鍵の掛かった男

著者 :
  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (540ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344028333

感想・レビュー・書評

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  • 一旦自殺と結論づけられた事件を探って、死者の過去を探っていくという後期クリスティ的作品。ホテルが舞台というのもクリスティぽい。ワトソン役が独力で結構がんばる系統でもある。動機を問わないフーダニットで、決め手の構成は初期クイーン風。

    いろいろ細かい疑問があって今一楽しめなかった。
    ・支配人は認知されていないんだから、ほっといても相続権はないのに、わざわざ遺言状を出現させるなんて(犯人の錯誤の扱いではなく、他の登場人物も、単に生物的親子である事実の露見だけで相続権が発生すると思い込んでいる)。
    ・被害者の過去が幻滅。轢き逃げ&傷害事件を起こしたくだり、短慮な若者設定ならともかく40男のくせに…
    ・被害者の恋人の行動も不気味。そんなときに人工授精なんて、ドン引き。
    ・途中まで細かい月日が提示されないので、なぜこの年齢設定で、支配人が被害者の子である可能性が検討されないのかものすごく不思議だった。
    ・オーナーが副支配人に妊娠を伝えたのが6週目くらい? なんか早すぎるような気が。
    ・殆ど過去を捨ててミニマルに暮らしている人がアルバムを持っていなくてもおかしくないと思うが。「アルバムがないのは変ですよね」(p.101)という有栖たちのほうが変。

    中之島のホテルに泊まりたくなったが、銀星ホテルのモデルになったホテルとかはないんでしょうね…

  • 久しぶりの准教授長篇。
    とうとう彼等との年齢差が一桁に。出逢ったときは三倍近く上のおじさんだったのに。
    さて、ホテルの物語。控えめにキラキラが入った濃青の見返しが美しい。銀星ホテルの絨毯に見立てたのだろうか。
    アリスと共にゆったりとホテルの滞在を楽しみ、火村がやってきてからは怒涛の解決篇。
    作者のインタビュー記事も読んだが、いつもと違う流れがホテルという舞台にはぴったりはまっていた。

  • あとがきにあった「よく死んでいればいい」という言葉は言い得て妙だなぁと。
    人ひとりの人生は即ち一編の物語でもあって、その物語に登場する全ての人にそれぞれ物語がある。始終に漂う切なさとかやり切れなさも、ラストの救いや明るさも、有栖川有栖らしいと感じた。
    火村の「鍵」については、いつまでも掛かっていて欲しいような、そうでもないような。核心に触れないまでも、ここまでその話題に本人と周囲の人間が触れるのは珍しいような気もする。

  • 「2015年1月、大阪・中之島の小さなホテル“銀星ホテル”で一人の男・梨田稔(69)が死んだ。警察は自殺による縊死と断定。しかし梨田の自殺を納得しない人間がいた。同ホテルを定宿にする女流作家・影浦浪子だ。梨田は5年ほど、銀星ホテルのスイートに住み続け、ホテルの支配人や従業員、常連客から愛され、しかも2億円以上預金残高があった。影浦は、その死の謎の解明をミステリ作家の有栖川有栖とその友人の犯罪社会学者・火村英生に依頼。が、調査は難航。梨田は身寄りがない上、来歴にかんする手がかりがほとんどなく人物像は闇の中で、その人生は「鍵の掛かった」としか言いようがなかった。生前の彼を知る者たちが認識していた梨田とは誰だったのか?結局、自殺か他殺か。他殺なら誰が犯人なのか?思いもしない悲劇的結末が関係者全員を待ち受けていた。“火村英生シリーズ”13年ぶりの書き下ろし!人間の謎を、人生の真実で射抜いた、傑作長編ミステリ。」


    たぶん、火村シリーズの長編の中で、私はこの作品が一番好きだ。一番面白かった。待ちに待った火村シリーズの長編!というのもあるけど、本当に、しみじみと、「ああ、面白いなあ」って。良い時間を過ごした。
    きっと有栖川先生、中之島を散策しながら丁寧にお話を考えられたんだろうなあ。

    大阪は中之島の一角にある銀星ホテルという小さなホテルで、「梨田稔」という男が死んだ。彼は5年もの間ホテルのおなじ部屋に逗留していたのだが、ある日何の前触れもなくその部屋の中で縊死状態で発見される。
    自殺として処理されかかっていたこの事件に、梨田と交流のあった大物女流作家、影浦が疑問を持ち、アリスに調査を依頼する所からお話が始まるのだけれど、いつものようにコンビで、ではなく、今回は火村の仕事が忙しかったために、アリス一人で調査が始まる。これが新鮮でよかった。
    読み手=アリスの目線、っていう所から、多分、いつもよりゆっくり丁寧に謎に向かい合えたからかなあ。余裕があったというか。
    火村が出て謎解きが始まると、「えっえっ待って火村何を気にしているのなにそれなんだっけどう謎と関係するの?」って焦るんだよね、なんせ火村先生の事件解決スピード超はやいから…。
    今回は梨田稔という「鍵のかかったよう」な謎に包まれた男の調査を、それこそ鍵をあけて扉を一枚一枚開いていくように丁寧に進めていくので、とても分かりやすかったし、もう一人の「鍵のかかった男」=火村についても、ゆっくりではあるけれど話が進んだように思える。

