幽霊とは何か──500年の歴史から探るその正体

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制作 : 桐谷知未 
  • 国書刊行会 (2016年7月25日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (462ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336060068

幽霊とは何か──500年の歴史から探るその正体の感想・レビュー・書評

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  • 幽霊に魅せられた映画評論家が
    原体験を含めて「英国人にとって幽霊とは何か」を綴った本。
    訳者・桐谷知未先生のツイートによれば、

    > 著者のロジャー・クラークさんは子どものころから幽霊大好きで
    > いろんな幽霊スポットに行き、
    > ありとあらゆる幽霊関連の資料を読みあさっているオタクですが、
    > 一度も実際に幽霊を見たことはなく、
    > 幽霊に対する姿勢は懐疑的・客観的で、
    > 一般の日本人の感覚に近いと思うので、共感を持って読めると思う。

    とのことで、ここで語られるのは「幽霊が存在するかどうか」ではなく、

     わたしたちが幽霊を見るとき実際には何を見ているのか、
     どんな物語を伝え合ってきたのか(p.31)

    である。

    イングランドでは16世紀、ヘンリー8世の離婚問題に端を発した宗教改革=
    英国国教会設立→ローマ・カトリック弾圧→
    ブラッディ・マリーことメアリー1世によるカトリック教会復活及びプロテスタント弾圧
    →エリザベス1世による英国国教会の再国教化の流れがあり、
    この歴史も人々の「幽霊観」に影響を与えているらしい。
    ヘンリー8世が再婚したアン・ブーリン(エリザベス1世の母)が反逆の廉で処刑され、
    埋葬されたセント・ピーター礼拝堂に幽霊となって現れたという伝説などは、
    彼女への憐憫の情が生み出したものではなかったろうか。

    他方、

     フランス人は、世俗的なことと宗教的なことをきっちり分ける傾向があり、
     幽霊に対してもヨーロッパのなかで常にいちばん冷笑的と評されている。(p.401)

    とあり、 これは『グラン=ギニョル―恐怖の劇場』あとがきで
    訳者・梁木靖弘が述べた「ラテン民族の文芸には幽霊が出ない」と符合する。

    ところで「怖い怖いと騒ぐおまえが一番怖い」式の話(笑)として
    読んでしまったヘンリー・ジェームズ『ねじの回転』には
    元ネタとされる幽霊騒動があった(第4章「ヒントン・アンプナーの謎」)
    そうなので、機会があったら素直な気持ちで読み直したいと思う。

    以下、未読の人も斜め読みした気分になれるかもしれないメモ。

    -----

    第1章■幽霊屋敷で育って
     17世紀に建てられた牧師館で育った著者は
     死者の気配を感じながら
     生活していた(改装後に幽霊のエネルギーは消滅したらしいが)。
     幽霊目撃談に関する本を読み漁って執筆者と文通し、
     14歳で心霊現象研究協会(SPR)の最年少会員になり、
     幽霊が出ると言われる場所を訪れて、様々な現象を体感した。 

    第2章■幽霊の分類法
     ピーター・アンダーウッドによれば、幽霊は大きく八種類に分けられる。
     著者は九番目に「動物の霊」を加える。
     ・エレメンタル=埋葬地に結び付いたもの,悪霊,日本で言う地縛霊か。
     ・ポルターガイスト=原因は抑圧された怒りや性的欲求か。
     ・伝統的あるいは歴史的な幽霊=死者の魂であり、生者を認識し、交流可能。
     ・精神的な刷り込みの現れ=
      放出された精神エネルギーが特定の場に染み込んで
      極端な精神状態の心霊現象となって現れたもの。
     ・危機や死に見舞われた者の幻影=
      戦時中に多く見られる、親しい者の死を遠隔地で見たり感じたりするパターン。
     ・タイムスリップ=
      1911年~第一次世界大戦終結まで流行した超常体験。
      不意に過去の時空に足を踏み入れてしまったもの。
     ・生き霊=何らかの形で超感覚的知覚(ESP)とイメージを作り出す脳の力が働き、
      視えない信号が送られて処理されたケース。
     ・取り憑かれた無機物=誰かが好んでいた家具などに憑いて共に移動する。

