ラナーク―四巻からなる伝記

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制作 : Alasdair Gray  森 慎一郎 
  • 国書刊行会 (2007年11月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (714ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336049391

ラナーク―四巻からなる伝記の感想・レビュー・書評

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  • 二段組みで700ページ。厚さ5センチにも及ぶ、まさしく紙でできた煉瓦のような本。で、中身の方はというと、これが一口では言い表すことが難しい代物。作者は「叙事詩」と呼んでいるが、一般的な呼び方に従うなら、紛れもなく「小説」である。ただ、少々変わったところがある。副題に「四巻からなる伝記」とある通り、四巻仕立ての物語は、なんと第三巻から始まる。第一巻、第二巻と続いた後、第四巻へと移行する。プロローグが第一巻の前に入るのは分かるとして、第四巻の途中にエピローグが挿入されるという型破りな構成になっているのには訳がある。

    実は、この物語は二つの小説から成り立っている。一つはラナークという青年がアンサンクという陰鬱な町で巻き込まれる夢幻的かつ政治的寓意に満ちたSF調冒険活劇で、第三、四巻がそれにあたる。もう一つは、グラスゴー生まれのダンカン・ソーという青年の誕生から、その死までをリアリズム的手法で描いたビルドゥングスロマン的な芸術家小説で、第一、二巻がそれにあたる。

    記憶をなくした青年が、自分探しをする過程で、自分の過去を語る話者の語りに耳を傾けるという構成で、ラナークの物語の中に、ソーの物語が入れ子状に象眼されている。作者は、出版に際して何度も二つの小説として出版するべきだという説得をうけたという。処女作にしてこの長さはリスクが大き過ぎるというのが理由だった、と本人は述べているが、二つの小説の語り口や、読者に与える印象のちがいから見て出版社の助言は妥当なものだったと言えるだろう。

    評者自身、はじめは小説世界の中になかなか入り込めなかった。腕が竜のようになったり、掌に口ができて喋り出すという設定が、近未来SFなのか、ファンタジー小説なのか、ジャンルとして、どの辺を意図しているのかが理解できず、読み続けるべきかどうか迷った。それが第一巻に入ると俄然面白くなったのは、やっと馴染みの世界に入ってきたぞという安堵感が生じたからだ。小説好きな読者といっても、小説ならなんでもこいという人ばかりではない。一通り読み終えた後なら、なるほどこの小説が、そうしたジャンル越えを狙ったメタ小説であり、ポスト・モダン的な小説だということは理解できるものの、はじめは面食らうだろう。

    ダンカン・ソーの物語は、芸術家志望の青年の友情、恋愛、家族との関わりを描く人格形成小説としてそれなりに読める。強い自意識、鋭敏な感覚、頑固な性格や、喘息、突発性湿疹の疾病などは画家でもある作家その人の属性と受けとめていい。芸術的気質を持った読者なら主人公に感情移入して読むことだろう。旧約の世界を教会の壁面に描き出す場面などは、文章で描かれた絵画を集めた本が編まれたら間違いなくその中に収められる出来である。ただ、これだけを小説としたら、多感で純粋ではあるが、愛については不器用な青年の野望と挫折を描いた、ヘッセもどきの浪漫主義的作品として読み過ごされてしまったにちがいない。

    「人間とは自分で自分を焼いては食べるパイみたいなもので、パイの味の秘訣は切り分けにある」という格言めいた科白が繰り返し登場する。互いに相争わないではいられない権力闘争の歴史を厭い、家族愛や地道な生活に親近感を覚える作者の世界観もまたナイーブなもので、この混沌とした時代、前面にそれを押し出されたら鼻白む読者も多かろう。

    カフカ的な不条理な設定で始まり、ダンテやブレイクを思わせる地獄巡りを経て、ハックスリーやジョージ・オーウェルばりの近未来に至る寓意的小説世界を額縁としてもってきて、相容れない二つの小説を無理矢理一つの世界に統合することで、はじめて自己言及的な批評性を持たせることができたのではないか。

    第四巻の途中に突然作者を登場させたり、引用部分に自らが「盗作」と謳う詳細な註解をつけたりする設定も、ナイーブに過ぎる半自伝的小説を韜晦させる目的と考えられなくもないが、全編を通じ、先行する文学作品からの引用、言及からも明らかなように、文学から文学を創る作家の一人と位置づけた方が、より作者の意にかなうだろう。アントニー・バージェス曰く「スコットランドが生んだウォルター・スコット以来の偉大な小説家」アラスター・グレイのデビュー長編である。

  • 2012/9/1購入

  • よく似た世界音痴系の主人公が2つの世界でそれぞれに苦闘する、二重の物語。厚さと装丁が重たいからゴーメンガースト的なびっちりした本かと想像していたら、かなり読みやすかった。

    『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』の場合のように、2つの世界はゆるくつながっている。一方の世界に他方の世界のこだまが響く感じのさじ加減がよい。長編を読むと冗長さに興が冷めることがよくあるけれど、わたしのようなただただ文字を追う読者がこの響きを聞きとるには、この長さ・エピソードの積み重ねが必要だったから。

    奇想サイドに魅かれて手に取ったのだけれど、リアルサイドが予想以上のみずみずしさ。ちびっこのいとけなさとかモテない君の悲しみとか、青春期前半の描き方がチャーミングで、しっかり主人公に感情移入してしまった。おかげで後半がつらい。

    リアルサイドを真ん中に挟む分、奇想サイドの後半はグロテスクな戯画の様相を強めるけれど、微妙な、ほんのりとした終わり方が「なるほどねー」と感じた。結末については、「まあそれが人生で一番大事かもね」っていうのと、「それだけでいいの?」っていうのと、3対2ぐらい。本全体としては、700ページを存分に楽しめた。

  • SFチックな物語だと思っていたら
    とたんにティーンネイジャーの痛々しい青春が繰り広げられと
    現実と妄想と世界とがぐちゃっとなっていて
    かなり物語の世界にどっぷりと浸かれた
    痛々しさも含め面白かった

  • 吐くほど長い小説が読みたいと思った時におすすめの本。

  • 登録:2009/04/03 図書館
    読了:2009/04/14

    妄想そのままの不思議な物語と、誰しも覚えがあるような痛い青春の半自叙伝が合体した小説。分量がすごくてびびったけど、意外や引き込まれました。

  • まだ読んでいません。
    どこかに載っていた書評を読んで、読みたくなりました。

  • 19世紀から20世紀初頭にかけての小説黄金時代の愛や芸術についての青春小説と、カフカ以降の不条理的な世界、そしてポストモダン的メタフィクションを一つの作品の中にすべて詰め込んだ百科全書的小説。20世紀後半に書かれた小説の中でも屈指の出来!

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