ジーン・ウルフの記念日の本 (未来の文学)

  • 国書刊行会
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  • Amazon.co.jp ・本 (372ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336053206

感想・レビュー・書評

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  • アメリカの祝祭日に因んだテーマの短編小説を集めた、
    黒い皮肉の利いたSF中心の作品集。
    掲載順は年初から大晦日。
    先に長編を読んだ身には、この作家にしては
    スッキリとわかりやすいストーリーが並んでいるな……
    と思えるが、後半へ進むに従って、
    やはり目くらましというか煙に巻かれるというか、
    一読では真意を図りかねるトーンになっていく。
    必ず本編読後に目を通すべしと注記した上で、
    もう少し突っ込んだ解説を添えてもらえるとありがたい。
    『ピース』の一部分を切り取って独立した短編と化した話、
    『ピース』の舞台と同じ町での出来事を綴った話もあり。

    失われゆく古きよきものへのノスタルジーを描いた
    「ラファイエット飛行中隊よ、きょうは休戦だ」がよかったが、
    一番面白かったのは著者の「まえがき」かもしれない(笑)。

  • 不思議な雰囲気

  • 2020/8/1購入

  • 文学

  •  一つの文章に幾重にも意味を重ね読者を幻惑する技巧派SF作家ジーン・ウルフは短篇の名手として知られている。1968~80年の作品を収めた1981年刊行の本書は、アメリカの記念日をテーマにしたそれぞれ独立した短篇で構成されており、作品の短いものは10頁に満たない長さのものもあるが、いずれも一筋縄ではいかないものばかりである(各短篇のカッコ内は相当する記念日。特に面白かったものに◎。ネタばれという言葉の相応しくない作家だが、以下内容に触れているので未読の方はご注意ください)

    「まえがき」 まえがき、が図書館をネタにしたユーモア掌篇になっている。ジーン・ウルフを知っている人で「まえがきに目を通さない」読者なんているのか?(笑)
    「鞭はいかにして復活したか」(リンカーン誕生日) 会話から浮かび上がる差別的な未来社会。1970年の作品でテーマ的にニューウェーヴっぽさも感じる。
    「継電器と薔薇」(バレンタイン・デー) コンピュータによる社会の変化が描かれているが少し感覚の古いような気がする。
    「ポールの樹上の家」(植樹の日) 木の上で生活するポール。これも社会的なテーマが題材になっている。
    「聖ブランドン」(聖パトリックの日) 長編『ピース』の一エピソード。
    「ビューティランド」(地球の日) 管理化された(?)未来社会とエコロジーが扱われている。
    「カー・シニスター」(母の日) 母の日でこれか(笑)スラプスティック気味のアイディアストーリーでウルフらしくない気もするが、こんなのも易々と書いてしまえるのね。
    「ブルー・マウス」(軍隊記念日)◎ 戦争もので、自身の体験からか現場の兵士からの視点が効果的に作用している作品。
    「私はいかにして第二次世界大戦に敗れ、それがドイツの侵攻を防ぐのに役立ったか」(戦没将兵追悼記念日)◎ 長いタイトルだが、第二次大戦を舞台にしたテンポのよい改変歴史ものでアイディアストーリーとしても完成度が高く、これまた芸域の広さに驚かされる。
    「養父」(父の日) これも未来の管理社会が扱われている。シリアスな作品だが、ラストのネタは意外。
    「フォーレセン」(労働者の日) 本短篇集で一番長い。解説で解き明かされている仕掛けは当方のようなぼんやり読者には読解不可能だなあ。その意味で解説ありがたい。会社員の生活をシュールに描いた1974年の作品で、同時代の日本のSF作家なども好んで扱ったネタだと思うが、ウルフは「人間の社会や生活を模倣する(人間ではないかもしれない)何か」というテーマを繰り返し取り上げている気がする。
    「狩猟に関する記事」(狩猟解禁日) 狩猟の描写がいいなーと思った後に解説読んだら驚いて倒れそうになった。えっそういう作品なの!?
    「取り替え子」(ホームカミング・デイ)◎ 解説にも書かれているがホームカミング・デイは卒業生が母校を尋ねる日。懐かしい記憶が恐怖にすり替わる傑作。これまた解説によると『ピース』とつながっているらしい(気づかなかった)。しかしこれ取り替えられたのは誰?
    「住処多し」(ハロウィーン) 恐ろしい童話風テイストのSFで面白いんだけどこれまた謎の多い作品。
    「ラファイエット飛行中隊よ、きょうは休戦だ」◎ エンジニアでもあったウルフの技術に対する思いが背景にあるのかストレートなノスタルジアと飛翔のイメージが融合した美しい小品(いや本当に美しいだけなのだろうか。騙されていないだろうか・・・と思ってしまうのもまたウルフ)。
    「三百万平方マイル」(感謝祭) 解説によるとディッシュのエコロジーテーマのアンソロジーに収めらていたらしい(そんなのあったのか)。長い高速道路がモチーフになっていてアメリカらしいがこれもちょっとピンとこないところがある作品。
    「ツリー会戦」(クリスマス・イヴ)◎ クリスマス・イヴの高揚感が子供の視点で幻想風味で描かれ多重に解釈可能な実にウルフらしい好篇。「デス博士の島そのほかの物語」と共通点が多い作品。これまた解説読んでびっくり。相変わらずウルフの恐ろしさがよくわかっていないことがよくわかった(苦笑)。
    「ラ・べファーナ」(クリスマス) 異星を舞台にしたSFだが、宗教的なテーマも入ってるのかなーと思ったがよくわからない。解説「短いながら名作の誉れ高く、」えー、そうなの?
    「溶ける」(大晦日) 巻末らしい華やかでパーティの終わりのさみしさをメタフィクショナルに描き、ウルフらしいエンディング。

