- Amazon.co.jp ・本 (381ページ)
- / ISBN・EAN: 9784344021761
作品紹介・あらすじ
これまでの日本人論で「日本人の特殊性」といわれてきたことは、ほとんどが人間の本性にすぎない。世界を覆い尽くすグローバリズムの中で、日本人はまったく「特殊」ではない。従来の日本人論をすべて覆すまったく新しい日本人論。
感想・レビュー・書評
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日本の空気読みや気配りは、農耕文化や東アジア儒教圏の特徴でむしろ、状況によってはアメリカ人などでも日本人より強くその傾向がある場合があるとの事例を客観的なデータにより合理的に説明している。橘玲さんらしく世間の常識から外れた事例を科学的な論点から考察しており、内容に強い説得力を持たせるが、読み進めるにしたがってやや考察が専門的、マニアックになり過ぎ、理解というか興味が追い付いていかなくなる印象を受けた。
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2014年正月読書用として読了。
著者の作品は経済や金融を題材としたものが多いが、3.11以降に多くの日本人論が世界中で紹介・議論されてきた中で、これまでにない新しい視点で日本人論を著したということで購入。
本作は、従来語られ、述べられてきた日本人論から距離を置き(カッコに入れ)、全く新しい切り口で持論を展開する。
冒頭で「世界価値観調査」によるアンケート結果を基に、日本人は「戦争が起こってもわが国のために戦わず、日本人として誇りを感じず、権威や権力を嫌う」人種だという客観的データを出発点に、政治哲学的枠組みをベースにしながら、経済学的視点、経営学的視点、日本史的視点、世界史的視点、進化心理学的視点、文化人類学的視点、比較文化学的視点等の複数の学問的切り口により、「日本人は欧米人と比較して世俗的で個性的で個人主義的」であると結論づける。
これは「イングルハートの価値マップ」により、多くの諸外国と共に2次元論的に可視化されていることが非常に興味深い。
特に、日本人の精神的支柱とされ、世界中の国々に読まれたベストセラーである「武士道」に関しては、敬虔なクリスチャンであった新渡戸稲造が、日本固有の「武士」をキャラクターにしながら欧米でも理解されやすい「騎士道」と対比させることで、日本にもキリスト教を受け入れるだけの文化があることを証明するために書かれたものであるとする。
また、「武士道」と並び日本人論の原典のひとつで世界中で読まれた「菊と刀」に関しても、太平洋戦争末期の米軍が戦後の日本統治のために、著者であるルース・ベネディクトに日本人の特殊性"のみ"を研究させた結果を編纂したものであるとも述べている。
すなわち、これらの古典的日本人論は当時の正しい日本人像を述べたものではなく、欧米人との差異を強調し、オリエンタリズムで加工・創作された"輸入品"であると解いている点は、これまでの日本人論に対する真っ向からのアンチテーゼであり斬新である。
多くのレビューでも書かれているように、本作は様々な学問的切り口から日本人論について展開されているため、ざっと読んだだけでは内容が散文的に感じ取られてしまうかもしれない。
しかしながら、章立てが「LOCAL」→「GLOBAL」→「UTOPIA」と進んでいるように、まずはこれまで日本人が感じてきた(刷り込まれてきた)日本人論ではなく、客観的視点で日本人を捉えた上で、グローバリズムやグローバルスタンダードの本質に触れ、理想とする社会はどのようなものか、そしてそこに向かって日本人はどのように進んでいくべきかを論じていることを踏まえれば、さほど苦も無く読み進めていけるであろう。
また、本旨やポイントを見失ってしまわないようにという配慮からか、自己啓発本によくあるように論点をまとめてあるページがいくつか割かれているところは、著者の考えの理解を助けるとともに、読み返したときにポイントを素早く把握できる点でも好感が持てる。
前述のように、本作は日本人論という比較文化的テーマに対して種々の学問領域のエッセンスを用いての解説となっているため、各学問や日本人論の専門家にとっては異論がある部分もあるかと思われる。
しかしながら、とかくあるテーマに対し単一的アプローチで深掘りして解説・解決していく類のものが氾濫している現在、著者のように単一解のない複雑な問題に関し、学際的アプローチにより専門家でない一般人に対しても解決策や方向性を分かりやすく示していく姿勢は貴重であり、このような方法論で問題解決に臨む人材はこれからの社会では更に必要とされるであろう。
