人形つくり (ドーキー・アーカイヴ)

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著者 : サーバン
制作 : 横山茂雄  若島正  館野 浩美 
  • 国書刊行会 (2016年5月25日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (383ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336060587

人形つくり (ドーキー・アーカイヴ)の感想・レビュー・書評

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  • まず文章がいい。翻訳でこれだけの味が出せるのだから、もとの英文もきっと雅趣あふれる文章に違いない。1951年刊「リングストーンズ」、53年刊の「人形つくり」の中篇二作が収められている。どちらも、幻想文学の本道を行く格調高い作風で、この種のものを読む喜びをあたえてくれる。ただし、本を読む場所や時間に注意が必要だ。通勤電車での読書には向かない。炉端に火が燃える部屋まで用意せよとは言わないが、静かな夜半、お気に入りの椅子に腰かけ、シェードのかかったスタンドに灯りをともして読むくらいのことは心がけたい。何を御大層に、たかが本を読むくらいのことでと思われるかもしれない。しかし、この書物のかける魔法は繊細極まりないものなので、それくらいの配慮をしなければ、かかるはずの魔法にかからずに読み終えてしまうことになりかねない。

    「リングストーンズ」は、いわゆる枠物語の形式を採用している。つまり、話者がはじめと終わりの語りを受けもち、中心部は別の作者あるいは話者が担当するという、古くからある物語形式である。その目的とするところは、合理的な精神を持つ通常の生活人を、信じられないほど不思議な物語世界に導き、ことが終わった後無事平穏な日常に帰還させるためである。逆に言えば、一昔前は、異様な物語の世界に身を浸すことは二度と帰ってこられなくなるほどの精神的ショックを読者に与えるものと考えられていたのかもしれない。

    「わたし」は、友人のピアズと夏季休暇を過ごすため、ノーサンバーランド地方を訪れていた。イングランド最北端のこの辺りは、スコットランドとの境界に位置し、いまだに荒野の残る荒涼とした地帯である。楽しい食事も終わり部屋でビールを飲んでいると、ピアズがダフニという女性の話をはじめる。しっかりした女性で体育教師になるために大学で学んでいるが、夏休みに外国人の子どもに英語を教えるためこの地方に来訪中。ところが、ダフニから送られてきたノートには信じられない話が書かれていた。ピアズはノートを「わたし」に託す。読んでみろ、というのだ。

    この夏ダフニが暮らしているのは、リングストーンズという電気も通わない谷間の僻地に建つ、塔屋のある石造りの館。そこには考古学を専門とするラブリン博士の他、アルメニアからきた三人の子どもと家政婦夫婦が住んでいた。子どもというのは二人の背の低い双子らしき女の子とすらっとした体躯のヌアマンという男の子だった。ダフニはすぐに仲良くなり、イギリスにも似合わぬ晴天続きの毎日を野外を駆け回って過ごすのだったが、次第にヌアマンによる支配を感じるようになる。

    泥濘と羊歯とヒースに覆われた岩石だらけの崖に囲まれ、環状列石や戦車競技のコース跡といった古代の名残りを感じさせるリングストーンという土地が醸し出す独特の神寂びた雰囲気。雨の多い土地にもかかわらず毎日続く青空、とヌアマンが命じるレスリングや競走には何か隠された意味があるのか。そんなある日、ダフニはヌアマンが何かを作っている厩跡に足を踏み入れる。ダフニがそこで見たものとは。

    ダフニの身に起きたことを調べるためピアズと「わたし」は、リングストーンズを訪ねるのだが、なんとそこは…、という怪異譚。ダフニがノートに残した物語と二人の捜索隊が迷った道筋が二重写しになり、ギリシア神話とイギリスに伝わる妖精の物語が重なり、荒れ果てたイングランド北部地帯と遠く離れた東方的異教的な香りが混然一体となった独特の世界が描かれる。ダフニの物語には合理的な説明があたえられ、物語が平穏の裡に閉じられようとするとき、世界にわずかに綻びが生じる。支配する者と支配される者との間に生まれる官能的な紐帯の強さを時計のバンドでほのめかす幕切れが鮮やか。

    「人形つくり」は、文字通り人形制作にまつわる怪異譚。オックスフォード進学のためクリスマス休暇の間も学校に残ったクレアは、指導者であった若い女教師アン・オッタレルの突然の死で、すっかりやる気をなくしていた。ある夜、学校を抜け出したクレアは隣の森の中をちらちらする灯りに気を取られ、上っていた塀の上から落ちてしまう。灯りの主は隣家パストン・ホールの息子ニールだった。アンに代わり、その母親ミセス・スターンにラテン語を教えてもらうようになったクレアはいそいそとパストン・ホールに通うようになる。

