反アート入門

著者 :
  • 幻冬舎
4.13
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本棚登録 : 571
感想 : 37
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  • Amazon.co.jp ・本 (326ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344018099

作品紹介・あらすじ

芸術には芸術の分際がある。アートの出生とその証明。ポップアートと死の平等。あまりに根源的な(反)入門書。

感想・レビュー・書評

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  • 読んでてゾクゾクした本。アートに興味ある人は必読では。

  • 現代アートの出生と来歴を解説し、その問題と新たな芸術の可能性への展望が語られている。

    まず著者は、現代アートの潮流を解き明かすことからはじめる。近代以降、芸術の秩序の中心にあった神が退場すると、芸術とは何かという問題が個々の芸術家や美術批評家たちに鋭く突きつけられることになった。その中から、絵画とは何よりもまず、一定の質を持つ画布の表面に絵の具をこすりつけたものだという「無神論」的な絵画が生まれた。現代アートの歴史において主流をなす抽象表現主義はそのようなものとして理解できる。著者は、こうした潮流が美術批評家のC・グリーンバーグやMoMAに主導されて登場する経緯や、J・ジョーンズ、F・ステラらの作品、アースワークの思想を、平明な言葉で解説している。

    その上で、そうしたアメリカの主導で進められてきた現代アートの歴史が、同時代の政治力学との密接な関わりを中で構成されてきた一つの「制度」だったと著者は指摘する。また、そうした「制度」からはみ出すようなアートのあり方を示すものとして、ウェスト・コーストのアートや、中国の新世代の芸術家の実践が紹介されている。

    ところで、これまで国家や社会という制度と芸術という制度は、対立するように見えながら、じっさいには相補的な役割を果たしてきた。だが現在、グローバル化によってあらゆるものの価値が市場に一元化される事態が進行している。いまや美術批評家は、市場で起こっていることを現代思想や批評理論を駆使して釈明し、これから起こることを中短期的に予測するコンサルタントになっている。

    こうした状況を踏まえて、著者はこれからのアートのゆくえについて思索をめぐらせている。ただし著者は、「芸術の精神的価値を取り戻せ」といった復古的なやり方はとらない。すべてが市場の中で流通する現代の状況の中では、芸術作品という「もの」に固有の価値が宿るとは考えられない。著者は、現代のアートが立ち至ったこうした状況を必然的なものとして受け入れる。その上で、芸術作品という「もの」からの解放によって、一元的な市場社会の中でべつの次元が開かれる可能性を探ろうとしている。

  • 親しみやすい文体で書かれた「反」アート入門。
    最終章で自然にアートの門へと到達できるように、戦場(アートのおかれている現状、世界そのもの。片仮名で語られる「アート」「美術」「芸術」のくすぐったさ、もどかしさ)を解説。

    カットアップリミックスという切り口で世界のアートを横断紹介。資本主義の滝壺で洗われたあとに、日本の悪い場(美術が日本に輸入されてからの先人の功罪)の歴史を振り返り。20世紀の芸術家が生きていく平坦な戦場にたどり着いた。でも、そこは、門の手前でしたというお話。


    表紙にあしらわれた黒々とした「即身仏」の彫刻は、
    (金色の仏像を西洋観でアレンジしたマーク・クインの「悟りへの道」とは対極的な表現)日本の美術のメンタリティ、いまの若い世代の作家の気風を表現しているとも言えるだろう。

    変に理解されて(おおむね間違った理解)ポピュラリティを獲得することを意識しないではいられないが、常にポピュラリティ(大衆意識)とは背中合わせであるべきアート入門へ。

    *時々、手を入れると思います。

  • 出会えてよかったです。

  • このひとの本を読んだのは初。おれリスペクトする人リストに入りました。いい本です。まず現代アートというものを初めて知りました。今まで何もわかってなかった。わかるっていうのも違うっていうはなしだったけど、そういう観点も含め、感謝。そしてその先、時代や人間や世界やこの国に対する洞察からの切り口、また提言が素晴らしい。読むべし読むべし。

  • 美術

  • 「神なき世界で、美術はいかにあるべきか」

    これを読んでいて、村上春樹を解説した本を思い出しました。

    「聖なる天蓋のない世界で、それでも我々は「よきもの」としてあることはできるか」


    当面、自分の手の届く範囲の「ローカルなルール」を打ち出していくこと以外に方法はない、というような話だった気がする。

    芸術の世界に置き換えるとどうなんだろうなぁ。

    「神に代わる何か」という考え方自体が、旧体制のシステムを引きずっていて、「神」の面影が消えない。でも多分、西洋の美術を理解していくためには、このシステムの踏襲は必要不可欠、なのだろう。


    でも、そうではない方法だってあるのではないか、というのが、多分この本の核となるようなところなのだと思う。


    でも、ちょっとまだ、分かりにくくて、どうしたら良いのかしらと、わたし自身も読み取り切れていない。

    もう一度読んで、理解を深めたい。

  • とても面白く、かつ、まっとうな入門書。現代アートについて説明しよう時、語りきれないからこそ「反」という形になってしまうというのはとても誠実だと思う。それは歴史と伝統なき国家、アメリカが芸術の中心となるための必然的手法であり、神や王権の様な捧げるべき権威対象を失ったが故にアートはそれ自身がアートであることを証明し、資本主義という市場でその価値を決定される。また日本で美術館やアートに一種の距離が存在するのは、こうした西洋の文脈上に接ぎ木の様に日本の文化が接続されているという説明は非常に納得がいくものだった。

  • タイトルとは逆に全く入門ではない現代アートの流れにある精神を読み解く書。言葉遣いが読みにくいという意見が多いみたいだけど、読みにくさの中に真意がある(本当に書く力がある人!!)。

  • アートとは、神=自然 ではないもの

    それが欧米の芸術観。

    新たな定義を塗り替える人が歴史に名を刻む。
    コンセプトを作り上げる人。

    中国のアーティストは宇宙に向かう。
    日本は・・・工芸には長けてきたが。
    自然との融合という欧米とは別の価値観でアートを定義すべき。

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著者プロフィール

美術評論家

「2022年 『ベスト・エッセイ2022』 で使われていた紹介文から引用しています。」

椹木野衣の作品

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