特に、巷間言われるような「止めることのできない社会のグローバル化」でいかに生きていくかを考える上でも、本書は一読に値すると考える。 -
黄金の羽根の拾い方から一貫した橘玲のテーマ、人的資本をポートフォリオに組み入れたライフプランについてが半分、残り半分は題名の通り日本人論。よく言われる農耕民族、武士道、村社会、島国根性で語られる日本人感をひっくり返された、ここは目新しい。珍しく、終わり方に少し夢がある。
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人に薦めてもらった本。
書店の検索システムに全然引っかからなくて苦労しましたが、『かっこにっぽんじん』と読むんですね。
「日本人は礼儀正しい」「日本人は意思決定ができない」「日本人はマナーがいい」…。
私たちの周りにはたくさんの日本人に関するイメージが溢れている。
しかし、それは本当に日本人の特徴と言えるのだろうか。
日本人は特別、という視点から離れて、もう一度客観的な評価に立ち返り、再定義してみよう。
日本人を( )に入れて、国家や国民などの規制の枠組みから開放されたとき、この世の中で起こっている様々な問題点と正面切って向き合い、解決の糸口を分析し、未来に向けて歩けるようになるはずだ。
世間一般で通用している「日本人は○○だ(、だから〜)」について、それが正しいのかを検討しながら、純粋な日本人性を洗い出していこうとする試みが斬新です。
どんな事案にも共通することですが、人間の性質や考え方に物事の原因を見出してしまうと、それ以上の進歩は望めません。
知らず知らずのうちに、行動するorしない理由のひとつとして日本人性をこじつけている自分を、本書を読むことで発見できたように思います。
ステレオタイプは物を考えなくていいので当座は楽なのですが、理論的な反論に対処できない(そもそも対処することを放棄している)と実感できます。
余談ですが、先日読んだ『読んでいない本について堂々と語る方法』なる本の実践型を本書で垣間見ました。
著者は恐らく経済学、心理学、文化人類学、哲学といったすべての学問に精通しているわけではないのでしょうが、全体体系を理解していることによって非常に説得力のある意見を述べることに成功しています。
専門家の本を読むのも楽しいですが、広く浅い知識を有している方の本もまたおもしろいものですね。 -
「(日本人)」橘 玲
思想書。クリアグレー。
いわゆる日本人論ですが、政治学、社会学、経済学などに立脚して書いています。
論点があっちゃこっちゃ散在していて非常に読み辛い。起承転結のない本なので、全体の要点が掴みづらい。
でも、ひとつひとつの考えは、個人的にしっくりくるものが多くてオモシロいです。
あと、ある程度の章ごとにまとめを入れていただいているのは分かりやすい。
「(日本人)」が世間との協調を美徳とし、権威・権力を嫌うのは、実は突出した世俗個人主義によって、
①原理主義を持たず、〈水〉の中に生きていて
②私の自由権を制限する政府、官僚、大企業…を憎悪する
から。という解釈でいいのかな。
ばっさり感想を一言で言いますと、明治以降の西欧近代化の歪みを戻そうとする国民性の力をさらに抑え付ける道徳論という、二重の歪みを感じますー。
本書の最後で示される自由のユートピア、徹底的な世俗-合理的:自己表現優位社会は、既得社会をバージョンアップさせる世論形成がなされれば、容易く日本に根付くでしょう。とな。
何となく、グローバル化した江戸元禄文化をイメージ。鎖国の下で花開いたこととの矛盾がありますが。(3)
以下メモ
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p31.タイ社会は、つねに"ガイアツ"を必要としている。
p50.貨幣空間の拡大(市場原理主義)というのは、世界の歪みを平準化する運動のことだ。
p112.それぞれのデフォルト戦略が異なるのだ
p135.イングルハートの価値マップ。所得/文化-{合理,自己表現}空間
p160.日本は本質的に「無縁社会」だった。
p168-172.経済学における自由貿易の余剰の話。分業化の高度化の度合いを「生産性」という。
p207.正義をめぐる四つの立場
p216.もしそこがグローバル空間であれば、好むと好まざるとにかかわらず、誰もがグローバルスタンダードに従うしかないというだけのことだ。
