パウリーナの思い出に (短篇小説の快楽)

  • 国書刊行会
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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336048417

作品紹介・あらすじ

人生とは神々を楽しませるための見世物にすぎない――幻影の土地に生まれた真の幻想作家ビオイ=カサーレス、本邦初の短篇集。愛の幻想、もう一つの生、夢の誘い、そして影と分身をめぐる物語。<br><br>ぼくはずっとパウリーナを愛していた。二人の魂は結びついていた、そのはずだった……代表作となる表題作をはじめ、バッカス祭の夜、愛をめぐって喜劇と悲劇が交錯する「愛のからくり」、無数の時空を渡り歩き無数の自己同一性を生きる男の物語「大空の陰謀」など、ボルヘスをして「完璧な小説」と言わしめた『モレルの発明』のビオイ=カサーレスが愛と世界のからくりを<br>解く十の短篇。本邦初のベスト・コレクション。《明晰でしかもとらえがたい曖昧さをたたえた文体、意想外の展開を見せるストーリー、巧緻をきわめたプロット、どれをとっても見事というほかはない》(木村榮一)<br><br>アドルフォ・ビオイ=カサーレス Adolfo Bioy Casares(1914~99) アルゼンチンの作家。ホルヘ・ルイス・ボルヘスの共同執筆者として『ドン・イシドロ・パロディ六つの難事件』などの作品や選集を多数刊行、1940年発表の『モレルの発明』で真の幻想小説家として確固たる評価を得る。

感想・レビュー・書評

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  • 初期から中期にわたる短編集からのアンソロジーとあって、SF寄り、サスペンス風、幻想味の強い作品と少しずつ違っていて、楽しく読めた。どうしても既読作品の印象が強いので、表題作や「大空の陰謀」のような、こちらの予想を一段階軽く飛び越えた結末の話が面白かった。表題作は「モレルの発明」に雰囲気が似ているし、「大空の陰謀」は「脱獄計画」を読み終わった後みたいに頭の中がこんがらがるところが、うわっとなる。

  • <セピア色の幻想。現実から半歩逸れた心許なさ。>

    ラテンアメリカ文学である。だがあまり強烈な色彩は感じない。淡い、目を凝らせば凝らすほど輪郭がぼやけていくような、靄を描写したような短編集。
    著者はボルヘスに絶賛されたという作家である。
    どこかで誰かの書評を見て、読んでみることにしたのだと思うのだが、今となってはきっかけが何だったかも定かでない。

    パラレルワールドのような話もあるが、SFのようにかっちりと作り込まれてはいない。だが逆に、それがある意味、リアリティを生んでいる面もあるように思う。

    夢の中で、「これは夢だ。夢だ。目を覚まさなくては。冷静に考えなくては」ともがきつつ、目が醒めない。そんな感じに似ている。
    不思議であったり、怪奇であったりするのだが、「怖い」というよりは「もどかしい」「心許ない」という方がふさわしいように思える世界である。

    個人的には、好みの世界というわけではなかった。十分に読み解けた気もしなかった。断片的に印象的なフレーズもあったはずだが、読み終わってみると確として挙げることもできない。詰まるところ、解釈する作品ではなく、その世界に身を委ねてみることでしか味わえない作品ということかもしれない。
    この本を読みさしで置き、眠りについた夜、自分が別の世界に行ってしまって、戻りたいのに両脇からその世界の人に腕を押さえられている、という夢を見たのは、自分で思っていたより、この作品に囚われていたのだろうか。

    今ひとつ掴みきれない中でも、よかったように思うものは、表題作の「パウリーナの思い出に」、「大空の陰謀」、「墓穴掘り」、「影の下」あたりか。
    だが、この作家の真骨頂は、実は自分にはよくわからなかった、これら以外の作品にあるのではないかと漠然と思ったりしている。


    *的を射ているかどうかはわからないが、ヘレン・マクロイの『暗い鏡の中に』をちょっと思い出した。鏡の奥には別の世界が広がっているのかもしれない。

  • 珠玉の短編集。どれも面白かったけれど、表題作の『パウリーナの思い出に』『大空の陰謀』『愛のからくり』あたりが好きだった。でも『墓穴掘り』も良かった。
    理路整然とした語り口で、いつの間にか幻想の中に入り込んでいる。それは自身の精神が見せる幻なのか、それとも世界の穴に落ちてしまったのか。心地良くその世界に酔いしれられる作品だ。

  • シリーズ名通り「短篇小説の快楽」。愉しみ溺れるコトになりそう。。。

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    「人生とは神々を楽しませるための見世物にすぎない――幻影の土地に生まれた真の幻想作家ビオイ=カサーレス、本邦初の短篇集。愛の幻想、もう一つの生、夢の誘い、そして影と分身をめぐる物語。

    ぼくはずっとパウリーナを愛していた。二人の魂は結びついていた、そのはずだった……代表作となる表題作をはじめ、バッカス祭の夜、愛をめぐって喜劇と悲劇が交錯する「愛のからくり」、無数の時空を渡り歩き無数の自己同一性を生きる男の物語「大空の陰謀」など、ボルヘスをして「完璧な小説」と言わしめた『モレルの発明』のビオイ=カサーレスが愛と世界のからくりを
    解く十の短篇。本邦初のベスト・コレクション。《明晰でしかもとらえがたい曖昧さをたたえた文体、意想外の展開を見せるストーリー、巧緻をきわめたプロット、どれをとっても見事というほかはない》(木村榮一)

    アドルフォ・ビオイ=カサーレス Adolfo Bioy Casares(1914~99) アルゼンチンの作家。ホルヘ・ルイス・ボルヘスの共同執筆者として『ドン・イシドロ・パロディ六つの難事件』などの作品や選集を多数刊行、1940年発表の『モレルの発明』で真の幻想小説家として確固たる評価を得る。」