    ある晩、クレアはニールが作った人形たちによって演じられる芝居を見せてもらう。窓のすぐ外にある斜面に作られたミニチュアの森を舞台に髪型から服装まで精密に作られた人形たちは首を回したり、腕を曲げたりと、まるで人間のように動くのだった。魂の封じ込められた人形が命あるもののように動き出す、というのは今までにも多く語られてきた幻想怪奇小説のお気に入りの主題の一つ。

    本作がそれらと異なるところは、人形つくりの視点でなく、人形のモデルとなる女性の視点で語られていること。人形つくりの過程が進んでゆくにつれて、クレアは自分の将来や新しく入ってゆく世界に目を向けることがなくなり、ただ人形の作り手であるニールの傍に留まりたいという思いが強くなってゆく。これも、支配、被支配の関係におけるマゾヒスティックな恋愛感情を描いたものである。

    少女から女性に変わりつつある時期の女性に強いオブセッションを抱く男性がいることは少女監禁事件の例を引くまでもない。相手の意志を尊重せず、自分の思い通りに支配することでしか満足できない感情はおよそ恋愛感情とは言えない。ただ、そのような形でしか思いを遂げることができないパーソナリティというものが存在する以上、どこかでそういう欲動を昇華する必要がある。思うにサーバンという作家には、その種の性向が支配的だったのではないか。小説を書くことで社会に認められない行為に走らずにすんだのだろう。

    ただし、創作意欲がどんなところから生じているにせよ、出来上がった作品の価値に何の関係もない。キワ物めいた主題を扱いながら、日本の盆栽に想を得た、ミニチュアの森をつくるというアイデアを生かし、他の作家にはない美しい奇想を出現させているところや、危ういイメージを醸し出しながら、読後に希望を感じさせる終わり方を大事にしているところなど、この作家には良質の作品を作り出す資質を感じさせられる。残された作品の少ないことが惜しい。

  • 二つの中篇を収録。
    『リングストーンズ』
    AマッケンとTゴーチエを足した風味の作品。イギリス北部の自然の描写が素晴らしい。幻想文学の王道の風格がある。
    『人形つくり』
    傑作。サスペンスタッチの話しの運びはモームの『魔術師』を思い起こさせるし、ミニチュアへの愛着、歪んだ愛など奇想の要素も十分。読書の楽しさを満喫した。
    販促用の冊子を書店で手にしてから楽しみにしていた《ドーキー アーカイヴ》シリーズだが、のっけからこの質の高さに続刊への期待はさらに高まる。

  • 「リングストーンズ」と表題作の2編収録。どちらも幻想的だけれどラストにゾッとさせられるような怖さがある怪奇小説。

    「リングストーンズ」は、語り手の友人の恋人ダフニから送られてきた奇妙な手記が物語の大半を占める。体育教師を目指す健康的な女子大生ダフニは夏休みの間、子供たちの家庭教師を募集しているリングストーンズという土地の古い館へアルバイトに赴く。子供たちは15才の少年一人と少女が二人。快活で人懐こい少年ヌアマンとダフニはすぐに打ち解け、当初は楽しい日々が続く。しかし次第に少女たちのみならず召使の女性まで支配しているかのようなヌアマンに違和感を抱くように。

    家庭教師先の古いお屋敷には実は秘密が・・・という「ジェインエア」や「ねじの回転」を彷彿とさせる展開は、案の定ゴシックな成り行きに。しかしここで朧に姿を現してくるのは狂女でも幽霊でもなく、リングストーンズという地名の由来になったストーンサークルにまつわる、古い精霊や妖精たち。このダフニの手記部分だけでも十分楽しめるのだけど、実はこの手記は・・・という小さなどんでん返し的な展開がいくつか用意されており、ただの創作と思わせたあとでそれをひっくり返される瞬間がとても怖かった。

    表題作「人形つくり」も、冒頭は古き良きゴシックロマンス風に始まる。女子寮で暮らすクレアが真夜中に部屋を抜け出し、偶然入り込んでしまった隣接する古い邸宅の敷地内で、その家の息子ニールと出会う。黒猫を連れ、魔法使いのようにふるまうニールに、クレアは次第に惹かれてゆく。

    ニールの趣味はタイトル通りの「人形つくり」。人間そっくりな美しい人形を、ミニチュアの森に住まわせているニール。彼に支配されていくことに歓びを感じるクレア、しかし一方でニールに関わった女性たちが何人も同じ時期に謎の死を遂げていることが判明し・・・。

    ニールの正体、というか彼が何をしているかはわりと想像通り。しかし終盤は、彼の本性に気づいたクレアが、支配される歓びより、彼と戦うことを選ぶ展開になるのが意外。ザコキャラだと思っていた地味な先生が力強い味方になったり、恐怖と戦うぞくぞくとわくわくを同時に味わえるのが面白い。

