半島を出よ (下)

著者 :
  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344007604

作品紹介・あらすじ

さらなるテロの危険に日本政府は福岡を封鎖する。逮捕、拷問、粛清、白昼の銃撃戦、被占領者の苦悩と危険な恋。北朝鮮の後続部隊12万人が博多港に接近するなか、ある若者たちが決死の抵抗を開始した。現実を凌駕する想像力と、精密な描写で迫る聖戦のすべて。

感想・レビュー・書評

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  • 村上龍の『半島を出よ』上・下巻を読んだ。最近、仕事も忙しくて結構長く掛かった。

    最近の北朝鮮の核実験やそれに対するアメリカ、中国、韓国と日本の対応を見ると、実際にこの物語のような事件、すなわち朝鮮半島統一に向けた北朝鮮の変遷のために軍の一部の分離のようなことが必要になる日が来るのかもしれない。

    その時、日本の一部への侵攻が北朝鮮の国家主導もしくは軍の一部のクーデターとして起こる可能性もゼロではないのかもと思った。

    この話の中には、さまざまな立場のグループが並列で登場してくる。話の展開は、一部前後しつつ進んでいく。最後は多少呆気なく終わってしまった印象もあるが、面白いストーリーであった。

    登場するコリョ軍の一人一人の感覚と日本人の一人一人の感覚があまりにも離れていて、それが現実にもそうなんだろうなぁと思うと共に、その感覚の違いがストーリー全体に大きな影響力を与えているようだ。

    2006年11月25日 読了。

    結構、今もタイムリーな話題ですね。

  • ハードカバーで上下冊、文庫本では厚さ1.5センチの上下冊とボリュームがあるのに、
    多分、20回位読んでる。

    そして、読む度に睡眠不足になり、読む度に何かの発見がある。

    『私の好きな本』のBest3に入る偉大な作品だ。


    この本が出版されたのが2005年。
    作品は2011年の日本を舞台としているから、書かれた当時は『超・近未来』のお話だった。

    北朝鮮の自称・反乱軍兵士が攻めてきた!という
    「起こったら死ぬほど嫌だけど、起こってもおかしくはない」
    という事件からストーリーが始まる。

    この北朝鮮の兵士達が、恐ろしい。
    何が恐ろしいって、 幼い頃から『偉大なる首領様』 への忠誠を叩きこまれ、
    勉強と軍事訓練しかやってこなかった人達。
    素手でも人を殺せ、アメリカと日本への憎しみで凝り固まっている。
    まぁ、こんな事はちょいっと調べれば分かるんだけど、
    この作品は調査量が半端ないから、兵士の内面にまで踏み込んでいる。

    反乱軍の幹部の、父親の遺言とも言える言葉が、それを象徴している。
    その父親は学者で詩人だった。
    その幹部にも、父親と同じように詩を作る才能がある。
    「読む人の側に立った詩を書くんだよ」
    それが父親の教えだ。
    それは、「生き延びろ」という意味だった。
    読む人の解釈を徹底的に考え、権力を出し抜き、生き延びろ。

    相互監視、一握りの権力者による圧政。
    発言に少しでもアナがあったら、すなわち、死。

    外国から侵略されたのは、元寇が最後です!という平和な日本人からは
    想像もできない出来無い国だ。

    全ての行動を相互監視され、何かあったら家族もろとも収容所送り。
    幸せとは程遠いけれど、鍛えられはする。
    『平和ボケ』と呼ばれるような日本人が勝てる訳が無いと思う。


    で、このストーリーが現実に起こりうるか?と言うと、私は「否」と答える。

    現在、北朝鮮は政権交代で揺れていて、とてもでは無いが、
    日本を狙う余裕が無いと思うから。
    また、 この事件が起こりうる背景として、日本の経済衰退が大きなベースとなっている。
    また、これから先は分からないけれど、日本が経済力と外交力を持っていれば、
    このような話にはなり得ないと思う。

    『思う』『思う』と繰り返してしまったけれど、
    『思う』というより『願う』に近い。

    それくらい、この作品にはリアリティがある。
    それは、ストーリーを支える情報量が半端無いからだ。

    この作品を書く際に、龍さんは『半島を出よ制作チーム』を組んで情報収集し、
    「ソースは極秘で」と多くの人達から取材をしたらしい。
    下巻の参考文献の量には、圧倒される。
    この量を見ただけでも、とても一人で書ける作品では無いと分かる。
    言い方は悪いけれど、経済的に立場的に余裕のある作家さんだからこそ
    書けた作品だな、と感じた。


    政治の弱点、危機管理能力の低さ、格差社会、中央集権、少年犯罪などなど、
    この作品には様々な日本の問題が詰め込まれている。
    この作品を読むと、毎回、龍さんは徹底したリアリストだな、と思う。
    問題点を突いて、それから起こりうる危機を考えられるというのは
    リアリストである証拠だ。

    現実を直視しないで「そんな事は起こらないよ〜」という幻想を持っていては
    危機管理は出来ない。
    だけども、誰も「そんな事」が怖いから考えたくない。
    その考えたくない事をリアリスト・龍さんから突き付けられる作品だ。


    怖いテーマで、膨大な情報量。
    なのに、物凄く面白い。
    それはスピーディーさと、美しさがあるからだと思う。

    プロローグとエピローグを除けば、正味10日間で話は終わる。
    日本経済・政策の愚かしい現実、反乱軍の残酷な拷問、
    少年達の狂気とも呼べるような社会とのズレ。
    そんな事実が書き連ねられる中、美しい恋や人の暖かさなどの
    美しさが光っている。