p263.すなわち官僚制とは、日本においては、社会諸集団の結節点として機能しているのだ。
p282.そのため過当競争と過剰設備でどこも利益をあげられなくなってじった。
p288.日本がグローバルスタンダードの国に生まれ変わることはものすごく難しい。それは、日本の社会に〈他者〉がいないからだ。
p317.フリードマンがネオリベの元祖だ。
p329.ネオリベがグローバル思想だからだ。 -
僕も最初にこれを読んだときにはかなり衝撃を受けました。日本人とはいったい誰なのか! ?従前の日本人論をすべて覆すまったく新しい日本人論!ということで、いままで我々が「常識」としてきた事を覆してくれます。
この本は書店で目にして以来、ずっと気になっておりましたので手にとって読んでみることにいたしました。甚大な被害をわれわれにもたらした「3.11」から国内外を問わずさまざまな「日本人論」が発信されて参りましたが、筆者にいわく、
「日本の被災者は世界を感動させ、日本の政治は国民を絶望させた」
ということなのだそうです。まさしくそのとおりだな、と。
その一文からかなり衝撃的な日本および日本人観が全編にわたって展開されていきます。いわく、日本人は「神」というものをほぼまったく信じず、長年重要視されているとされた世間(ムラ社会)ではなく、世俗(神を信じずに功利的に生きる)の方にある。と説きます。はじめてこの一文を読んだときには本当に衝撃を受けました。彼は日本人性の謎を解くカギは、巷間いわれているような「空気=世間」ではなく、「水=世俗」にこそあるのだ、のだそうです。
これについては1章1章のエピソードも非常に面白く、3章の『「愛の不毛」を進化論で説明する」では男女の分かり合えない理由を
「異なる生存戦略をもつ男女は“利害関係”が一致しない」
というあまりにもあまりな言葉でばっさりと言っていたり、社会に関しても「政治空間」と「貨幣空間」から構成され、政治空間とは家族や恋人、友人や知人などの人間関係でできた共同体とし、貨幣空間は他人同士がモノとお金のやり取りでつながる世界であると捕らえており、それはほぼそのまま日本における都市圏と地方ではないか、などと考える自分がおりました。
さらに「ハシズム」半ば揶揄されながらも「大阪都構想」などの政策を立ち上げ、日の出の勢いである橋下徹知事にも触れており、彼の「思想」の根幹を閉める「ネオリベ」が実はアメリカのそれこそ世界のトップクラスの頭脳が長い時間をかけて編み出した「思想」であり、彼の「ツイッター」を引き合いに出して、その懐の深さを見せるなど、最後まであきさせない展開でございました。これを読み終えるのは本当に時間がかかるかとは思いますが、よろしければひとつ機会を見て一読をされてはいかがでしょうか? -
この本のいたるところで今までの固定概念を考え直させる著書でした。
内容に触れてしまうので、少ししか書けませんが、これだけでも考えさせられます。
従来の日本人論で「日本人の特徴」とされていたことの大半は、ヒトの本性か農耕社会の行動文法(エートス)で、世界の至るところで見られるもの
日本人性の謎を解くカギは、「空気=世間」ではなく、「水=世俗」にある
日本人はアメリカ人よりも個人主義的(自分勝手)
日本人は世界でも突出して世俗的な国民である
「空気」の支配は個人主義の結果だ(拘束が強くなければ共同体を維持できない)
<この本から得られた気づきとアクション>
・この本をまたいつか読み返すときがきたら、日本はどうなっているだろうか。
<目次>
ほほえみの国
1 LOCAL(武士道とエヴァンゲリオン
「日本人」というオリエンタリズム
「愛の不毛」を進化論で説明する ほか)
2 GLOBAL(グローバリズムはユートピア思想である
紀元前のグローバリズム
「正義」をめぐる哲学 ほか)
3 UTOPIA(「大いなる停滞」の時代
ハシズムとネオリベ
電脳空間の評判経済 ほか) -
★★★★世界的規模の価値観調査基づくネオ日本人論。日本人は世俗的-合理的な価値観が高く、自己表現の価値観が相対的に低い(うんうん!)。一方、欧米人は自己表現の価値観は高いが、以外と日本ほど合理的ではなく、伝統的な価値観も尊重している(へ~)。また、日本人は自分の生き方は自分で決め、自分らしくありたいと強く思っている。個人主義も強い(一人暮らし等)。これで自己表現が高まれば、超越者のいない世界で最も世俗的・合理的な日本人こそ自由のユートピアに辿り着ける。。。かも?
