人形つくり (ドーキー・アーカイヴ)

制作 : 横山茂雄  若島正 
  • 国書刊行会
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感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (383ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336060587

感想・レビュー・書評

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  • 「リングストーンズ」と表題作の2編収録。どちらも幻想的だけれどラストにゾッとさせられるような怖さがある怪奇小説。

    「リングストーンズ」は、語り手の友人の恋人ダフニから送られてきた奇妙な手記が物語の大半を占める。体育教師を目指す健康的な女子大生ダフニは夏休みの間、子供たちの家庭教師を募集しているリングストーンズという土地の古い館へアルバイトに赴く。子供たちは15才の少年一人と少女が二人。快活で人懐こい少年ヌアマンとダフニはすぐに打ち解け、当初は楽しい日々が続く。しかし次第に少女たちのみならず召使の女性まで支配しているかのようなヌアマンに違和感を抱くように。

    家庭教師先の古いお屋敷には実は秘密が・・・という「ジェインエア」や「ねじの回転」を彷彿とさせる展開は、案の定ゴシックな成り行きに。しかしここで朧に姿を現してくるのは狂女でも幽霊でもなく、リングストーンズという地名の由来になったストーンサークルにまつわる、古い精霊や妖精たち。このダフニの手記部分だけでも十分楽しめるのだけど、実はこの手記は・・・という小さなどんでん返し的な展開がいくつか用意されており、ただの創作と思わせたあとでそれをひっくり返される瞬間がとても怖かった。

    表題作「人形つくり」も、冒頭は古き良きゴシックロマンス風に始まる。女子寮で暮らすクレアが真夜中に部屋を抜け出し、偶然入り込んでしまった隣接する古い邸宅の敷地内で、その家の息子ニールと出会う。黒猫を連れ、魔法使いのようにふるまうニールに、クレアは次第に惹かれてゆく。

    ニールの趣味はタイトル通りの「人形つくり」。人間そっくりな美しい人形を、ミニチュアの森に住まわせているニール。彼に支配されていくことに歓びを感じるクレア、しかし一方でニールに関わった女性たちが何人も同じ時期に謎の死を遂げていることが判明し・・・。

    ニールの正体、というか彼が何をしているかはわりと想像通り。しかし終盤は、彼の本性に気づいたクレアが、支配される歓びより、彼と戦うことを選ぶ展開になるのが意外。ザコキャラだと思っていた地味な先生が力強い味方になったり、恐怖と戦うぞくぞくとわくわくを同時に味わえるのが面白い。

    二作とも、この手の作品にしては珍しく(?)ヒロインが最終的に助かるところは新鮮かも。でも怖かった。

  • 情緒ある文体と描写に少しずつ引き込まれ、いつのまにか幻想の世界に浸っている不思議な感覚の中編が二編。
    「リングストーンズ」人里離れた田舎で夏の間だけの家庭教師に雇われた女学生の奇妙な体験。こっちの方が好きかな。
    「人形つくり」寄宿舎の女学生が隣の屋敷の魅力的な男性に惹かれ、やがて異常な体験をする物語。
    二編とも、好ましい出会いや人間関係の変化を読んでいたはずが、いつのまにか異常なものが侵食してきて、支配され何かに囚われていくという構図が巧みでどきどきさせる。
    ぐいぐい引き込むようなストーリーではないので、雰囲気に浸って読むのにコンディション整えてじっくり読みたい作品。もう一度読んだら印象が変わりそうでしばらくしたら再読したい作品でもありますね。

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