乱視読者のSF講義

著者 :
  • 国書刊行会
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感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (315ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336054418

作品紹介・あらすじ

ウェルズからレムまで、SFの名短篇を丁寧かつ明快に読み解く。東大・京大講義を元にしたSF講義を中心に、SFエッセイを集成。精緻なジーン・ウルフ論や柳下毅一郎氏との対談などを収録。知的刺激に満ちた新しい文学入門の登場。

感想・レビュー・書評

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  • 若島先生の乱視読者シリーズ待望の SF 編。刊行当初に購入してずっと積読だったのだが、最近ヴォネガットを読んだのを機に、久しぶりにもう何作か SF を読んでみようかとガイドブック的に手に取った。「小説を読むとは、細部を読むこと」という普段の姿勢通り、SF に対しても、やはり若島先生は単なるエンターテイメントとして楽しむだけではなく、細部への丹念な読みを披露する。いや、もちろん、その細部に気がつく(あるいは勝手読みする)ことによって、同じ本が 10倍も 20倍も楽しいエンターテインメントになっているわけだけれど。

    前半 2/3 は、講義風読みもの 12編と読書エッセイ 16編。どちらも H.G.ウェルズに始まり、スタニスワフ・レムに終わる、いかにも若島先生らしいセレクション。後半は「まるでナボコフのよう」とナボコフ研究者として最大の賛辞を惜しまないジーン・ウルフに関する解説、対談、講義録など。特に 1ページにも満たないジーン・ウルフの超短編「ガブリエル卿」(Bibliomen 収録)に関する講義録は、「ロリータ、ロリータ、ロリータ」を彷彿とさせて、わずかな時間で「小説を読むとは、どういうことか」を示してみせる。

    この手の本を読むと、読みたい本が指数関数的に増えていくので困る。しかも、最近は書店に行く手間もなく、真夜中にクリック一つで本が買えてしまうので、非常によろしくない。出版は「世界幻想文学大系」、「文学の冒険」シリーズなど一風変わったセレクションで定評のある国書刊行会。最近また読書熱が再燃しているので、昔揃えようと思って果たせなかった「バベルの図書館」シリーズでも揃えてみようか。

  • 武蔵野大学図書館OPACへ⇒https://opac.musashino-u.ac.jp/detail?bbid=1000260092

  • 2011年11月15日、初、並、帯付
    2016年3月11日、松阪BF

  • ジーン・ウルフ「ガブリエル卿」★★★

  • 鋭い直感。

  • 今まで気付かなかったSF小説の楽しみ方を教えてくれた本。

    優れた小説は、様々なことに注意しながら何度も読み返すと、その度に新しい発見出来ることを、実例をもとに教えてくれます。
    この本で取り上げられているスタージョンの「海を失った男」やウルフの「デス博士の島その他の島」は一度読んだことはありましたが、解説してもらうことで今までとは全然違う視点でその楽しみ方を教えて頂きました。
    ジーン・ウルフは、もう少し他の作家の作品でSF小説を読む素養を高めた上で、チャレンジしたいと思います。

    前半の「乱視読者のSF短編講義」は、ネタバレもあるので、筆者も序文で書かれているとおり、事前に取り上げられているものを読んでおくことをお勧めします。

  • どうしよう、面白すぎる。今すぐジーン・ウルフが読みたくてたまらない。
    今まで若島先生の文章は知らない作家ばかり出てきて難しいと敬遠してしまっていたが、ディックやル・グィン、スタージョン、ウェルズという、多少なりとも知ってる名前を手がかりに読んでいくと、見事な読書水先案内万華鏡にたどり着く。
    小説を読む醍醐味は、何度も読み返して新たな発見をしたり、自分の境遇と思いがけずシンクロする場面を見つけたりしてうち震える瞬間にあることを、改めて思い起こさせてくれる。