    第3章■目に見えるソファー‐ゴーストハント小史
     20世紀のゴーストハンター、ハリー・プライスについて。
     彼は真面目な研究者たちと異なり、見世物師のように幽霊の問題を扱い、
     筆が立ったので、大衆とメディアのウケはよかったが、
     専門家にはいかがわしい人物と見なされていた。
     他に『ゴーストハンティングの実用ガイド』を書いたアンドリュー・グリーンや、
     作家兼テレビショーの司会者だったハンス・ホルツァーなど。
     ホルツァーは幽霊を「残存した感情の記憶」と捉えていた。

    第4章■ヒントン・アンプナーの謎
     18世紀後半、ハンプシャー州ヒントン・アンプナーの
     テューダー朝様式の屋敷に勃発した幽霊騒動。
     この事件は時期的にヘンリー・ジェームズ『ねじの回転』の
     元ネタになった可能性があるという。

    第5章■テッドワースの鼓手
     17世紀中葉、テッドワースの地主ジョン・モンペッソンは訴訟に関わり、
     迷惑行為を働いたドルーリーなる男を告発し、彼の家や大道芸の太鼓を預かったところ、
     屋根の上から太鼓の音が聞こえ、室内が荒らされるなどの怪現象が起きた。
     ドルーリーの巡業仲間による嫌がらせ説もあったが、真相は如何に。

    第6章■マコンの悪魔
     17世紀初頭、牧師フランソワ・ペローが旅から帰ると、自宅が荒らされており、
     妻とメイドがショックで寝込んでいた。
     戸締りを厳重にしても怪事が起き、不審者は見つからなかったが、
     ポルターガイストがしわがれた声で不敵な言葉を投げつけてきた。

    第7章■エプワースの少女
     18世紀、イングランド東部リンカンシャーの牧師の館、
     ウェスリー家で物音や呻き声が断続した。
     数年後、息子の一人は家族それぞれが体感した怪異の記録を纏めたが、
     娘の一人ヘッティーの文書だけが漏れていた。
     抹消された手記の書き手ヘッティーことメヘタベル・ウェスリーは
     感受性が強く、ストレスを抱えていたため、
     ポルターガイストの原因になっていたのではと推測されている。
     短い最盛期と、中心に年頃の女性がいることは、ポルターガイスト事例の典型例である。

    第8章■ヴィール夫人の亡霊
     18世紀初頭、カンタベリー在住のマーガレット・バーグレーヴの許を
     親友メアリー・ヴィールが二年振りに訪れ、歓談したが、
     翌日、マーガレットはその時刻にメアリーが病死していたことを知った。
     マーガレットは夫の浮気と暴力に悩まされ、
     彼が交渉を持った売春婦の存在を認めたくなかったため、
     そこに女がいたと思ったのは自分が見た幻影だと解釈したこともあった――という説が流れた。

    第9章■幽霊物語の作法
     英国におけるカトリックと国教会の力関係・摩擦と、
     それを巡る法整備が文学の潮流にも影響を及ぼした。
     レ・ファニュ作品を読んで育ち、
     学者として生真面目に生活しながら恐怖小説を執筆し続けた
     M.R.ジェイムズの作品には度々幽霊が登場する。

    第10章■ファニー嬢の新劇場
     18世紀後半のロンドンで、駆け落ちしたカップルが下宿したが、
     「夫」は仕事で家に居着かず、寂しさに苛まれる「妻」が
     当時12歳ほどだった家主の娘ベティ・パーソンズと親しくなったところ、
     彼女の不安に影響されたのか、ベティの許から奇怪な物音が発生し始め、結果、
     降霊会が催されたり新聞が報道合戦を繰り広げたりという騒動に発展した。