要再読。 -
大好きな、橘玲の本。★★★★★★★★★★!
コレは、ホンマに良書。読み終えたくなくなる程に吸い込まれる内容。
日本人やからとか、ではなく、「何で現在の日本や日本人マインドが培われ、今もなお生き続けているのか」を紐解いてくれる。
政治的そして経済的、思想的に多方面からの視点で切り込んでる内容。
僕のような、あほぅな20代のぺーぺーはホンマ必読。 -
示唆はたくさんありましたが、やはりポイントは、「日本人」の性向を、水=世俗と見たところ。この視点は新しい。あまりに、世俗的で個人主義的だからこそ、共同体をやむを得ず形成する。古い共同体が消えた後は、会社etcがイエ化し、フラット化でそれもぶっとんだ後に無縁化するのは必然だ、とつながる。なるほどなと。たとえば、世俗的だからこその「安全保障装置」として、「朝活」「婚活」をとらえてみると、別の視点も開けてくる。スキル獲得や結婚という成果よりも、「○活」というプロセスそのものが持つ、「孤独」を撥ね退けるが、私的領域には深入りしない「安全保障」。そういう見方もできると思う。トンデモ未来予測でもよいけど、「承認」を商品にする「承認保険会社」が出てきてもおかしくないと思った。「つながりが切れた時には、保険金をお支払いしますよ」ってな感じで。
いずれにしても、「日本人論」再考のために一読の価値はあると思った。 -
一言で言うと、
「日本人は、とっても世俗的で、血縁・地縁を嫌うとっても個人主義的な生き方をしている」
と要約されるようです。
本書では、
日本人の特性というと、「和をもって貴しとなす」といったものが象徴的だけど、それはなにも日本特有のもではないという。そもそも、所謂日本人特有と言われている基質は、洋の東西を問わず、あらゆる農耕社会に共通な特質だといいます。
農耕社会では、その特性上「土地(なわばり)への執着」が生まれます。バブル経済全盛に流行った「土地神話」も日本に特殊な現象ではなく、全ての農耕社会は1万年前から土地神話に呪縛されていたと言います。
また、「島国根性」という言葉も、囲いをつくって敵から土地を守るというという農耕社会の基本原理で(例: 万里の長城)、「開放的な農村」は原理的に存在しないと言います。
そして、農耕社会における最も重要な特徴は「退出不可能性」=「ムラ社会」で、その共同体の一員としてずっとその土地に住み続けなければいけない社会であると解きます。そういった閉鎖空間では、共同体のなかで対立が生じたときに行う政治は、「妥協による全員一致」以外にあり得ず、「身分」=「各自の社会的な役割」の固定(「分」を守って生きる)が起こるそうです。
ちなみに、タイは日本以上にものごとの白黒をはっきりさせることを好まず、面子と気配りを重要視し、政府は日本以上に何も決められず(無責任社会、責任回避社会)、位階(ヒエラルキー)社会だと言います(ラオスはタイに輪をかけてそういった傾向が顕著らしい)。
それじゃあ、日本人固有の特性とはなんなのかというと、それは、世界でも稀に見る高い「世俗性」だそうです(ダントツでNo. 1に世俗的)。これは、ロナルド・イングルハート(アメリカの政治学者)の価値マップから明らかにされたといいます。また、世界価値観調査では、日本人は、ダントツで国にために戦う気がなく、ダントツで日本人としての誇りがなく、ダントツで権威や権力を毛嫌いする特徴を有するという結果が示され、日本人の極端な世俗性と整合します。さらに、日本、中国、韓国、アメリカの四カ国中で、日本は最も個人主義的な生き方をしているという調査結果もあるそうです。
