- Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
- / ISBN・EAN: 9784344029279
感想・レビュー・書評
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素敵なお話だった。
語彙力が足りなかったり悪筆だったりする人のための代筆屋かと思ったら、怒りや悲しみの感情があふれて言葉にまとめられない人のためのものでもあって、それはありだなと思った。
代筆をするときのシーンが好き。
最適(と思われる)紙と筆記用具を選び、依頼者の背景や気持ちを思い浮かべて書くところが、緊張感と静寂とが伝わってくるよう。
いろんな世代の、それぞれ何かを抱えて生きている人々が、心地よい距離感で暮らしている姿がほっこりするというか、うらやましい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
鎌倉で主に手紙を代筆することを生業としている「ツバキ文具店」。
店主は先代から代書業を引き継いだ、鳩子というまだ若い女性。
近所からはポッポさん(ちゃん)と親しまれています。
そんな彼女が、客から依頼される手紙の代筆をしたり、近所の人たちと交流したりする春夏秋冬、いや、夏秋冬春の1年間を描いた物語です。
先代(祖母)から厳しく字を書くことを教わったポッポさん。
高校で祖母と啀み合うまで、その教えを徹底的に叩き込まれた彼女の、文字や文章、用紙や
筆記用具にまでこだわって書くのかという、仕事をするというプロとしてのこだわりがとにかく凄く、全然違う仕事をしている私でも、仕事をするってこういうことだよなと改めて思わされました。
そういう仕事に対する意識もそうですが、客との接し方などなど、今仕事に慣れてしまった私も、もう一度初心を思い出して明日から仕事をしようと思いました。
手紙もいろいろあるし、最近ではメールやLINEがあるため、手紙を書くことは殆どありません。
でも、代書屋って必要だよなぁと思うし、こういう仕事がこれからも残っていってほしいなと切に願いたいほど、ヒロイン鳩子の手紙へのこだわりは読んでいて、ワクワクしました。
しかし、本作品はヒロイン鳩子が手紙を代筆するだけの話ではありません。
鳩子には四季それぞれの生活があります。
当たり前といえば当たり前で、仕事をするためには私生活が必要だし、私生活をするためには仕事が必要です。
私生活がうまくいけないと仕事もうまくいかないし、仕事がうまくいかないと私生活もうまくいかない。
そういうものなんだということですが、わかってはいるものの、このワークライフバランスをとるというのはめちゃくちゃ難しい。
話が逸れましたが、本作のヒロイン鳩子にも現実の私生活があり、その私生活は孤独なままでは成り立たないんだろうなと感じました。
そして、過去にもいろいろあるし、後悔していることもたくさんある。
でも、幸せというのは過去でもない未来でもない、幸せに気がついた今にこそあるんだということを改めて思いました。
そして、たくさんの幸せを集めるんじゃなくて、今、手のひらの上にある幸せを認識し、守りたいと思えるならば全力で守る。
それが自然にできるようになれれば良いなと思いました。
金持ちになる。たくさんの人に称賛される。
そういうことも夢といえばそれまでですが、平凡かもしれない、素朴かもしれない、お金もちじゃないかもしれない、でも、1日1日を一生懸命生きていれば春夏秋冬が過ぎる。
そしてふとした時に幸せを感じられる。
生きるということはそういうものなのかもしれないと思う、作品でした。 -
「手紙を書く」って、こんなに奥が深いものだったんだなぁと再発見。
手紙を出す相手や目的に合わせて、いちばん気持ちが伝わるように便箋や封筒、筆記具を選んで、文面を考えて、字体も柔らかくしたり角ばらせたり、活版印刷にしたり、時にはあえて鏡文字にしてみたり。
「拝啓」などの書き出しや締め方、脇付等にも色々とルールがあるんだなぁとか、羽根ペン、ガラスペン、羊皮紙、シーリングスタンプなど自分では普段使わないような色々な手紙アイテムも登場して、とても興味深く読みました。
その都度実際に出来上がったお手紙が載っているのも、読みながらとても楽しかったです。
自分でも誰かに手紙を書いてみたくなりました。
また、鎌倉の四季折々の素敵な風景や美味しそうな食べ物もたくさん登場してほっこり。
なんだか鎌倉にも行きたくなってしまいました(^^) -
心を込めて、大切な人にてがみを描きたくなった。
何でもない毎日の中に、小さな幸せがたくさんあることに気付かされる作品。
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
自分で自分の気持ちをすらすら表現できる人は問題ないけど、そうできない人のために代書をする。
その方が、より気持ちが伝わる、ってことだってあるんだから。 -
鎌倉の街並み人々暮らし日常人生模様
誰にだって過去への後悔はある
代筆屋の鳩子(ポッポちゃん)の1年間のお話
鎌倉に行ったことある人はより楽しめる作品
行ってみたくなる
そして筆記具にもいろいろある事を知れる。読みながらたくさん調べてしまった… -
本が好きな人は、文字が好きな人だから手紙を嫌いなはずはない。
最近手紙なんて書く機会も、もらう機会も減ったけどもらったら嬉しいもの。