     1970年前後の作品はニューウェーヴSFの時代に呼応しているせいか社会問題をテーマにしたり背景にしたりした作品が目立つ印象がある。また戦争をテーマにした作品も書いてきていることも知ることができた。上記のように解説は示唆に富んだ内容で大変刺激的で、その分作品読了後に読むことをおすすめする。

  • 原題は“ Gene Wolfe’s Book of Days ” 。この「ブック・オブ・デイズ」。ここでは「記念日の本」という訳になっているが、一年間365日の一日一日について、「今日は何々の日」ということを解説した本のことである。ジーン・ウルフがその初期短篇の中から、ある記念日にちなんだ短篇を選び出し、「ブック・オブ・デイズ」を模して配列した短篇集である。かなり短い作品から、中篇に近い作品を含む十八篇とまえがきに仕込まれた小篇がひとつ。ちゃんと前書きを読む好い子のためにおまけがついている。このおまけが絶妙で、本編に対する期待がいやまさるという憎い仕掛け。

    実はジーン・ウルフについて、有名な『ケルベロス第五の首』や「新しい太陽の書」シリーズには今ひとつ好印象をもてなかったのだが、「デス博士の島その他の物語」には惹かれるものがあった。個人的な好みで一般性はないのだが、いかにもSFらしい作品を前にすると難解な科学用語や架空の理論にひるんでしまうところがある。それでいてSF作家が書く物の中にはお気に入りの作品がいくつもある。そんな読み手なのだが、この短篇集からは自分好みの作品をいくつか見つけることができた。自分でアンソロジーを編むとしたら、是非選びたいのは休戦記念日にちなんだ一篇、「ラファイエット飛行中隊(エスカドリーユ)よ、きょうは休戦だ」だろうか。

    かなりの空戦マニアなのだろう。フォッカー三葉機のレプリカをほとんど自力で造りあげた「わたし」は、空気のきりっと冷たい早春のある日その年二度目のフライトに飛び立つ。機体はぐんぐん上昇し、どんな鳥の背をも見下ろす高度に駆け上がったそのとき、地平線すれすれに浮かぶ赤身の強いオレンジ色の点を発見する。それは気球だった。ゴンドラには美しい娘が乗って手を振っていた。「わたし」は、偵察の任務も忘れ、気球の周りを旋回し、娘と身ぶり手振りで会話のまねごとをかわすが、やがて燃料が切れ着陸を余儀なくされる。給油後再び離陸するも娘には二度と会えなかった、という話。