    二作とも、この手の作品にしては珍しく(?)ヒロインが最終的に助かるところは新鮮かも。でも怖かった。

  • 情緒ある文体と描写に少しずつ引き込まれ、いつのまにか幻想の世界に浸っている不思議な感覚の中編が二編。
    「リングストーンズ」人里離れた田舎で夏の間だけの家庭教師に雇われた女学生の奇妙な体験。こっちの方が好きかな。
    「人形つくり」寄宿舎の女学生が隣の屋敷の魅力的な男性に惹かれ、やがて異常な体験をする物語。
    二編とも、好ましい出会いや人間関係の変化を読んでいたはずが、いつのまにか異常なものが侵食してきて、支配され何かに囚われていくという構図が巧みでどきどきさせる。
    ぐいぐい引き込むようなストーリーではないので、雰囲気に浸って読むのにコンディション整えてじっくり読みたい作品。もう一度読んだら印象が変わりそうでしばらくしたら再読したい作品でもありますね。

  • 『ドーキー・アーカイヴ』創刊ラインナップの1冊。同時刊行はL・P・デイヴィス『虚構の男』。
    『リングストーンズ』『人形つくり』の中編2編を収録。どちらも割とオーソドックスな怪奇小説だが、不思議な魅力があった。
    長らく経歴が知られていなかった著者のようで、巻末解説に記された経歴もまるで小説のようだ。邦訳としては1968年に早川書房から1冊刊行されているのみ。この機会に復刊とかどうでしょうw

  • おすすめ資料 第352回(2016.10.21)
     
    今年国書刊行会から刊行が始まった新しい海外文学シリーズです。

    現在「虚構の男」(L・P・デイヴィス)「人形つくり」(サーバン)の2冊が出ています。

    このシリーズ最大の特徴はすべてが本邦初訳であることです。

    シリーズ紹介に「知られざる傑作、埋もれた異色作」とあるとおり、刊行予定の全10巻のリストには謎めいたタイトルが並びます。

    秋の夜長、幻想の世界に迷い込んでみるのはいかがですか。


    【神戸市外国語大学 図書館Facebookページへ】
    https://www.facebook.com/lib.kobe.cufs/posts/1086516911398013

  • 読書日:2016年7月12日-14日
    Original title:RINGSTONES (1951), THE DOLL MAKER (1953).
    Author:Sarban.

    RINGSTONESとTHE DOLL MAKERの2作品を収録しています。
    両作品共Dame Agatha Christie女史の『And Then There Were None』(そして誰もいなくなった)の様に、大変臨場感が溢れています。
    また"恋人"ではなく絶対的な"主従"を思わせたり、England古来の風習や原風景を取り入れていて、歴史的な事を感じさせられます。

    前者では、最後の場面でDaphneが自分で作った物語にも関わらずヌアマンに服従する姿勢を見せる姿に恐怖を少し感じました。
    また後者では、Neelが最後に生き長らえたのかが気に成ります。NeelはClaireに想った感情は愛情だと信じたいものです…。

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人形つくり (ドーキー・アーカイヴ)の作品紹介

独特のエロティシズムと精緻な文章で綴られた、徹底した被支配関係から生じる恍惚と恐怖……謎の英国作家サーバンによる戦慄の幻想譚を2篇収録。本邦初訳。

田舎屋敷に家庭教師として雇われた女子大生が謎めいた子供たちと過ごす夏休みは、次第に奇怪な様相を帯びていく……古代異教世界が顕現する「リングストーンズ」(1951年)。女子寄宿舎学校を舞台に、少女が人形つくりが趣味の青年と出会い、やがて彼の人形のモデルになる。しかし、その青年の真の正体とは……服従と束縛の快楽が横溢する怪異譚「人形つくり」(1953年)。繊細で喚起力の強い文体を通じて、徹底した被支配関係から生じる魅惑と恐怖が織りなす荒々しいマゾヒズム的快感が描写される、知られざる英国作家サーバンによる幻想中篇を2篇収録。

〈サーバンは自分の生きる社会、時代の規範的、標準的な性愛の概念には強い違和感を覚えていたに違いない。彼は「愛」という西欧社会の発明を信じていないのだろう。そして、それこそ彼が異界を舞台にした小説を書かずにはいられなかった理由のひとつかと思われる。(……)本書に収録したふたつの中篇は、巧繊に織りなされたペルシャ絨毯のように魅惑的な超自然譚であり、日本ではこれまで知られることのなかった幻想小説の佳什として楽しんでいただければ幸いである〉(横山茂雄:本書解説より)

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