ちなみに著者は、大伴家持の句であったり、オリジナルの仏教を世俗化した日本式インスタント仏教、戦前戦後における日本人の変わり身の早さなどを例に挙げて、日本人の世俗性は伝統的なものだと主張しています。
そして著者は、
a) アメリカニズムは、アメリカが人種のるつぼなるがゆえにグローバルスタンダードとなり世界を浸食していき、その流れはグローバルスタンダードであるがゆえに止められない(例えば、アメリカでは人種、宗教、性別、年齢で社員を差別することは許されない。結果、定年は存在せず、履歴書には生年月日を書く欄も写真を貼る場所もない)。
b) グローバリゼーションは先進国と発展途上国との間の格差をフラッット化する一方で、先進国内の格差を拡張する。
c) よって、先進国はダウンサイジングを迫られることで、国民の「夢」や「希望」がない世界になる。
d) 経済的には行き詰まりを伺わせる先進国だが、ソーシャルメディアの出現により、人は評判獲得競争(評判経済)により参入しやすくなった。そして、人は貨幣より評判を選好する。貨幣経済→評判経済への転換がポスチモダン。
e) 社会そのものは変われなくても、伽藍(ムラ社会, 閉鎖系)→バザール(自由と自己責任が一体, 開放系)への転換は個人としては十分可能であり、バザール世界の住人の増加が伽藍世界を壊す圧力となる。
と続け、
最も世俗的な日本人が、自由な自己表現のできる社会を構築(伽藍→バザール)すれば、徹底的に世俗的(合理的)な人々によって構成される、誰もが自由に自己表現・自己実現できる社会が形成され、ユートピア=(退出可能な開放系の社会である)最小国家のフレームワークが実現できる。
という著者の夢で締めくくられています。
本書でとりあげられたサーベイの有意性や、著者が最近傾倒し、本書の論拠の一部となっている進化心理学のプレゼンスをボクは評価できないけど、これまでの「日本人像の常識」を真っ向から覆す「新たな日本人像」の提案は非常に興味深く、刺激的と思いました。
それから、本書では幾つかの(ボクにとっては)センセーショナルな内容がけっこうまぶされています。例えば↓
・新渡戸稲造の「武士道」は、新渡戸の「日本人の理想像」を創造(フィクション)したものに過ぎない(新渡戸が明治維新を迎えたのは7歳。武士道は歴史研究家でもない新渡戸ななんお資料もないカリフォルニアで書かれたもの)
・「菊と刀」を著したベネディクトの仕事は、日本占領に備えて日本人とアメリカ人の違うところを探すことが前提にあった(日本人の特殊性にのみフォーカスされた)=「日本人論」は輸入品
・温帯ベルト仮説(ジャレド・ダイアモンド, アメリカ進化生物学者)=「農耕文明は気候の違いを超えることができない」→近代以降の世界史の展開にも適用
・日本のサラリーマンはアメリカの労働者よりもいまの職場が嫌いで、会社への忠誠心が低いという社会調査の存在
・福祉国家の試みは破綻した(福祉国家は、人口の少ない寒冷地で、住民が一カ所(首都)に固まって住んでおり、資源に恵まれているような国でしか成功しないモデルである。例えば、
スウェーデンの人口は約1000万人。ちなみに神奈川県の人口は約900万人)
etc.....