    だから、読む度に止まらなくなって、徹夜をするハメになる。


    この作品に関しては、私は褒める事しか出来無い。
    龍さんにはガンガン稼いで、こんな作品をもっと作って欲しいと願うばかりだ。
    龍さんをメディアで見かける度に、「本を書いて~」と願っているのは、
    私だけではないだろう。

  • 上下巻を二日間で読んだ。めでたしめでたしの結末となるけど肝心のイシハラ軍団が何故に行動するのかがよく分からないまま幕が下りた。そんな理屈など要らないで読め と言うことかな。余談だけど韓国語を学習している人には1粒で2度美味しいかも 笑。

  • 膨大な資料と取材と、そして村上龍氏の壮大な妄想によって生まれた小説だ。上下巻、かなりの厚みだがその長さを感じなかった。下巻後半、物語に終わりが見えて来たときには、ひたすら読み終わりたくないという気持ちになった。幸せな読書ができた。本を読んでいて読み終わりたくないと切実に思う瞬間は読書をしているときで一番幸せな瞬間だと思う。
    本書に書かれた日本政府の対応や国民の姿、これはまさに3.11の震災時の様子に酷似していて、村上龍氏は未来を予知したかのよう。北朝鮮の反乱軍が福岡を占領する、という一見荒唐無稽な日本の危機は、2011年が過ぎた今、ひどく現実味を帯びていて怖い。

  • 読み終わった!!

    という達成感が非常に強い本でした。上下巻セットだったからということもあるだろうけど。

    上巻に比べて、比較的感情的な部分の多い下巻でした。読みやすかったです。
    こうして見てみると、日本という国家の弱さがモロに出ていました。驚きの展開ではありますが、可能性が全く無いとは思えない、妙に現実的なお話。

    まぁ…舞台が福岡っていうところがまたリアルさを生んでいるのですが。
    そうしてまた今日もコリョの占拠したヤフードームへとバイトに行くわけですからね。

    結局こういった形で決着がつくわけですが、最終的に自らの意思によって様々なモノゴトが決まっていく様が印象深い。今まで自分の意思だと思っていたことは、実は誰かの意思の真似事?だったのかもしれないんですね。登場人物各々が進むべき道を”自分で”決めているラストシーン、現在の私にとっては耳が痛いですが、忘れずに留めておきたいものになりました。

  • 上巻を読み終えるめどが見えてきた頃には、間を空けずに下巻も続けて読みたいと思い図書館で借りて、通勤時間を利用し約1週間で読み終えました。
    読み進むに連れてスピード感が増して、爆破シーンまでがクライマックスかと感じました。爆破後の展開は少し物足りなさを感じてしまいエンディングはごくごく普通の小説のような終わり方に感じ拍子抜けした感じを受けました。
    そんな感じを受けましたが、上下巻共に最後までとても面白く読むことが出来て読書の面白さを改めて教えてくれた作品でした。

  • とてつもなく好きな本だった!

    村上龍さんの描く近未来の日本はとてもリアルに感じるんですよね。もちろんフィクションではあるんだけど。

    なんていうか、日本という国の抱えているしょぼさみたいのを日本人である読者にこれでもかってぐらいに教えているような。こういうのを不快に思う人もいるでしょうけどね。

    本の感想としては、朝鮮人・日本人含めてカタカナで表記されている人たちの純粋さというものはとても強いエネルギーとして物語の中で消化されていく、そんな感じがなんともいえず愛おしい。そんな感じ。

  • 桃山学院大学附属図書館蔵書検索OPACへ↓
    https://indus.andrew.ac.jp/opac/volume/589927

  • あー、クソ面白かった。この頃の村上龍が最盛期か?ーーーーー二〇一一年春、九人の北朝鮮の武装コマンドが、開幕ゲーム中の福岡ドームを占拠した。さらに二時間後に、約五百名の特殊部隊が来襲し、市中心部を制圧。彼らは北朝鮮の「反乱軍」を名乗った。慌てる日本政府を尻目に、福岡に潜伏する若者たちが動き出す。国際的孤立を深める日本に起こった奇蹟!さらなるテロの危険に日本政府は福岡を封鎖する。いまや九州は反乱軍の占領下となった。逮捕、拷問、粛清、裏切り、白昼の銃撃戦、被占領者の苦悩と危険な恋―。絶望と希望が交錯する中、若者たちの決死の抵抗が始まる。現実を凌駕する想像力と、緻密な描写で迫る聖戦のすべて。各紙誌で絶賛を浴びた、野間文芸賞、毎日出版文化賞受賞作品。

  • 最後の参考文献の量を見ると、村上さんの知見、思いがこの本に込められているのだなとつくづく感じました。

    日本と北朝鮮という異国同士のやりとりが繰り広げられるこの物語は、日本人というものを違う目線で改めて見ることができる物語であると思います。

    人はさまざまな形での結束、絆を持っており、あらゆる立場や生い立ちからなる信念をもって、繋がっていることを感じずにはいられない話だなと思いました。
    人間はみんな人間。

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著者プロフィール

一九五二年、長崎県佐世保市生まれ。 武蔵野美術大学中退。大学在学中の七六年に「限りなく透明に近いブルー」で群像新人文学賞、芥川賞を受賞。八一年に『コインロッカー・ベイビーズ』で野間文芸新人賞、九八年に『イン ザ・ミソスープ』で読売文学賞、二〇〇〇年に『共生虫』で谷崎潤一郎賞、〇五年に『半島を出よ』で野間文芸賞、毎日出版文化賞を受賞。経済トーク番組「カンブリア宮殿」(テレビ東京)のインタビュアーもつとめる。

「2020年 『すべての男は消耗品である。 最終巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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