教皇ヒュアキントス ヴァーノン・リー幻想小説集

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制作 : 中野善夫 
  • 国書刊行会 (2015年2月27日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (504ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336058669

教皇ヒュアキントス ヴァーノン・リー幻想小説集の感想・レビュー・書評

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  • 19世紀後半生まれの女流作家の作品を訳出した、
    豪華で嵩張って重たい短編小説集。
    毒々しい幻想物語を期待して読んだが、意外に素朴な内容だった。

    文献中に息づく過去の女性に恋して理性を失う学者を描いた、
    巻頭「永遠の愛」が一番私好みだった。
    翻訳の問題もあるのかもしれないが、
    日記や書簡の体裁で書かれた話は読みやすく面白く、
    そうでないものは、やや冗漫で退屈だった……かな。

    訳者あとがきによれば、ヴァーノン・リーは
    親しい同性の友人が
    結婚によって男に奪われたと感じていた由(p.480)。
    何とも極端な感受性の持ち主と言えそうだが、
    理解できなくもない……というか、
    そうした視点で物語を組み立てることに興味を覚える。

    【余談】
     初版封入特典自慢はこちら(笑)。
     https://note.mu/fukagawanatsumi/n/n993a22c6bde0

  • またしてもブロンツィーノ描くところの「ルクレッツィア・パンチャティキの肖像」の登場である。ヘンリー・ジェイムズ著『鳩の翼』のヒロインのモデルにもなった緋色のドレスに身を包んだ女性像は、余程当時の男性の心を虜にしたにちがいない。筆名は男性名だが、ヴァーノン・リーは女性。ヘンリー・ジェイムズとは親しい仲だったから或は会話の中に登場したことがあったのかもしれない。たしかに、美しい女性像であるが、それにもまして怜悧さや容易に人を寄せ付けない威厳のようなものが伝わってくる。こういう女性に惹かれる人はどこか被虐趣味的な性行を持つのではないだろうか。そんな気がする。

    伝説的な悪女に魅入られて、不審死を遂げる男の姿を描いた「永遠の愛」は、ヴァーノン・リーの特徴を知るに最適な一篇である。イタリアはウンブリアを訪問中のドイツ帝国教授シュピリディオン・トレプカは歴史文書中の女性の事跡に何故か心魅かれ、寝ても覚めても、その姿が心から去りやまず、ついには幻を見るようになる。その女メデアは、悪行の果てに何人もの男の命を奪ったが、一人の魂だけが騎馬像の中に封じ込められていた。女は男の手を借り、騎馬像を破ろうとする、という話だ。

    トレプカの肩越しに姿を現すメデアの姿が「ルクレッツィア・パンチャティキの肖像」そのままである。幻想小説の書き手である以前に、18世紀イタリア文化、イタリア・ルネッサンスの美術、音楽、演劇の研究者であったヴァーノン・リーである。ウフッツィ美術館所蔵の有名な肖像画を目にし、そこに自分の創作に置ける主題であるファム・ファタルの典型を見たにちがいない。闇に埋もれた過去の中から立ち現われる美女が現代に生きる男に手を伸ばし、その魂は愚か命まで奪ってしまうというのは、本書にもくりかえし登場する作家偏愛の主題である。他に「ディオネア」「幻影の恋人」が男を狂わす悪女を描いている。

    表題作は神の思し召しにより悪魔が聖人を試すというよくある逸話。「聖エウダイモンとオレンジの樹」とともに掌編ともいうべき短さの中に、権威から距離を置き、身を低くし、他の恵まれぬ人々や地上の弱い生き物を思う、謙譲の美徳の尊さを語りつくす。体が石になり、心臓が金剛石になるところなど、ワイルドの『幸福な王子』を思い出すが、寓話につきものの教訓臭がなく、花実をつける植物の奇蹟で幕を閉じるところに、キリスト教をモチーフにしながら、それに縛られず、生命力を謳歌する息吹がみなぎり、爽やかな後味が残るところを愛でたい。

    怪異譚、奇談には同工異曲と見られるものが少なくない。まして、異国を舞台に過去の因縁を語る話を得意とすれば、それぞれが似てくるのは仕方のないことである。日記、手紙、回想と、叙述形式に意を凝らし、単調にならぬよう配慮しているところはさすが。ただ、どれも水準以上の出来であるとは思うものの、物語としての完成度の点で画竜点睛を欠く感じが残る。美学者、研究者としての教養が邪魔をするのか、恣な想像力の飛翔や、猥雑さや卑俗さを怖れない破天荒な展開といった物語ならではの面白さが充分でなく、結末がいささか力強さに欠け、カタルシス不足に感じられてならない。いちばん物足りないのは人物の魅力である。美しく悪い女は登場するが、当方に被虐趣味が足りないのか作中の男たちのようには夢中になれない。

