吉原十二月

著者 :
  • 幻冬舎
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本棚登録 : 267
感想 : 58
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  • Amazon.co.jp ・本 (326ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344019348

作品紹介・あらすじ

容貌も気性もまるきり違うふたりの妓。妓楼を二分する激しい嫉妬とつば競り合いの先に女の幸せはあるのか?欲望を喰らい、花魁となる。

感想・レビュー・書評

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  • 面白かった!
    『吉原手引草』に続いて松井さんの作品2作目でした。

    江戸時代の吉原という特殊な世界での人間模様が描かれています。
    トップに立つ2人の花魁のあれやこれについて、楼主が思い出話を語りながら時が経過していきます。

    吉原という特殊な世界の稀有な花魁という立場の女性2人の物語ですが、描かれる人間模様が品を失わず、粋な人間が何人も登場します。

    吉原のしきたり、花魁や女郎の社会的階層、客人の格等々どれもこれも非常に興味深く、描かれる吉原の姿によって当時の社会の有り様を想像し愉しむことができました。知らない世界の一端を覗き興味が益々募ります。

    加えて主人公たる2人の花魁の人間性の複層性や奥行が非常に丁寧に無理なく描かれ、人間の面白さを垣間見ることができます。
    外見や第一印象はもちろん大切ですが、相手や場面によって表出する長短は現実の人間そのものを連想させます。

    印象的だったのは8月「葉月」の章で登場する醜男(ぶおとこ)と評される中年の商人藤五郎と「胡蝶」のやり取り。自分の娘世代の花魁「胡蝶」に疎まれても毛嫌いされても彼女の下に通い続けた藤五郎の心のうちが終盤明かされ、その展開に一言「あっぱれ」でした。

    各々の唯一無二の「正義」があちらこちらで炎上していますが、「人間」「世の中」とはもっと奥行が深く、重層で複雑なものであることに気づかされる非常に「粋」な1冊でした。
    今の世の中、他力本願で商人ばかりを求めたがる「無粋」が多すぎますね笑。
    松井さんの作品をもっと読みたくなりました。

  • 面白かったです。
    廓言葉が頭から離れなくなる。
    個人的には胡蝶の方が好きですね。

  • さすが直木賞作家、吉原の遊女たちを華やかに艶っぽく描く。胡蝶と小夜衣、幼い頃より競いながらそれぞれの魅力を磨いてきた2人は晴れて昼三の花魁となる…。

    苦界と言われる廓が舞台だが、月々の行事の優雅さやお大尽たちの豪傑っぷりを中心に語られるので悲壮感は薄い。

  • おもしろかった!
    ふたりの花魁のライバルストーリー。
    女同士のいやらしさ、と同時に、そうだよね!っていう手を組むやりかたとか・・・描かれていた、「女」という性にものすごく納得させられた一冊でした。

    もちろん、吉原のしきたりがどうなっていたのか、という細かい部分も読み応えあり。

  • とても面白かったです
    吉原の現代ではわからないしきたりや生き様が読みごたえありました
    小夜衣は天晴!胡蝶はいじらしい娘
    お互いがそれなりに幸せを掴んだのがよかった

  • 吉原の名妓二人を抱えた楼主が彼女たちの吉原に来る最初から年季明けまでを、
    十二ヶ月の暦に沿って語り聞かせる趣向。

    同じ作者の吉原を舞台にした前作にも登場した妓楼が舞台。
    淡々とした筆致でお職を張ったふたりの女の生き方を語る。

    風俗の描写や廓の決まりごとなどが丁寧に描かれ
    前作同様湿った感じの空気感はない。

    読者のほうも膝を乗り出し、美しい絵巻物でも見るように
    どこか遠いお伽噺を聴くようで悲壮感はない。

    決着のつき方も、どちらの花魁もまずまず幸福なところへ
    落ち着くので、終わりまで読むとほっと肩の荷が下りる。

    ただ、花魁側からの心理描写はあえてドライなので
    彼女たちの内心に切り込んだ時、その場面で本当は
    何を考えていたか、本心はわからない。

    つまり、彼女たちが表に向けて見せていた顔しか
    私達読者も見せてもらえない。
    だから、どこかつかみどころがなくて

    「この女は本当は何を考えているんだ。」

    と思いながら、最後まで手が切れない男のように
    どこかもやもやとした、

    「これが全部かな?」

    という感覚が拭えない。
    それさえ除けば、面白い小説であったと思う。
    欠点と言うよりむしろこれは持ち味であると思うので
    決して批判的なコメントではないことを申し添えておく。

    白眉は胡蝶花魁が袖にした、大店の主人が
    彼女に花魁としての心がけを説く場面。

    お定まりの言葉でなく、率直でよかった。
    べたべたしていないが、時代小説の「情」を読む楽しみを
    存分に満足させてくれる。

    他の作品にはちょっと見ないところだと思うので
    これから読む方は注目されたい。

  • やはり吉原物は女性が書くものの方が面白く読める。
    傍からみている者が花魁を語る手法は『吉原手引草』と同様か。
    御職をはるような花魁たちの話なので、
    苦界の厳しさ辛さよりも、衣装の華やかさやお座敷の楽しさの描写の方が多い。

  • 読み応えあり。
    オチもキレイにまとまってます。

  • 吉原の楼主が二人の名妓を追憶の中で語っていく短編綴りのような
    長編…のような…??
    妓楼の中で起こる二人の名妓のそれぞれをさらりさらりと
    語りながら、世の酸い、甘いをしんみり感じさせてくれる
    その切り口が読んでいて小気味よく、一気に楽しませていただきました。
    吉原手引草と何となく似てるけど、語り手が変わるとこうなるのか…って
    感じかな。
    うん、面白かった、オススメです☆

  • 『吉原手引草』で直木賞を受賞した松井今朝子の吉原物。

    大籬の花魁として競い合う小夜衣と胡蝶。二人の身の回りに起こるあれやこれやを、吉原の歳時記を織り込みながら鮮やかに描き出す一作。

    たおやかでありながらしたたかでどこか謎めいた小夜衣と、一本気で勝ち気な胡蝶の対比がおもしろい。個人的には胡蝶に肩入れしつつ読んだが、小夜衣の方が終始、一枚上手な感じ。
    張り合いつつも、幼い頃から同じ苦界で生きるもの同士のある種の「友情」が通い合っているのも味がある。
    艶っぽく徒な美しさの吉原を見事に構築している背後には、おそらく、ものすごい量の調べものがあるのだろう。骨太な揺るぎなさを感じる。

    性格の違う二人が辿り着く先がどこなのか。鮮やかな身の処し方には、異世界の人たちとわかっていても、心地よいカタルシスがある。

    *『吉原手引草』もとても好きで、海外にいる友人にまで送ったくらいだったのに、感想を残していない。きっと読んだのが登録前だったのだろう。こちらもおすすめです。
    *同著者の『仲蔵狂乱』もおもしろかったが、個人的には女性を描いたものの方が爽快感が上だと思う。

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著者プロフィール

1953年京都生まれ。小説家。早稲田大学大学院修士課程修了。松竹株式会社で歌舞伎の企画・制作に携わる。97年『東洲しゃらくさし』でデビュー。『仲蔵狂乱』で時代小説大賞、『吉原手引草』で直木賞受賞。

「2018年 『作家と楽しむ古典 好色一代男 曾根崎心中 菅原伝授手習鑑 仮名手本忠臣蔵 春色梅児誉美』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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