    第11章■瀉血と脳の鏡
     18世紀末、ベルリンの書店主フリードリヒ・ニコライは
     健康維持のため定期的に瀉血の処置を受けていたが、
     時間の都合がつかずに治療をキャンセルした後、幽霊を目撃するようになり、
     瀉血を再開したら幻覚あるいは幽霊の姿は消え失せたという。
     その後、ヨーロッパでは幻覚と脳のトラブルに関する研究が進み、
     幽霊を信じることは廃れていくかに見えたが、
     ドイツ・シュヴァーベン出身の医師メスメルやフランスの貴族ピュイゼギュール侯爵らが
     催眠実験を行い、これが心霊現象研究と結び付いていった。

    第12章■幽霊の下品さについて
     英国において幽霊を信じるか否かは、
     かつては出自や本人及び親の職業である程度決まった。
     上流階級は退屈凌ぎ、あるいは過去への信頼のため、
     下層階級は無学の故に、もしくは未来への期待によって幽霊を信じる傾向にあり、
     中流階級はどちらにも与せず、超自然現象に対して懐疑的であり、
     彼らにしてみれば、幽霊とは一言にして「恥ずべきもの」だった。
     現代、超自然現象を巡って異なる階級の人々の考えが纏まっているように見えるのは
     他でもない商売のためであり、よって、幽霊は変わらず下品な存在であり続けている。

    第13章■わななくテーブルの秘密
     19世紀半ばに降霊会を発明したのはカナダ出身のフォックス姉妹で、
     最初はごく形式的なものだったが、イギリスに流入してから、
     暗闇に乗じていかがわしい行為に及ぶ怪しい集会に変質していった。
     同時に、参加者が物音を立てて幽霊の出現を装うなどの不正も行われたため、
     学者や奇術師が実地調査に乗り出すこともあった。

    【余談】p.255 吸血鬼が入室を請うかのようにのぞきこんでいるのを見た。
        ↑死者と話し、家具を浮かせることが出来るという
         ダニエル・ダングラス・ヒュームのパフォーマンス中、
         彼が窓から外に出て仲間のいる別の部屋の窓辺に現れたときの様子。
         ヒューム自身は空中に浮いていたというより
         壁に沿って回っていたと述懐したらしい。

    第14章■上空の天使と深海の悪魔
     第一次世界大戦中、ドイツの潜水艦で様々なアクシデントが起き、
     しかも、幽霊の目撃談他、怪異が相次いで乗組員が恐慌を来した。
     一方、イギリス陸軍は情勢不安の中、何とか敵の前進を食い止めていたが、
     そんな中、作家アーサー・マッケンが「弓兵」という小説を新聞に載せた。
     イギリス海外派遣軍がかつて百年戦争で戦った弓兵たちの霊に助けられたという話で、
     この作品が方々に転載され、いつの間にか作家の手を離れて、
     あたかも実話であるかのように語られるに至り、
     戦場で敵と相対した際、間に入って相手を攻撃する「天使たち」の目撃談が、
     一部では幻覚だろうと囁かれつつ広まった。

    第15章■レイナム・ホールの茶色の貴婦人
     1936年、侯爵家の大邸宅レイナム・ホールに出る幽霊の写真を、
     自称「宮廷写真家」アンドル・シーラが撮影した。
     画像が検証されたが、撮影者の身元は何故か不確かなまま追及されなかった。
     屋敷の所有者であるタウンゼンド侯爵未亡人は心霊写真に写ったものを
     聖母マリアの幻影と考え、シーラを擁護したが、
     同行者であったシーラ夫人が幽霊の役を演じたのではないかという疑惑は残った。
     アーサー・コナン・ドイルは『心霊主義の歴史』において、
     史上初の心霊写真が撮影されたのは1851年だったと記した。

    第16章■ボーリー牧師館の殺人
     19世紀後半に建てられたエセックスのボーリー牧師館は、
     多くの使用人が逃げ出すなど、当初から曰く付きの物件だったが、
     1920年代後半、事情を知らないまま妻と共に住み始めたガイ・スミス師が
     怪現象に悩まされると、新聞記者とカメラマンがやって来て記事が作成された。
     その記者こそゴーストハンター、ハリー・プライスだった。
     スミス師一家が転居した後も幽霊事件は続き、
     プライスは再度乗り込んでゴーストハントに精を出したが、
     1939年2月、牧師館は焼け落ちた。
     屋敷に本当に幽霊が取り憑いていたかどうかはともかく、長年に渡って、
     魅力的な題材を求める作家を惹きつけたことは確かで、様々な逸話が編み出された。