  • ふだんあまりSFの類は読まない。興味は、むしろ「乱視読者」のほうにある。ナボコフの訳者、あるいは研究者として著名な若島正は、『ナボコフのヨーロッパ文学講義』に倣って、「乱視読者の○○講義」等のタイトルで何冊もの評論集を書いている。それらの多くはすでに読んでいるので今回のSF講義も手にとってみたわけである。

    正直いって、これまでのものと比べると、面白さに欠ける。これは、こちらがSFの素人だからかもしれない。「SFマガジン」のような雑誌に寄稿した文章が多いが、ことSFに限らず、ある特定のジャンルのみに興味を持つ読者を対象に書いたものは、素人にはなじめないところがあるものだ。

    ネタバレのおそれがあるから、あらかじめ読んでおけと指示があるのに、読んだことのあるのは、ジーン・ウルフの『ケルベロス第五の首』、スタージョンの『海を失った男』くらいで、それも細部は記憶していないというダメな読者である。しかし、そんな読者でもジーン・ウルフは今一度読んでみたいと思わせられた。

    巻末の「乱視読者の出張講義―ジーン・ウルフ篇」がその一篇である。ウルフの超短篇「ガブリエル」を読み解いたものだが、いつもの若島正らしい精緻な読みがここに来て一気に復活した感がある。

    ウルフはSF以外の作家ではボルヘスとナボコフが好きらしいが、いかにもナボコフ読みの作家らしい仕掛けが一頁に満たない小説の中に幾重にも組み込まれている。それを解説する若島の手さばきがまた見事で、この一篇だけでもこの本は読む値打ちがある。

    アーサー王がカムランで敗北した後のこと、円卓の騎士の一人ガブリエル卿が、とある古城で一冊の書物を見つけ夢中で読んでいると、後ろから肩を叩かれる。振り向いたとたん、そこはセントルイスの古アパートの一室で、自分はハリー・アップルドルフという男だったことに気づく、という話である。

    簡単に筋だけを書けばそれだけの話である。ところが、この話の中に仕組まれた仕掛けに気づくと、ジーン・ウルフ恐るべし、とうならされる。これ以上書くとネタバレになるので、詳細は実作を手にとって読んでほしい。ナボコフファンなら是非。

  •  現在日本で最も優れたSF読みの一人である若島正先生の評論集。もちろん素晴らしい一冊である。
     全体は三つのパートから成り、1.SFマガジンで連載され一回一短篇を扱う「乱視読者のSF短篇講義」 2.様々なエッセイを並べた「乱視読者のSF夜話」 3.どっぷりウルフに取り組む「ジーン・ウルフなんてこわくない」。帯にある「ウェルズからレムまで」とあるように先生ファンにはお馴染みの(いわばスペキュレイティヴ・フィクションとしての)SF史観に貫かれた精緻なそれでいて随所にユーモアのちりばめられたSF論が楽しい。
     名探偵のような理詰めの見事な読み解きに驚嘆するばかりなのだが、その裏に家族が寝静まる中一人読書にふけりベスターに興奮しウルフを読んで不眠となりブラッドベリに意識を失いそうになるというエモーショナルともいえるような面がうかがえることに胸が熱くなる。本書の読後、自分の読んだもの全てに先生の解説が欲しくなってしまうが、読書は個人的な行為だと語っていることを考えるとそんなに甘えすぎてはいけないのだろう(笑)。偶然にも面白いSFと出会い、いつかSF評論集をまとめようと考えていたらしい先生だが、本書が「永遠の淵にたたずむ書物」にならなかったことを読者として幸福に思う。是非日本SF大賞の候補に。

  • トークイベントに惹かれて購入。取り上げられている小説はほとんど読んでないけれども。

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著者プロフィール

1952年京都生まれ。京都大学名誉教授。英米文学研究者、詰将棋・チェスプロブレム作家。著書に『盤上のフロンティア』、訳書にナボコフ『ロリータ』『ディフェンス』、パワーズ『黄金虫変奏曲』(共訳)など。

「2023年 『盤上のパラダイス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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