記憶が消えるときーー老いとアルツハイマー病の過去、現在、未来

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制作 : Jay Ingram  桐谷 知未 
  • 国書刊行会 (2015年11月25日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336059727

記憶が消えるときーー老いとアルツハイマー病の過去、現在、未来の感想・レビュー・書評

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  • アルツハイマー病。今日まで増加の一途を辿り、今後も増えていくであろうその病は、21世紀の病気とも言える。
    本書はカナダの著名なサイエンスライターがその歴史を辿り、これまでに判明したそのメカニズムや治療法をまとめたものである。

    アルツハイマー病は、認知症の1つの形であり、唯一のものではないが、おそらく認知症全体の75%を占めると言われる。高齢化が進むにつれ、認知症と診断される人はますます増加している。

    アルツハイマー病の歴史は、1901年、アウグステ・データーという1人の女性が、生真面目だがどちらかというと地味な医師、アロイス・アルツハイマーを訪れたことから始まる。51歳という、老齢にはまだ間がある年齢の彼女は、記憶力の低下と激しい妄想に悩んでいた。その5年後に彼女は亡くなり、アルツハイマーが彼女の脳の切片を調べたところ、ニューロンの大幅な減少と異常な構造(老人斑(プラーク)と神経原線維変化(タングル))が認められる。この発見により、以後、同様の疾患が彼の名を取って呼ばれることになる。
    但し、アルツハイマー病自体はおそらくそれ以前から存在していたと考えられる。一説には、「ガリバー旅行記」で有名なジョナサン・スウィフトもアルツハイマー病だったのではないかと言われる。ただ、過去の症例は脳が保存されているわけでもないため、実証は困難である。

    アルツハイマー病は本人とともに、周囲の介護者にも大きな負担を強いる。
    治療法の開発が喫緊の課題だが、非常に近い将来に特効薬が発見される見込みは高くはない。複雑な要因の絡み合いの末に発症するものであり、長い時間を掛けて症状が現れてくるため、どこでどのように介入すればよいのかが見えにくいのが1つの理由と言えるだろう。
    アルツハイマー病の特徴である老人斑と神経原線維変化のどちらかの(あるいは両方の)形成を妨げることができれば疾患の進行を止められるはずだと目されていたこともあった。しかし、今日ではどちらかがない症例、どちらもない症例、どちらも見られるが認知機能が正常である例など、さまざまな例外が知られている。大部分のアルツハイマー病では両方が見られるが、すべてでそうであるわけではないのだ。
    症状と関連はあるが、老人斑や神経原線維変化が、アルツハイマー病の原因であるか結果であるかはわからない。結果であるのなら、これらを攻撃しても進行が止められるとは考えにくいため、見極めが非常に重要である。
    老人斑や神経原線維変化を作り出すアミロイドベータを標的とする戦略もある。
    非常に有望な薬剤はまだ見つかったとは言えないが、地道な研究が重ねられている。

    その他、アルツハイマー病になりやすいかどうか(これを持っていると罹りやすいかもしれないという遺伝子(変異)の候補がいくつかある。しかし、それがあれば「必ず」罹るというほど単純ではない)、男女差があるかどうか(女性の方が多いが、これには女性の方が長生きする要因も含まれる)、食べ物は関係するかどうか(ブドウ糖の取りすぎはおそらくよくはないが、何かを食べれば罹らないというものはないと考えた方がよい)といった多くの人が知りたがるトピックもまとめられている。
    全般として言えるのは、アルツハイマー病に関しては、白黒がはっきりついている問題は少ないということだ。
    傾向としては、「教育を受けている」、「知的能力を試される仕事に就いている」、「誠実である」、「体重が標準的である」、「適度に運動している」人は、そうでない人に比べて、「いくぶん」(数パーセント程度)アルツハイマー病に罹りにくい。だからそれに向けて努力することは無駄ではないだろうが、努力にも関わらずアルツハイマー病になってしまっても、がっかりしたり怒ったりしない気構えがあった方がよいだろう。

    将来的にはアルツハイマー病に対する有効な手立てが見つかるかもしれないが、その日はどうやらそうすぐには来ないと考えた方がよさそうだ。
    敵が強大であるとしても、強大であることを知らないよりは知っている方がよい。さらに、どのように強大であるのかを知れば、何となく、腹も据わるだろう。
    本書を読む一番の意義はそんなところにあるのかもしれない。

  • 結局今できることは、運動して食生活に気を付け、知的活動にできる限り従事すること。

    薬の名前で~マブと付くのはモノクローナル抗体

  • 認知症と、その中で特にアルツハイマー型認知症に焦点を絞り、様々な視点からまとめた本です。著者はサイレンスライターで、家族がアルツハイマー型認知症となったことから、自身が同じようにアルツハイマー型認知症になるのか、心配になって事をきっかけに、調べたようです。古代の認知症や老いに対する考えから始まり、認知症が減ってきているという最新の報告について考え、アルツハイマー型認知症のメカニズムに関して、アミロイドβとタウについての、最新の状況、修道院の高齢女性達の剖検から得られた、脳予備能の考え方、最近の流行の糖尿病とアルツハイマー型認知症の知見、など、アルツハイマー型認知症に関して、周辺的な情報まで含まれ、1冊読めば、現状が概ね分かる本だと思います。この領域にいる人にとっても、特に専門分野以外の知識が整理するのに良い本と思います。個人的には、4-29歳までの42人の脳を調べたところ、アミロイドは1人のみに見られ、タングルが38人に見られたという報告は印象的でした。

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記憶が消えるときーー老いとアルツハイマー病の過去、現在、未来の作品紹介

「21世紀の疫病」と言われるアルツハイマー病。そのしくみについては未解明の部分が多く、有効な治療法も見つかっていない。この病気は昔からあったのか? 人はある程度高齢になればみんなこの病気になるのか? 治療法の研究はどこまで進んでいるのか? カナダの著名なサイエンスライターが、アルツハイマー病の歴史をたどり、さまざまな角度からそのメカニズムを調べ、いずれ開発されるはずの治療法を探る。最新情報満載 !

【書評抜粋】
巧みな比喩と的を射た問いかけを駆使したくつろいだ文体で、イングラムはわたしたちを手際よく科学研究の世界へと導いてくれる。――ナショナル・ポスト

14冊の著書と、CBCラジオ1『クワークス&クウォークス』、ディスカバリー・チャンネル『デイリー・プラネット』での長期にわたる司会役で、カナダで最も有名なサイエンス・コメンテーターとなったイングラムは、今や科学の謎と世界の健康危機の中心にある病気について、「距離を置いた、科学的な」概要を書く決意をした。しかし、家族の病状を眺め、みずからの将来を見つめる者に大きな感情的負担を強いるこの病気を扱うにあたって、個人的な関わりから目をそらすことはできなかった。――トロント・スター

治療法はおろか、一歩進んだ理解すら、実現までには長い時間がかかるだろう。これは何年も、何十年もかけて進行する病気であり、その科学は複雑だからだ。しかし、すでに専門知識を持つ人以外なら誰でも、本書でごく手軽に、アルツハイマー病への理解を自分なりに深めることができるだろう――マーケティングに詳しい人なら〝来てる〟と言うはずの話題であり、本書はその蔵書に加わるべき本だ。――ウィニペグ・フリー・プレス

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