  • 2018年の神保町ブックフェスティバルで購入。これで今年、ブックフェスティバルで買った本は全て既読になった……はず。
    ボルヘス始め、南米の幻想文学に無性に惹かれるところがあって、国書ブースで何となく手にしたのだが、本書も矢張り南米らしい雰囲気を漂わせていた。というか、求めていたのはこれだ〜って感じ?w
    『パウリーナの思い出に』がやけに『ヴェラ』(ヴィリエ・ド・リラダン)っぽい色気に満ちていてゾクゾクした。

  • 10編。
    南米=幻想、というわけでもないよな、ちょっとはそなような。
    ほとんどが恋愛小説だった、ような。。。すんまへん、あまり記憶に残らなかったもので。

    パウリーナの思い出に
    二人の側から
    愛のからくり
    墓穴掘り
    大空の陰謀
    影の下
    偶像
    大●大使
    真実の顔
    雪の偽証

  • 表題作はなかなか忘れがたい内容だった。誰の何てタイトルの話か忘れてしまっても、話自体はずっと覚えていると思う。

  • コルタサルっぽい。向こうはもう少し物語の輪郭がくっきりして強弱がある。こちらはふんわりしてるが、ムードは強い。自分はこちらが好み。現在軽い鬱なのだが、周囲との間の溝との闘いで怒りうんざり体力を消耗している。普段だったら、この主人公しんどい人ね、で済む所が自分に重なり、異常に浸透した。
    大体が妄想思い込みだが、女性に対する恋心の高揚と失意の転落があり、やはり上った分だけ下りることは必須なのだな。人間は何故体力を消耗するだけの恋などするのか?芸術を理解しえない人達への戯れを神が用意したのか?

  •  10編からなる短編集。
     この作家の翻訳物では唯一の短編集になる。
    「モレルの発明」がめちゃくちゃ面白かったので、本書も期待して読んだのだが、作品によっては期待以上、それ以外の作品も概ね期待通りの面白さだった。

    「パウリーナの思い出に」
     読み終った後、思わず「うーん……」と唸ってしまった。
     そうか、そう来たか、といった感じ。
     物悲しくも美しい愛の物語かと思わされたのもほんの一瞬で、そのすぐ後にこれ以上は無いくらいに残酷でおぞましい真相が明らかになる。
     一か所だけ、強引、というか不自然に思える箇所があったのだが、それほどに気にはならなかった。
     それにしても、よくもまぁこんな発想が出来るなと思うし、細かい伏線をあちらこちらに張って、その発想を最大限に生かしている手法は、もう「うーん」と唸るしかなかった。
     僕にとっては、ここ数年で読んだ短篇の中でも出色の面白さがあった。

    「二人の側から」
     幽体離脱に関する似たような話は聞いたことがある。
     この作品はそれと「永久の愛」と結びつけたような感じになるだろうか。
     二人はあっちの世界で出会うことが出来たのだろうか。
     それにしてもこの少女は現実的であり、あっちの世界の存在を認めていながらも、その世界への羨望も恐怖心もない。

    「愛のからくり」
     意味深なタイトル「からくり」が全てを表しているように思える。
     摩訶不思議な事象が起こるのだけれど、それによって真実の、あるいは真実だと信じていたものに綻びが生じる。
     はたして愛は「からくり」だったのだろうか……いずれにしても悲劇の結末しか残されてはいなかった。

    「墓穴掘り」
     割と簡単に殺人が達成されるので、前半は少しコミカルな雰囲気もある。
     相手の意図と自分の意図の錯綜、夫婦間の心理の差異、そして変則的な因果応報。
     最後は第三の殺人をほのめかしている。

    「大空の陰謀」
     パラレル・ワールドを扱った作品。
     二つの世界の存在を認識している人物に届けられた手紙と、その人物自身による多重の語り口がどことなく「モレルの発明」を思い出させる。

    「影の下」
     一人の女性に絡む、すれ違いと転落の人生、といったところだろうか。
     似たような出来事が繰り返されることから「永劫回帰的」とビオイ・カサーレルが自身の作品をそう表現したのかも知れない。

    「偶像」
     一種のホラーのような作品。
     夢と現実の区別がつかないままに、主人公は自分自身に「大丈夫」と言い聞かせたまま終わる。
     それにしても「パウリーナの思い出に」や「墓穴掘り」と同じように、怖い女性が登場するケースが多いように思える。
     また、「パウリーナの思い出に」や「愛のからくり」では、その幻想的な事象にある程度論理的な説明がされていたけれど(けっして科学的ではないが)この「偶像」では幻想的な事象は幻想的なままに放置されている。

    「大熾天使」
     世界が終ろうとしている状況で、そんな状況から顔を背けようとしている人々と、その真実をきちんと受け入れ、どんな行為も無意味だと思いながらも、最後は自己犠牲の精神を発揮する主人公。
     仮に自分がそんな状況に陥ったらどうなるのだろう。

    「真実の顔」
     輪廻転生の話。
     確かに寓話的な意味合いがあるように思えたのだが、解説を読むまでそれがどういうことなのかは、判らなかった。
     それにしてもそんな「真実の顔」が見えたら、気持ち悪いだろうな。

    「雪の偽証」
     推理小説的な味わいのある作品。
     少しばかり強引なこじつけだな、と思える箇所もあるのだけれど、意表を突かれる面白さは充分にあると思う。
     これも「モレルの発明」のようなメタ・フィクション的な構成になっている。
     解説を読むと、当時の政治スキャンダル事件が暗にほのめかされているとのこと。

  • J.Gバラードのような世界の終わりを描いた短編があるかと思えばモレルの発明を思わせるようなSF風味の短編もある。

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