    そんななか個人的な好みでいえば、「七懐剣の聖母」が、主人公の矛盾した人間像の描出において他の作品を凌駕するものと思える。自分のものにしたいと思ったら、相手の親でも亭主でもさっさと殺して、女を手に入れる、その天をも怖れぬ所業をいとも簡単にしてのける男が、信仰の対象である七懐剣の聖母だけは裏切れない、そのために自分の命さえ犠牲にしてしまうほどに。この悪逆非道の美丈夫にして、思い姫に忠誠を尽くす天晴れな騎士道精神の持ち主、ミラモール伯爵、ドン・ファン・デル・プルガルだけは、たしかに力強く生きている。

    堅牢な造本、余白を取ったレイアウトで読む幻想小説の味は格別である。以前にも読んだ「聖エウダイモンとオレンジの樹」一篇は、同じ訳者の手になる作品でありながら、文庫で読むのとは一味も二味もちがった。持ち重りする大冊であるので、長時間の読書中、最後は書見台の世話になったが、久し振りに本を読む愉しみを味わった心地がした。

  • 子供を持つ予定の人だったら、今の自分のためだけでなく、幻想文学好きの血をひく子孫のために本棚に置いておくべき本なんじゃないかと思った。気づいたら家にこういう本があって好きなように読める子供は幸せだ。

    どうしてそんなことを思ったかというと、二週間かけて子供のころのような読書ができて、幸せだったから。書いてあることすべては理解できなくても、とにかくなにか妖しくて美しいものが描かれていることはわかる。何度も読んでいるうちにもっとわかるようになって、もっと楽しめることも。

    紙がすいつくような肌触りで、ページのめくり心地がいい。紙の本の贅沢感がとてもある。

    「ディオネア」、「幻影の恋人」、「アルベリック王子と蛇女」が特によかった。

  • 伝説的な幻の女性作家ヴァーノン・リー、本邦初の決定版作品集。女神、聖人、ギリシャ、ラテン、亡霊、宿命の女、カストラート……彼方へと誘う魅惑の14篇。いにしえへのノスタルジアを醸す甘美なる蠱惑的幻想小説集。 

  • アンソロジー『怪奇小説日和』、『短篇小説日和』にも収録されていたヴァーノン・リーの幻想小説集。
    上記の2冊で読んだ時は正直、あまり印象的ではなかったのだが、纏めて読んでみると独自の作品世界を持った作家だと実感した。
    音楽や絵画といった、文芸以外の芸術を描いていたり、古い時代をモチーフにしているものが多い。どちらかというと短いものの方が切れ味が鋭いかな。

    英国人ではあるが、大陸側の影響が非常に強く、雰囲気としてはフランスの幻想小説に近い。リラダンとかあの辺と共通している気がする。実際にイタリアで生涯を終えたらしい。
    ボリュームのある『訳者あとがき』も読み応えがあった。これを膨らませた研究書が出たら買うんだけどなぁ。

  • 幻想的でポーランド文学読んだときに感じたのと同じ、コレがアレでソれが・・・ンンンンン?っていう不条理謎展開。
    でも蛇女とかモティーフはスキ・・・。

  • ヴァーノン・リーという、あまり本邦では知られていない作家の幻想小説をあつめた本です。名前は男性名ですが実は女性。元々美術の研究もしていたそうで、独特の美学が世界観を作り上げています。
    「永遠の愛」や表題作、「婚礼のチェスト」など前半はとても面白く読めたのですが、後半になると、なんとなく同じようなテイストの話が続くために、ちょっと飽きてしまいました…
    時間があれば、1つ1つの作品をもっと楽しめたかな?と思いました。

  • 図書館で購入してもらいました。

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教皇ヒュアキントス ヴァーノン・リー幻想小説集の作品紹介

遠い過去から訪れる美しき異形の誘惑者――
伝説的な幻の女性作家ヴァーノン・リー、本邦初の決定版作品集。
いにしえへのノスタルジアを醸す甘美なる蠱惑的幻想小説集。  

女神、悪魔、聖人、神々、聖母、ギリシャ、ラテン、ローマ、狂女、亡霊、超自然、宿命の女、人形、蛇、カストラート……彼方へと誘う魅惑の14篇。

教皇ヒュアキントス ヴァーノン・リー幻想小説集はこんな本です

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