- Amazon.co.jp ・本 (173ページ)
- / ISBN・EAN: 9784344024304
感想・レビュー・書評
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坂口さんの幼少期の体験や出来事が描かれているのに読んでいると読み手である僕の幼少期の忘れていた記憶がふわりと立上がってくる。永久凍土のマンモスのように取り出せなかった記憶がふわりと現在の自分に追体験のように浮かんでくる。不思議な小説だ、とても。
『グーニーズ』や『ぼくたちの七日間戦争』に胸を躍らせていた幼少期に小学生の頃の秘密基地や山への冒険などの記憶やあの頃の両親や家族の風景が浮かび上がってくる。極めて坂口さんの私的な小説であるのに読み手の僕の私的な体験がオーバーラップする。
長編でもないし読み辛くもないのに読むのに時間がかかったのは私的な想い出が浮かぶのとどこか幻想的な世界へ招待されているように僕は睡魔に誘われた。
時折、幻視者的な視線で書かれた小説を読むと僕はどんなに読み進めようとしても眠りに堕ちてしまう。今作もそうだった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
坂口恭平の、幼いころの思い出を描いた話。
よくこれだけ様々な瞬間を記憶の中に残せていたな、と思います。
自分が幼いころに感じ、しかし言語化できなかったその感情が、この本の中には言語として存在していると感じました。
死ぬときは走馬灯が見えるといいますけど、自分が4歳くらいの頃の景色も見えるのかな。著者同様に、不思議な本です。 -
自分の幼い頃、過ごした場所での暮らしを思い出すような話。頭の奥深くにあった、遠い昔の記憶をくすぐられるような。
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回りくどい言葉の積み重ねだな、と、絡まるような例えだな、と思いながら読み進めて、ふと戻ってくるゾッとする感覚があった。わたしにもある。わたしも知っている、幸せなふりをした家族の裏側を疑っては、逃げられない不安と悲しみに怯えていたこと。あ、あの例えは、幼い経験を積み重ねた言葉たちだったのか。坂口家と異なっているのは、食卓の団欒の姿。わたしが何より恐れていたのは、必ず全員が揃ってから、という規則の元始まる食事の時間だった。会話から弾き出された父の姿を盗み見ていたのはいつからだろう。可哀想だと感じてしまったことへの恐怖。何故か今でも鮮明に思い出せる、団地の駐車道路の坂の黒さ。匂い。壁の落書き、畑から飛び降りた時の足裏の痺れや、そこにいることに突然嫌悪感を覚えたときの石ころの様子。保育所の窓際にある本棚。その上に座ったときの部屋はとても薄暗い。この感じ。共有していない体験から、記憶を呼び起こす言葉。好きだとは言い切れないのに、何故か惹かれて仕方がない坂口恭平という人。この本は、なんだろう?とても大切な、というものではなくて、軽く手放してしまえそうなのだ。わたしの中に、もうすでに入り込んでいるから。
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ボブ・ディランがかつて「30歳以上の大人は信じるな」と言ったが、恭平さんは幼い頃の感受性を見事に引き摺ってんだな、と。だからこの人の感性を信じていいんだ、と思えた。