    気球は南北戦争当時リッチモンドの淑女たちが拠出したシルクのドレスで縫い上げた偵察用気球のレプリカと思われたが、その後何度飛んでも二度と出会うことは叶わなかった。 「わたし」は密かに思う。すべてを本物と同じように造りあげたフォッカー三葉機が唯一オリジナルと異なっているのは、ドープ塗料が当時の強燃性のものから不燃性のものに変わっていたことだ。もし、強燃性ドープ塗料を使っていたら、事態はちがっていたのではないか、と。このとことん細部にこだわるマニアックな資質に神が宿るのだ。

    日暮れ近い空の上で遭遇した気球はレプリカではなく本物ではなかったのか。もし、自分の機体が当時と同じ強燃性ドープ塗料で塗られていたら、オリジナルの飛行物体だけが時を越えて相見えることのできる時空に、思う様飛んでいけたのではなかったか。その時代の最新鋭機を造りあげた者だけが行くことのできる空の通い路には、今も多くの複葉機や三葉機、飛行船が夕焼けの雲を背景に行き交っている、そんな夢のような光景を想像させる珠玉の一篇である。宮崎駿はこの作品の存在を知っているだろうか。評者にはゴンドラに乗ったペチコート姿の娘がナウシカに見えて仕方がなかった。

  • 『ケルベロス第五の首』 『デス博士の島その他の物語』 の名匠ジーン・ウルフによる第二短篇集がついに登場。リンカーン誕生日から大晦日まで、アメリカの祝祭日にちなんだ作品で構成された予測不可能な物語が詰まった驚異のコレクション!

    〈収録作品はいわゆるSFだが、多くはそう思ってもらえないタイプのSFで、明らかに地球外を舞台にしているのは「ラ・ベファーナ」と「住処多し」だけ。何篇かはユーモアものであるとはいえ、私のユーモアのセンスは屈強な男を失神させ、女性に凶器を取らせるような代物である……〉(まえがきより) 出来損ないの世界でのビジネスマンの凝縮された一生を描く不条理中篇「フォーレセン」、ピーター・パン由来の死のイメージが散りばめられた不気味な一作「取り替え子」、車が○○する話「カー・シニスター」、クリスマス・イヴの新旧おもちゃの攻防戦「ツリー会戦」など〈言葉の魔術師〉ウルフが華麗な文体と技巧を駆使して贈る、予測不可能な物語と知的仕掛けに満ちた初期短篇全18篇を収録。

  • 『未来の文学』シリーズ最新刊。この叢書で刊行されるジーン・ウルフの著作としては、『ケルベロス第五の首』『デス博士の島その他の物語』に続いて3冊目となる。
    前の2冊はシリアスで重厚な雰囲気が強かったが、今作ではなかなか毒のある笑いを喚起する作品が多かった。
    一番毒があるのは『鞭はいかにして復活したか』。一種のディストピア世界を描いているが、登場人物が必死になっているところが滑稽でありつつ、語られるテーマはなかなかの毒っぷり。
    毒っぽいと言えば『ポールの樹上の家』もそうで、これのラストシーンもなかなか。
    『私はいかにして第二次世界大戦に敗れ、それがドイツの侵攻を防ぐのに役立ったか』と『フォーレセン』は軽い笑いを取っているようにも読める。というか、この2作は純粋にけっこう笑える。ただ、どちらも、ふと黒い部分が垣間見えるんだけども……。
    しかし、一番好きなのは『まえがき』に仕込まれた掌編だった。『図書館の本をこっそり持ち帰る』というよからぬ行いを繰り返した結果には爆笑。

    原題を直訳すると『ジーン・ウルフの〈今日はなんの日?〉』となるらしい。昔、ワイドショーにそんなコーナー無かったっけ?w

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著者プロフィール

1931年、アメリカ・ニューヨーク生まれ。兵役に従事後、ヒューストン大学の機械工学科を卒業。1972年から「Plant Engineering」誌の編集に携わり、1984年にフルタイムの作家業に専心するまで勤務。1965年、短篇「The Dead Man」でデビュー。以後、「デス博士の島その他の物語」(1970)「アメリカの七夜」(1978)などの傑作中短篇を次々と発表、70年代最重要・最高のSF作家として活躍する。その華麗な文体、完璧に構築され尽くした物語構成は定評がある。80年代に入り〈新しい太陽の書〉シリーズ(全5部作)を発表、80年代において最も重要なSFファンタジイと賞される。現在まで20冊を越える長篇・10冊以上の短篇集を刊行している。

「2015年 『ウィザードⅡ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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