- Amazon.co.jp ・本 (231ページ)
- / ISBN・EAN: 9784344021105
作品紹介・あらすじ
2007年11月、防衛事務次官の職に4年居座った高級官僚・守屋武昌が逮捕された。軍需専門商社・山田洋行の元専務から、ゴルフ接待や次女の米国留学費などを受け取った見返りに装備品の調達で便宜を図ったという収賄罪などに問われ、2010年に懲役2年6カ月の実刑が確定。現在服役中である。ロッキード、ダグラス・グラマン事件以来最大といわれたこの防衛汚職事件とは一体何だったのか?二流官庁と蔑まれてきた防衛省(庁)と防衛産業との歪んだ関係、そして、そこに巣喰う現代公吏の生態に迫る。書き下ろしノンフィクション。
感想・レビュー・書評
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山田洋行事件。
当時は、便宜を図った守屋事務次官という人間の汚職というシンプルな構図に考えていたが、実際は根深いものが潜んでいることが分かる本。
同時に、戦後の日米関係や、政界の構造、そして具体的な人間関係が垣間見られる。
とはいえ、本当の黒幕や内情は当然語られるはずがない。本書的に言うなら、フィクサーやロビイストがそれを出させるはずがない。
個人的に思うのは、著者が多少感情的な部分が垣間見られる。一方で、語弊を恐れずに述べるなら、守屋自身の人生に共感するところも多いにある。
今日の民主党政権が、軽く見受けられるのも納得できる一冊。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
読んでおいて損はない
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防衛省の天皇とまで謳われた役人の話。あそこまで民間業者の接待などにまみれて、ある意味、大人物と思いきや、奥さんに浮気を詰められ、長男の非行になす術もなく、自分の容疑にあたふたとするとは…。人間の弱さを思い知らされた。
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まさにタイトルの通り、守屋武昌は狡猾なのだ、と思う。
エピローグに記述されている、生々しいやりとりからして、
つくづくと“狡猾“という表現を思い知らされてしまう。
この事件の本質がいまいちピンとこなかったのだが、
本書を読むにつれ、何が問題だったのか、クリアになった。
それにしても、仕事と家庭の立場の逆転は、
事務次官といえども、悲哀が漂っていて、切なくなった・・・ -
一般的に、業者は自社製品をできるだけ多く、
しかも高値でお役所に売るようセールスをする。
ビジネスの目的はあくまで利益をあげることであって、それは他の省庁と変わらない。
だけど、そこには商品の使用目的が国防であるがゆえの特殊性がある。
防衛行政はその性質上、理解しづらい専門分野が少なくない。
身近な存在でもないため、国民との距離がある。
行政サイドと軍需産業の狭間には、一般的に知られていない取引も少なくない。
国防は機密と密接な関係を持たざるを得ない。
官房機密費の使い道ぐらいよく分からなくなる。
軍需産業はとても奥が深い。面白いなあ。
国防を米国に握られている現状で、
日本の防衛官僚は大変なポジションを任されている。
政治屋はただの利権追求だし。
自分たちでは戦争ができない弱さから米国完全服従という防衛行政の中で、
日本の防衛行政は米国人ロビイストが握っているという事実や
(他の業界もアメリカとの関係においてはそうなんだけど)
軍事装備品などの調達には政治家の介入・ロビイスト・ブローカーなど
様々な利害関係が発生するわけで、
どれも一筋縄ではいかない問題ばかりが山積みになっている。
単純収賄(もらうだけ)と受託収賄(見返りを与える)の
法的な重さの違いは勉強になった。
タイトルとサブタイトルでこきおろしているほど、
中身では元次官のことをひどく言ってないと感じた。
彼の証言を通して、アメリカのロビイストや日本の敏腕「極悪」営業マン、
そして防衛族議員の本当の顔が垣間見える本。
欲を言うならば、じゃあどうすればいいのか、まで踏み込んで書いて欲しかったかな。
でもそれは著者の仕事ではないかも。 -
この本は『防衛省の天皇』の異名をとり、事務次官を四年歴任し、最後は収賄罪などに問われ、2010年に懲役2年6カ月の実刑が確定。その顛末を記したものです。少なくとも僕には彼を断罪することができない…。
僕は先日、この本の主人公である守屋武昌氏が書いた『普天間交渉秘録』を読みましたけれど、正直な話、全体を通しても筆者の人間像がよくわからなくて、ずいぶんと頭をひねったことを思い出します。
しかし、このノンフィクションを読んでから守屋氏の人物像というものが自分の中で浮き彫りになってきて、なんというのか…。彼が事務次官というポストを歴任し、『防衛省の天皇』という異名をとっていながらも家庭では長男の非行によって家庭が崩壊していくさまを仕事やゴルフに逃げ込んで外部の人間の助けを得なければ対処できないところまで言ってしまったことですとか、官僚時代に接待接待また接待という日々を送りながらも、防衛省を退職しスーパーで食材を選んでいるときも周辺の視線が絶えられなくなったり、取調室で事件を担当する検事に決定的な証拠を突きつけられたときの彼の対応などが、これを書いている最中でも脳裏に浮かび、そこから自分の導き出せることは彼はまたひとりに弱い人間であり、その『狡猾さ』は自分自身の中にも紛れもなく『存在』するのだ、という意味で彼のことを峻烈に責める事のできない自分がおりました。
ほかの女性との浮気が奥様にばれたときや、連日連夜の残業で深夜に家に帰っても家族が食事を作ってくれなくて、当時行きつけだった24時間営業のスーパーマーケットで惣菜を買っている姿が描かれている場面を読んでいると、すごく下世話な話になるのですが、なんともいえない複雑な思いが自分の中を去来してしまいました。彼が罪に問われたという『軍事専門商社・山田洋行の元専務から、ゴルフ接待と次女の米国留学費などを受け取った見返りに便宜を図ったという』贈収賄の詳細はここに書かれてあること以上のことは僕にはわかりません。
この事件が後に『戦後最大の事件といわれた防衛汚職事件』といわれ、そこで繰り広げられる旧防衛庁と防衛産業との歪んだ構造の実態が、自分の心には正直言ってあまり好奇心を書き立てるものではなかったんですけれど、ここには「一匹の『迷える子羊』として描かれている」一人の人間の姿があると、僕は僭越ながらそう思ってしまいました。