この本の著者を、「研究者でもないくせになにを言ってるんだコイツは」と批判するのは容易いし、いろいろとツッコミたいところもあるけど、橘氏の視座というかアイデアはとても刺激的で魅力的にもみえる。読んでみて損はない本ではないかなと思いました。
(彼は、昨年の震災・原発事故以降、センチな論調で未来について語ることが多くなったような気がする。ボク的にはそういった筆致はあまり好きではないが、氏のシニカルな表現はまだまだ健在で、そのセンチさを補ってあまりあるほどと思います。) -
覚書
日本人は世俗的、個人主義、権力を忌避する
学校、職場などイエ的な共同体・社会が日本人を拘束かつ保護してきた
日本人はアメリカ人よりも個人主義(自分勝手)
アメリカ人は日本人よりも協調的で他人を信頼する
社会構造は変えられなくても個人として伽藍を抜け出してバザールへピボットできる
自由退出可能なグローバルな共同体を創造していくことが日本人の使命 -
少し難しかった。
中盤は日本人論というか、一般的な政治経済論の記述が多い。
日本人というのは世俗的であるがゆえに、それを良く暑いするためムラ等の閉鎖的な共同体を形成するというのは新たな視点だった。 -
日本人とは世俗的で個人主義。
しかし世間と世論があり、イエに所属するインセンティブと脱退の罰則があるので、共同体はなんとけ維持できる。
あまり未来は明るくなさそうだが、ユートピア目指して伽藍からエスケープ。
これまでの著書とかぶる部分も多々ある気がするが、あくまで日本人論としてまとまっているので一読の価値あり。橘玲のベテラン読者なら、末尾と後書きさらっと読むもよし。 -
2020年コロナ禍のいま読んでまさに、と思う文章だらけで面白かった
買って良かった
経済の話は全くわかりませんでした!
やっぱりオリエンタリズムは買わなくてはと思ったので買いまーす -
日本人論の検証から入り、いつものように(笑)グローバルな論調へ移っていく。「世界価値観調査」での日本人の平均的な人生目標から導き出される姿は、近隣諸国や米国よりも個人主義的な姿だ。確かに自分の考えに照らし合わせても得心がいく。一人暮らしとワンルームがローカルルールだったのだ。無限責任=無責任ということを、福島原発事故を例に分かりやすく伝えている。日本の政治・行政がこの無責任体質というのは衝撃的だ。東浩紀氏の解説も良かった。
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従来の日本人論で言われて来た数々は、日本人だけの特徴ではない。
農耕民族に共通の要素である。
・全会一致の原則
・村八分
本来の日本人論は、他の農耕民族に比べ、違う箇所にこそある。
・圧倒的に高い世俗性、権力・権威を忌避する意識
・血縁、地縁を軽視
・偶々居合わせたメンバーで集団を形成する能力が高い
・空気を読む力とは、読まなければ集団形成が不可能であるが故に発達した
ポストモダン社会について
・価値観の決定者の推移
ムラの価値観→軍隊、会社、学校、国家の価値観→自分自信の価値観
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この人の本は切れ味がスパッとしてて気分が良いので好き。
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前半の日本とアジア諸国を比較して、日本特有と思われてることの多くは他の国でもあるということ。
中盤の日本の戦中や原発事故での責任の所在があやふやになるのはなぜか。
ここまでは面白かったが、後半のグローバルな視点や最終章の締め方にもやもや。 -
新しい日本人論。人間社会の成り立ちから紐解くことで日本人固有の特性とは何かをあきらかにしていく。現代日本の抱える病巣を構造的に捉えられる新たな視点を得られた。新たな外国人との付き合いが始まると日本に対する客観性が自分に不足している事を感じる瞬間がある。いいタイミングで読めた。