    犯行の動機を含め、犯人が全然理解できないタイプの思考の持ち主だったのでヒヤッとしたけれど、これ、でも実際に現実でも起こり得るなと思って再度冷え冷え。

    全8章中、火村は2章しか出てこないんだけど(他の章では電話の通話という形で登場)、それでも大変面白く、ヒムアリコンビの会話に大変癒されましたし、大変頬がゆるみましたので、シリーズ愛読者さんは是非読んでほしい…。ほんと好きこのコンビ。
    ずっと続いてきたシリーズの、ずっと続いているコンビだからこそのこのお話、って感じがして、流れた月日を思い目が遠くなりました。笑

    いつか火村にかかった鍵を、アリスが開ける日が来ると信じて、今後もずっと追いかける所存です。

  • 晩年がホテル住まいだった男が亡くなる。依頼はその男が自殺ではなく他殺なのを証明すること。ミステリーなのだが、1人の男の人生の話を読んでいる心境になる。ホテルに滞在した男の謎と、ホテルといういろんな人がやってきては去っていく空間の謎。過去の全てに鍵を掛けてしまった男だったのだが、そこはやはり人間だ。ところどころに鍵を掛け忘れた部分が部分が見つかってくる。鍵を掛け忘れた場所にあった必然や偶然を繋ぎ合わせて男の人生を再構築していく。ジェットコースターのような男の人生に、ミステリーを越えた感情がわいてきた。

  • 今まで有栖川有栖のミステリーは読んだことがなかった。「幻坂」は読んだが、この作品はミステリーというよりも大阪天王寺七坂の情緒ある坂をテーマにした作品でミステリーとは少々異なる。
    「鍵・・・」は火村英生シリーズの最新作。大阪中之島を舞台に謎の男性被害者の過去を探りながら事件を解決していく。やはり自分自身が知っている土地を舞台にしているとその雰囲気もわかり、作品に入りやすい。かなり長い長編作品で読者を焦らせながらストーリーがすすんでいく。しかし古典的なミステリー構成ではあるが最後まで飽きさせず解決へ導いていく構成はさすがである。

  • 昭和の匂いがする推理小説。
    自殺なのか他殺なのか、ききこみをもとに
    調べていきます。
    徐々に死んでいた男の過去が明らかになっていく過程は小説全体で見るととても重要なパートだが、ちょっと長い。

  • +++
    2015年1月、大阪・中之島の小さなホテル“銀星ホテル”で一人の男・梨田稔(69)が死んだ。警察は自殺による縊死と断定。しかし梨田の自殺を納得しない人間がいた。同ホテルを定宿にする女流作家・影浦浪子だ。梨田は5年ほど、銀星ホテルのスイートに住み続け、ホテルの支配人や従業員、常連客から愛され、しかも2億円以上預金残高があった。影浦は、その死の謎の解明をミステリ作家の有栖川有栖とその友人の犯罪社会学者・火村英生に依頼。が、調査は難航。梨田は身寄りがない上、来歴にかんする手がかりがほとんどなく人物像は闇の中で、その人生は「鍵の掛かった」としか言いようがなかった。生前の彼を知る者たちが認識していた梨田とは誰だったのか?結局、自殺か他殺か。他殺なら誰が犯人なのか?思いもしない悲劇的結末が関係者全員を待ち受けていた。“火村英生シリーズ”13年ぶりの書き下ろし!人間の謎を、人生の真実で射抜いた、傑作長編ミステリ。
    +++

    火村&アリスシリーズの最新刊である。この二人はやはりいいなぁ。だが、今回はいささか趣向が違っていて、前半の探偵役はアリスであり、彼ひとりでかなりなところまで調べを進めているのである。いつもなら、的を射た火村の推理に、要らない茶々を入れつつ、その実しっかり核心に通じるヒントを与える役どころに徹しているアリスだが、今回は、アリス無くしては真相に近づくことはできなかっただろう。だが、やはり、火村先生登場後の進展には目を瞠るものがある。目のつけどころがやはり違うのだと、改めて実感させられる。このコンビはいつまでも末永く続いてほしいと願う一冊である。

  • 読み終わったとき、1人の男の人生が胸に重く残りました。
    以前「朱色の研究」の中で”探偵とはいくら問いかけても答えてくれないものに語らせる存在”(大意なのでかなりはしょっていますが)と書かれていましたが、自らに鍵をかけたままこの世を去った男に対し、あなたはどんな人でどういった人生を過ごしてきて、なぜこの世を去ったのかを問いかけ見事に語らせていたと感じています。
    アリスと火村が、アプローチは違えどそれぞれ見事に探偵役をこなしていた非常に満足感のある作品でした。
    以前より有栖川作品は旅に出たいと思わせるものでしたが、舞台となった中之島をぜひ探偵達と同じように歩いてみたいです。

  • 今週日曜からドラマが始まる火村英生のシリーズ最新長編。ホテルに長期間逗留していた老人が首吊り状態で発見され、自殺なのか他殺なのかを探るため、故人が語ろうとしなかった内面へ踏み込む。社会派的な緻密な詰め方で、東野圭吾の加賀恭一郎ものに似た味わい。

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著者プロフィール

1959年大阪生まれ。同志社大学法学部卒業。89年「月光ゲーム」でデビュー。「マレー鉄道の謎」で日本推理作家協会賞を受賞。「本格ミステリ作家クラブ」初代会長。著書に「暗い宿」「ジュリエットの悲鳴」「朱色の研究」「絶叫城殺人事件」など多数。

「2023年 『濱地健三郎の幽たる事件簿』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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