激しき雪 最後の国士・野村秋介

著者 :
  • 幻冬舎
2.20
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感想 : 4
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  • Amazon.co.jp ・本 (284ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344030046

作品紹介・あらすじ

新右翼のリーダーで、三島由紀夫と並び称される憂国の士の苛烈な生涯-少年時代から朝日新聞社での拳銃自決の瞬間までを、晩年の10年、最も身近にいた作家が描き切った感動ノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • 「え、なんで?」。頭の中は疑問だらけだった。ニュースが伝えていた
    のは右翼民族派のリーダーであり、圧倒的なカリスマであった野村
    秋介の死だった。

    ノンポリなので彼の思想・信条に共感していたのではなく、真剣な話を
    している時の鋭い眼光とチャーミングな笑顔とのギャップ、しっかりと
    した語り口、教養の広さで興味深い人物だった。

    その野村秋介が死んだ。しかも、朝日新聞社の役員応接室で自らに
    拳銃の銃弾を3発撃ち込んでの自決である。どうしてこのような死に方
    をしたのだろうかと疑問しかなかった。

    野村秋介の最後の10年間に密な関係を築いた著者が、野村の自決を
    軸に彼を取り巻いた人々との関係から「野村秋介」という稀代の人物を
    描き出している。

    本書に描かれた野村秋介像はとことん格好いい。感激屋で、涙もろく、
    筋はきちんろと遠し、与党政治家だろうが経済界の重鎮だろうか「巨悪」
    だと感じれば容赦しない。

    だから、河野一郎邸焼き討ち事件や経団連襲撃事件を起こしたのだろう
    し、山藤章二の風刺イラストを巡って最後まで朝日新聞とやりあっていた
    のだろう。

    ただ、著者が野村秋介に近しい人物だっただけに少々割り引いて読んだ
    方がいいのかもしれない。でも、確かに魅力的な人物ではあるんだよね。

    思想・信条を同じくする者だけはなく、野村の交友関係は本当に幅広い。
    政治家、ヤクザ、芸能人、映画関係者は勿論のこと、左翼文化人と呼ば
    れる人たちでさえ、何か感じるものがあれば左右の垣根を越えて親交を
    結んでいる。

    右にしても、左にしても、今、野村秋介ほどの懐の深い人物がいるだろう
    かと思う。同じ方向を向いた者同士で閉じちゃっているんじゃないかな。

    残念ならがら本書を読んでも私の疑問に対する答えはなかった。描かれ
    たご本人が亡くなっているので、野村の内面を描いた部分は著者の想像
    なのだろうしね。

    野村秋介同様、興味深かったのは彼の父上・野村三郎である。油圧シリ
    ンダーの優良企業である株式会社南部の創業者。技術者としての三郎
    氏の人生も波乱万丈である。この人だけでも本が1冊書けるんじゃないか
    と思ったわ。

    明治男の三郎氏、野村が生涯「親父を越えられなかった」と言っている
    のだが、どうしてどうして。歩んだ道は違ったが、この親にしてこの子あり
    という感じだった。

    野村秋介の死に際し、よく引き合いに出されるのは三島由紀夫だ。三島
    が市ヶ谷で割腹自殺を決行することで自身のナルシシズムを完成させた
    ように、野村秋介は拳銃自決をすることで自身を「野村秋介」たらしめた
    のだろうと思うことにした。

    尚、本書のタイトルは「俺に是非を説くな。激しき雪が好き」との野村の
    句の一部である。

  • 新右翼の代表だった野村俊介の伝記。国士とはこのような生き方をするのかという驚きがあった。三島由紀夫とは違った生き方・死に方だが、死が美学(決意表明)という点では同じだ。

  • あっち系の人の評伝を読むのも好きだが、こっち系の人の評伝を読むのも好きです。ノンポリだから。

  • 新右翼の頭目であった野村秋介の評伝。であるが、作者は野村氏の昵懇であったようなので、回想録に近い。このタイプだと評伝では拾えないリアルなその人が垣間見れる一方で、客観性は落ち、相手を持ち上げることにはなる。その前提で読んでも、この本の中の野村氏の一生はなかなか痛快で面白い。自分の信条や見栄に対して命を賭す人を"ツッパリ(あるいはカッコつけ)"というなら、野村秋介は間違いなくツッパリ(カッコつけ)だし、作者が書いているように戦後で死ぬと宣言して死んだ右翼は三島由紀夫と野村秋介だけなのかもしれない。

    内容はあまりにも有名な野村氏の最後=朝日新聞社長室短銃自害のことが詳しく冒頭からその克明な再現で読むものを引き付ける。その後は、その生い立ちから横浜での愚連隊時代、そこから投獄されて右翼思想に目覚め、三上卓の弟子となり出所後、河野一郎邸宅焼き討ち事件、経団連襲撃事件を繰り広げたかと思うと、フィリピンでゲリラに囚われた日本人カメラマンの解放運動を行ったり、それを通じて静岡の後藤組の組長との友誼を暖めていく話へと展開していく。どれもこれもこの本の通り読めばこれほど痛快な男児もいないかと思う。そして、最後はまた朝日新聞社長室に話は戻る。

    人は結果と行った行動がすべてだとすると、周りの迷惑は一旦置いておいといて、これほどやりきった人もなかなかいないかと思う。
    どうせカッコつけるなら、これぐらいやり切れ!という見本にはなろうかと思う。ただ、やはり相手側の立場の論証はしてみる必要があるように思う。

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著者プロフィール

1953年山形県生まれ。法政大学卒業後、フリーライターとして活躍。『ヤクザに学ぶ』シリーズなど著書多数。近著に『伝説のヤクザ18人』(イースト・プレス)、『爆弾と呼ばれた極道 ボンノ外伝 破天荒一代・天野洋志穂』『サムライ 六代目山口組直参 落合勇治の半生』(徳間書店)、『実録 赤坂「ニューラテンクオーター」物語』(双葉社)、『高倉健からアホーと呼ばれた男 付き人西村泰治(ヤッさん)が明かす――健さんとの40年』『最強武闘派と呼ばれた極道 元五代目山口組若頭補佐 中野会会長 中野太郎』『力道山を刺した男 村田勝志』(かや書房)がある。

「2023年 『東映任俠映画とその時代』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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