    第17章■恐怖の王とテクノロジーの話
     19世紀末、降霊会ブームが下火になり始めた頃、
     ヴィルヘルム・レントゲンが開発したX線撮影写真が
     商業目的のイベント用にロンドンに流入した。
     幻灯機の上映や、視覚トリックを用いて舞台に「幽霊」を出現させる手法も流行した。
     また、電波・無線の出現によって「空からの声」を
     受信できるようになるという発想が人々の心に芽生えた。
     20世紀には死者ではなく生者を対象に超常現象が研究されるようになり、
     研究者は
     「幽霊は、生きた脳組織が情報を集めて伝えるための未知の手段を使って生み出したもの」
     と考えた。
     現代のアメリカのゴーストハンターは電気検出器を装備しているが、
     彼らが幽霊探知のテクノロジーを好むようになったきっかけは、
     1970年代、電子音声現象が持て囃されたことだった。
     近年、携帯電話のメールなどを通じて幽霊が現れる現象は
     「電子機器による霊界との交信」と呼ばれる。

    第18章■イギリスで最も呪われた屋敷
     18世紀以来、イギリスでは幽霊騒動と商売が結び付いていた。
     幽霊を見ようと集まった人々を相手に飲食店が儲けたり、
     密輸業者が深夜の不法な活動を煙に巻くために、あらぬ噂を流したり……と。
     現代では不動産について、むしろ幽霊が出ると評判が立った方がセールスポイントになる由。
     イギリスにおいては長年、
     幽霊を信じる/信じないことは宗教の問題と密接に絡み合っているが、
     幽霊が愛されるのは、彼らの存在を信じることで
     自分自身を子供時代の思い出から切り離さずにいられるからだと考えられる。

      p.400 見ることが大切だ。幽霊の音を聞いたかと尋ねる人はいない。
         みんな見たかと尋ねる――見た人が誰もいなければ、幻影は存在しないからだ。

  • 本書は幽霊の存在を云々するといった内容ではない。
    『英国の幽霊史』とでも言えばいいだろうか。流行廃りが幽霊にも波及しているというのは面白い。
    『幽霊』というと信じるか信じないか、存在するかしないかを云々する方向に話題が行きがちだが、歴史的な視点を絡めて書かれた本書は立ち位置もユニークで面白かった。

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幽霊とは何か──500年の歴史から探るその正体の作品紹介

そこに誰かいるの ?
イギリスのワイト島の古い屋敷で育ち、子どものころから幽霊に魅せられてきた著者が、500年にわたって各地で詳細に報告されてきた幽霊出没の物語をたどる。呪われた屋敷、取り憑いた幽霊、さまざまな超常現象の体験者、霊媒師、ゴーストハンター。そして、幽霊に深く関わっている宗教と社会的地位、メディアとテクノロジー。時代が変わるにつれ変化していく幽霊の姿を真摯に追いかけた一冊。

【書評抜粋】
とびきりおもしろく(そして不穏な気持ちにさせる)作品だ……ふつうは誰でも幽霊から逃げるのに、著者は幽霊を追い求める。その恐れ知らずの大胆さには、畏敬の念を覚えるほどだ。 ──英紙「ガーディアン」

幽霊目撃の科学的・社会的な面をたどる興味深い歴史……失われた魂のほの暗い世界を行く旅……不気味な味わいとともに語られる物語。 ──英紙「テレグラフ」

思わず引き込まれてしまう……超常現象を調査すれば、かなりの割合でまやかしを暴く必要が出てくる。クラークは、懐疑的になることを忘れていない。ゴーストハントの物語は、同時にいんちきと人々の錯覚が暴露されてきた歴史でもある。……しかし、クラークは、自分が追いかける主題に、少年時代のままの……豊富な知識に裏打ちされた情熱を保ち続けている。 ──英紙「インディペンデント」

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