とっておきのペンと、便箋で誰かに思いを伝えたくなります。メールと違って相手のことをずっと考えながら書くのは時間がかかるけど、大切な時間。手書きにするだけで、感情も読み取れる気がするから不思議。 -
この著者の本を読むのは、食堂かたつむり以来です。あの本を読んでから随分と時間が経っていますが、この本を読み始めた途端、そうそうこの世界観が好きなのよと思いました。星3つなのは、私的には、途中で、ちょっと間延びした感じがあったからです。
10代の頃に神奈川に住んでいたのですが,その頃、友人と一度だけ、舞台となった鎌倉に行ったことがあります。ハイキングコースを歩いたのですが、思いのほか険しい道のりに、これはハイキングじゃなくて、山登りだねと話していたことを思い出しました。また、わたしには書くことを仕事にしていて、言葉を大切にしている友人がいます。すごいなぁと思うと同時に、そこまで日常から言葉に気を遣っていたら、疲れないのだろうかとか,一緒にいるときに、正しい言葉を使わないとかななどとチョットしたプレッシャーも感じたりするのですが、この本を読んで、その友人の感覚が少しだけわかった気がします。
原田マハさんの本日はお日柄もよくで、スピーチライターって、こういう仕事かと知り、この本で代筆やってこういう仕事かとしりました。 -
おっとりした優しい小説が読みたくて手にしました。NHKでドラマ化もされたのですが、字で読みたくて今まで未読。鎌倉で代書屋さんを営む鳩子さんが主人公。でも、内容より何より、この本の題字とカバーの装丁に、見たときから一目惚れしたのですから、文字で心を伝える話にぴったりの出会い。ちょっとレトロで内容に本当に似合っていました。
手紙を依頼してきた人々や、隣人のバーバラ婦人との交流を経て、鳩子さんも良い方に変化してゆきます。ただ、この小説の読後感がいいのは、依頼人のその後を、根掘り葉掘り書かずに、鳩子さんの書いた便箋を直に載せて、あとは読み手に想像させているところです。クドくなりすぎないし、先代の代書屋である、亡くなったおばあさまとの確執を抱えながらも、鳩子さんが、根が優しい人なのも、その便箋に書かれた手紙を読むと、想像がつくのです。
もっとも、鳩子さん自身は、自分のことをかなりこじれた意固地な人だと思いこんでいるようですが。そこがまた、彼女らしい気もして。読み終わる頃には、こちらが穏やかになっています。また、便箋や筆記用具、言葉の選び方についての記述も、文房具好きだったら、思わず一生懸命読んでしまうところ。ディテールが細やかで、毎回注目してしまうでしょうね。
内向的な代書屋のお仕事が主軸のお話なのに、どこか風通しがいいのは、ゲストの人物がみんな温かいことと、鎌倉の街の風物やお店が随所に出てきて、一度でも鎌倉に遊びに行ったことがあると、観光客でも「あ、あそこか!」なんて判って、鳩子さんと街を歩いてるように感じられることが理由でしょうか。外出して気分転換したくなった鳩子さんと共に、こちらの気分も改まっている、そんな感じです。
大きな日本家屋の、木枠のガラス戸。真っ白な日本木綿の、飾りもない、祖母お手製のカーテン。それをシャッと開けると、庭の松の木が見えた祖父母の家を、なぜかずっと思い出しながら読んでいました。京番茶より、うちはお紅茶やコーヒーの出される家でしたのに。ツバキ文具店の佇まいと似ていた?うーん。違うと思うんだけどなあ。あ、寒椿ならあったかな?庭で叔父が丹精していた植木や盆栽の中に、見事な紅の寒椿。どこか古いおうちの感じが近かったのかしら。
でも私には、今手紙を書きたくて、代書を頼む人はいません。離れた人は既に、もう心を尽くし終わっているから、今更余計な手紙もいらない。亡くなったひとにはむしろ、時折思い浮かべて気が足りている。それはそれで、幸せなことかもしれませんね。 -
以前NHKでドラマ化されたのを観たのだけど、それがとても良かった。小説を読んで、ドラマはだいぶ忠実に作られていたことを知った。
鎌倉にひっそりとある「ツバキ文具店」。そこは名の通り小さな文具店なのだけど、あらゆる手紙を代行して書く「代書屋」も兼ねている。
先代である祖母が亡くなり、先代の跡を継ぐために鎌倉に戻ってきた鳩子(通称ポッポちゃん)は、とあるきっかけから疎遠になった先代の教えを思い返しながら、代書屋として奮闘を始める。
自分に代わって手紙を書いてもらう…自分はやってもらったことはないけれど、そこには大抵小さくはない事情がある。
離婚を決めた夫婦が披露宴に来てくれた人たちに送る報告と感謝の手紙、お互い既婚になった後かつて別れたしまった恋人にどうしても送りたかった手紙、金を無心してきた知人に送る断りの手紙など。
鳩子は依頼者の話をじっくり聞き、寄り添いながら、代わりに手紙を書く。便箋の紙や封筒、書く際の筆やペン、封をするシールやシーリングスタンプ、そして貼る切手にまでこだわる丁寧な仕事ぶりはとても美しい。
そういう心の交流とともに、鎌倉の景色や観光地やグルメなども織り込まれていて、読んでいる間鎌倉に行きたくて仕方なくなる(さらに言うと読んだ後も行きたい)
そして鳩子の周りの人物たちも個性的でとても良い。近所に住む高齢ながら恋多き女性であるバーバラ婦人、パンを焼くのが好きなナイスバディの教師帆子(通称パンティー)、シングルファーザーでご飯屋を営むモリカゲさんなど。
そしてこの作品の要は鳩子が先代である祖母に対して抱えていたわだかまりなのだけど、そうなってしまったいきさつや、それがほどけていくまでの経過も丁寧に描かれている。
読むとほっとして、でもちょっと切なくて、そしてとても美しい物語。