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そういうこともあるだろう、程度の内容である。データーに基づいていることに間違いはない様だが、だから…著者はこうだという方向性はまったく見えない。とっても退屈な本である。
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帯文:”従来の日本人論をすべて覆すまったく新しい日本人論!!” ”日本人性の謎を解くカギは、巷間いわれているような「空気=世間」ではなく、「水=世俗」にこそあるのだ―。”
目次:はじめに;0 ほほえみの国、PART1LOCAL;1 武士道とエヴァンゲリオン、2 「日本人」というオリエンタリズム…他、PART2GLOBAL;9 グローバリズムはユートピア思想である…他、PART3UTOPIA;17「大いなる停滞」の時代…他 -
いまいちピンとこなかったです。
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前半は日本人論。武士道や和の精神は日本人に特有なものではなく、日本は最も世俗的な社会であるとの分析には目から鱗が落ちる。後半は民主制などの社会制度やグローバリゼーションがテーマ。
世界価値観調査の中で、日本人が他の国々と大きく異なっている項目は、「進んで国のために戦う」(15%、先進国で最低)、「自分の国の国民であることに誇りを持つ」(57%、香港に次いで2番目に低い)、「権威や権力は尊重されるべき」(3%、最低)の3つ。
私たちの周りには、家族や友人などの政治空間と、他人の貨幣空間があるが、それぞれにはジェイン・ジェイコブズが統治の倫理と市場の倫理と名付けた別の論理が働いている。武士道は統治の倫理の一典型であり、日本の特殊な価値観ではない。市場の倫理は遺伝子にプログラムされたものではなく、都市文明が興って交易が始まってから5000年くらいの歴史しかない。武士道が持ち出されるのは、貨幣空間の拡大に対して、政治空間の論理で対抗しようとする現象。
農耕社会は土地に縛られ、隣人関係も変わらないことから、妥協による全員一致によってものごとを決める。和を尊ぶのは日本人に限らず、農耕社会に共通する。各自の社会的役割を固定するのが合理的なため身分制が成立し、それを維持するための掟やタブーを持っている。一方、遊牧社会では、家族を連れて出ていくことができる。
ニスベットは、西洋人は世界を名詞の集合と考え、東洋人は動詞で把握するという仮説を提示している。西洋人は分類学的規則を、東洋人は家族的類似性を見つける傾向がある。
イングルハートは、世界各地で大規模なアンケート調査を行い、文化的な価値観は社会的・経済的な要因に規定され、伝統的対世俗・合理的軸と、生存価値(産業社会)対自己表現価値(ポスト産業社会)軸によって、世界の国々をそれぞれの文化圏(地域、宗教、言語)で分けることができることを示した。日本社会は最も世俗的・合理的となっている。山本七平は、日本社会が空気(世間)と水(世俗)でできていると論じた(「空気」の研究)。日本人は地縁や血縁が薄く、たまたま出会った場所で共同体をつくる(学校、会社、ママ友)。
古代ギリシアはグローバルな交易社会で、去る自由が保障されていたため、多数決による政治が成り立った。古代社会では、民族ごとに固有の神と神話を持っていた。大国の神に対抗するために少数民族のユダヤ人が考えたのが、すべてのローカルな神を超越する絶対神で、キリスト教は神の権威にあわせて教義を書き換えた。仏教は法治によって、儒教は人治によって身分や民族の壁を乗り越えようとしたが、ローカルな神と一体化して各地で宗教化するにとどまった。大航海時代のグローバル化によって力を蓄えた貴族や商工業者が国王と対立するようになり、啓蒙思想を人間社会にも適用して導かれたものが、ルソーの平等とジョン・ロックの私的所有権(自由)だった。貴族やブルジョワは古代ギリシアからデモクラシーを持ち出して立憲君主制に移行し、フランス革命で誕生した国民国家は数十年でヨーロッパに広がった。商業的な自由を求めるブルジョワの価値観がリベラルで、経済的な平等を要求する民衆の主張がデモクラットだった。
