- Amazon.co.jp ・本 (190ページ)
- / ISBN・EAN: 9784343007087
感想・レビュー・書評
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2010年末から2011年にかけて兵庫県の新聞社・神戸新聞が行ったアルバイト求人を見て、面食らった人も多かったのでは。
そのウェブ上の求人ページには奇妙な女性キャラのイラストに、次のような文言が添えられていたのだ。『右のキャラクターがいまいちいけてない(萌えていない)理由を3つ挙げなさい』
質問形式の文章の隣には、確かにいまいち萌えない女性キャラが。これが世の中に「いまいち萌えない娘」が出現した瞬間だった。そのキャラは何故か全身青ずくめで、無気力に空間を見上げている。ツインテールで女の子座り、女子校の制服(っぽい衣装)と、「萌える」要素は揃っているようにみえるのだが、何故か「コレジャナイ感」が…。
問題文になっているという事は、これが「入社試験」に当たるようなものなのだろうか。興味を持った人からの申し込みや問い合わせが神戸新聞に殺到し、普段新聞と接点をもたないような層にも大きな反響を呼んだようである。これが狙いだったとすれば神戸新聞の巧みなやり方に舌を巻くしかないが、実際はどうだったのだろう。
そんな「いまいち萌えない娘(以下「いま萌え」)」誕生のストーリーとスタッフたちの奮闘を、ライトノベル形式で虚実交えて面白おかしく小説化したのが本書である。
出版は神戸新聞総合出版センター。作者は『ともだち同盟』などの作品がある森田季節。クレジットでは神戸新聞社が企画協力となっている。一応ライトノベルに分類される作家が書いたのもなので、「新聞社が異例のライトノベル出版!」と少し話題になったが、やっぱ新聞社が出しているだけあってなんだか普通のラノベより堅いというかぎこちない感じが。内容もやっぱ周囲の事情に配慮したのだろう。下ネタや反社会的なネタ一切なしの「健全な」ラノベである。ちなみに版元のHPではジャンルがなぜか「ノンフィクション・紀行」になっている(笑)。
…っていうかもううんざりするほど繰り返されてきた議論だけど、これを読んでいると「ライトノベルとは何なのか?」という疑問が脳内に渦巻く。とりあえずラノベレーベルで本を出している人が「ラノベ作家」で、その人が書いたイラストが多様されている小説を「ライトノベル」といえばいいのだろうか。
だとしたらこの『いま萌え』はラノベなんだろうけど…ううむ、何か違うよなあ。やっぱ文庫じゃないからかなあ…等と延々考えてしまうのは恐らく結論は出ないので時間の無駄なのだろう。
でもやっぱこの「健全さ」がなんかラノベにそぐわない気がして、新聞社という企業が持つ限界なのだろう。確かに最近のラノベの質の低下は目を覆うほどだが、でもやっぱどこかラノベはいい意味で子供のための小説であって、まじめな企業に勤める大人が真剣な会議で話あって作り上げるものではないような気がする。
ともあれ、『いまいち萌えない娘』が世に出るまで、そしてデビュー後の快進撃を描くこの小説は新聞社にしては頑張ったほうだろう。軽くて読みやすい。最初は一見ドキュメントノベルのような体裁をとっているが、登場人物の名前が「今井知菜(いまい・ちな)」なのですぐに虚構とわかる。
しかし、『いまいち萌えない娘』の活躍をフェイクドキュメンタリー的に楽しんでいたら意表を衝くように時代劇になったり昔話が始まったりするので驚かされる。正直どう読めばいいのか困惑したんだけど、筆致は悪ノリって感じでもない。邪推だけど、作り手は本当はもっと弾けた内容にしたかったのを、前述のような制約でそれこそいまいち弾けきれなかったのではないか。いや、憶測だけど。
そんな風にヘンな気分で読んでしまうので、やっぱり慣れない人がラノベ出版に手を出すべきではない気がする。それか思い切ってラノベ専門のレーベルに版権を売ってしまえばよかったのか(ひどい扱われ方をされかねないが…)。
そうでなければ、神戸の名所や名物を織り交ぜながらストーリーを進行させるのは面白い試みなのだから、ラノベに拘らず普通の小説として出版すればよかったのでは。まあそれでは話題にもならないことは目に見えているが。
それでも、いくらいまいちな出来でも「いまいち萌えない娘だから!」と開き直れるのは便利。
そんな訳で既存メディアとラノベの相性は良くないなあと何となく感じてしまったのだけど、『いま萌え』自体は今でも快調で、Twitterアカウントも現在フォロワーが17,000人を超えている。海外でも知名度を獲得しつつあるようだ。同人誌も売れているらしい(どんな内容なのだろうか…)。なんかグッズ作ってたり、公式HPではコスプレしたお姉さんの動画を公開してたりとノリノリ。
新聞社という企業の殻を破るべく奮闘中の『いま萌え』。小説としての完成度は置いといて、このプロジェクト自体が壮大な悪ノリ的に楽しめるようになればいいのだけど。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「いまいち萌えない娘」の誕生と活躍が描かれています。
フィクションが多めなので堅苦しさはありません。 -
森田さんは何でもやるなあと手に取った本。制約が多い中でいろいろやろうとしている作品。読み味の違う短編があるので、これはこれで面白いものになっているのではないでしょうか。
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公式ファンブックのような内容でいわるる小説的な小説を期待していると肩透かしを食らってしまう。しかも誕生秘話とその周辺、「いまいち萌えない娘」の定義づけだけで「いまいち萌えない娘」そのものの話がない。例えばアニメのムックの後半のモノクロページの扱いで誕生秘話が掲載されているのであれば問題ないが、冒頭から「いまいち萌えない娘」ではない話では看板に偽りありと言わざるをえない。看板に偽りありという点では「いまいち萌えない娘」ではなく神戸新聞社の担当者にスポットが当たっているため「いまいち萌えない娘」の小説ではないともいえる。公式設定集の意図も含んでいるようなので、周辺情報を含むことはいいのだが、タイトルを見れば「いまいち萌えない娘」がいまいち萌えない活躍をする話を期待するのは当然であり、そういった話が一編ぐらい掲載されていても良かったと思う。さらに”オリジナル”の「いまいち萌えない娘」のカラーイラストが掲載されていない。あの微妙な色合いも「いまいち萌えない娘」の構成要素である以上、オリジナルのカラーイラストを掲載するのは当然である。
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いまいち萌えない娘の小説は、やっぱりいまいちでした。
著者と、いまいち萌えない娘のファンブックと思えば1300円は安い?
特に思い入れのある人以外は読まなくてもOKです。