々あってもっとひどい島に送り込まれてというなかなか壮大な物語ですごく面白く読んでいたんだけど、なんか後半がな。
    主人公、すっごい傲慢でイヤな男なんだけど島での強制労働で心を入れ替えてしまう。しかも結局理想的な都市よりも緑が合って光があるだけで幸せを感じられる素朴な村での生活がシアワセって。本当は☆3ぐらいだけど、三部作らしく、ラストには「百年の孤独」も驚くしかけが用意してあるとあとがきに書いてあったので期待を込めた☆ですこれは。

  • この語り手はほんっとうにいいとこなしで、中盤を経てもまだ傲慢。
    それなのに読ませるのは奇想オンパレード(顔ビーム女!)と、

    やっぱり文章だ。
    「ミネハハ」方式に初めは眉をひそめていたが、山尾悠子は偉大。そして金原氏も偉大。

  • ここ何年かで一番楽しめた本。

  • 世界幻想文学大賞に恥じぬ読み応えのある一冊。3回読んでも新たに楽しい、が。3部作・・・続きを買おうにも近くの書店になく、アマゾン待ち中。ただの印象だけれど、ロバート・アーウィンのアラビアン・ナイトメアにちょっと感じが似ている。

  • 幻想の中では、醜悪や恐怖もまた美である。
    しかしこの本の美しさは、山尾悠子氏の文体によるところも大きいのだろう。

    楽園の禁断の果実を巡る物語。
    そして一つの帝国の崩壊。

  • 冒険活劇、幻想的な世界観、次々登場する空想上の生物たち、空想上の機械たち、空想上の都市、国家、世界。
    そんな、作り上げられた世界に「入り込む」ことがSFやファンタジーの醍醐味だとするならば、本書はその醍醐味を存分に味あわせてくれます。読めば読むほど頭から飲み込まれてしまいます。それくらいの傑作ファンタジー。
    ただ、傑作は傑作でもオーソドックスさはどこにもありません。とにかく独特。
    しかし、読めばわかりますが、見たことない世界なのにスッと景色が見えてきます。カラフルでグロテスクで陰鬱で息苦しい世界が良く見えてきます。否応なしにそんな世界に引きずり込まれてしまいます。
    派手なストーリーではありませんが、世界観、登場人物、浮き彫りに描かれる欲望や罪の意識などすべてが魅力的な小説です。今までにない世界にどっぷりつかりたい方は是非どうぞ。

  • 大人のファンタジー。主役は普通かっこいいものだけれども、全然かっこよくなく嫌な奴だったが、話に引き込まれてしまった。
    とても幻想的で、霧の中の世界を見ているような不思議な感覚を味わった。
    天から地へ、地から這い上がり、主人公が一人の権力者ビロウによって人生を翻弄される。彼を中心ではなく、物語の上に主人公が載っている感じ。しかも物語の波から落っこちそうな。物語自体がビロウ自身なのかもしれない。

    猿人間、狼人間、彼の人、青い炭坑?の人たち、硝子の中の世界
    各種族がそれぞれの文化や宗教観、世界観が別々でそのおのおのの世界を楽しめた。


    備忘録:
    顔でその人の生りを判断する仕事。ある種、むちゃくちゃな職業。そんな彼が失敗をしでかし、不思議な力がある果実を探して、青い炭坑の街へ行く。そこで一目惚れをし、、、、
    彼の人と愛しい人を助けるために戦う、、、、

  • これ、読みづらい小説だ~と最初は思ったけど、意外とさくさく読めて、冒険小説であるな、これは、と。そして、魅力的なキャラクターが多過ぎて是非とも映画化希望です。映像で見てみたい!

  • 12/18 読了。
    想像よりずっとずっとエンターテイメントしてる小説だった!楽しい!大人の読むファンタジーだ。
    ジェットコースターみたいに展開が早いけどエンタメ一辺倒にならないのは、やはり金原瑞人氏の慧眼によって、訳文を山尾悠子自身の手で山尾文体に書き直すという采配がなされたおかげだと思う。

  • 『白い果実』は、風吹き荒ぶ曇天の日からはじまる。
    ウエルビルトンシティ 理想形態都市とは一体何なのか。

    そこは、独裁者ビロウの支配する極めて異常な都市で、ビロウの部下でありこの本の主人公であるクレイは、優秀な観相学者なのだ。

    ビロウの元で辣腕をふるうクレイもまた極悪非道な男で、異世界にしか存在して欲しくないような性格をしている。
    彼の任務は、盗まれた白い果実を取り戻し犯人を見つけ出すことだったが、物語はどんどん違う方向に展開を見せ、ジェフリー・フォードの作り出す想像の世界に引きずり込まれてゆく。

    『シャルビューク夫人の肖像』 とは、違うジャンルの小説で、SFの部類に入るのだろうが、本書は実は、三部作で、その一作目が『白い果実』だそうで、完全完結というような気がしないのはそのためなのかもしれない。

    本書は、世界幻想文学大賞を授賞。

  • なかなかに想像力をかきたてられる物語でした。
    3部作の第一作ということで、続きも読んでみようと思います。

    「白い果実」が始めは単に不死の果実だと思って読んでいましたが、そんなに単純ではないのですね。

  • わけはわからない。だが、イマジネーションと、想像される色とガジェットの洪水が凄まじく、そして思いの外読みやすくもある。ファンタジー嫌いには厳しいかもしれないが、文字で絵画を描いているような秀作。

  • お、終わったーーーー!

    幻想小説と呼ぶにふさわしい一冊。でも、小難しいところは全く無い。読み応えのある物語。

    特に、山尾悠子さんの書く文体は硬質で、高慢で冷酷な主人公の性格によくマッチしているなーと思った。

    でも、慣れない雪道でずっこけたり、お間抜けな一面もあるんだよね。

    三部作だそうで、残りの2作も読んでみたいな。

  • 文句なしに面白かった!こういう話が好きです。

  • 金原瑞人らが訳してそれを山尾悠子が書き直したという一冊。山尾悠子という名前にひかれて。内容は大人のおとぎ話といった感じ。舞台は欧州を元にしたようで、ある観相学官の不思議な旅が書かれている。なぜか世界観がいまいちつかみにくい感じがした。三部作の一つ目のため、今後どうなるか、という意味では楽しみ。

  • 幻想文学というのはこうでなくっちゃ。というほど語られる世界観が素晴らしく悪に満ちていて美しい。独自の神を崇めるさびれた鉱山の村、ピアノを弾く猿のいる厳しい流刑の島、神の奇跡を起こす独裁者の治める都市、と次々に舞台を変えつつも、常に痛みと虚無感とを湛え、タイムパラドックスや楽園願望やメタのエッセンスも織り交ぜた贅沢さ。細部に至るまでがっちりと構築され、ページの間にどっぷりと遊べる濃密な時間。流麗な訳文、装丁も含めて大ヒット。何よりあと2冊続刊という「物語の途中」をまだまだ楽しめるのが嬉しい。心の本棚の、特別な場所に置くことが決まった本。

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