日本では、内閣法制局の審査を通った法案しか国会に提出できないため、官僚が事実上の立法権を有している。官僚は法令のデータベースを独占しているため、法令の解釈、事実上の司法権を有している。予算は各省庁の要望を財務省主計局が総合調整するから、予算の編成権も持っている。さらに、法によらない通達によって規制の網をかけ、許認可で規制に穴を開けることによって業界に影響力を及ぼしている。アメリカやイギリスでは、後法は前法を破る、特別法は一般法に優先するという概念の下に、法令間の矛盾を気にせず法律をつくり、最終的には裁判の判例の蓄積で矛盾を解決している。小沢は、内閣法制局を廃止し、官僚の恣意的な法令解釈を排除し、予算の総合調整を国家戦略局か内閣予算局に移行することを目指したが、実現することができなかった。
戦後日本の高度成長は、岸信介などの「改革官僚」によって実行された1940年体制の下、生産を優先して競争を否定する奇妙な資本主義の下で達成された。1980年代に注目された韓国、台湾、シンガポールは、権威的な政治体制の下で、日本によく似た統制経済が行われていた。マハティールはルックイーストを唱え、?小平は日本の経済成長を徹底的に研究した。一方、自由主義的な経済政策の成功例はチリくらいしかないが、失業率の増大や経済格差の拡大を招いた。アルゼンチンは財政破たんした。新興国のキャッチアップ期には、統制経済の方が有効であることが否定できなくなっているが、日本はその後の長い停滞を招いている。日本はオイルショックの後、賃金の上昇によって国際競争力を失った産業に価格カルテルを結ばせて国内価格を吊り上げ、輸入を制限して、輸出には補助金をつける保護政策を行った。しかし、企業に既得権を与えて競争力を弱め、割高な原材料費では国際的な競争ができない製造業が海外に移転する結果を招いた。消費者に価格を転嫁する政策は物価の内外価格差を招き、その後の長期のデフレはこれが解消される過程でもあった。1940年体制が残っているのは、経営(投資、経営者)と労働(年功序列、終身雇用)で、解雇が容易な非正規雇用の拡大という問題も招いている。
ロバート・ノージックは、国家は共同体としては大きすぎるという。多様な価値観を持つ国民を収めようとするのは無理で、抵抗する人たちが排除される。国家は単なるフレームワークであるべきで、基本的人権や私的所有権の保護などの基本ルール(憲法)と、外交や治安維持のような最低限の安全保障でつくられ、この枠組みの中で人々は共同体を自由に作ることができる(「アナーキー・国家・ユートピア」)。 -
日本人の傾向。いろいろ納得することばかりだった。
結局、人って変わらないものだ。 -
作家による日本人論。有名なそれらと比べて新奇性はない。
この本は、主に山本七平の「空気」論に依拠している。
著者がはやりの学問分野に関心があると知ったこと以外には、特に感想もない。
【目次】
はじめに――「日本人」をカッコに入れる [001-008]
00 ほほえみの国 017
PART.1 LOCAL
01 武士道とエヴァンゲリオン 036
02 「日本人」というオリエンタリズム 053
03 「愛の不毛」を進化論で説明する 064
04 「人間の本性」は進化から生まれた 081
05 コロンブスのタマゴ 098
06 東洋人の脳、西洋人の脳 110
07 空気と水 122
08 「水」から見た日本論 146
PART.2 GLOBAL
09 グローバリズムはユートピア思想である 164
10 紀元前のグローバリズム 182
11 「正義」をめぐる哲学 195
12 アメリカニズムとはなにか? 213
13 原発事故と皇太子狙撃事件 233
14 フクシマの空虚な中心 243
15 僕たちの失敗・政治編 257
16 僕たちの失敗・経済編 274
PART.3 UTOPIA
17 「大いなる停滞」の時代 294
18 ハシズムとネオリベ 313
19 電脳空間の評判経済 336
20 自由のユートピアへ 358
あとがき――エヴァンゲリオンを伝える者(2012年5月) [376-381]