聖母の贈り物 (短篇小説の快楽)

  • 178人登録
  • 3.88評価
    • (15)
    • (21)
    • (19)
    • (0)
    • (1)
  • 22レビュー
制作 : William Trevor  栩木 伸明 
  • 国書刊行会 (2007年2月1日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (408ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336048165

聖母の贈り物 (短篇小説の快楽)の感想・レビュー・書評

並び替え:

表示形式:

表示件数:

  •  いつか国書刊行会の出す、はんぱねえ分厚めの海外小説を読んで見たいと思っていたけれども、ついに叶いました。
     現代最高の短編作家で、ノーベル文学賞の候補者とのことです。
     女性を主人公としていて、不自然さがまったくないことや、いろいろな視点が入っているのに、それが気にならないことが、読書会であげられてました。
     読んでいて、私が一番思ったのが信仰の問題でした。すべて宗教がらみの「信仰小説」だと思いました。信じていたものに裏切られることこそ、信仰である、と述べているようでした。トリッジにおける、大人たちの嘘話と同性愛。こわれた家庭の、欠損家庭の児童にめちゃめちゃにされることと二人の息子が戦死した老女。「失ったのはしょうがない、でもよくしていこうよ。よくしていくってのは悪いことじゃないよな?」という信仰心への懐疑。アイルランド便りの、ジャガイモと飢餓と人肉問題。聖母の贈り物における、神に見放されることが、神的なことであるという矛盾。マリアの処女懐胎に対して、マリア自身が感じた「処女懐胎という信じられない、ある意味信仰をやめたくなること、裏切りゆえに、しなければならない信仰」というのがこの短編にあるように思う。丘を耕す独り身の男たちやイエスタデイの恋人たちは結婚と貧困をテーマにリアリズムを描いているように思うし、マティルダのイングランドは、重厚な戦争文学だ。みな、戦争が終わり、次へと進もうとするなか、その「次へ進もう」は、人を人としてではなく「物」のように捉えているのと同じではないかという問題を描き出しているように思った。マティルダが、パーティーをぶちこわすのも、冷酷であるのも、神様だのなんだの言って人間を物にしてしまう者への、人間としての「抵抗」のように思える。
     それから、この本の表紙が良い。見るかぎり、金属のように思えるのだが、全く別の素材で出来ている。しかも、この聖母、笑っているのかどうか、微妙である。この、神の微妙さ、も本書で重要な所を占めているように思える。
     イーユン・リーいわく「カトリックが主流のアイルランドでプロテスタント系の家庭に生まれ、のちに故郷を離れてイングランドで暮らすようになったトレヴァーは、本人の言によれば、常に周縁で生きてきた。このように故国からは地理的な距離があり、なおかつイングランドからは外国人として距離があったからこそ、第三者の目で国や人々を見つめることができたのである。」とのことで、プロテスタントであるアングロアイリッシュの没落と、カトリックアイルランドの勃興を彼は見つめてきており、おそらく、カトリックへの厳しい視線があるように思う。
     本当に充実した、重い一冊だった。

  • 初めて読んだけれど全て面白かった。生きてそばにあって変わるものよりも、死んだ人や、土地、家と一方的な会話をしたり勝手に支配されたりするのが好きそうなマゾっぽい人たちが主に主人公になっている。短編の並べ方も上手。最初の数編を読むと底意地悪くて巧みな、と思ったが、読み進めるに従ってもっと楽天的でシンプルなところもある作家なのだということが分かるように構成されているようだった。個人的には『マティルダのイングランド』の場所に対する不健全な執着心が『丘を耕す独り身の男たち』では崇高な感じに描かれているところとかが印象的だった。どんな彫刻を作っていたのか。

  • ここ数年で読んだ海外の短編集の中で確実にナンバーワン。
    短編というには紙幅が・・・というものもあるんですが、基本的に私は何枚以下なら短編ではなく、文章の呼吸の感覚のようなもので分けられると思うのでこれは紛うことなき短編集です。

    何れもほとんどが「過去」について、「過去」にとらわれている人々が描かれている。
    過去は温かいけれど、冷酷。
    冷酷への道筋や理屈に圧倒された。
    自分の故郷を飛び出して新たなことに挑戦するとかいう勇気が称揚されがちだけど、そんな勇気よりも、過去に留まる、過去に生きるという決意をするほうがよほど勇敢なのではないかとふと考えさせられた。

  • アイルランドの土と冷たい風の匂いがする短編集。なかでも、「マティルダのイングランド」がやはり秀逸でした。「戦争になったら冷酷になるのが自然なのよ」ということばが刺さった。

  • 「おそろしく良質な」短編集。面白い!この作家をもっと読みたい。

  • 薦められて、図書館にて。海外文学を読み慣れてないので、なかなか難しかった。もっとスムーズに、娯楽として読めるようになりたい。

  • アイルランドの作家、ウィリアム・トレヴァーの短編集。『マティルダのイングランド』のみ3篇でひとつの物語をなしてますが、それ以外はすべて1篇で完結してます。著者から関心を持ったのではなく、訳者から興味を持って手に取りました。ちなみに訳者はキアラン・カーソンの『琥珀捕り』を訳した方です。

    主人公の造形も舞台も時代背景もバラバラながら、すべての短編に共通するのは登場人物たちの心理&外見の描写の細やかさと、彼らを取り巻く風景の描写の美しさ。もちろん著者の筆力によるところが大きいものばかりですが、日本語としてこれだけ綺麗な文体にまとまっているということを考えると、訳者である栩木氏の技量に感服し、また感謝する次第です。

    どの短編が一番好きか、となると、評価は分かれるでしょう。短編の割に長めの『マティルダのイングランド』が好きな人もいるでしょうし、短い中に劇的な場面転換がある、表題作でもある『聖母の贈り物』が気にいる人もいるはず。あるいは映画にできそうな『イエスタディの恋人たち』や、悲劇であり喜劇のようでもある『こわれた家庭』が好きな人もいるかもしれません。自分は白黒映画のような『丘を耕す独り身の男たち』と『エルサレムに死す』、そして『聖母の贈り物』が好みに合いました。

    どれか一つは確実に、お気に入りの作品として心に残る可能性は非常に高いと思います。図書館で借りてきた本ですが、どこかの本屋で見つけたら改めて買って本棚に並べてみたいな、と思えた佳作です。

  • 初トレヴァーの短編集を読む。とってもよかった。抑制された静かな筆致にぞわぞわ胸騒ぎが止まらない。隠された狂気が滲み出し溢れ出る手前の緊張感。うらはらの日常、喪失した過去、遮断されたもうひとつの世界が目の前の景色に重なり艶やかに浮上する。それは捻れた未来をも幻視する。中でも「マティルダのイングランド」が白眉。たった一日のテニスパーティの記憶に縛られ、崇高な魂が静かな狂気と結びつき、冷酷な表情へと変化しゆく心理の流れにぞっと震える。(「雨上がり」はちょっと苦手だけど)いずれの収録作も素晴らしく存分に堪能した。

  • 逗子図書館にあり

  • 英国人なら共感できる文化や歴史に基づく話なんだろう。

全22件中 1 - 10件を表示

ウィリアム・トレヴァーの作品

聖母の贈り物 (短篇小説の快楽)に関連するまとめ

聖母の贈り物 (短篇小説の快楽)を本棚に「いま読んでる」で登録しているひと

聖母の贈り物 (短篇小説の快楽)を本棚に「積読」で登録しているひと

ツイートする